ズドドドドドドド

早朝。
地響きと同時に爆走と言うに相応しい勢いで、遠距離から佐助目掛けて走り寄る人影がひとつ。
同時に佐助は片手を額に当て、天を仰いだ。

「あーあ・・・今朝もかよ・・・。さすがの俺様も参るぜ・・・。」
「ぬ?佐助!!何者かが凄い速さで接近しているでござる!
おおおおお、素晴らしい脚力!!俺も見習わねば!!」

佐助と共に通勤中の幸村が感嘆の声を上げる。
佐助は深い溜め息を吐き出し、掌の隙間から幸村に視線を向けた。

「おおーい、真田の旦那・・・人ごとだと思ってボケてんの?
最近毎朝見てるだろうよ、あのコの姿。陸上部の・・・・。」

 です!!おはようございます!!佐助先生!!真田先生!!」

タイミングを見計らっていた如く、彼らの側へ到着したその女生徒は、
満面の笑顔と共に佐助の言葉を引き継いだ。
瞬時、佐助は再び溜め息を漏らす。

「はいはい、おはようさん。さん今日もあんたは元気だねぇ・・・。
毎朝爆走の上自己紹介・・・先生嬉しくって泣いちまうぜ。」

うんざりした表情を浮かべ、半ば皮肉めいた口調で彼はそう口にした。
だが、は堪えた様子は微塵もみせず、更に笑顔を輝かせる。
どうやら彼女は彼の言葉から何の他意も見出すことなく、そのままの意味で捉えたらしい。
いや、寧ろの中でその台詞は彼女自身に都合のいいように大きく書き換えられた様子だった。

「そんなっ!!嬉しいなんて!!ああっ、佐助先生、やっぱり私の事・・・。」

ほうっ。
先程佐助の漏らした溜め息とは確実に違った意味の吐息を零し、は頬を赤く染めている。
更に厄介なことに、幸村までもがそれを真に受けていることだった。

「なっ!何と!?佐助、そなた・・・!教師の身でありながら生徒と、
ここここ恋仲とはっ・・・!は、破廉恥極まりないっ!」

幸村は本心から驚いた様子で、焦りと動揺を滲ませ、声を上ずらせて抗議を始める。

「こらこらこら!!真田の旦那!何を勘違いしてんの!?んな訳ないっしょ!?」
「んもー、佐助さんってば照れちゃって(はぁと)」

即座、佐助が慌てて否定するも、
は頬を染めたまま彼に寄り添いそう言葉を放った。
幸村は瞳を見開き硬直している。
数秒の後、彼は絶叫にも近い大声で佐助を非難した。

「!!!は、はれんちっ!!佐助ぇぇ!!破廉恥であるぞおぉっ!!」

その声は興奮の余り上ずるだけでなく裏返っている。

「冗談っ!!信じるなよ、真田の旦那!!さん、あんたも適当な事言わない!」
「適当なことなんか言ってません!佐助先生にはこの赤い糸が見えないの!? 」

言いざま、彼女はズズイと佐助の目前に自らの小指を差し出して見せた。
無論、赤い糸など見える筈もない。

「見えません!!つかあんたはいい加減、毎朝教師をからかうのやめろっつの。
俺様は確かにいい男だけど、教師だからさ、無理なんだって。」
「っ!!佐助先生・・・酷い、私とのことは遊びだったんですね!?
汚いっ・・・・大人って汚いですっ・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやいやいや、だからさぁ・・・。」

よよ、と泣き崩れるに対し、佐助は口元を引き攣らせる。
彼には毎朝猪のように自身の元に突進してくるこの女生徒の意図が全く掴めなかった。
よくある俗的に言う教師に憧れ、恋に落ちた女生徒と言うには、
彼女は余りに芝居がかり過ぎている。
実際が口にする台詞は一昔前に青春ドラマや昼の泥沼ドラマで使用されていた様な、
ある意味で古臭いものばかりだった。
この様子を見てが佐助に真実、好意を抱いていると感じる人間は極力少ない筈だ。
だが、その極力少ない僅かな確率の人間が、佐助の側には存在している。
無論、現在彼とのやり取りを信じられないと言った面持ちで見つめ、
怒りと動揺で体を震わせている・真田幸村、その人のことである。

「佐助えぇっ!!!そなたと言う男は・・・っ!破廉恥にも生徒と恋仲になっただけでなく、
己の都合で無残にも女子を見捨てると言うのか!?ゆ、許さぬ!!許さぬでござるぞっ!!」
「ええええええ!!??落ち着け、旦那!!どう考えたっておかしくね!?この状況!」
「問答無用!!我が怒りの一撃にて、そなたの不埒な心を叩き直してくれる!」

言葉と同時に、幸村は恐ろしい勢いで自身の拳を振り上げた。
当然の如く、標的は佐助である。
彼は瞬時にしてそれを察知し、素早く幸村の攻撃を回避した。
更に、その場を後にする為に走り出す。
幸村はすぐさま佐助の後を追い、疾走を始める。

「待て!!佐助!!逃がさぬぞ!!」
「真田の旦那っ!マジ勘弁っ!俺様、無実無実ー!」

滑稽な程に情けのない声を上げ、佐助は幸村に追われての側から離れて行った。
彼女はそんな二人の様子を見送りながら、再びほうっと桃色がかった溜め息を漏らす。

「教師と生徒は禁断の恋。学校側にバレれば重い処分が!
・・・・だから佐助先生は私を庇って・・・。
ああっ!佐助さん、私、貴方との愛、貫いて見せます!」

どうやらの中で一つの物語が出来上がったらしい。
彼女は一人、潤んだ瞳で佐助達の消えて行った通学路の先を見つめた。
彼女の瞳の奥にはプラネタリウムの如く、数多くの星が瞬いている。

その後、が佐助との壮大な愛の物語を新たに完成させたその瞬間、
彼女の耳に婆沙羅学園の予鈴が鳴り響いたのだった。


(終わり)


この赤い糸が見えないの!?
だって私と貴方は結ばれる運命!!



後書き
うふふ、あはは。こんなにヒロインがぶっ飛んでる設定は初めてです(大笑)
執筆者でさえついて行くのが必死なヒロインって一体。
ですが書いていてかなり楽しめたのは確か。このヒロインと恋愛って結びつかないなぁ。
ではでは、ここまで読んで下さった方、誠に有難うございます。失礼します。

※お題は「この赤い糸が見えないの!?」*「照れちゃって(はぁと)」
[暴走乙女的10題]より抜粋・混合使用


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