城内が慌しい。
ここのところずっとそうだ。
そしてそれが何の前触れなのか、あたしはもう良く分かっていた。
それでも。
アイツの口から聞いてしまうと、あたしはいつでも同じ反応を起こす。
そして、毎回同じくらい、ショックを受けてしまう。
きっとこの先、慣れることなんかないと思う。

この先。


ねぇ佐助、色んな不安が多くて、多くて、多すぎて。
あたしは、時々本気で窒息してしまいそうになる。

佐助、佐助。
あんたは今、名前を呼べば文字通りすぐに来てくれるけど、
もしこないだの戦帰りみたいな傷を負ってるあんたを見たら、
もしあたしがあんたの帰りも待たずに現代に帰る事になったら、
そんなことばっか考える。

らしくない。
マジで。


矛盾。
抱きつき魔で痴漢野郎のエロ忍は大嫌い。
だけど、あたしに触れて、答えてくれるあんたの事はムカつく位大好きで。


もう自分でも収集がつかない。
ホント、マジで、ムカつく男だ、猿飛佐助。




--第5話 いいかよく聞け--




「此度の戦こそお館様のご上洛に関わる大事な一戦にござる!!
この幸村、存分に働く所存!!!!そなたらの力もとくと見せ付けてやるでござる!!」


オオオオオオオオオオ!!


赤い鎧と赤いハチマキ。
全身真っ赤の幸村が暑苦しさ満点にそう怒鳴った。
自分の部下達に渇を入れるつもりで叫んでるんだろうけど、
正直、迷惑。
仕方ないけど、この時代の人間だし、奴はああ言う性格だし、
けど現代人として思ってしまう訳だ。


戦に喜び勇んで行くんじゃねぇよ。


と。
単に今、あたしの気持ちがヤサグレているから、と言うのもあるけど。


「やーれやれ・・・真田の旦那、張り切っちゃって、まぁ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

あたしの隣、相変わらず唐突に佐助が現れて呆れた声で言った。
あたしは無言で視線だけをアイツに向ける。
それに気付いた佐助が片腕を伸ばしてあたしの腰に腕を回した。

「・・・おい、エロ忍、この手は何だ?この手は?」
「はいはいっと、毎度の事だろ?気にすんなって。
、それよりちょっと俺に付き合って貰うぜ。」


え?
と、あたしが言うよりも早く、アイツはあたしを腕に抱いたまま、
例のシュッ、と消えて瞬間移動すると言う忍び技をやってのけた。
で、気付けばあたし達は今、当たり前みたいに木の上に居る。
そこは武田の邸の敷地内にある、結構見晴らしのいい巨木の上。

「・・・何?佐助、急に・・・。」

言いながら、本当は分かってた。
佐助がこれからあたしに話そうとする内容。
そんなもん、この状況でひとつしかある訳ないから。

「・・・戦のこと、ずっと言い出せなくて悪かったな。
あんたにはもっと早く言うべきだとは思ってたんだけど、これがなかなか言い出せなくてさ。」

予想通りの佐助の台詞。
戦が始まる。
しかも、あたしが考えてるものとはきっと比べものになんない位の大きさの。
そんなのとっくに分かってたし、知ってた。
だけど、いつものことではあるけど、佐助の口から聞くと、
あたしの頭は必ずと言っていいほど芯から冷たくなって、
そしてすぐにグルグルとパニくりだす。

、そんな顔してくれんなよ。」
「何だよ?そんな顔って・・・?」
「泣きそうな顔ってヤツ?」
「・・・・誰が!」


嫌いだ、コイツのこういう鋭いところ。
こんな風に言われたら、図星さされたら、もっと泣きたくなるじゃないか。


ムカつく、マジでムカつくよ、佐助。


思わず唇を噛んで、佐助のヤツから目を逸らす。
それからあたしは空を見上げながらまた口を開いた。

「・・・・で、どの位お城空けるの・・・・?」
「ん?ま、ハッキリした事は言えねぇけど・・・多分1ヶ月以上にはなるだろうな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そ・・・。」

