「見ろよ、!今年はようやく女共が俺の恰好良さに気が付いたらしいぜ。
今朝から呼び出されっぱなしで、いつの間にか大量にチョコ渡されちまっててよ。」
大学のキャンパス内。
ランチを興覇と一緒にするのは別に約束してる訳じゃない。
だけど、小さい頃からいつも一緒に居るせいか、
自然とこうして同じテーブルにつく習慣が出来ていた。
「・・・自慢したいのは分かるけど、何でここまで持ち込んでんの?興覇。」
思わず呆れた溜息を漏らしつつ、私は両手一杯にチョコの箱を抱えた興覇に言った。
興覇が実は後輩に人気があるのなんか知ってる。
男の子達の間では特に慕われていて、一部では彼のことを『アニキ』なんて呼んでる連中が居ることも。
ま、同性に慕われると言うのは昔からずっとそうではあるんだけど。
近所では弱いもの苛めを絶対に許さないガキ大将で通ってたし。
それはそれとして―――
「普段モテない男が珍しくチョコを大量に貰ったからって、見せびらかすなんて、
逆にこっちが不憫になって来るっつの・・・。なぁ、?」
私と興覇の間にひょっこりと顔を現して、そう声を掛けてきたのは凌統だった。
「凌統!テメェそりゃどう言う意味だ!!」
「ん?理解出来なかったのかい?益々可哀想な思考の持ち主だねぇ。」
それからまた、やれやれ、と、大げさに溜息を吐いて興覇を煽る凌統。
この光景は、大学に入ってからもうずっと、お馴染みのものになってしまった。
「そう言う凌統は貰い慣れてるみたいだけど、最近は角が立たずに断るテクを身につけたって?
さすがにおモテになる殿方は違いますこと。」
ほほほ。
と、私がからかい半分に笑って見せると、凌統はニヤリと口の端を上げて笑った。
「まぁね。けど、アンタからのチョコなら、俺は絶対断ったりしないぜ。」
「凌統!オメェ遊びでまで口説くんじゃねぇぞ!」
明らかに不機嫌な声で興覇が凌統に釘を刺した。
凌統は面白い玩具でも見つけた子供みたいな表情で、それに答える。
「へぇ、遊びじゃなければいい訳だ。俺も今はフリーだし、ここは本気でいっとくかい?」
「凌統・・・、おめぇな!」
「そうね、後学の為に凌統みたいなタイプに口説かれておくのも手かもしれないわ。」
「!オメェまでコイツの言葉にノッてんじゃねぇ!」
必要以上にムキになる興覇に、私は思わず声を上げて笑った。
こんなのいつもの下らないやり取りで、彼だって分かってる筈なのに。
「興覇、ランチするならそのチョコの山を一旦他の場所に置いて来た方がいいと思うんだけど。
どーせいつものA定食の大盛りでしょ?準備して待ってるから。」
「おぅ、じゃ、ま、ちょっくら行ってくるわ。
凌統、オメェにまた下手なちょっかいかけるんじゃねぇぞ。」
「はいはい、肝に銘じておきますよ。」
面倒くさそうに手をひらつかせて答える凌統をひと睨みして、
興覇はチョコの山と一緒に食堂を出て行った。
それからすぐに、私達2人は自分達の食事を取りに立った。
「で、殿、今年はどうするつもりですか?」
注文済みの行列に並びながら、不意に凌統が私にそう尋ねる。
「・・・・・・何が?」
ピクリ。
私の眉間が無意識の内に動いた。
凌統が人の敬称に『殿』をわざとらしく使うときは要注意だ。
元々皮肉大好きの彼だが、これを使うときは大抵こっちが答えにくいことを質問してくる場合や、
どう考えてもムカつく台詞を口にすることが多い。
これは大学に入学して以来、ここ数年で彼と交流していく中で私が学んだひとつでもある。
「猪突猛進、とさか頭の幼馴染へのチョコ、用意してるのかって話さ。
信じられないことに、最近やけに女の子達の間で人気があるようですからねぇ。
さっきのチョコの数も中々馬鹿にしたものじゃない。
うかうかしてると、本当にこのまま何も変わらず終っちまうぜ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
予想通り、警戒の必要すぎる話題。
これだから、恋愛に聡い奴は嫌いなのよ。
トレーに乗ったA定食を食堂のおばちゃんに手渡してもらいながら、私はチラリと凌統に視線を向けた。
彼の瞳が何もかもお見通しみたいに少しだけ細められる。
「行動するなら今年が最後のチャンスだと思うんですがね、殿?
