「今日の家庭科で作ったんです。今日は個人で料理をするのが課題だったんですけど、
佐助先生の顔を思い浮かべながら頑張りました!」
「・・・・・・・・・・えーと・・・・そりゃまた・・・・・どうも・・・。」
は、はははははは。
佐助は乾いた笑いを響かせながら、
から差し出されたタッパーの中身に視線を落とした。
肉じゃが。
今ではおふくろの味の定番から少々外れ始めた料理ではあるが、
ほんのりと香る匂いは確かに食欲をそそり、見た目も決して悪くはない。
現在は昼食時であり、佐助はまだ食事を取って居なかった。
だが、問題はそこではない。
佐助は暫しの間視線を空に泳がせ、彼女の手料理を断る口実を探していた。
これを一口でも食してしまえば、今まで以上に後戻り出来ない状況が待っている。
佐助の勘はそう警告していたのだ。
そして恐らくこの勘は、決して外れる事はないだろう。
「召し上がって、下さいますよね?」
にっこり。
笑顔と同時にがズズイとタッパーを更に佐助へと近付ける。
無論その行動には有無を言わさぬ雰囲気が含まれていたのだが、
佐助にとって予想外の罠となったのは彼女の笑顔だった。
殊更佐助に対しては言動に多々難のある。
しかし、彼女の笑顔にはそれら全てを払拭してしまう程の威力があった。
吊られて自身まで口元を緩めてしまいそうなその表情に、
佐助は無意識の内に箸を取り、彼女の肉じゃがに手を伸ばしてしまったのだ。
「佐助先生、お味はどうですか?」
の台詞で彼は半ば我に返った様に自らの行動に驚いていた。
だが、時既に遅し。
口の中にはつい今し方自身の手で頬ばった肉じゃががある。
「・・・やっべ・・・すげぇ旨い・・・。普通の肉じゃがとは思えないわ、こりゃ。」
更には、咄嗟に素直に感想まで述べてしまう始末。
佐助は自らの諸事情で現代国語の担任である武田信玄宅に、
体育教師の真田幸村と共に居候の身だが、家事は専ら彼の担当だった。
元々器用な性分であるせいか、家事は全般的に普以上にこなせている。
そしてその中でも、彼は料理の腕前にはかなりの自信があった。
それだけに、滅多なことでは他人の料理を心底から褒め称えた事はなかったのだが―――
「ほぅ、佐助の奴が驚く程に旨いとな?どれ、儂もひとつよばれるとするか。」
「・・・・・・・・・・・・え?あれ?大将?」
唐突に彼らの背後から姿を見せたのは、他でもない、
佐助の居候宅の主である武田信玄その人だった。
「はい、武田先生もどうぞ。」
は笑顔のまま肉じゃがの入ったタッパーを信玄に向けて差し出す。
信玄は大きく頷き、素手でジャガイモの一つをつまむと、自らの口へと運んだ。
「おお・・・、これは見事な出来じゃのぅ。風味といいこくといい最高じゃ!」
「有難うございます!」
信玄の褒め言葉に素直に礼を述べる彼女に対し、信玄は再び幾度も頷いて見せる。
やがて、彼は佐助に視線を移動させ、ニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
「佐助も果報者よのぅ、こんな手料理が食べられる男は早々おらぬわ。」
「・・・・はい!?え!?た、大将・・・!?」「そんな、武田先生ったら・・・。」
瞬時、佐助とがほぼ同時に信玄の台詞に反応する。
は照れた様子で頬を赤らめ、反して佐助は青ざめ始めていた。
「幼な妻と言うのも悪くはなかろう!」
「えええええええ!!??おおおい!ちょ、お館様!?
冗談だろ!?話が飛躍しすぎでしょうが!!」
「ふつつか者ですが、どうぞ宜しくお願い致します。」
激しく焦りと動揺を示す佐助に構わず、は頬を染めたまま信玄へと頭を下げる。
「さん!?何をその気になって、って言うか何がどうなってこの状況な訳!?
俺様教師!教師!!お館様、このコ生徒ですって!」
「見定めよ!!佐助!師弟の関係を乗り越え、誠の愛情掴んでこそ男よ!!」
「いやいやいや!大将、話ぶっ飛びすぎ!意味分んねぇから!!」
「武田先生!私、負けません!教師と生徒の禁断の愛、誰に阻まれようとも貫いて見せます!」
凛とした表情と共に固い決意を口にする。
信玄はその肩にそっと手を置いた。
「うむ!おぬしの様な女子であれば、わしも祝福してやれるというもの。
安心せぃ!!儂も応援しておるぞ!!」
「ってえぇ!?大将マジ勘弁!!つか俺様の話を聞こうよ!ホント!!」
最早半泣きと言うに相応しい表現の佐助の絶叫は、
清々しい程に二人に受け流されてしまっていた。
更に、信玄の言葉が彼に追い打ちをかける。
「おぬしらの祝言には儂が仲人を務めよう!はっはっはっは!」
現在は昼食時。
佐助は未だ食事を取っていない。
口にした料理はの差し出した肉じゃがを一口のみ。
しかし、空腹は感じなかった。
否。
感じている余裕など微塵もなかったのだった。
「嘘だろおおおおぉぉ!!??」
(終わり)
そろそろないてもいいですか!?
おいおいおいおい!これもうシャレにならなくね!?
後書き
最強ヒロインと言うのがイマイチよく分らなかった私ですが、
もしかして拙宅では彼女がそうではないかと言う気になってきました(笑
お館様までも味方にしてしまった彼女は、
きっと芋づる式に幸村も味方に引き入れるに違いない。
ではではここまでお付き合い下さった方に深く感謝しつつ、失礼致します。
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