歓楽街。
女が春を売り、そして男がその華を求めて彷徨う場所。
愛憎と常に隣り合わせの場所。
夢と現の重なる場所。
深夜、闇に包まれ人々が眠りに着くはずのその時刻、目を覚ます場所。
【5.黙って愛されてろ】
行灯の灯りが風でゆらりゆらりと揺れた。
肌寒さを感じ、は布団から身を起こして窓の外を見つめた。
小雨が降っているらしく、窓から室内に降り込んできている。
はゆっくりと這うようにして窓に近付くと、窓枠に手を掛けた。
眼下に広がる風景は、もう飽きるほど目にしている華やかな欲望の街。
今は雨で灯りが滲んで見えた。
は音を立てぬように気を付けながら窓を閉めた。
そして布団には戻らず、先ほどまで飲んでいた酒の残りに手を伸ばす。
片手で杯を酒で満たし、そこで手を止めた。
ふと、視線を布団で眠っている隻眼の男に移す。
端整な顔立ちのその男は、眠っている時でさえ自信に満ちた表情をしているかのごとく見えた。
・・・・・・政宗様・・・・・・・・・・・・。
愛しい男の名を心の内で呟き、彼女は手元の酒に口をつける。
彼女は今日の逢瀬が終わった後、彼に告げねばならない事があった。
それは彼女にとって、そして恐らく彼にとっても辛い決断となる話であるに違いない。
「・・・、起きてたのか?しかも1人で酒煽ってるとはねぇ。俺も混ぜちゃくれねぇかい?」
「政宗様・・・・、フフ・・・どうぞ・・・・・・・。」
政宗が布団から抜け出し、彼女と向かい合わせになる形で腰を下ろした。
は杯を彼に渡してそれに酒を注ぐ。
「・・・・・・・で、何かあったのか?」
「・・・何か?どうしてですか?」
彼女は問いに問いで返しながらも、内心の動揺を隠そうとした。
今はまだ、話を持ち出したくはなかったのだ。
「いつもより口数が少ねぇじゃねぇか。言ってみな、聞いてやるぜ。」
「・・・気のせいでございましょう?私は元々無口な女ですから・・・。」
小さく笑って答えるの顔を、政宗はじっと見つめて言った。
「HA!俺相手にそんな返事が通用すると思ってんのかい?
・・・おめぇはすぐ腹に溜めちまうからねぇ、言いな。俺が聞きたいんだ。」
「・・・・・・・・・政宗様・・・・・・・・・・・・・。」
は彼の言葉に躊躇いの表情を見せ、やがて諦めの溜息を漏らした。
そして手元にある杯に再び酒を満たす。
「身請けを・・・・・申し出て下さった方がいるんです・・・・・・・・・・。」
「what!?身請けだと!?そりゃ本当か?」
「はい・・・どこかの大店の旦那様で・・・、近く・・・・お返事をせねばなりません・・・。
おかみさんもそれを望んでいます・・・。」
は杯の酒に映る自身の姿を見つめながら、頷いて言った。
「Shit!!バアさんやってくれたじゃねぇか!」
「・・・・政宗様・・・・・・・・・・・、いい機会ではございませんか・・・・・・・・。」
は杯から視線を外さずにそう静かに口にした。
政宗の眉間にしわが深く刻まれる。
「・・・何だって?」
「元々、貴方様はこんな所に来ていい方ではありません・・・。
いいえ、こんな所へ足を運ばなくとも、政宗様ほどのお方ならば女子は幾らでもおりましょう。
・・・・・・何も私の様な卑しい身分の女など・・・・・・・相手になさらなくとも・・・・」
「・・・。」
正面に座っている政宗の表情がひと際険しくなった。
は瞳を上げて彼を見つめ返す。
「遊郭から出るには・・・・・・身請け先を探すしかないのが遊女・・・・・。
でなければ一生ここに囚われたまま、春を売り続けるしかない・・・。
私は・・・・・政宗様に出会えただけで・・・・・幸せでございました・・・・・・・・・・。」
「Ok.言いたいことはそれで終いかい?」
「え・・・・・・・・・・?」
彼は唐突に彼女の両腕を掴んで、そのまま荒々しく畳へ押し付けた。
盆に乗せていた酒瓶が衝撃で倒れ、中身が畳の中へ染みていく。
酒独特の香りが室内に立ち込めた。
「政宗様・・・・・・・・・。」
には彼女を見下ろす政宗の瞳に怒りが滲んでいるのが見て取れた。
拘束していた両手を開放し、政宗が口を開いた。
「、おめぇ以外の女を手元に置くことなんざ確かに容易い事だ。
だったら・・・わざわざ身分隠してこんなとこまで足を運んじゃいねぇよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ですが・・・・・・・・・・・・・あっ・・・・・!」
政宗は肌蹴たままのの着物の襟元にグイと手を入れ、
彼女の白い陶磁器の様な肌を露にした。
その肌にはつい先ほどの行為で彼が散らした花弁が紅く色付いている。
彼はそこに掌で触れ、ゆっくりと花弁の一つ一つをなぞる如くにして撫でた。
やがて掌がなだらかな膨らみへと移って行く。
それに反応してがビクリと身体を震わせた。
「政・・・宗様・・・・・・・っ・・・!」
「身請けの話は俺がどうにかしといてやる、、もう余計な事は考えんじゃねぇ。いいな?」
「・・・・・・私は・・・・・・。」
尚も躊躇いを見せるに、政宗は彼女の耳元に唇を寄せて言った。
「Shut up.アンタは黙って俺に愛されてりゃいいんだよ。」
熱く湿った吐息と共に彼女の耳に届いたその一言に、が僅か瞳を潤ませる。
「はい・・・・・・・・・・政宗様・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
が掠れた声でそう返事をすると、政宗は彼女の手に自分の手を重ねて指を絡めた。
唇を耳元から首筋へ移動させ、舌を胸元まで這わせる。
は目を閉じてその甘い行為に身を委ねた。
遊女の身である自分と、城の主である彼との恋は恐らくいつかは壊れてしまうことだろう。
例え2人の想いが重なっていたとしても、それは必然。
だが、その別れの時は今ではない。
窓の外から聞こえる雨音が、ほんの少し激しくなったようだ。
はその雨音に耳を澄ましながら、囁くようの政宗に向かって言った。
「政宗様・・・・・・・も・・・貴方様を・・・愛しています・・・・・・・。」
(終わり)
後書き
シリアス路線のつもりでしたが・・・微悲恋!?
ま、この時代ですからそれもありだと。
遊郭の仕組みや制度なんか時代劇でしか知らない程度の知識なんですが、
何か雨が降っているのを見たら書きたくなった話です。
てかやっぱ政宗が微妙。イメトレ率を上げないと(笑)
そんなことよりまた深夜に更新だよ。明日仕事なのに〜!
では、今回ここまでのお付き合い、誠に有り難うございました。
失礼致します。
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