アンタだってアイツ用にチョコ位用意してるんだろ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・用意、出来なかったのよ。」
ぽろり。
思わず私の口から零れる本音。
自分で言葉にしておいて、私は咄嗟にハッとして凌統を見た。
「用意出来なかった?ってことはする気はあった訳だ。
しかもどうやら今年は義理も用意してなかったみたいだし、
もしかして本命1本に絞る気が、あれやこれや考えてる内に当日迎えちまったってオチかい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
図星。
だから、だから恋愛に聡い奴は嫌い、大嫌い。
二人して食事を手に席につくと、
私の向かいに座った凌統がお得意のわざとらしい溜息を吐いてみせる。
「こう言っちゃ何だが、今更何を気にしてるんだ?
俺が見る限りじゃ、どっちかが切り出せば、そのまま上手くいきそうに見えるぜ。
甘寧の奴も、何だかんだ言ってアンタのことばかり気にしてる様だしな。」
「・・・小さい頃から一緒だから、そんな簡単にいかないのよ。
確かに興覇は私のこと考えてくれてるって自信はあるけど、・・・それは、
恋愛感情と言うよりも家族愛に近い気もしないでもないし・・・・・。」
正直に話すのは悔しいけど、気づけば私は素直に自分の気持ちを凌統に話していた。
「ふぅん、そんなもんですかねぇ。けど、これだけは言っとくぜ。
アンタ達の様子見る限りじゃ、今年が分岐点だ。
今のままの関係に落ち着きたいんだったらいいが、
アイツに他に相手が出来ちまった後に後悔しても遅いからな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
何か言い返してやりたい。
と、思いつつも、何も思い浮かばない。
ムカつくけど、凌統の言うことも最もなような気がしたから。
「おぅ、戻ったぜ。」
少しの間沈黙が流れて、そこにタイミング良く、なのか、悪く、なのか、興覇が戻ってきた。
彼は私と凌統の表情を見比べると、何を勘違いしたのか声をいつもより荒げて言った。
「凌統!おめぇあれだけ言ったのに、に余計なちょっかい出しやがったな!」
「・・・ええ!?何言ってんのよ、興覇!」
「あ〜はいはい、ったく、そんなに気になるならさっさとくっついちまえばいいのに。」
「・・・・っ!凌統!」
結局、その後もいつも通り下らない言い合いをしながら私達3人はランチを済ませた。
「おう、、今日は真っ直ぐ帰るのか?だったら俺も一緒に帰るぜ。」
「興覇・・・、あれ?あのチョコの山はどうしたのよ。」
「あん?さすがにあの量一度に持って帰んのはキツかったからよ、
昼間、野郎に頼んで家まで運んだぜ。つっても・・・ありゃ全部は食えねぇな・・・。」
半分独り言みたいにして言いながら、興覇が私の側まで歩いてくる。
私達は揃って大学の正門へ向かった。
「なぁ、オメェ・・・今年は・・・。」
「何?」
「・・・いや、んでもねぇよ。」
何かを言いかけて止めた興覇。
気になって隣を見上げると、何故か彼は不機嫌な表情を浮かべている。
「何か言いたいことがあったんなら言って。
何か、ハッキリ言わないなんて興覇らしくない。」
私は眉間にしわを寄せて言った。
そう言えば今日は1日通して全体的に余り興覇の機嫌が良かったとは言えないかもしれない。
今までの彼の人生の中じゃ間違いなく初めて、
バレンタインであそこまで大量にチョコを貰った記念すべき日の筈なのに。
と言うか、私にあのチョコをみせびらかした後からは特に機嫌の悪さが増した気がする。
寧ろ私の方が不機嫌になってもいい位だ。
こっちは今の微妙な関係にずっと頭を悩ませて、チョコさえ準備できず、
その上凌統からはおかしな釘の刺され方をされるし。
「・・・、オメェの部屋に行ってもいいか?」
「え?そりゃあ、まぁいいけど・・・。それが言いかけてたこと?」
「いや、そりゃまた別の話だけどよ・・・。」
言いながら、スタスタと歩く速度を上げる興覇。
