!!!今夜私とホストクラブに行こう!!!!』
「・・・・・・・・・・・はい・・・・!!???」


私がケータイを取った彼女の第一声がそれだった。
私は今、県内でも有数の巨大医療センターの広い中庭の片隅に居る。
入院中の叔母のお見舞いの最中に、散歩に付き合っている途中、
バイブにしていたポケットのケータイの振動を感じ、
私は叔母に一言謝って少し離れた場所でケータイを取って耳にあてた。
電話の主は私の悪友、里奈。
咄嗟に言っている意味が分からなくて間抜けな声を上げた私を無視し、
里奈はやけにはしゃいだ声でまた先を続ける。

『だからホストクラブよ!!ホストクラブ!!あーもー、どうしよう!!
あんた行ったら絶対あたしに感謝する!!間違いない!!今夜は特別なんだから!!』
「・・・え?ちょっと待ってよ、ホストクラブって・・・突然・・・私そんなお金ないし。
って言うか、特に興味もないし・・・。」

軽く頭の中が混乱しているのを感じながら、それでも私は正直にそう返事をした。
とは言え、こんな理由で引き下がる里奈じゃない。

『あたしが誘ったんだからお金は私持ちに決まってるでしょ!そこは全然問題ないって。
それに興味なくても一度くらい経験しときなよ。とにかく今夜は特別なの!
月に数回しか顔出さない超人気ホストが来るって極秘情報仕入れたんだから!!』

里奈はかなり興奮した様にそこまでまくし立てて、一息つくと更に言った。

『お願いだから来て!!あたしもまだ1度だけしか会った事ないんだけど、
サイコー格好いいんだってば!もうその辺の男なんかあの人に比べたらかかし!ホントに!
それとも何か予定でもある訳?』
「え?いや、別に予定があるってことじゃないけど。ホストクラブって・・・何かちょっとこう、
私の柄じゃないって言うかさ、別世界と言うか。さっきも言ったけど、興味ないし・・・。」

里奈の勢いに半分気圧されながらも、私はそう返した。
実際、ホストクラブなんかテレビドラマやドキュメンタリーなんかでしか見たこともないし、
自分がそこに行ってる姿なんか想像もつかない。

『予定がないのならもう決定!はい、決まり!今夜9時に迎えに行くから。』
「って、ええ!?ちょっと待ってって!里奈!?」
『じゃあ、また後でね』

―プッ・・

そこで有無を言わさずケータイは切れた。
呆然とする私。
だけど、今更かけ直して断ったって意味がないこと位、もう分かっていた。
仕方ない、人生経験の一環として受け止めよう。
私は大きく深い溜息を吐くと、
ケータイをジーパンのポケットに突っ込んで叔母の待っているベンチへと向かった。

「ええ、後一月程で退院だと言う話は聞きました。手術後の状態も良好の様ですね。」
「お陰さまで!ああ、でも竹中先生とお別れなんて考えたくないです。
私、もうここに永住してしまいたいくらい。」
「フッ、それは困りましたね。ですが僕も貴女の様な面白い女性とは離れがたいですよ。」