一文字。
それで返事をするのが精一杯だった。
出発直前に何聞いたって意味もない。
そんなこと、分かってる。

。」

あたしの名前を呼んだ佐助が、またいつものようにあたしを抱きしめてきた。
あたしは抵抗もせず、ただ、大人しくその腕に収まる。

「抱き溜めしとかないとね、この感触、忘れたら俺生きていけそうにないわ。」
「・・・馬鹿じゃないの。」
「へっ、そんなこと言っちゃって、あんたも素直じゃねぇな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


いつも、こうだ。
肝心なときに、意地を張ってしまう。
つくづく可愛くない奴だ。
あたしって奴は。

「佐助。」

名前を呼んで、あたしからも佐助の迷彩服の背中に腕を回した。
クス。
いつもように佐助が小さく笑う。
強く、抱きしめる。
回された腕、回した腕。
締め付けられているのは、身体なのか、
それとも、心なのか。
あたし自身、もう分からなかった。

、俺はこの乱世に生まれてこれが当然だって諦めちまってたけど、
あんたに会って初めて恨んだぜ、自分の境遇を。
何であんたと同じ時代に生まれてこなかったのか、なんてさ。
・・・ったく、参ったねぇ、らしくなさ過ぎて哂っちまう。」

佐助がどんな顔をしてそう言ってくれたのか、あたしからは見えない。
だけど、あたしも同じだった。
佐助と同じ気持ちだった。



「さーてそろそろ時間だな。・・・、戻るぜ。」

お互い殆ど無言でいつの間にか時間が過ぎていた。

「・・・佐助。」
「ん?」

アイツが返事をした所で、
あたしは片手でアイツの胸倉を掴んでグイと思い切り引き寄せた。
不意を突かれた佐助は一瞬驚いたような顔をして、あたしを見る。

?」

あたしは一度、スゥーっと、肺一杯に大きく息を吸い込んだ。

「いいかよく聞け、佐助!あたしはあんたが何処でどんなにデカイ戦繰り広げてようと、
あんたの帰りをずっと、ずーーーっと待ってやる!だから・・・・・だから・・・・!!!」

そこまで言って、あたしは一度、言葉を切った。
これだけ言うのにだって本当は凄く勇気が要ったわけだけど。


「絶対、ここに、必ずあたしの傍に戻って来て・・・・・・!」


「・・・・・・。」

目の前にある佐助の顔が、あたしの名前を呼んだ後、ふっ、と、笑顔に変わる。


「あんたの口からそこまで言われちゃ、俺も頑張るしかないか。
俺はあんたがここに居る限り、ここに戻って来るぜ、どんなことがあろうとな。」


言い終えて、佐助があたしの頬に唇を寄せた。
初めての、キス。
唇でなくても、あたしにはもう十分だった。


本当は、約束なんて、果たせるかどうかも分からないのは、あたしの方だ。
何の前触れもなくこの時代に飛ばされて、そして今こうして暮らしてる。
だけど、いつまた、何の前触れもなく現代に戻るかなんて、あたしにだって分からない。

それが不安で堪らなくて。

それはきっと、佐助にも分かっていたのだと思う。


それでも。


言わずにいられなかった、あたし。
答えてくれた、佐助。

神様、ここにもし貴方が居るんだとしたら、
せめて佐助が戻るまで、この戦国時代にあたしを居させて。


神頼み。
始めてその時、真剣にあたしは祈った。


(終わり)



---------アトガキ----------------------------
本当は「よしよし」番外編で佐助視点を書くつもりでしたが、
父のディフェンス中にネタを忘れてしまいました(涙)しかも久々更新。
おかげで佐助の性格とか口調とか忘れてて(大涙)
ここまでお付き合い下さった方、本当に有難う御座いました。失礼します。


ブラウザバック推奨