『天下ァ?取れて当然だろ?』
そう言って、貴方は天下取りに乗り出した。
喧嘩っ早くて血の気の多い、だけど心から貴方を慕っていた私の父も、頼りがいのある兄も、
そして心優しかった弟も、その夢を共に見る為に戦場へと身を投じた。
連日連夜続く戦、父は武を貫き忠義を通すと病がその身体を冒しても戦場へ赴き、
兄は主である貴方の夢を少しでも早く実現させたいと毒矢を受けた身で先陣を切り、
血に染まる手に涙していた弟もまた、貴方に忠義を尽くして戦い続けた。
そして今、私は独りになった。
私の大切な人たちは、あなたの夢の実現の為、墓標と化した。
豪快に笑っていた父はもういない。
優しく肩を叩いて励ましてくれた兄はもういない。
辛い時、共に涙を流した弟はもういない。
私の家族は貴方に殺された。
貴方の夢に殺されたのです、政宗様・・・・・・・・・・・・・・・・
「ちゃん、本気で出てく気かよ?殿が許さないと思うけどなぁ。」
「・・・・・成実様、もう決めたことですから。政宗様が何と仰ろうとも私はここから出て行きます。」
手元に広げた風呂敷に要る物だけを次々と置きながら、私は視線も上げずに成実様に言った。
天下はめでたく統一された、この出羽米沢城主、伊達政宗様によって。
私の家族はその晴れの日を目にする事もなく世を去った。
私がここに居る理由はもうないも同然。
成実様の隣に立っていた片倉様が、困ったような表情で私を見下ろして口を開く。
「しかし、某達は殿の許可なく貴女をこの城からお出しすることは出来ないのです。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「成実、景綱殿、殿がお戻りだ。さん、貴女もまずは政宗様と話をして頂きますよ。」
襖付近に立っていらっしゃった鬼庭様が静かにそう言って、そのまま私の部屋を後にした。
それに続いて成実様と片倉様も出て行ってしまう。
そしてそれとすれ違うように政宗様が私の室に姿を見せた。
「Ah-ha.あいつ等の言ってた事は本当のようだな・・・。ここから出て行くつもりだって?。」
「さようにございます・・・、長い間、お世話になりました。」
丁度風呂敷を包み終え、私は正座をして畳に両手を揃えると、そのまま政宗様に頭を下げる。
無言の政宗様を不思議に思い顔を上げれば、
あのお方の整った眉がさも不機嫌そうに吊り上っている。
政宗様は室内に数歩踏み入ると、後ろ手でパシンと乱暴に襖を閉めた。
「Hey!誰がここを出て行くことを許すと言ったんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・もう決めた事です。」
「What!?決めた、だと?Oh!こりゃ参ったぜ、
いつからアンタ、そんな権限持てるようになったんだ?」
「・・・・・・・・政宗様・・・・・。」
私は政宗様に気付かれぬように、小さく深呼吸をした。
そうしなければ声を荒げてしまいそうだったから。
どうにかこの方を説得して、私はここから、この城から出て行かなければならない。
「故郷に帰って静かに暮らしたい、それだけが今の私の願いなのです。
どうか、どうかお聞き届け下さい・・・・・・。」
私はまた畳に頭をつけた。
ここは、この場所は今の私には辛すぎる。
一刻も早く、でなければ私は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
不意に、私を見下ろしていた政宗様が私の方へ屈みこんできた気配がした。
慌てて顔を上げると、間近に端整な政宗様の顔がある。
不機嫌そうな眉はそのままに、政宗様の口元が不自然にその端を上げて哂った。
「、答えはNoだ。アンタを故郷に帰すつもりはねぇ。俺はアンタの親父さん達に全てを任された。
今更手ばなす事なんざ出来ねぇんだよ。You see ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
政宗様から父上の話が出るなんて。
私の唇が、政宗様に負けず劣らず不自然に歪められたのが分かった。
それは、笑みと言うには余りにも憎々しい表情に見えただろうと思うほどに。
「何だ?言いたい事があるならこの際聞いてやる、言ってみな。
