明日、佐助は帰ってくるかもしれない。
今日、あたしはここから消えるかもしれない。
一ヶ月は、とうに過ぎた。
佐助、佐助。
口に出して呼んでも、あんたは現れない。
城内は、信玄さんと幸村の暑苦しいやり取りもなく、
嫌になる位、静かだ。
佐助が傷を負って戻ってきたあの時。
あの時は、2ヶ月、帰って来なかったっけ。
なんて、ふと考えてみた。
心臓に、毎日、少しずつ圧迫感が増えていく。
不安が、小さな黒い染みが点々と出来て、繋がって大きくなる。
そして今日も、佐助の居ない、一日が始まるんだ。
--第6話 やっぱり不安は消えないし--
「よ、、元気にしてた?」
「・・・・・・・・・・・・・!!!!?????」
早朝。
この戦国時代で、すっかり早起きが板についたあたし。
いつも通りに目を覚まして、顔を洗って、洋服を着替えようとパジャマを脱いだ。
奴がいつも以上に唐突に現れたのは、その、途端だった。
「はぁー参ったぜ、俺様今回ばっかはマジで焦っちまったもんな。
久し振りだしさ、ちょっとあんたの身体抱かせてくれよ、。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
石化状態のあたし。
状況理解に、時間を要する事、数十秒。
既にその時あたしはアイツの腕の中。
「佐助!!??何であんたが!!って離せ!!離しやがれ!!この痴漢!!!」
「まぁまぁ、感動の再会ってヤツだろ?あー、ヤバイ、久々すぎて俺イクかも。」
「ばっ・・・!!!このエロ忍!!!助平!!痴漢!!」
感動の再会も何もあったもんじゃない。
こっちは着替え中で、しかも上半身下着姿だ。
明らかに、狙って来たとしか思えない。
と言うか、この抱きつき魔エロ忍野郎は絶対狙って来たに違いない。
とにかく力の限り抵抗しまくるあたし。
「暴れるなって、あんただって寂しかったんでしょうが。
素直になれよ、こんな時くらい。」
「それとこれとは話が別だ!!離しやがれ!!!ギャァァァ!!」
「・・・・俺は、本気で嬉しいんだけどね。こうしてあんたに再会できたことが、さ。」
ピタリ。
と、思わずあたしは動きを止めた。
佐助の声が、真剣すぎて。
いつ会っても、ムカつく男だ。
ズルイ、卑怯な、男。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたしは・・・・・・・・。」
約束。
不意に、戦に出る前の佐助との会話を思い出した。
不安で、不安で、不安で堪らなかったあの時の。
―あたしはあんたが何処でどんなにデカイ戦繰り広げてようと、
あんたの帰りをずっと、ずーーーっと待ってやる!だから・・・・・だから・・・・!!!
絶対、ここに、必ずあたしの傍に戻って来て・・・・・・!
―俺はあんたがここに居る限り、ここに戻って来るぜ、どんなことがあろうとな。
佐助との約束を、果たせるかどうかさえ、分からずにそれでも言わずにいられなくて。
あの時、あたしと佐助の気持ちは、確かに重なっていた。
「・・・・・・って!!何やってんだ!!??」
いつの間にか佐助の片手はあたしの胸元に置かれていた。
油断も隙もあったもんじゃない。
こっちが真面目に会話を受け止めている間に、
奴はその手をもぞもぞと動かそうとしている。
「いやー、って結構着やせする方だったんだな、俺思わずムラムラきちまったぜ。」
「馬鹿か!!犯罪行為に及ぶな!!離せ!!離せぇぇ!!!」
絶叫に近い声を出して、あたしはアイツの手を跳ね除けた。
だけど、身体に回されてる腕はどうやっても外れなくて。
「まぁまぁ、もうちょいこの感触味あわせてくれよ。」
殺意と共にエロ忍を殴り倒してやろうと思ったその瞬間。
ダンダンダンダンダン!!!!!!
凄い勢いで叩かれるアパートのドア。
それと一緒に聞きなれた声がする。
「殿〜!!!今帰ったでござるぞぉぉ!!!元気にしていたでござるか!?
