雲。
もし例えるなら猿飛佐助と言う男はそれが1番しっくり来る。
目にはハッキリ見えるのに、それは絶対そこに存在しているのに、
触れようとすると絶対に触れられずに捕まえる事も出来ない。
意を決して体当たりなんてしようものなら、
こっちはずぶ濡れのしっぺ返しを食らうのに、相手は無傷。
まさに掴み所がない。
佐助、キミはいつも言ってるね、
『やっかいな相手に惚れちまったなぁ。』
と。
だけど、それはこっちの台詞。
振り回されて、我慢できずに降参するのはいつも私で。
いつも、私ばかりが大きな気持ちを抱えてるみたいで、腹が立つ。
【未だ果てを知らず】
猫の爪の様に細く、鋭い月夜。
湯煙を上げる湯船にゆらゆらと映りこむ月が眩しい。
戦が終わって、今日も生き残れたことを実感する。
今日が終われば、明日が来る、と実感できる。
温泉は久し振りだった。
私は月を見上げたまま大きく息を吐いて、そのままぶくぶくとお湯に身を沈める。
と、不意にフッと人の気配を感じた。
私は素早く顔を上げ、手の届く所にあった愛用の武器に手をかける。
「あらら、ここって混浴だったんだな。」
「・・・・・・・・・・・・なっ・・・!?」
緊張感のないその声の主に、私は一瞬絶句した。
月を背に、こっちを見下ろしている佐助の姿に。
「なんっ・・・!どっ・・・・!!!」
「はいはい、落ち着いて、落ち着いて。」
言いながら、佐助はそのままざぶざぶとお湯に入って来る。
私は慌てて手元の布を引っつかみ、
それで隠せる部分をどうにか隠して佐助の傍から遠ざかる為に奥へ後退りした。
因みに、当たり前だが佐助は腰に布を巻いている。
私はそれにある意味でホッとした。
だけど。
「ちょっ・・・はっ入って来ないでよ!普通はここで戻るのが礼儀でしょう!?」
「んーそうは言ってもさ、今日随分冷え込んじゃったしねぇ。芯から冷えちまってんだわ。」
「だからって・・・・・・こら!!こっちに来るな!!!」
湯船に入ってくるだけでも慌てている私に対し、そのまま逃げる私を真っ直ぐ追う佐助。
お湯の中だから、思うように素早く動けない。
手も足も、動きがやけに鈍かった。
「今更逃げる事もないと思うんだけどなァ。」
ニヤリ。
笑みを浮かべて佐助が私を見下ろして言った。
早くももう、後がない。
岩が高く積み上げられていて、後ろへ下がる事が出来ない。
「佐助!これだけ広いんだから向こうに行きなさいよ!」
「ま、そう言いなさんなって。どうせ誰も見ちゃいないんだからさ。」
「そう言う問題じゃない!」
私は後ろへ下がる事を諦めて、スイ、と、横へ移動する。
その拍子に布がお湯の中をふよふよと泳いで、捲れた部分から肌が晒された。
「っあっ!」
「ねぇ、ねぇ、、あんたさ、それ、隠してるつもりなのかもしんないけど・・・・。」
そこまで言って、言葉を切った佐助の唇が、唐突に私の耳元に寄せられる。
吹きかけられる吐息に、ぞくり、として身を震わせていると、更に彼が続けた。
「逆にそういうのが火に油を注いでるって、知ってた?」
「!!」
その台詞とほとんど同時に、佐助の片手が私の方に伸ばされる。
咄嗟に身構えたところで、その手が私の布の端を掴んだ。
「っ佐助!?」
私はお湯の中で半分身を屈めて、『万が一』に備える。
月明かりに照らされた佐助の山吹色の髪が、きらきらと輝いて見えた。
そんな時だって言うのに、私は思わずそちらに気を取られてしまった。
それを見た佐助の口角がまたも嬉しそうに上がる。
「いやいや、わざわざ隙を見せてくれちゃうなんて有り難いねぇ。」
グッ
と、掴まれていた布が引っ張られ、私はその瞬間に体勢を崩した。
「っちょっ!」
ぱしゃん。お湯が跳ねる音と直に触れる佐助の肌。
前のめりに倒れこむところを、待ってましたとばかりに佐助の腕が私を受け止めた。
殆ど裸同然のまま、抱きすくめられる。
それだけじゃなく、濡れた身体同士が重なり合うと言うことに、やけに生々しさを感じた。
今お湯に入ってきたばかりの佐助の身体は、まだどこかひんやりと冷たい。
「こら!離せ!佐助っ!」
焦りまくる私をよそに、佐助の掌が濡れた私の背中をなぞる様に移動する。
必死で抵抗して手足を動かそうにも、
既に身体がピッタリ糊付けされたように密着していてどうにもならない状態だった。
「、そんなに暴れなさんなって・・・、ちょっと元気を補給してるだけだろ?」
