甘かった。
何もかも甘すぎた。
何がって、私の認識が、だ。
もう会うこともないと思ってたのに、
実際あの時まで2年間も医療センター内でさえ顔を合わす事もなかったのに。
あの急展開の日から1ヶ月。殆ど叔母のお見舞いに行くたび、
私は彼の姿を見ることになっていた。
そして今日も、目の前にはフェロモン垂れ流しの内科医伊達政宗先生。
白衣に胸に掛けてある聴診器。
どこからどう見ても、知的で美形なDrで。
「よぉ、。今日も見舞いか?本当は俺に会いたくて来てんだろ、素直になんな。」
「違うから。ずっと前から通ってるんです!
それに叔母は明日で退院。私はもうここに来る必要ありませんから。」
言って、私はジロリと彼をひと睨みする。
政宗先生のこの手の発言にはそろそろ免疫がついたつもりでは居るけど、
この至近距離はどうにかして欲しい。
普通に会話しようと言う気があるのかないのか、
私はまたしても医療器具の置いてある一室に押し込められて、
壁際に思いっきり背中をくっつけるという体勢を取らされていた。
「AH-そう言やそうだったな・・・。竹中先生が泣かれちまったっつってたぜ。」
「泣いた!!??叔母さんが!!??」
「ああ。」
「・・・・・・・・・・・・そ、それは・・・さすがにビックリ・・・。」
叔母さんはうちのお母さんとはかなり歳が離れた妹なので、実は若い。
気付かなかったけど、もしかしたら本気で竹中先生の事を好きになっていたのかもしれない。
いつもふざけた方向にしか話を持っていかない人だけど、涙なんか早々見せないタイプだし。
でも、幾ら美形だからって、竹中先生とはこの1月半で3,4回しか話をした事がない筈だし、
好きになってしまうなんてことあるんだろうか。
これが10代やそこいらのコならまだしも。
「。」
「何ですか・・・?ってちょっと!!いちいち耳元で喋らないでよっ・・・!」
名前を呼ばれて返事をすると、例のように彼の唇が耳元に降りてきた。
伊達先生は何かって言うとこの体勢、そして耳元に直接言葉を囁きかけようとする。
「アンタは俺の為に泣いてくれねぇのか?」
「・・・・え!?」
「俺と会えなくて寂しいとは思わねぇのか?」
「何・・・突然・・・。」
「俺は寂しいぜ、今だって満足しちゃいねぇんだ。
その上アンタの姿が見られなくなるなんざ御免だな。」
固まる、体、停止寸前の、思考。
騙されるな、私。と、もう一人の私が頭の奥で言った。
聞きようによっては凄く凄く甘い台詞。
だけど彼はこう見えてホストをやっているという一面を持ってる。
それにきっとこっちでも色んな女の人に手を出しているに違いない。
真に受けたらきっと馬鹿を見る。
そう思っているのに、ついさっきまでのふざけた口調が抜けた真剣な先生の声に、
心臓が恐ろしい心拍数をたたき出しているのが分かった。
「Please answer yes or no.」
「・・・・・・・って・・・・・そんな・・・・・・っ」
耳元に寄せられていた彼の唇が不意に私の耳朶を柔らかく噛んだ。
びりり。
瞬間的に、微弱な電流が私の体を駆け抜ける。
「what?体が震えてるぜ。それに顔も赤い。」
「だ、誰のせいっ・・・!?」
「Ah-ha・・・そうか、診察してやるぜ?丁度今聴診器もあることだしな。」
「な・・・・・・・!?何言って・・・ちょっと、待って!!」
私が抵抗を始めるより早く、伊達先生は片手で私の両手首を掴んで頭上の壁に押し付けた。
「随分と暴れん坊な患者さんじゃねぇか、おイタが激しいとこっちの診察の手も容赦しねぇぜ?」
「まだ何もしてないじゃない!」
「OK.OK.アンタには拳を向けられた経験があるからな。」
言いながら、彼は洋服を捲って私のわき腹からスっと、大きな手を差し入れてきた。
直に肌に触れたその手はひんやりと冷たくて、私は鳥肌をたてる。
「顔が赤い上に寒気までしてんのかい?こりゃ本格的に病気だな。」
「違う!!こんなの瞬間的なもの・・・・・・・ちょ、ちょっと!!それ以上進まないで!」
下からゆっくりと撫で上げる様に、彼の手が移動を始める。
そしてその手が不意に私の背中に回った。
ブッ。
手馴れた様子でブラのホックが外される。
「ーーーーーーっ!!!!??」
声にならない声を上げる私。
伊達先生が何食わぬ顔で首に掛けている聴診器を私に向けた。
胸元に、硬くて冷たい聴診器の感触。
「伊達先生っ・・・!!」
抗議の声を上げると、彼はまたニヤリと、綺麗に口角を吊り上げて笑う。
「おっとこりゃ心拍数がただごとじゃねぇな?落ち着ける為にmassageでもしてやるか。」
「し、しなくていい!!要らない!!!」
子供みたいにぶんぶんと首を左右に振り回す。
胸元に当てられた硬い感触が不意にストンと無くなる。
先生が聴診器から手を離したからだ。
そしてその後すぐに、大きな掌が私の胸の膨らみを包み込んだ。
「あっ・・・っ!!!???」
「遠慮すんなよ、こう見えて上手いんだぜ?気持ち良くしてやるから、イイコにしてな。」
「何が??!!セクハラ!!ドクハラ!!こんなの診察じゃないわよ!!」
「Hmm・・・諦めの悪ぃ患者さんだな、アンタも。」
「ふ・・・ぁっ・・・!!」
柔らかく私の胸の膨らみを撫でていた彼の掌が、不意にぐっと、力を増した。
ビクン。
反応する気なんか全然ないのに、私の意志とは関係なく体が僅かにしなる。
それと一緒に妙に厭らしい声が私の口から漏れた。
信じられない、私がこんな声を出すなんて。
「クック・・・いいねぇ、そそるぜ、その声。俺のMassageも大したもんだ。」
「・・・・・・伊達先生・・・!」
彼の指先が私の胸の突起に触れ、同時に首筋に唇を寄せられる。
私は首を左右に振って、それに抵抗しようとした。
瞬間。
ズキ。
と、首筋に痛みが走る。
政宗先生が歯を立てて私を噛んだからだ。
「っつ・・・っ!」
「Sorry.痛かったか?」
ニヤリ。
言葉とは正反対に先生が意地の悪い笑みを浮かべたのが、私には彼のその口調ですぐに分かった。
それから彼はついさっき噛み付いた場所に舌を這わせ、
私の洋服の中に入れたままの手で、胸の突起を弄んだ。
私は小刻みに震えて反応する自分自身の体を必死で抑え込む。
「ぁっ・・・・ハァっ・・・」
「息が上がってるぜ、汗も滲んできてるな。本格的に治療してやった方がいいか?