お館様も心配しておられる!!どうか顔を見せて頂きたい!!!」
「あーらら、お迎えに来ちまったか、真田の旦那。」
「幸村!!」
ドズッ
ふっ、と、佐助の腕の力が緩んだ瞬間を狙って、あたしは素早く奴のみぞおちに一撃、食らわす。
「グハッ・・・!」
そりゃもう綺麗にボディに入ったあたしの拳。
あたしはさっさと佐助から離れて、用意していた洋服に急いで袖を通す。
そして玄関まで行って幸村を出迎えた。
「幸村!!」
「おお!殿!・・・む?佐助はもう来ていたで御座るか。何か呻き声が聞こえたようだが?」
「ああ、気にすんな、破廉恥行為を働いた輩を成敗しただけだからさ。」
「何と!!??」
あたしの言葉にボフンっと、爆発音と一緒に顔を真っ赤にする幸村。
何を想像したのか分からないけど、幸村の想像だ、佐助の馬鹿がした事よりは純粋だろう。
あたしはゲタ箱の上にあった鍵を掴むと、それをエロ忍に投げやる。
パシリ、と、奴が片手でそれを受け止めた。
「おーい、何で俺に鍵なんかくれちゃってんの?
あ、もしかしていつでも来て欲しいってお誘いの意味?」
「ハハハハハ!!!その冗談、すっげ笑える!!鍵、かけて来いって意味!!
あたしは幸村と信玄さんの所に行くから!!」
言って、あたしは幸村の腕を取るとそのまま歩き出す。
幸村は慌てながらもそれについて来た。
「殿!」
「ごめんね、幸村。あんた達が無事で心底嬉しいんだけど、あの馬鹿のせいで!」
「いや、それはいいのだが・・・。」
そこで不意に、幸村が真剣な目つきでジッとあたしを見つめる。
「幸村?」
「・・・佐助は元々あの様な性格な上、我が真田忍び隊の長故、
今まで拙者やお館様等限られた者としか極力関わろうとはしなかったでござる・・・。
だが今は・・・殿、恐らく佐助が最も心を許しているのは、そなたなのだと拙者は心得ている。」
「・・・・・・・・え?」
突然持ち出された話題。
驚いて、あたしは足を止めた。
それから真っ直ぐこっちを見ている幸村に視線を向ける。
「・・・実はあたし、よく分からない・・・。前よりずっと佐助と近くなれたとは思うけど、
でもやっぱりまだあたしとアイツの間には大きな壁があるみたいで・・・・。」
硬くて、高い、大きな心の壁。
幸村は少しだけあたしから目を逸らして、空を見た。
それからまた、口を開く。
「殿、その壁は恐らく無くなりはせぬ。」
その幸村の台詞は、やけに静かに、あたしの耳に響いた。
「幸村・・・それって・・・・・・・。」
「佐助が忍びである限り、そして乱世が続く限り、それは必要なのだ。
だが殿、誤解無き様頼む・・・。拙者が言いたいのは・・・・・・。」
言って、奴があたしに視線を戻す。
そしてまた、続けた。
「壁を壊す事のみが全てではない、と言う事でござる。」
「・・・え?」
「その壁には恐らく、扉もあろう。
そして佐助は無意識にその扉を開けてそなたを迎え入れている。
殿、そなたもまた無意識にその扉の中に足を踏み入れているでござる。
・・・無論、いつでも開け放たれている物でないことは確かであろうが。」
「ゆき・・・むら・・・。」
思わず、不覚にも、泣きそうになった。
暑っ苦しい、熱血の考えそうな臭い話。
だけど、それは、嫌になるほど、あたしの胸に、きた。
「話が長くなってしまったでござるな。早くせねばお館様をお待たせしてしまう。」
「あ・・・・・・・うん。・・・・・・・・・あのさ、幸村・・・・。」
「何でござるか?」
「・・・・・・・・有難う・・・・・・・・・・・。」
小さく、一言、口にしたお礼。
幸村はいつもとは別人みたいに穏やかに笑みを浮かべた。
「礼を述べられることなど、拙者は申したつもりはござらん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・幸村・・・・。」
ムカつくよ、真田源次郎幸村。
格好よすぎて、ホント、ムカつく。
あたしと幸村は、それからまた二人並んで歩き始めた。
ねぇ佐助、約束どおり、あんたはここに、あたしの傍に帰ってきてくれた。
だけどやっぱり不安は消えないし、逆に、大きくなるばっかり。
それでも。
今は、素直に喜びたい。
佐助が、帰って来てくれた。
幸村も、信玄さんも、無事で居てくれた。
あたしの神頼み、無駄じゃなかったんだと。
(終わり)
---------アトガキ----------------------------
佐助前半のみの登場。そして痴漢指数はパラレルより高い(苦笑)
今回はいつもちょい役過ぎる幸村に長めに登場して貰いました。
「ござる」使えばいいってもんじゃないな、と実感・・・。
このプチ連載は後1話(お題一気に2つ使用しそうな)か2話で終了予定です。
では、ここまでのお付き合い、誠に有難う御座いました。
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