「アニキ!!見えてきやしたぜ!!天界の船だ!!
どうしやしょう!?こっからぶっ放して落してやりますか!?」

天界からの使者が乗っていると思しき(おぼ)その船は、
闇に包まれた魔界の空を眩い光を放ちながら、徐々に元親の城へと接近してきていた。
然程大規模とは言えぬ中型船。
されど天界の船の纏う神聖な白い光は、
この場に至るまでにここに生息する幾体もの低級な魔物や植物等を浄化し、
消滅させて来たに違いない。
天界からの光は魔物達にとって存在そのものが脅威なのだ。
そしてそれは元親の庭を無断で踏み荒らす行為に他ならなかった。
ちぃっ。
彼は眉間に深くしわを寄せ、忌々しげに舌打ちをする。
部下は彼の指示を待ち、未だ元親に視線を向けたままだ。
彼らは膨大な魔力を発する事で攻撃を行う大砲を開発しており、
その照準は既に天界の船に定められている状態だった。

「元親・・・。」

彼に寄り添い、はそっとその肩に手を触れる。

「・・・ああ、大丈夫だ。いきなりぶちかましたりはしねぇ。
ここは俺の領土だ。相手がヘタな真似しやがったとしても、
いつでも大人しくさせてやるこた出来るからな。
――――いいか!?野郎共!!俺が指示を出すまでは一切手出しは無用だ!!
まずは向こうの出方を見てやろうじゃねぇか!!」

「「「「「「へい!!アニキ!!了解しやした!!」」」」」」

彼の指示に従い、部下達が一斉に声を上げた。
やがて天界の船は元親の居城から少々離れた空中で停止し、
幾人かの天人が下船して来る様子が達からも見て取れた。
元親の部下が注意深く彼らに接近し、出迎えている。
元親は黄金色の隻眼を僅かに細め、遠目に見える天界の船をじっくりと眺めまわした。


大きさはそれ程ねぇ・・・が、馬鹿に出来たしろもんでもねぇな・・・。


中規模の物とは言え、彼の居城周辺に接近するまで見張りは愚か結果にすら引っかからなかった船だ。
油断は出来ない事だけは確かだった。
恐らくは乗船している天人達もある程度力のある者が選ばれているに違いない。
魔界のみならず天界にまで名の轟く鬼の領土で、
彼ら天人が争いを起こす等と言う軽率な真似を選択するとは思えなかったが、
状況によっては強引な手段も辞さぬと言う天界側の意思が微かに読み取れる様にも彼には思えた。


渡さねぇよ・・・・・・・。
誰であろうと、アイツだけは・・・絶対ぇにな。


視線に強い意志を込め、元親は心の内で呟く。
例え天界を敵に回すことになろうとも、
彼はを手放すつもりなど毛頭なかった。

「アニキ!天界の使者の一人がアニキと直接話がしてぇそうです。
それで、さんも一緒にってことでしたが・・・・・・・・どうしやす?」

天人を出迎えた部下の一人が彼にそう伝えた。
元親は彼の隣に寄り添うに、視線を移す。

「・・・・・・・・そう来るこた予想してたが・・・、、おめぇはやっぱりここで・・・。」
「行きます。その為に来たのですから。」

即座、彼女は元親の言葉を遮る如くして答えた。
その瞳は、真っ直ぐに天人達の居る場所を捉えている。
彼は諦めの溜め息を吐くと、の腰に腕を回した。


――バサリ。


瞬時にして元親の背に漆黒の翼が出現し、羽音が大きく響いた。

「飛ぶぜ、しっかり掴まってな。」
「はい。」

力強く頷いた彼女の足が、同時にふわりと床を放れる。


「さっきも言った通り、俺が指示を出すまでは手出し無用だ。
だが、油断するんじゃねぇぞ。
・・・・・・・・場合によっちゃ・・・手荒い真似をしなきゃなんねぇかもしれねぇ。」

元親はを片腕に抱き、宙に浮いたままの状態で部下の一人に静かにそう告げた。
彼の金色の隻眼には複雑な色が宿っている。

「元親・・・・・・・・・・・。」

彼の背に回されたの細腕に力がこもる。
その声は緊張に僅か震えていた。

「安心しな、おめぇは俺についてくりゃいい。
何があろうと、他の野郎の手に渡すような真似だきゃしねぇからよ。」
「はい、私は絶対、あなたのお側から離れませんから。」
「はっはー!…当然だ!!」