私は少し小走りでその後に続く。
彼がこう言う態度を取るときは、よっぽど言いにくいことがある時だ。
・・・まさか・・・チョコくれたコの中の誰かと・・・付き合うことになった・・・とか。
フッ、と、思い浮かんだその内容に、思わず私はピタリと足を止めた。
そんなことがあるはずない。
なんて、断言することが出来る程の自信が私にはなかった。
凌統はああ言ってたけど、興覇が本当に私を幼馴染以上の恋愛対象としてみてるかなんて分からない。
広がる不安に、私は視線を地面へと落とした。
「?おい、、急に立ち止まったりして、どうしたんだ?」
「・・・・・・・ううん。別に・・・・・・・・・。」
答えて、私はまた足早に歩き始める。
そうしながら、心の中で何度も何度も首を左右に振って、その考えを打ち消した。
私が一人暮らしをしているアパートに興覇が来るのはまだ3回目位だった。
その内1回は凌統と、それから私の親友である尚香も一緒だったから、彼一人で来るのは正確には2回目。
実家暮らしの頃はお互いに良く行き来をしてた訳だけど。
「相変わらず綺麗に片付いてるじゃねぇか、お前の部屋。」
「興覇の部屋が汚すぎるんでしょう。足の踏み場もないんだから。」
「るせぇ、男がちまちが片付けなんてやってられっかってんだ。」
玄関に入ってすぐにそんな会話を交わしながら、
それでも興覇にしては珍しく何処か遠慮がちに私の部屋に踏み入れた。
「適当に座ってよ。取りあえず何か淹れるから。」
「おぅ。」
短く返事をした彼が、ソファへどかりと音を立てて座る。
私はインスタントコーヒーを用意するためにキッチンへ向かった。
カップを二つ取り出して、そこで自分の手の動きが妙にぎこちないことに気づく。
結局私も緊張してるんだ、と、一人、苦笑してしまった。
それからインスタントコーヒーの入った瓶に手を伸ばそうとした、その時――――
そのすぐ側に置いてある『ココア』が私の目に留まった。
―チョコレートの風味豊かなHOTココア
パッケージには大きな文字でそう書いてある。
「チョコレート・・・・・・・・・・。」
思わず私は口に出して呟いていた。
バレンタインだと言うのに、結局用意することさえ出来なかった。
知らず知らず、私の手がそのココアの袋へ伸びる。
そして、指先が触れようとした、瞬間。
「おい、。」
「っ!!わ!」
ビクリ。
私のすぐ背後から興覇に声を掛けられて、驚きすぎて体が大きく震えた。
振り返ると、いつの間にか彼が私の後ろに立っている。
「なっななな、何よ、急に。ビックリさせないでよ。」
「あん?何をそんなにビビってやがんだ、オメェは。」
「普通驚くわよ。・・・で、な、何?」
動揺を彼に気づかれないようにしながら、私は興覇に尋ねる。
彼はぼりぼりと自分の頭を掻くと、私から視線を逸らして口を開いた。
「オメェ・・・今年は他の野郎にチョコは渡したのか・・・?」
「え・・・?ああ・・・、今年は義理チョコも何も用意してなかったから・・・誰にも渡してないけど・・・。」
「そうか・・・。・・・つまり、俺ぁその他大勢の野郎と一緒だってことかよ・・・。」
「―――え?」
拗ねた様な表情でボソリと付け足された興覇の一言。
私は咄嗟に彼の顔をジッと見つめてしまった。
「ちッ・・・んでもねぇよ。」
答えて、またソファの方へ戻っていく興覇。
その様子は今日一番の不機嫌な表情で。
そして、そこでようやく、私は気づいた。
興覇の、不機嫌の、原因を。
ねぇ、これは私の自惚れ、じゃ・・・ない、わよね?興覇。
彼に心の中でそう問いかけつつ、私は再度、ついさっき目にしたココアに手を伸ばす。
興覇は昔から甘い物が苦手なのは知ってるけど。
少し濃いめのホットココア。
その1杯に、私の気持ちを込めて。
幼馴染としてだけじゃなく、興覇を想う私の気持ちを。
「・・・・・興覇、はい、熱いから気をつけて。」
「おぅ・・・って、これ、コーヒーじゃねぇのかよ。」
「え?ああ、まぁ・・・ね。」
少しだけ眉をしかめて言う彼に、曖昧に答える私。
こんな遠回しなアピール、喧嘩ごと以外には鈍感過ぎる興覇には分からないかもしれない。
