「よりによってあの鬼の妹を妻に娶るなんて酔狂にも程がある。
周囲の人間は皆噂してるわ、元就。」

そう口にしながら、は机の書簡に何事かしたためている元就を一瞥する。
元就は手元の筆を止める事無く動かし続けたまま、やがて静かに口を開いた。

「下らぬ・・・そなたは既に我妻。
周囲の者がどの様な戯言を口にしようとも、それは覆せぬ。
よ、そなたとて我の側に共にあることを望み、この地を踏んだのではないか?」
「・・・・・・・・・・・・・それは否定しない・・・・・・・・・・、だけど・・・・・・・。」

そこで彼女は言葉を濁し、憂いに満ちた瞳を庭へと移した。
元就は筆を滑らせる手を止めると、そのの横顔をジッと見つめる。

「先を続けよ、。」
「・・・兄上は大変お怒りだった・・・・・。きっと、戦になるわ・・・。」

彼女は瞳に悲しみを滲ませて呟くように言った。
だが、元就はそれに動じた風も無い。

「全ては承知の上。我はそなたを手に入れる為ならば戦も厭わぬ。
本より天下統一に至るには、戦は避けては通れぬのだからな。
それが僅か早まっただけのことよ。」

淡々と語る彼に、は複雑な表情を見せる。
そして、深い溜息と共に、更に口を開いた。

「私はきっと地獄に堕ちるわ・・・。
あんなに可愛がってくれた兄上達を裏切って、
それでもやっぱり貴方から離れる事も出来ないんだから・・・。」
「ならば我と共に堕ちよ、
そしていつ如何なる時であろうとも、我と共にあるが良い。」

元就は静かに立ち上がると、の背後からその腕に絡め取り、
彼女をそっと引き寄せた。
彼女の耳元に触れる、元就の整った薄い唇。
は僅か瞳を伏せる。

「そなたの愚かな兄は・・・我がそなたをかどわかしたとでも思っておろうな。
よもやそなた自らこの地に足を踏み入れたなどとは、微塵も考慮に入れてはおるまい。」
「・・・・・・・・・・いいえ・・・兄は知っていたわ・・・。私が貴方を・・・愛している事を・・・・。
だからこそ、私に監視役の忍びまでつけていた・・・・。」
・・・・・。」

元就は彼女の名を囁く様に口にし、彼女の体に回した腕に力を込めた。
そして、その柔らかな耳朶に口付ける。

「元就・・・・正直に言えば、私・・・貴方と想いを通わせたこと・・・後悔したこともあった・・・。
諦めようと何度も思ったわ・・・。でも結局・・・捨てられなかった・・・。私は・・・私は・・・。」

彼女はそこで声を震わせ、元就の方へと向き直ると、
しがみ付くようにして彼の体に細い腕を回した。

「・・・自分でもどうしようもない程・・・、貴方を愛してる・・・!」

半ば悲鳴にも似た声音で、は元就に告げた。
平生見せる無色が故に冷たい彼の瞳。
だが、今、彼女を見下ろす元就のその眼差しは、愛しさに満ちている。


「そなたと共にあるならば、地獄への道先も我にとっては苦にもならぬ。
よ、そなたこそが我の全て・・・。引き返す事、ならぬぞ。」


彼の紡ぐ言の葉に、はゆっくりと顔を上げ、彼と視線を合わせた。
そして、ハッキリとその首を縦に振る。

「ええ、元就・・・。貴方とどこまでも・・・。」


―堕ちていくわ。


彼女が答えた刹那。
元就はの唇を己が唇で塞ぐ。

そして二人は互いの決意を確かめる如く、深く、濃く、
幾度と無く口付けを交わした。



(終わり)



後書き
思いっきり尻切れになってしまいました・・・。
しかも拍手の元就と同じ位神経使ったのに、どちらかと言うと拍手の方がまだ彼っぽい・・・。
途中で考えていたネタが頭から抜けてしまったのが原因か・・・。
ですが、気合は入れて書きました(苦笑)またネタを思い浮かべば挑戦したいです。
ではでは、ここまでのお付き合い、誠にありがとうございました。


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