戦。
現代で言う、戦争ってヤツだ。
奪い、憎み、壊し、殺す。
忠義、名誉、野心、策略。
あたしの思う戦争のイメージ。
ううん、思ってた、戦の、イメージ。
現実は多分、それよりも悲惨だ。
今も完全に理解しちゃいない。
切れ端位しか、分かっちゃいないんだと思う。
そう、分かったつもりでいても、
戦の度にとばっちりを受けているお百姓たちとか、
文字通り命懸けで戦ってる佐助たちとか。
彼らの、万分の一も、理解してはいなんだろう。
--第3話 死ぬ気?--
この1年で何度戦が起きたかなんて、数えてたら切りがなかった。
引っ切り無し。
そんな感じ。
それでも佐助は城内に居れば大抵どんな時でもあたしに会いに来た。
と言うより、戦後は、何が何でもあたしに会う、と、決めているみたいだった。
そしてその日も。
その日の夜も、それだった。
先に言わせて貰えば、あたしは『エロ忍』の佐助が嫌いだ。
何故なら、=『ズルイ男』だから。
だけど、『忍び』の佐助は、もっと、もっと、もーーーーーーっと、嫌いだ。
それは、彼が戦で沢山の人を手にかけているとか、そう言う理由ではなくて。
とにかく、先に言いたかったのはそれだけ。
深夜。
あたしはアパートの自分の部屋で眠ってた。
ごくたまに宴に招かれて城内で徹夜をする事もあるけど、あたしは大体ここで寝泊りしてる。
何だかんだ言いつつも、やっぱここが落ち着くと言うのがその理由。
未だにごく1部の人間を除いてはここに近寄る人は少ない。
ある意味、『化け物屋敷』的扱いだ。
しかも佐助の奴がそれを面白がって恐怖心を煽る様な事を吹聴してるらしい。
ま、こっちとしては変に興味もって上がりこまれるよりはいいけど。
ピンポーン・・・
その夜はチャイムが鳴った。
いつもなら、人のことお構いなしに不法侵入しやがるはずの佐助が、チャイムを鳴らした。
明らかにおかしい。
その時にすぐそう気付くべきだったんだと思う。
ホント、今更ながらそう思う。
だけどその時は、二月近くも戦で城を空けてた佐助が久々に戻って来た、
と言う事にあたしは気を取られすぎていた。
「佐助!」
バンッ!!
ドアを突き破る勢いで、あたしはアイツを迎える。
佐助はいつもと全く変わらない顔つきでそこに立っていた。
完璧。
そりゃもう、見事な演技だった。
完全無欠、パーフェクト。
今思い出しても、マジでムカつく程に。
違う、あれはムカつくとかそう言う低レベルな問題じゃない、絶対に。
「よ、熱烈な歓迎だねぇ。俺もここに直行した甲斐があったわ。」
「直行!?じゃあホントに今帰って来たばっか?」
「そ。真田の旦那達も今回ばっかはバテバテみたいだな。」
「・・・そっか・・・。あ、上がりなよ。」
言って、あたしは佐助に背中を向けた。
「・・・。」
「え?」
振り返った瞬間に、佐助があたしを抱きすくめる。
いつもと同じに。
だけど、いつもと全く違う声音で佐助はあたしの名を呼んだ。
「・・・。」
吹きかかる吐息。
低い、声。
いつもよりずっと、耳に、響く、声。
そこでやっとあたしは気付いた。
佐助があたしに引っ付いてくんのは今に始まったことじゃなくて、
戦の後に何が何でもあたしに会いに来てくれんのも今に始まったことじゃない。
だけどどっかおかしい。
今日の佐助は、いつもの佐助じゃない。
「・・・佐助、何かあっただろ?」
言って、ムチャクチャに後悔した。
戦から戻ってきたばっかの人間に訊く台詞じゃない。
訊いていい台詞じゃない。
だけど佐助は、あたしの言いたいことを分かってくれたようだった。
「いつもより、ちと疲れちまった・・・かな。」