叔母の、きゃー、と言う黄色い悲鳴とも取れる声が聞こえた。
彼女の座っているベンチの正面に立っているのは竹中半兵衛先生。
確か内科の先生だったかと思う。
女の私の方が気後れしそうな恐ろしく綺麗な顔立ち、そして静かで穏やかな話し方、
感情を表に出すことは滅多になさそうなタイプだけど、
とにかくその容姿で女性患者からの人気は素晴らしい。
小耳に挟んだ噂じゃ、竹中先生が予防接種をしに行った小学校は、
体育館が溢れるほど子供達の母親や姉達が詰め掛けたとか詰めかけなかったとか。
それが妙に真実味を帯びてしまうのは、先生がそれだけの容姿を持ってるからだと思う。
うちの母親も叔母のお見舞いの際にはいつ何時でも竹中先生と顔を合わせていいようにと、
念入りに化粧をして来るほど。
更に言ってしまえば、どうやらこの医療センター、「いい男」揃いらしい。
叔母がうきうきしながら色々と教えてくれた。
小児科医の長曽我部元親先生、脳神経外科医の毛利元就先生、美容整形外科の上杉謙信先生、
血液内科の明智光秀先生。そして医者ではないけど保健士の猿飛佐助さんに真田幸村さん。
よくもここまで次々と名を挙げられるもんだと思いつつ、私が全部覚えてるのは、
もう病院内でその名前の先生や看護士さんの話を1日1回以上聞かない事がないからだ。
確かその中でも絶大な人気を誇っていると言う先生の名前を聞いたんだけど、
何故だかこの時私の頭からその人の名前はスポンと抜けてしまっていた。
多分、結局医者だろうが看護士さんだろうが『いい男』ってものに特に興味がある訳じゃないからだと思う。
そこまで考えて、私は不意にまたついさっき里奈と強制的に交わされた約束のことを思い出した。
ポケットのケータイでチラリと時間を確認する。
15時半。
ホストクラブ強制連行まで、後5時間半。
竹中先生と嬉々として会話をしている叔母は未だに私に気付かない。

ハァーーーーー。

私は一人、またしても大きな溜息を吐いた。




ホストクラブ。
何度頭に思い浮かべてみてもやっぱり私とは無縁の場所としか思えない。
今、私は里奈によってその無縁な筈のホストクラブに強制連行されている最中だ。
いつもは約束の時間ぎりぎりにしか現れない彼女が、
今日に限って私よりも10分も早く約束場所に着いて居た。
いつも結構派手な格好してる里奈だけど、今日はまた特別に煌びやかな服装で登場した。
私は彼女を見て、力の入ったオシャレをしたもんだと感心しつつ、半分呆れてもいた訳だけど。

「あそこの角曲がったらすぐよ、。」
「・・・・ねぇ、マジで私も入らないと駄目?」
「あのね、今更そう言うこと言わないでよ。ほら、迎えが来てるわ。」

るんるん♪
と言うのがピッタリの表現の超上機嫌な里奈。
それと全く逆に、私は色々な種類のクラブが立ち並ぶこの夜の街に、
既に恐ろしく気後れを感じていた。
迎えのホストに連れられて行ったお店は、他のどの店よりも大きくて、
派手で、それでいていやらしくない趣味のいい外装だった。
ホストクラブといえばケバケバしい感じのイメージがあったんだけど、
何だか思ってたのと少し違う。
ただ、ホストの顔写真の貼ってある場所はイメージ通りだったけど。

「ねぇ、里奈。どの人?あんたの言ってたホスト。やっぱあのNO,1?」
「え?ああ、言ったでしょ?あの人はトクベツなのよ。ここには写真なんて貼ってないわ。
毎日居る訳じゃないし、ハッキリ言うけど、NO,1より凄いわよ。」
「・・・ふぅん。」

思わず素っ気無く返してしまいながら、私はキョロキョロと辺りを見回した。
店内に通されると、薄暗がりにズラリ、と、ホスト達が並んで立っているのが見えた。
一歩、中に足を踏み入れた瞬間、今まで感じたことのない不思議な夜の空気が周りを包んでいるみたいに思える。

「里奈さん、お久し振りです。今日はやっぱり政宗さんがお目当てですか?」
「あ、レンちゃんお久しぶり。勿論政宗目当て♪ね、他にもこのこと知ってる客居るの?」
「一応、でもそんなに大勢は知らないと思いますよ。
政宗さんの情報流したらこの店にお客様方入り切れませんから。」

どうやら里奈はかなりの上客らしい。
ま、こう見えてもいいとこのお嬢さんだし、一流会社の受付嬢やってるし、
不思議じゃないっちゃ不思議じゃないんだけど。
でも、その『政宗』ってホストが里奈の言ってたホストだとして、
この広いフロアに入りきれない位の客集めるって本当に凄いんだな。

