--第1話 それは去年の冬の寒い日--
「さぶっ!あー、マジでこりゃ内臓まで冷えちまいそうだわ。」
「臓物までってか、死人だな、それ。」
冬。
空は雲で白くなり、周りの空気はキンキンに冷えている。
手と足の感覚が痺れてなくなりそうな寒さ。
吐く息は冷え切った空気にすぐに溶ける事もなく、白くなって少しの間その辺を漂って消えていく。
あたしは真っ赤になった自分の指先に、ハァっとお決まりに息を吹きかけた。
生温かい自分のそれで、ほんの少しだけ、
しかもほんの一瞬だけ、寒さにかじかんだ手の痺れが和らぐ。
「・・・去年でカイロ使い切っちゃったからな・・・。」
ボソリ、と、隣の佐助に聞かせるでもなくあたしは呟いた。
「かいろ?ああ、あんたが冬中持ってたあれか。確かに便利だよねぇ。
俺も随分お世話になっちまったしな。」
「何!?やけに減りが早いと思ったら佐助!アンタの仕業か!!」
「あはは、何、、ホントに気付いてなかったの?いやー、しかしあれは助かったわ。
特に長時間身を潜めてなきゃなんないお仕事の時なんか大助かりだったぜ。」
あっけらかんとして佐助が笑う。
あたしはその佐助の頭に拳をぐりぐりと押し付けてやった。
因みに、特別引きつった笑いのおまけつきで、だ。
「ハッハッハ!佐助ちゃんてばいけないコォォ!!」
「あだだだだ!!!少しは手加減しろって!」
言って、佐助はシュッと突然に姿を消し、あっと言う間にあたしの背後に現れる。
あたしが振り向こうとした瞬間に、背中から左右に腕が伸びてきた。
気付いた時には佐助に後ろから抱きすくめられている状態だった。
「佐助・・・!?」
「“人間かいろ”になってやろうと思ってね。ど?温かいだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・何かこれ、意味違うだろ。」
「ま、堅い事はいいっこないしってね。お互い温かいんだからそれでいいでしょ。」
相変わらず訳の分かんない男だ。
いつもこんな、何か理由をつけてはあたしにひっついてくるくせに、
絶対その先に進んだりしない。
先に進む言葉は口にしやがらない。
佐助はいつも、ズルイ男だ。
いつだって佐助は、あたしとの間に、見えない壁を、おっ立てている。
「そう言や、丁度去年の今頃だったねぇ、あんたがここに来たのはさ。」
「・・・・・・・・・んー、そうそう。・・・・・・あれから1年・・・か・・・・・・・・・何だかなー・・・・・・・・・・・。」
去年の冬の特別に寒かったあの日に、あたしはここに飛ばされた。
しかも、住んでたアパートごと。
つっても、あのアパートは祖父ちゃんの趣味で買ったものの1部で、住人はあたしだけだった。
飛ばされた人間があたしだけだったってのは、ある意味で不幸中の幸いだったんじゃないかと思う。
それから、飛ばされたのがここだったってのも。
あたしがアパートごとここへ飛ばされたあの時、最初に出会ったのは佐助だった。
あまりに突然現れた怪しい建物を、偵察してくるように言われたんだと後から佐助に聞いた。
『ったく、参ったぜ。いくらお館様の命令とは言え、俺本気で食われると思っちまったもんなー。』
佐助は苦笑してそうも言っていた。
1年前の、冬。
「・・・・・・・・・・・・・・・・おいこら、佐助!」
「ん?何、。」
「何、じゃない!どさぐさに紛れてどこ触ってんだ!?どこを!?」
「いやー女の子ってのはやっぱ気持ちいいわ。うんうん。」
ついさっきまでただ身体に回されていただけの佐助の腕が徐々にずらされて、
手があたしの胸元ギリギリを彷徨っている。
あたしはすかさず肘鉄をくらわしてやった。
ドゴッ・・・
「あだっ!!!!」
「天誅!!エロ忍!!!」
肘鉄は見事に的中。
だけど佐助はしぶとく離れやがらない。
佐助の吐いた白い息が、後ろからあたしの方に流れてきて、あたしが息を吸い込んだ拍子に消えた。
その一瞬に、あたしは思わず動きを止める。
本人は気付いちゃいないだろうけど、キスをされたみたいな気分になった。
「あらら、珍しいね、これ以上お咎めなし?」
「煩い、エロ忍。“人間カイロ”ならもう少し発火しろ、発火。寒い。ただし、無駄な動き一切なしで!!」
「うわー、それ男にとって我慢大会みたいなもんだって知ってる?」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「あー、はいはい。仰る通りに致しますよ。」
さっきよりまた少し、佐助の腕に力がこもった。
熱が、上がる。
お互いの体温が、重なる。
去年の冬の寒かったあの日、初めて会った時の警戒心たっぷりの佐助の顔。
あの頃の佐助の心の壁は、ベルリンの壁よりも長くて高くて、
そしてダイヤモンドより固いものに見えた。
今もある、あたしと佐助の間におっ立っているあの壁は、
あの時より、少しは低く、脆くなっているのだろうか?
あの時より。
あの時。
それは去年の冬の寒い日。
(終わり)
---------アトガキ----------------------------
とうとう佐助の異世界トリップにまで手を出してしまいました!
ですが、これはあくまでプチ連載。なので今回位の長さで、
連載数もあまり長くはならない予定。予定、・・・のはずで(苦笑)
しかもヒロイン今までと違う方向性で柄悪し。
では、今回もここまでのお付き合い、誠に有り難うございます。
失礼致します。
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