「・・・・・・・佐助・・・・・・・・。」
佐助の腕に、力がこもる。
おかしい、何かあったんだ・・・きっと・・・。
「・・・・。」
「っ!?」
その瞬間、予感は、確信に変わった。
佐助があたしにキスをしようとしたから。
そんなことは、今まで絶対にあり得なかった事だ。
どんなにあたしの体に触れようが、エロ発言持ち出そうが、先へ進むことをしなかった佐助。
佐助とあたしの間におっ立っているあの壁は、まだ、そんなに低くはなってない。
それは、何よりあたし自身がよく知ってる。
戦。
戦につきものなのは死人、それから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その一瞬に、あたしの頭は妙に回転が良くなった。
違う、寧ろもっと早く気付くべきだったんだけど。
咄嗟に弾かれたみたいにあたしは佐助の腕を振りほどく。
そして、あたしは驚く佐助の迷彩柄の服の袖から、無理矢理ガッと脇腹まで、手を入れた。
ぬるり。
掌に生温かい感触。
袖から抜いたあたしの手。
真っ赤に濡れてる。
間違いない、血だ、佐助の。
あたしの目の前にある佐助の顔が、その時初めて苦しそうに歪んだ。
「へっ、バレちまったか。俺様としたことが、ザマねぇな。」
「・・・・・・っ・・・・・・っっ待ってろ!!!!このクソッ垂れ忍者!!!!!!!」
瞬間、忍びの佐助にも負けない位の素早さで、あたしはアパートを飛び出した。
その後佐助は迎えに来た幸村に城へ連れて行かれ、すぐに医者に看てもらうことになった。
あたしはと言えば、1人、腸が煮えくりかえる思いだった。
佐助に、じゃなくて。
そう、あたしに。
正しく言えば、多分、どっちにも。
結局佐助の傷はかなり深くて、それから1週間近く会わせてもらえなかった。
それはどうやら幸村も一緒だったらしく、面会出来たのは信玄さんだけだった。
今現在。
つまり、今日、あたしはやっと、佐助と会うことを許された。
で、今、そこで、佐助の奴が布団からあたしを見てる。
「よ、またまたお久し振りだねぇ、。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「あらら、・・・えーっと、やっぱ怒ってる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
あたしは無言で、つかつかアイツのすぐ傍まで近寄った。
ギュゥっと、片手に拳を握る。
今すぐ、こいつの頭を潰れたトマトみたいにしてやりたい。
そして多分、佐助は絶対この拳を避けない。
あたしは、それを思いッきり振り上げた。
ブンッ。
いつもの数十倍は勢いよく、空を切るあたしの拳。
そのまま、振り下ろして、・・・・・・・・・・・・・・・・・佐助の鼻っぱしらに触れるギリギリで、止めた。
「・・・。」
「クソ忍、どう言うつもりで・・・あたしのとこに来た!?
何で、さっさと傷の手当てしなかった訳!?答えろ!!馬鹿!!!!!」
佐助の鼻先で、あたしの拳が震えた。
アイツの目が、あたしをじっと見つめる。
「このままじゃヤベーと思っちまった瞬間に、あんたに会うことしか頭になくなった。
んで、気付いたらああなってたってわけだ。」
「・・・・・・・何で・・・・・・そんなの・・・・・・・・っ・・・・!そんなの全然嬉しくない!!!!
ホント、全く嬉しくないぞ!!クソ忍!!あたし・・・っ・・・・・・・・・・・」
そこまで言って、カクン、と、畳に膝をついた。
「あたしは・・・・・・・・・・・そんな佐助は嫌いだ!!!!!