元親はの答えに満足げに唇で弧を描き、銀色の鋭い牙を覗かせた。





「よぉ!あんたがあの鬼の長曽我部元親かい?
あんたの噂は天界でもよぉく耳にしてるぜ。
・・・・へへっ、いいねぇ、あんた・・・いい目をしてる。」

天界から来た使者・前田慶次と名乗ったその男は、存外人好きのする笑みを見せ、
場にそぐわぬ呑気な口調で彼らに言った。

「そうかい?兄さんも中々イイ面構えだぜ。
・・・・・・・・・で、だ、あんたがわざわざ天界から魔界に降りてきた訳を聞くとしようか。
―――大体察しはついちゃいるけどな。」

元親は微かに隻眼を細め、慶次の視線を受け止めた。
天使と言うには余りに奇抜な衣装に身を包んだ彼は、
興味深げにと元親とを見つめている。

「・・・そうか、だったら話は早ぇや。じゃあ単刀直入に言っちまうけど、
あんたんとこに、聖女様が居るって情報があってね。
俺はそれを確かめに来たって訳だ。」

そこで彼は言葉を切り、にピタリと視線を定めた。
そして、フッと唇に笑みを浮かべる。

「情報は確かだったってことは、ついさっき分かったけどな。
あんたが聖女様だろ?綺麗な瞳にとびっきりの光が見える。
名前を聞いてもいいかい?」
「・・・・・です。 。」
ちゃんか〜。うん、あんたにゃピッタリの、いい名前だぜ。」

慶次の言葉には戸惑いがちに微笑んで見せた。
だが、彼女を腕に抱いている元親の隻眼は、警戒の色を宿したまま、
彼をしっかりと捉えていた。
常の元親ならば天界の者と言えど慶次は決して嫌悪を抱く性質の相手でない。
しかし、今は心から信頼できる者以外には、
慎重に対応していかねばならないと心得ていた。

「兄さん・・・情報の確認だけで天界の人間が魔界に使いまで出すとは思えねぇ。
しかもここは鬼の棲みか、ヘタすりゃ使いは全滅だぜ?・・・・・・・・・まだ他に理由があるんだろう?」
「・・・・・おおっと、こえぇなぁ。聖女さんが魔界に居るのかどうかってのは、
天界じゃ超重要事項だぜ。俺達が確認するだけの価値はあるってもんだ。
けど、ま、あんたの言うとおりだけどね。俺の役目はそれだけじゃあない。」

言った慶次は、肩をすくめた。
何所かおどけた口調だが、その瞳には複雑な色が滲んでいる。

「さっさと言っちまいな。その方が会話も進み易いってもんだぜ。」

元親に促され、彼は軽く頷いた。

「聖女さんをこっちで・・・天界で保護する為に来た。
上級悪魔のあんただ、説明なんか要らねぇだろうが、
聖女さんはその存在だけで上位の魔物達に力を与える事が出来る。
今の魔界の状態からみりゃ、聖女さんが争いに巻き込まれるのは目に見えてるだろ。
だからそうなる前に、魔界の連中の干渉できない天界に預けて欲しいって訳だ。」

説明を終えると、慶次は再びに視線を移した。
美しい黒曜石の瞳が、躊躇うことなく彼の視線を受け止めている。
元親の様子から、彼がこの話を拒絶するであろう事は容易に想像出来ていた。
それは悪魔故の打算的思考からなのか、それとも別の理由があるからなのか、
この時慶次にはまだ明確に理解できてはいなかった。

「遠いところわざわざ出てきてくれたってのに、悪ぃな、兄さん。
俺はコイツを手放す気はねぇ。あんたんとこのお偉いさんにもそう伝えてくれや。」

慶次の予期していた通り、元親は天界からの申し出を一蹴した。
慶次を見据える黄金色の隻眼に、固い決意と意志が見て取れる。
ここは魔界であり、何より元親の領土内だ。
慶次ら天界の使い達がどのような不穏な動きを見せようとも、
それは意図も容易く阻まれてしまうだろう。
高圧的な態度で居られるのは当然の道理と言える。
だが、鬼の瞳に宿るそれ(・・)は、
有意な立場であると言う理由のみで導き出された台詞なのだと言う事を、
頑なに否定している様に慶次には思えた。