「ん?政宗・・・・?あれ??」
「何?里奈、どうしたの?」
「え?いや・・・・。」

座り心地抜群のソファに座りながら、私は心の中でふと首を傾げていた。
何だろう、『政宗』と言う名前に聞き覚えがある気がする。
でも、よく考えたらここはホストクラブ、源氏名ってヤツが普通だろうし、
やっぱり私の気のせいに違いない。

「里奈さん、政宗さん来ますよ!!」
「きゃー!!ラッキーこんなにすぐ会えるなんてついてるわ!!
!!!!超ラッキーよ、これ!!」

里奈はかなり興奮した様子で立ち上がって、私の肩をガクガクと揺さぶる。
私は彼女になされるがままになっていた。
『政宗』と言うホストがどれだけ凄いかはさっきの話で何となく分かったとして、
それよりも何よりも私には自分のこの場違いな浮き具合が居心地が悪くて仕方ない。
里奈には悪いけど、興奮するどころか今すぐ家に帰りたい気分だった。
と、不意に、里奈の視線が正面の出入り口とは間逆にある大きな扉に釘付けになる。
釣られて私はそっちへ目を向けた。
気付けば、周りに居る客の殆どが総立ちになってその扉に意識を集中させていた。
ホストが二人、その大きな扉をゆっくりと開ける。

―キィッ。


カツッ・・・・

開かれた扉から、長身の男の影が二つ。
そして、その影の一つが、颯爽とした足取りでホール内に足を踏み入れた。
瞬間。

「「「「「「「政宗っ!!」」」」」」」
「きゃぁぁっー!本当に政宗だわ!!」

女性客達がざわめきだつ。
里奈も勿論、例外じゃない。
それどころかさっきより更に更に興奮した様子だ。
私はホールの中央まで進み出たその人影、『政宗』を観察するようにして見つめた。
確かに、他のホストとは全く比べ物にならない。
その恐ろしく整った顔と、スタイル、身長も文句なしに高く、
ルックスはここに居るホストの誰より優っている。
でもそれだけじゃない、彼の持っている雰囲気。
口では言えないけど、とにかく人を一瞬で惹きつける何かを持っている。
そこでふと、私は何故か、ん?と首をかしげた。
ホストクラブになんか来たのは正真正銘これが初めて、にも拘らず、
私は彼を見たことがある様なおかしな錯覚を覚えたからだ。
だけど、どう考えても、そんなことはある筈が無かった。
それに、これだけ強烈な印象を与える人をそうそう簡単に忘れられる訳が無い。
と。

「うそっ!!きゃあああ!!!ちょっと!!やったわ!!政宗が!!政宗が!」
「えっ!?痛っ・・・!里奈??何・・!?」

ぼんやりしていたところに、またしても唐突に里奈が私の首が千切れそうな勢いで揺さぶり始める。
全く意味が分からずに居ると、私の正面にスッと、人が立つ気配がした。

「さぁ、楽しいpartyの始まりだ。派手に行こうぜ。
今夜は俺がアンタ達のお相手をさせて頂くからな。」

ニヤリ。
口元を綺麗に吊り上げて笑うと、彼は私を正面から見つめた。
周りからは羨望と嫉妬の眼差しの嵐。
何が何やら分からないまま、混乱した表情で里奈に視線を移す私。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・え?ええっ????」
「政宗が・・・っ!!政宗があたしたちの席につくのよ!!!!」

今にも泣き出しそうな声で里奈が言った。

その特別とまで言われる「政宗」と言うホストが、ゆっくりと私の隣の席に座るのを、
私はただ呆然とした表情で眺めていた。


(続く)


後書き
長ぇぇ(涙)本当はこれ、この元ネタとなる絵茶でお世話になった方々に献上しようと思っていたのですが、
余りにも長くて続き物になってしまった故にそれは控えさせて頂きました。
だって手間掛かりますもんね・・・。
絵茶で思い付いたネタですので、皆様の会話を取り入れさせて頂いている部分も多々です。
しかし政宗最後しか出てねぇぇぇ。・・・・・・・・とりあえず続きます。
ここまでのお付き合い、誠に有難うございました。


ブラウザバック推奨