忍びとして死を潔く受け入れる佐助なんか、大ッ嫌い!!!!」
違う。
あたしが言いたいのはこんな言葉じゃなくて。
「参るねぇ、それ、今までに言われた台詞の中じゃ1番痛いわ。」
苦笑染みた表情で佐助が言った。
そして、ほとんど強引にあたしを自分の布団の中へ抱き込む。
「反省してるからさ、久々に抱かせてくんない?」
「・・・言い方がエロいんだよ・・・・馬鹿・・・・。」
涙声。
それに近い状態であたしは答えた。
佐助の脇腹をよけて、自分からアイツの体に腕を回す。
布団の中にこもっている、佐助の体温。
すぐ傍で聞こえる、佐助の吐息。
トクトクトクトク・・・・
ムカつく位、あたしのものよりずっと規則正しい、佐助の鼓動の音。
トクトクトクトクトク・・・・
そのまんま、あたしはいつの間にか、眠ってしまっていた。
後日。
廊下を歩いていたあたしの背中に、いつものようにどこからともなく佐助が湧き出て、
しかも抱きついてきた。
つーか、これじゃ変態行為以外のなにもんでもない。
「おい、こら!エロ忍!!離れろ!!」
「まぁまぁ、俺とあんたの挨拶みたいなもんじゃない?」
「・・・・・・・・・ざけんな!」
あたしのドスのきいた声が面白いほどよく響いた。
それでも佐助は一向にあたしを放す気配がない。
マジでざけんな、エロ忍。
「は布団の中でも抱き心地いいからねぇ。クセになりそうな位だぜ。」
「・・・・・・・・・・おい。」
「でさ、俺としてはあの気持ち良さが忘れらんないんだけど。
今度俺がそっちに泊まりに行ってみたりとか、よくない?」
「絶っっっっ対良くないし!!!!!!!!!!!」
この痴漢野郎!!!
と、ここであたしは深呼吸する。
落ち着け、あたし。
まずは確認しろ。
「佐助君、聞いていいかね?」
「はいはい?」
「傷はどうだって?」
「ああ、おかげさまで。あれしきの傷でくたばる俺じゃないってねぇ。」
「ほぉーーーーーーーーーそうかい、そうかい。」
それだけ確認すれば充分だ。
と、気を抜いていたその時だった。
あたしの太腿辺りに、佐助が掌を滑らせる。
「あらら、今日はあのひらひらしたヤツじゃないんだ?滅多に着てないよねぇ、あれ。
俺は結構好きなんだけど。」
「こ・・・・・・・・んのぉぉ!!!!ど助平エロ忍者ぁぁ!!!」
ドゴスッッ・・・・・・・・・!
あたしの鉄拳が何とも言えない音と一緒に見事に佐助の腹部を直撃する。
一応、脇腹の部分は避けた、つもり。
「あんたねぇ、俺これでも重症だった人間よ?」
「問答無用!!!!!!佐助!!お命頂戴つかまつる!!!!!」
「うっわ!!、マジ勘弁!」
戦。
ここが戦国である限り、絶える事は決してない。
佐助が、忍びである限り、彼は命がけでこの武田軍を、信玄さんを守る。
戦争のせの字もまともに体験したことのないあたし。
日々戦場で戦い続ける佐助。
切れ端ほどしか理解できもしないけど。
それでも・・・・・・・・・・・・・・・、
あんたと一緒にここで日常の馬鹿馬鹿しすぎる風景を繰り広げることが出来る大切さは知ってる。
明日も、明後日も、明々後日も、その次も、そのずっと先も。
続けさせて、佐助。
続けよう、一緒に。
(終わり)
---------アトガキ----------------------------
長かったですね。どこが短めなんだろう。でも予定と言って逃げておいて良かった(苦笑)
オチのスチャラカ野郎佐助以外は殆どシリアスでした。とりあえず最後はいつも通り。
このプチ連載のスチャラカ佐助は思ったより気に入って下さる方がいらっしゃって有難いです。
これからもチマチマ頑張ります!では、ここまでのお付き合い、誠に有り難うございました!
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