但し、それと今の話を聞き届けるのとは別ものだぜ。それ以外なら叶えてやる。」
「では申し上げます。政宗様、私がここを出て行くこと以外に願いを口にしろと仰せなら、
その願いはただ1つ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
しっかりと、政宗様に視線を合わせ、私はその願いを口にする。
決して、政宗様にも、誰にも叶え得る事の出来ないはずのその願いを。
「父を、兄を、弟を、返して欲しゅうございます。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・・!」
私の言葉はそれはよく室内に響いた。
政宗様の瞳に瞬時に動揺の色が見える。
切なげに眉を顰め、息を飲んでおられるようだった。
それでも私は目を逸らさず、その政宗様を見つめ続ける。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
やっと私の名を口にした政宗様の顔の辛そうなこと。
いつもの自信に満ちたあのお方とはまるで別人のようだ。
私の胸が軋むようなギチギチとした音を訴える。
私はそれを振り払う為に、胸に両手を重ねて押し付けた。
零れ出る言の葉は、もう元には戻せない。
それどころか、その『願い』を口にしたせいで、堰を切ったように零れ落ちる。
「貴方が憎い・・・・・・・・・・・・・、政宗様、私は貴方が憎くて堪らないのです・・・・・・。
貴方の夢に道連れになった私の家族を思えば、私はここには居られません・・・・・・・・!!」
『オメェら、持ち場を墓場と思え!!』
「貴方のご命令通り、父も兄も弟も、皆戦場で死んでいった・・・。
戦の度に、1人、また1人と家族は命を落として・・・・・・・・・・・・・・・・。
父に・・・お前も武士の娘、覚悟はしておけと・・・言聞かせられた事が何度あったか知れません。
殿を恨むような真似だけは決してするなと言った兄、
殿の為に働けた事が本望だと言った弟、
皆目を輝かせて・・・・・・・でも、それが何になりましょう!!??
私は政宗様!!!貴方が憎くて気が狂ってしまいそうなのです!!!!」
喉が、ビリビリと痺れたようになるほどの大声で、私は政宗様を責めた。
目の前にある政宗様の顔は、哀しみと、切なさを、必死に耐えているように、
眉間にしわを寄せていらっしゃる。
暫くの間を空けて、政宗様は真摯な瞳を私に向けた。
「、それでも俺は天下統一を果たした事に後悔はねぇ。
お前の親父達が築いたこの天下を守り抜く事が、
この天下取りの途中に倒れていった野郎達への俺の誠意だ。」
それは今まで見たどの政宗様の表情より、誇り高く凛々しく見えた。
涙が、私の頬を伝う。
熱い涙が。
それは哀しみの涙でもなく、憎しみの涙でもなく。
ただ止め処なく溢れた。
政宗様の長い指が私の目にそっと触れる。
「政宗様・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「悪いな、。俺はアンタの願いを何一つ叶えてやれねぇ。」
肩に置かれたもう片方の政宗様の手が、私の身体を自分の方へと引き寄せた。
「・・・・・・・お召し物が・・・・・・濡れてしまいます・・・。」
「HA!構やしねぇよ・・・・・・。」
政宗様・・・・・・本当は存じておりました・・・。
我が父、我が兄、我が弟が戦場で死するその度に、貴方が人知れぬ場所で嘆いて下さっていたのを。
それでも私は弱い女でした・・・貴方に憎しみをぶつけでもしなければ、
ここから逃げ出すことでもしなければ・・・、
立っている事も出来なくなってしまいそうな程に・・・・・・・・・・・・・・。
今はただ、貴方の腕で泣かせて下さい。
政宗様、たった一人、生き残って下さった、私の最後の大切な人。
(終わり)
後書き
暗い・・・。実はこのネタ、政宗エンド見た直後に浮かんだものでした。
限りなくシリアス・・・。ま、エンドがあれでしたから仕方ないですけど。
後、初めて小十郎以外の伊達三傑出しました(笑)
政宗の歴史関係のサイトを見ていたら書きたくなってしまいまして。
では、今回もここまでのお付き合い、誠に感謝でございます。
失礼致します。
ブラウザバック推奨