抗議する気力が萎え始めて、体の芯、頭の奥が、熱を帯びているのが自分でも良く分かっていた。
眩暈のしそうなおかしな感覚の中、視線を上げると、
政宗先生がゆっくりと身を起こして私を見下ろしている。
その彼の顔は、内科医伊達政宗ともホストの政宗とも違っていた。
彼は私の方に再び屈みこんでくると、私の唇に何度か啄ばむみたいにキスをして、
殆ど唇を触れ合わせたままで囁きかけるように口を開いた。
「・・・アンタの心も体も・・・俺がCareしてやる。だから、明日で最後だなんて言うな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・?」
―ドクン。
甘みを含んだ、耳に心地いい低音。
だけど、その時の彼の声は、さっきまでよりももっとずっと真剣だった。
こんな不意打ち卑怯だ。
ほんの一瞬前までと全く違う。
彼は私の返事を待っているみたいだった。
軽く触れ合わさったままのお互いの唇が、徐々に、でも確実に熱を持つ。
私の頭上で壁に押し付けられて拘束されていた両腕はいつの間にか解かれていた。
代わりに彼は私のその手に骨ばった長い指を絡めてきている。
彼と私の吐息が交じり合って、熱を持った唇が湿り気を帯びた。
「I asked you a serious question. Give me a decent answer.」
(俺は真剣に訊いてんだぜ、ちゃんと答えてくれ。)
「・・・・・・・・・・・・私・・・は・・・・・・・・・・・。」
―内科病棟、伊達政宗先生、伊達政宗先生。
至急ナースステーションより609へご連絡をお願い致します。
私が口を開きかけたのと殆ど同時に、その放送は私たちの耳に届いた。
「っ・・・Shit!呼び出しかよ・・・!」
彼は小さく舌打ちし、私からゆっくりと身を離す。
そして片手でくしゃりと自分の頭を軽くかき回した。
「・・・。」
「あ・・・何?」
「明日は俺は1日中ここを空けることになるからアンタと会う時間は取れねぇ。
・・・・・・・・・明後日の夜・・・、店の方に来ちゃくれねぇか?他の連中には俺から話を通しておく。
俺はどうしても・・・・・・・・・・アンタの口から返事を聞きてぇからな・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・行ければ・・・・行くわ。」
戸惑いがち私はそう答えて、彼から視線を逸らす。
伊達先生はそこでフッ、と、苦笑した。
そしてそのままクルリと私に背を向け、大股でドアに向かって歩き出す。
ドアノブに手をかけてそれを開くと、彼は振り向かずに言った。
「待ってるぜ、。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
無言の私を残して、彼はそのまま急ぎ足でその場を後にした。
暫くの間伊達先生の消えていったドアに視線を彷徨わせた後、
私は乱れた衣服をのろのろと整え始める。
そうしながらも、未だに心臓がばくばくと音を立てて、
体の奥が熱を持っていることを感じずにはいられなかった。
―・・・アンタの心も体も・・・俺がCareしてやる。だから、明日で最後だなんて言うな。
ついさっき、彼に言われたその言葉が、耳に何度も木霊する。
あの人はホストでもあるし、病院内で平気で手を出したりするような男なんだ。
真に受けたら馬鹿を見る、騙されるな私。
そう思う一方で、あの真剣な口調と、コンタクトを一緒に探してくれた時の彼の優しさとが、
私の胸を掻き乱していた。
明後日の夜。
私はどうするつもりなんだろう。
自分自身のことなのに、全く分からなかった。
(続く)
後書き
・・・・・・・次で、終れ!!(切望)しかも何、もう、政宗どれだけセクハラ男!
私の願望と妄想とが見事に絡み合って辻褄の激しく合わない一品が(涙
でもチャットでこの白衣ネタのお話した方だけはこれを理解してくださると、
私は信じます、信じさせてください。
ではではここまでのお付き合い、誠に有難うございました。失礼致します。
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