「・・・・・・・ちゃん、あんたはどうなんだい?天界に来た方が安心だし、何より安全だぜ。」

ジッと慶次を見つめたままの彼女に彼はそう問う。
即座、は首をハッキリと左右に振って見せた。

「いいえ、私はここに、元親の側に居ます。私が彼と一緒に居たいんです。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちゃん、あんたやっぱり・・・・・・・・。」

半ば呟きに近い声音でそこまで口にし、慶次は元親を一瞥する。
やがて少々間を空けて思考を巡らせる如く(くう)に視線を彷徨わせると、
彼は再び口を開いた。

ちゃんと俺、二人だけで話がしてぇんだが・・・、どうだい?」
「んだと?」

ピクリ。
慶次の言葉に元親が眉間に深くしわを寄せる。
の腰を抱く彼の手が、更に彼女を自身の身へと引き寄せた。

「駄目だ。幾らここが俺の領土と言っても、俺はあんたを信用した訳じゃねぇからな。
話があるなら俺の居るこの場所でしな。」
「二人だけでと言ったって、この状況だ。何も場所を移せって言ってる訳じゃねぇ。
5分。5分だけいいから彼女の意識を貸しちゃくれないかい?
俺の体はこのままここにあるんだ、時間を過ぎても戻ってこなけりゃ、
煮るなり焼くなりあんたの好きにしてくんな。」
「・・・・・・その5分で、あんたがの意識を操作しねぇって保障でもあんのか?」

元親は慶次の言葉に譲る様子を見せない。
だが、そこで不意にが元親に告げた。

「元親、私、この人と二人で話をしてきます。」
「・・・・・・なっ!?!?おめぇ!!」

瞬時、瞳を見開き、元親が動揺を示す。
は重ねて言った。

「私はこの人と二人で話をしてきます。
大丈夫、慶次さんは約束を破ったりしません。私には分るんです。」

真っすぐに合わされる元親との視線。
彼はの口調から、彼女がその決意を安易に曲げるつもりはないのだと悟った。
だが、元親はすぐには二の句が告げられず、返事をすることを暫し躊躇する。

「たったの5分で俺が意識を操作出来る程、
聖女さんの力ってのは甘いもんじゃねぇ。
さっきも言ったが、5分しても俺や彼女の意識が戻らなかったら、
俺のこたぁ煮るなり焼くなりしてくれていいぜ。」

そう口にした慶次の瞳には真摯な色が宿っており、静かな声音からは偽りは見出せない。
は元親の答えを無言のまま待ち続けている。
ちぃっ。
彼は小さく舌打ちをした。

「兄さん・・・その言葉、忘れんじゃねぇぞ。コイツにヘタな真似してみやがれ、
その時点であんただけでなく、
あんたと一緒に来た天界の使者連中も俺の野郎共の餌食にしてやるからなぁ。」

それは決して脅しの台詞ではなかった。
もとより、天界の御使い等の言葉に耳を貸す彼ではない。
たっての望みであればこそ、そして、慶次の見せた真摯な態度が元親の心を動かしたのだ。

「ああ・・・、よーく心得てるぜ。」

慶次は短く答え、殊更大きく頷いて見せた。

「・・・・5分・・・・それ以上は一秒たりとも待つつもりはねぇ・・・。」

未だ苦々しげな表情ながら、元親は了承する。
彼の背を掴んでいるの掌に、先程よりも力がこもった。

「有難うございます、元親・・・。すぐに戻りますから。」

言葉と同時にが微笑む。

「何かあったら必ず意識を身体に戻せよ。」

元親は眉根を寄せたまま彼女に告げた。
その言葉を耳にすると同時に、は意識が薄れゆくのを感じ取っていた。




後書き
ほぼ一年ぶりの更新・・・・。バサラ自体が久々更新なのですが、
この妖怪パラレルかも謎な話を待っていて下さる奇特な方がいらっしゃるかも疑問です(笑
久々すぎて慶次にもかなり苦労させられました。
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫さま方、誠に有難うございます!失礼します。


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