「日は大安、くじは大吉ときたもんだ。
へっ、喧嘩も祭りもいい具合に盛り上がったし、
今日は最後に何かいいことあるかもしれねぇな。」

得物の超刀と槍を収めた鞘に両腕をひっかけ肩に担ぐ様にして歩きながら、
慶次は懐から顔を出している彼の相棒である小猿にそう語りかけた。
つい先程まで恐ろしい勢いで複数の者達により繰広げられていた喧嘩は既に鎮まり、
今は街の者達がその後始末をしている最中であった。

「さぁて、今日はこれからどうすっかなー・・・・。」
「失礼だが、前田慶次殿だな?」
「ん?」

声を掛けられ、彼が振り返った視線の先。
侍と呼ぶには余りに華奢な、だが凛とした佇まいの青年の姿がある。
慶次はくるりと体ごとその人物と向き直り、口を開いた。

「ああ、確かに俺は前田慶次だ。あんた、俺に何か用かい?」
「・・・先刻は私の家の者達が祭りを台無しにしてしまってすまなかった。
上洛を果たしたことで気分が昂って居たとは言え・・・、
幸村は少し熱くなり過ぎてしまった様だ。」

言いながら、青年は慶次に向かって丁寧に頭を下げる。
慶次はその姿をジッと見つめた後、何かに気付いた如く再び口を開いた。

「あんた武田の縁のもんかい?それに、そんな格好してるが・・・。」
「ああ、自己紹介もせずに悪いね。武田、虎の娘だ。」
「やっぱそうか。ははは!さっきの祭りのことなら気にするこたないさ。
喧嘩祭りってのも粋なもんだ。皆も十分楽しんでたしな。ああ、俺も面白かったぜ。」
「・・・変わった男だな・・・。」

彼の答えに、と名乗った男装の娘は、ふっ、と、その口元をほころばせた。
刹那。
その微笑と共に、彼女から何とも言えぬ涼やかな色香が漂う。
無論それは、が無意識に放っているものだった。

「なぁ、アンタ、何だって男装なんかしてるんだい?
その容姿にその物腰、あんたなら男が放っておいたりしねぇだろ。
恋のひとつ位してたっていい歳だ、勿体無いぜ。」
「前田の風来坊殿は口が上手いね。残念だが、そんな物好きはみたことがない。
それにこの格好は動き易くて気に入ってる。
女子の着物で帯刀していては、目立って仕様がないだろう。」

口元を僅かにほころばせたまま、彼女はそう答えた。

「ふぅん・・・あんた・・・ホントに綺麗に笑うんだな。」

興味深げに彼女を見つめていた慶次は、不意に、ふ、と、その瞳を細める。
そして彼の言葉に微かに戸惑った表情を見せたに、更に先を続けた。

「世の中には女と男が居るって、知ってるか?」
「・・・・・・・何だ?急に・・・・・・。」
、あんたは自分に惚れるような物好きは居ないと言ったな。
だったら俺がその初めての男になってもいいかい?」
「・・・・・・・・悪いね、話の意図が読めない・・・。」

怪訝そうに眉根を寄せ、は彼を見上げた。

「どうやら俺、あんたに惚れちまったらしい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・慶次殿、悪いがその冗談は笑えないね。」
「ん?何だってそこで冗談だと思っちまうんだい?」
「初対面の人間に、そんなことを言い出すからだ。」

眉間に寄せたしわを益々深くし、彼女は不機嫌な様子で答えた。

「恋に時間は関係ねぇ、世の中には一目惚れってのもあるもんだ。
俺はあんたに惚れたよ、。どうだい?俺は惚れた女は死んでも守るぜ。」
「・・・・私は、自分より弱い男に興味はない。」

答えた彼女は踵を返し、慶次に背を向ける。
彼は素早くその腕を掴んだ。

「・・・何だ?」
「恋も喧嘩も押しの一手よ。ってことでさ、
なぁ、。だったらあんたの流儀、通してくれていいぜ。
その代わり、俺が勝ったらきっちり返事を聞かせてくれよ。
無理強いするつもりはないけど、出会った時間を理由に断るのはなしってね。」
「・・・いいだろう・・・。だが、後日にしてくれ。
・・・3日後、今夜の祭りが始まったのと同じ時刻にこの場所で落ち合う・・・。」
「お!いいねぇ、夜の逢瀬ってことかい!」

慶次の返事に、は彼を一瞥した後、僅か苦笑する如く微笑んだ。

「お前はやはり・・・おかしな男だ・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・慶次殿、いい加減、腕を放して欲しいんだがね。」
「悪ぃ。」

半ば彼女の表情に見惚れる如くだった慶次は、
短く答えての細腕から手を離した。
だが、彼女が再び歩を進め始めた、その刹那。

「っ・・・何を・・・!?」

の進路を遮る様に慶次が前へ進み出た。
そして彼女が声を上げたのとほぼ同時に、
その薄く形の良い唇に、自らの唇を触れ合わせる。
触れ合わせるだけの軽い口付け。
それは彼自身によってすぐに離された。

「強引なのって、嫌われるかい?」
「慶次殿、お前と言う男は・・・!」
「ははっ、我慢の足りない性分でね。ま、さすがに後は3日後を待つとしておくよ。」

慶次はそう言い残し、手をひらひらと振りながら彼女の傍から離れていく。
はその背に言葉を掛けた。

「・・・慶次殿、まだ結果は出ていない・・・・・・・。」
「いやよ、いやよも好きの内、って言うだろ?
俺と手合わせすれば、あんたは俺に惚れる事間違いなしってね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

は無言で慶次の背中を見送り、
やがて大きな溜息と共に彼女もまた、その場を後にする為に歩き始めた。
姿を潜ませ彼女の近くに控えていた武田の忍び、佐助が、周囲に悟られぬ声音で呟く。

姫さん、えらいお人に惚れられちまったねぇ。
あの旦那、真田の旦那と張る位は強いぜ。前田家の風来坊は腕が立つってのは評判だから。」
「・・・・・・・・・・・負けた時に考えるさ・・・。」
「あらら、珍しく弱気な発言しちゃってますねぇ、姫さん。・・・まさか・・・。」

言いかけた佐助を、チラリと、の強い視線が捕らえる。
姿は見えずとも、彼女は彼が何処に居るのかを察していた。

「言うな。・・・親父様の処へ戻る、ついて来な。」
「・・・御意。」

苦笑を漏らし、佐助が答える。
はその後ただ真っ直ぐと正面だけを見据え、信玄の元へと向かった。

その頬が微かに朱に染まっていることには、佐助すらも気付いては居なかった。


(終わり)


後書き
初慶次を『陽炎伝』の男装ヒロインで書いてみました。
難しい・・・・・・・・・・・!!!やっぱり初書きは緊張する・・・・。しかも怖くて読み返す勇気がない(苦笑)
ですがどうにか頑張ります!ではでは、今回はお付き合い、誠に有難うございました!
これにて失礼致します。


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