「何をっ・・・・・」
「俺もあんたもお仕事お疲れ様ってね。
明日からまた頑張る為にも、少しだけ我慢してくんないかなー?」
「・・・・・・・・・・・え?」
その台詞に、ようやく私は暴れる動きを止めた。
不意に佐助が私の身体に腕を回したまま、自分の額を私の肩に乗せるように押し付けた。
そして小さくクスリ、と、笑う。
「素直に嬉しいんだぜ、こうしてまた、あんたを腕に抱く事が出来る時間があるってことがさ。
今回のお仕事、結構なもんだったからねぇ。俺様とした事が、結構参っちまってたりして。」
肩にある佐助の頭で、私は首を動かす事は出来なかった。
視線だけを、さっきと同じように微かな月明かりでキラキラ光る山吹色の髪に向ける。
片手をゆっくりと上げて、その軟からかな髪に軽く触れた。
「佐・・・・・・。」
「なーんてね、俺がそういう弱音吐いたらの身体で慰めてくれちまったりする?」
首を少しだけ捻るようにして私の方を向いた佐助が、ニンマリ笑って言った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なっ・・・・・!!!!」
「丁度いい感じに2人とも裸だし、ここは自然な流れだと思うんだけどなァ。どうよ?」
「どこが!!どこが自然なのよ!?」
「、そんなこと言ってるけど、あんたの体、火照って来てるんじゃないか?
これって湯あたりしてんのとはちょっと違うよねぇ?」
掌で私の背中から腰にかけてをゆっくりと撫で下ろす佐助。
それに反応して私はビクッと身を跳ねさせて、お湯がまた、ぱしゃん、と、音をたてて砕けた。
「佐助っ!やめっ・・・・・・!」
「、分けてくれよ、あんたのその有り余る元気を俺に、さ。」
「こら!ホントにいい加減にっ・・・・!」
さっきまでひんやりと冷たかった佐助の肌はいつの間にか私のものと同じ位熱を持っている。
湯気と私の汗で濡れた佐助の手が、私の頬を撫でて移動し、そのまま顔を上向かせた。
「素直じゃないったらねぇ、。俺もやっかいな相手に惚れちまったなぁ」
そう言って苦笑する佐助の顔には、どう見ても余裕が含まれていた。
悔しさで思わず私の視線が強さを増した。
その途端に、佐助の唇が、私の唇スレスレまでスッと降りてくる。
「ま、その顔見たくて、ついついこう言う事やっちまう俺も悪いんだけど?
あんまり色っぽいからもっと見てたくなっちゃう訳よ。でも、今回はそろそろ限界だわ。」
言い終わってすぐ、佐助はその唇で私の唇を塞いだ。
立ち上る湯気で、濡れた肌が重なる身体で、むせる様な熱を感じる。
抵抗する気力なんか、もう残ってなかった。
口内を貪られながら、佐助の髪に手を触れて撫ぜる。
胸が押し潰されそうな切ない何かが込み上げてきた。
「佐助・・・、ホントに湯あたりしたかもしれないわ・・・・・・・。」
「ん?ちょっと調子に乗りすぎちまったか?了解、了解っと。」
フッ
と、佐助は一瞬にして私を腕に抱いたまま、脱衣所まで移動した。
殆ど縋りつくみたいに佐助に寄りかかる私に、その腕の力が少しだけ緩む。
「気持ちが大きくなり過ぎて、制御が利かないなんて・・・、
やれやれ、ザマねぇな。俺様としたことが。」
独り言。
それに近い位の小さな声で佐助が言った。
思わず私の唇に微笑が浮かぶ。
雲。
その端を、ほんの少しだけ、掴めた気がする。
佐助、キミと言う男の心を、少しだけ覗いた気が。
(終わり)
------------------------後書き------------------------------
まずは、瑞穂様・・・・・・・・・・・申し訳ありません!!!!!!
遅くなった上、リクエスト頂いた『余裕たっぷりの佐助』ではなく『余裕ちょっぴりの佐助』
になってしまいました事、深くお詫び申し上げます!!しかも少しずつ書け上げたので、辻褄が合ってない・・・。
ですが、これだけは、瑞穂様に対する感謝の気持ちだけはてんこ盛りです。
そしてこんな物で申し訳ありませんが、瑞穂様に献上させて頂きます。
煮るなり焼くなり炒めるなりしてやって下さい。
毎回温かいお心遣いを誠に有り難うございます。どうかこれからも宜しくお願い致します。
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