2月13日。
バレンタインデー前日の夜。
はリビングでTVを見ながら、明日のバレンタインに備えてチョコを作っていた。
例年ならば本命であろうと義理であろうと市販の物で済ませて居たのだが、
今年は本命に限り手作りチョコを渡そうと思い立ち、数日前に買い物を済ませた。
しかし、結局前日の晩までチョコを作成する時間が取れず、現在に至る。
は徐々に原型を崩し始めたチョコを指先ですくうと、それを口に運んだ。
甘さを抑えたチョコを選んだ為、口内に独特のほろ苦さを含んだカカオの味が広がる。

「さすがにチョコを湯煎するとなると根気がいるわね・・・。」

そう独り言を呟き、一度手を止めると、再びゆっくりとボウルの中のチョコをかき混ぜ始める。
と、不意に玄関でガチャリと言う鍵の開く音がした。
彼女は咄嗟に視線を玄関のある方向へと向ける。
やがて廊下を歩く足音が聞こえ、それはまっすぐ彼女の元へと向かって来た。
そして――――。

「・・・・・・・・・タカ、来るなら来るって連絡くらい入れなさいよ。」
「ははっ、そう言うなって。うちの獣3匹が腹減らしてたらしくてさ、
仕方ないからこの辺の飯屋で餌食わせてやった訳だ。
ここまで来たら直帰する気にもなれなくてね。」

言いながら、今し方姿を見せたばかりの崇志は口角を上げて笑った。
その様子には小さく溜息を吐く。
つい先日彼に合鍵を渡したことを、先程の鍵の音で今更ながら思い出したのだった。

「折角驚かせようと思ってたのに。チョコの手作りなんか学生時代にだってしてないから。」
「AH-HAN?俺は十分驚いてるぜ、
大体普通はそんな色っぽい姿でチョコレート作ってるなんて誰も思わないだろうな。」

半ばからかう如く崇志は言い、彼女のすぐ側にあるソファに腰掛けた。
は少々がばつが悪そうに苦笑する。

「お風呂上りすぐにチョコを作り始めたから。貴方が来るって分かってたら幾ら何でもこんな恰好してないわ。」

室内はエアコンで温度も程よく、風呂から上がったばかり彼女は、
キャミソールにカーディガンを羽織っただけと言う季節感を殆ど無視した様な薄着だった。

「・・・、チョコを味見しただろ?」
「え?」
「ついてるぞ、ここに・・・・・・。」

言いざま崇志はソファから腰を浮かし、彼を見上げていたの唇の端に舌を這わせた。
彼女の唇の上を、ざらりとした舌の感触がゆっくりと横切る。
は至近距離にある崇志のゴーグル越しの色素の薄い瞳を覗き込んだ。

「・・・それで、お味はどう?」
「It's so good!甘過ぎないし丁度いい苦味だ。・・・だが、そうだな、贅沢を言えば・・・・。」

そこで彼は言葉を切り、彼女の両肩に手を触れると、
そこから静かに彼女の羽織っているカーディガンを脱がせ、床へと落とす。
崇志は片手をテーブルの上のボウルに伸ばし、
その中で先程よりも更に原型を崩して溶けかけているチョコを、指先ですくい取った。

「・・・何をしようとしているのか、何だか察しがついてしまってるんだけど・・・、
私から口にすべきなのかしら?それともやっぱり冗談のつもり?」
「俺が行動を完遂するまで黙ってくれるのが正解だな。」

ニヤリ。

彼はの問いに口角を上げてそう答えた。
彼女は半ば呆れた如く、小さく溜息を吐く。
だが何処か諦めた様子で軽く頷いて応じた。

「まったく・・・いいわ、貴方と付き合ってて大抵のことは慣れたから。」

彼女の返事と同時に崇志はのキャミソールの紐をスルリとその華奢な肩から抜き取り、
チョコのついた骨張った長い指先を彼女の胸元付近に直に塗りこむ様にして動かし始めた。
やがての滑らかな白い肌に塗られた褐色のチョコから甘い香りが放たれ、独特の厭らしさを醸し出す。

