その室内の灯りと言えるものは蝋燭が数本並んでいるだけだった。
突然に開けられたその部屋の襖から、1人の男が顔を出す。
先ほどから室内でうたた寝をしかけていた女が、顔を上げてそちらに視線を移した。
目の前の隻眼の若い男がその鋭い視線で女をじっと見つめ、一言、声を掛けた。


「よぉ、。アンタを攫いに来たぜ。」



【2.”俺以外”】



音も立てずに素早く襖を閉めると、男は室内に足を踏み入れる。
は無言でそれを迎え入れた。

「しっかし無用心だねぇ、2日後には輿入れしようって女の室に警備もなしってかい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・政宗・・・・・・・。」

は彼を見上げたまま、その名を静かに呼んだ。

「驚いたか?さすがにここまで来るのはちいと骨が折れちまったがな。」
「・・・そなた・・・忍びの術でも身に付けたのか?」
「HA!そうかもな。」

政宗は僅かに口の端を上げて笑い、彼女の傍へ腰を下ろした。

「そこまでしてここに何用だ・・・?もう、そなたと顔を合わすことはないと思っていたのに・・・。」
「おいおい、さっき俺の言った台詞をもう忘れちまったか?言っただろ、アンタを攫いに来たんだ。」

そう言うと彼はの美しい黒髪をひと房手に取り、それに口付けた。

「my.princess アンタを他の野郎にくれてやるつもりはねぇ。」
「・・・・・・・・・政宗・・・・・・そなたは・・・・・・・・。」

は彼の腕を掴もうと片手を挙げたが、躊躇いの表情を見せた後、すぐに手を下ろした。
そして彼の瞳から目を逸らすように俯く。

?」
「・・・・・・・・無理だ・・・・・・・・・・・・・・・政宗・・・・・・。」

顔を上げぬまま、は首を小さく左右に振った。

「what?おい、そりゃどういう意味だ?」

問い返す政宗に、彼女は聞き取れないほど微かな声で言葉を返す。

「私は・・・そなたとは・・・行けない・・・・・・・・・。」

の肩は小刻みに震えていた。
唇を噛み締め、必死に涙を堪えては俯いていた顔を上げ、政宗の瞳を見つめる。

「・・・、アンタ・・・本気で俺以外の野郎に嫁ごうってのかい?」

彼女は小さく、だがハッキリと首を縦に振った。

「そうだ・・・・・・・・・・・・・・・。」

の瞳には哀しみが滲んでいる。
だが、それと同時にその潤んだ瞳には大きな決意も含まれている様に政宗には思えた。

「・・・・・・・そうかい・・・アンタ・・・決めちまったのか・・・・。」

政宗はそう口にしながらも、それを受け入れている自分が居ることにも気付いていた。
否、この城に足を踏み入れたその時から、彼はそれを感じ取っていたのかもしれない。
の輿入れの話はもう随分以前から進んでいた、そしてそれは彼女本人の問題ではなく、
家の未来全体に関る大きな問題だった。
元より、女人は嫁ぐ家柄でその役目を果たし、道具のように扱われる政略結婚などこの時代では常識だ。
政宗自身はこのことについては不愉快としか思っては居なかったが、それが世の常であるのは止められぬ事。
彼とて、天下取りに名乗りを上げて以来、奪い、踏み台にしていったものも少なくはない。
それでもやるせない想いが政宗の胸を突き上げてくる。
彼は片手で彼女の肩を引き寄せた。

「・・・政宗・・・・。」

は抵抗することなく彼の胸に身を押し付けた。
そして、自らもその細い腕を彼の身体に回す。

「例えこの地を離れ、嫁いで行こうとも・・・、私はそなたと過した時を絶対に忘れはしない・・・。」

政宗はの言葉に彼女を抱きしめる腕に力を込めた。

「Shit!ったく・・・独眼竜ともあろうもんが・・・ザマねぇな・・・・・・・・・・。
惚れた女1人・・・守れやしねぇなんざ・・・。」

独り言のように彼は呟いた。
いつもは自信に満ちたその表情が、今は切なげに歪んでいる。
不意にの白い掌が、政宗の頬に触れた。

「そなたは何も悪くない・・・、私の決めたことだ・・・。」
・・・・・・・・・・。」
「・・・っ・・・・」

彼は頬に当てられたの手を掴み、彼女の唇に自らの唇を押し付けた。
唇に唇を強く重ね合わせただけの口付け。

だが、今まで交わした幾度の数え切れぬ濃厚な口付けよりも、
それは深く、濃く、互いの気持ちの重さを感じさせたのだった。
やがてゆっくりと彼から身を離したの頬は、涙で濡れていた。


「女子であるこの身がこれ程までに恨めしいと思ったことはない・・・。
そなたと出会い・・・私は自分が女子である事を心から喜んでいたというのに・・・。」


政宗はの頬に伝う涙をその唇でなぞる様に拭った。
そして彼女の濡れた長く美しいまつ毛に口付けた。

政宗は立ち上がり、彼女に背を向ける。
はその背中を見上げて哀しく微笑んだ。


「そなたの天下・・・遠くから祈っている・・・・。」
「HA!当たり前だろ?俺は竜だ、この国は俺が食らう。」

室内へ入ってきたときと同じように、彼は音を立てずに襖を開けた。
そして薄暗い部屋の中央に座っているに背を向けたまま、呟く。


「Good bye.my princess.俺は心底アンタに惚れてたぜ・・・。幸せになりな!」


(終わり)



後書き
悲恋かよ!しかも微エロ要素ないし!
と言うツッコミはなしで。
最初は「俺以外見るな」の方向で考えてたんですが、
何かありがち過ぎる気がしてこねくり回してたらこうなりました(苦笑)
しかも後半行き詰ってしまった・・・。短すぎる・・・。
やっぱ駄目かな・・・これ・・・。
ではではここまで読んで下さったお客様、誠に有り難うございます。
失礼致します


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