と言うよりは、気づいてくれた場合の方が奇跡かもしれない。
それでも。
「飲まない、なんて言わないでよ。」
「へいへい、分かってるよ。」
その1杯に詰まった私の想い。
それだけは嘘じゃないから。
私は自分用に淹れたコーヒーが入ったカップを手に、興覇のソファの隣に座る。
彼はココアの入ったカップに口をつけて、ゆっくりそれを傾けた。
おかしな話だけど、私はもうそれだけ十分だった。
完全な自己満足。
それでも私からのバレンタインチョコを口にして貰えた気分。
不意に、ピタリ、興覇の動きが止まる。
「何?火傷でもした?」
「・・・・・・なぁ、、これってココアだよな?」
「え?・・・・・・・そうだけど・・・。」
―どくん。
私の心臓が大きく跳ねた。
興覇が気づく筈、ない。
でも、もし。
「あのよ、すげぇ調子に乗った解釈してもいいか?」
「・・・・・・・・・・・・・どん、な?」
もし、気がついたら―――
「バレンタインのチョコの代わり・・・・・・、ってこたねぇよな・・・。」
嘘。
本当に。
気がついて、くれた。
手にしていたコーヒーをゆっくりとテーブルの上に置く私。
「興覇・・・・。」
彼の名を呼ぶ私の声が、震えた。
言おうって。
もし気がついたら言ってしまおうって、そう、思ってたのに。
喉元、熱い塊がつかえたみたいに、中々言葉が出てきてくれない。
「そう、なの・・・。それ・・・。」
本命チョコの代わり。
無理やり絞りだした声は震えている上に掠れてて、
後半部分は殆ど呟いた程度になってしまった。
「、オメェ・・・。」
「私・・・興覇のこと・・・幼馴染としてじゃなくて・・・。」
先を続けようとしたその時、興覇の腕が私の肩に伸びてきた。
驚いて彼を見つめる私の瞳の先、真剣過ぎる、興覇の表情。
「その先は、俺から言わせてくれや。」
その顔と同じくらい、真剣な声だった。
私はただ、小さく頷く。
心臓が凄い勢いで鼓動を刻んでいるのが私自身、よく分かった。
「バレンタインってのは女から男に・・・ってのが決まりだが、それだけじゃ俺の性に合わねぇ。
何よりオメェとは長い付き合いだからな・・・そろそろバシっと言いてぇと思ってたとこだ・・・。」
そこで彼は、少しだけ、間を空ける。
それから真っ直ぐに私を見つめて言った。
とても、ハッキリと。
「、俺はオメェが好きだ。随分前から、俺にはオメェしか見えてねぇ。」
台詞と一緒に、少し強引に、私は興覇の腕に引き寄せられる。
顔に押し付けられた彼の胸は、思っていた以上に広くて、温かかった。
「興覇、私も・・・私も好き・・・。」
男の人。
ガキ大将だったあの頃とは違う。
力強い腕も、厚い胸板も。
何より、私に囁きかける熱を含んだその声も。
「んだよ・・・、オメェ・・・ホントちっせぇなぁ・・・。折れちまいそうだぜ。」
まるで独り言みたいに興覇が言った。
同時に少しだけ、遠慮がちに彼の腕の力が弱まる。
逆に私は力を込めて彼の体に腕を回した。
ギッ。
小さくソファのスプリングが軋む。
視線を上げて興覇を見上げると、彼と視線が絡んだ。
「・・・。」
私の名を呼んで、ゆっくりと近づいてくる興覇の唇。
瞳を閉じる瞬間、テーブルに置かれたココアが私の視界の隅に入る。
淹れてからかなりの時間が経ったはずのココア。
だけどそれは全く冷めた様子はなくて。
今も、温かい湯気を立ち昇らせていた。
甘い、チョコレートの香りと一緒に。
(終わり)
後書き
ながああああ!そしてまた、相手キャラ以外が出張る出張る(笑)
本当は呉キャラもっと出したかったんですけど、そしたらばもっと凄い長さになってました。
リクエストの内容は甘寧の幼馴染、友達以上恋人未満な関係で学園パロでした。
ああっ!大学設定にしてしまって申し訳ありません!・・・現パロと間違って書き上げて気づいたと言う。
それでなくともこの時期にバレンタインって・・・って感じなのに、本当に申し訳ございませんでした。
リクエスト下さって本当に嬉しく、そして有りがたかったです。
そしてここまでお付き合い下さった方も有り難うございます、失礼致します。