「・・・どうだ?俺としてはこっちの方が食欲をそそられるし、間食する自信もあるんだけどね。
このままの体をまるごとチョコでコーティングすれば、
俺専用の最高のバレンタインチョコの出来上がりって訳だ。」
「・・・想像通りのことしてくれるのね、貴方は・・・。」

は苦笑を漏らしながらそう答え、再び小さな溜息を吐く。
崇志はそんな彼女の言葉を全く意に介した様子もなく、
今し方自身で塗りつけた彼女の胸元のチョコにゆっくりと舌を這わせ始めた。
そうしながら、再度、片手でテーブルの上のボウルの中にあるチョコをすくい取り、
それをの豊満な胸の膨らみへ塗り込む。
既にとろりと溶けたチョコは、まるでオイルの如くぬらりと彼女の肌の上を滑った。

「っ・・・タカ、私がお風呂から上がったばかりだって知ってるでしょう?
また入らなくちゃならなくなるわ。」
「OK!俺がこれを食べ終えたら一緒に入るってことで、その件に関してはノープロブレムだな。」
「・・・食べ終えるって・・・大体、これは明日の・・・。」
「時計を見ろ、、日付は変わってる。もうこのチョコは俺の物だ。」

彼が言葉を発する度、熱を含んだ吐息がチョコの塗られたの肌に吹きかかる。
それは文字通り甘い吐息へと変化した。
彼女は咄嗟に体を小さく震わせて反応する。
その様子に崇志は満足げに喉の奥で笑うと、
赤い舌を見せ付ける如くして彼女の肌に塗りこんだ褐色のチョコを舐め取る。

「ビターチョコレートも、の体に塗れば極上のスイートチョコに変化するもんだな。」
「ほんっとに困った男だわ、貴方って人は・・・。嫌になるほどその気にさせるのが上手いんだから。」

彼女は僅かに眉間にしわを寄せてそう言った後、すぐに口元に扇情的な笑みを浮かべた。

「湯煎するだけで苦労してたチョコレートが、タカと二人でだとすぐに溶けていくみたい。
ただ・・・やり方には問題ありだと思うけど。」
「そうか?俺としてはこっちが正しいやり方だと思うぜ。」

崇志は幾度目かに指先ですくったチョコを口に含み、そのままの唇へ自身の唇を押し当てた。
唇が重なりあったと同時に、彼の舌がぬらりとの口内に侵入し、
文字通り口移しで崇志は彼女にチョコを味合わせる。
互いの唾液と溶け合ったそれは、ほろ苦さを甘さに変化させ、彼らの口内を満たした

「・・・ふっ・・・・」

やがて濡れたの唇から零れ出た吐息にも似た甘やかな声。
崇志はとろとろと交じり合っている褐色に染まった互いの唾液を、喉を小さく鳴らして飲み込んだ。
唇を離した瞬間に、の微かに乱れた息が彼の鼓膜をくすぐる。
室内にはチョコの甘い香りが広がっていた。

「やっぱりこのチョコは・・・一晩掛けてじっくり味わいたいねぇ。」
「・・・私は今日は休みだけど、貴方は朝から学院に向かわなきゃいけないんじゃないの?京羅樹教官?」
「そう言う野暮なことは言うなよ、
ここで止められるほど俺が我慢強くないことくらい、お前も知ってるだろ。」

崇志はそう口にしながら、チョコの付着している手とは反対側の手でゴーグルをゆっくりと取り去った。
半ば金色にさえ見える色素の薄い瞳が、しっかりとを捕らえる。


、今夜はお前と言う極上のスイートチョコを思う存分堪能させてもらうぞ。覚悟しろよ?」


彼の言葉にはふっ、と、微笑を浮かべた。
互いの欲望と想いがとろりと溶けた、その刹那、どちらからともなく二人は再度、唇を重ね合わせた。



(終わり)



後書き
バレンタイン京羅樹夢!お師匠姉さん瑞穂さま!リクエスト有り難うございました。
と言うことで、月光は確実に京羅樹夢が数を伸ばしています(笑)
此方はリクを下さったお師匠姉さんに献上させて頂きますので、宜しければお納め下さいませ。
ではでは今回はこれにて失礼致します。ここまでのお付き合い、誠に有り難うございました。