―Sweet little girl.10年後にまた来な。その時は、俺の答えも違ってるかもしれねぇぜ?

近所に住む7つ年上の私の初恋の人。
当時7歳の私の告白に、14歳の彼はそう言って笑った。
自分だって十分ガキだったくせに。
あれは2月、そうだ、14日のバレンタインデーだった。
その日、私の淡く小さな初恋は終った。



・・・・・・訳がない。終らせなかった。つまり、私は諦めなかったのだ。




あれから10年、2月14日。
放課後。

「伊達の旦那・・・あんたほんっと嫌味通り越して感心するぜ、そのチョコの数。
うちの女生徒の過半数以上があんたに渡してるんじゃないの?ったく、参ったね。」
「OH!まぁな。ガキのお守りも大変だぜ。だが猿、そう言うアンタも大層な量じゃねぇか。」
「へへっ、俺様大感激〜なぁんて言ってみるか・・・。
伊達の旦那に言われると皮肉にしか聞こえねぇっつの。」


「伊達先生、猿飛先生、お話中失礼ですが、宜しいですか?」


職員室。
話のネタになりそうな程の数のチョコレート。
そしてその大量のチョコに半分埋れている状態の職員の机がふたつ。
私はそれをチラリと横目で見た後、その机の持ち主の二人に声を掛けた。

「おっと、さんじゃないの。何々?もしかして俺か伊達の旦那にチョコでもくれるつもり?」

私に視線を向けた猿飛先生が笑顔で答える。
私は制服のポケットから元々お徳用の大きな袋に入っていたチョコを2粒、取り出した。

「単に日誌を渡しに来ただけだったんですけど、宜しければこれどうぞ。」
「って、コレ、義理チョコ以下のしろもんじゃね?」
「Ah-ha・・・しかも1個10円するのかどうかも怪しいもんだな。」

明らかに不満げな二人。
私は構わず笑顔を向ける。

「クラスメイトの女子も含めて全員にあげたのと同じものですから、公平でしょ?」
「ほんっと、涙が出そうになる位平等主義だねぇ、さん・・・。
っと、俺様そろそろ部活指導に行って来るわ、じゃな。」

猿飛先生はそう軽やかに挨拶をして、私が今あげたばかりのチョコの包みを片手で開くと、
それを口に運んでそのまま職員室のドアから出て行った。

「伊達先生、日誌です。」
「ああ。・・・、もう帰るのか?」
「はい、教室に荷物を取りに行ってからですけど。」
「そうかい、俺も教室に用事がある、ついでだから一緒に行くか。」

言って、伊達先生は私の後頭部辺りを軽くぽんぽんと叩いた。
私はそれに小さく頷いて答える。
近所に住む初恋の君、政宗兄。
彼が私の頭を軽く叩くその仕草は、私の通う学校の教師になってからも、ずっと変わってない。



「で?、あのふざけたチョコ以外、渡す相手は居ねぇのか?」

教室内に足を踏み入れた途端、伊達先生がそう言って口の端を上げて笑った。
私は机の中の荷物を鞄に移しながら、チラリと伊達先生に視線を向ける。

「ふざけたとは失礼ね、政宗兄。何?私のお相手が気になる?」

教室内だけでなく、廊下にも人の気配はない。
私はいつもの砕けた口調で伊達先生の質問に答えた。
答えた、と言っても、質問を質問で返した訳だけど。

「AH-HAN?そうだな・・・。からは義理でさえ久しぶりに受け取ったからな、気にならないと言えば嘘になる。」
「ま、ね。ここ数年ずっとお父さん以外の人にはあげてないから。
ふざけたチョコでも久しぶりだと有り難味もあるってもんでしょ?」

言いながら、私は笑って荷物に手をかけた。
と、教卓の側に居た政宗兄が、急につかつかと私の近くまで歩いてくる。

「それで?結局のところ答えを聞いてねぇんだが・・・、相手は居んのかい?」
「知りたい?でも『気になる』程度じゃ教えられないわね。
これでももうただの子供じゃないから、私も。」

にっこり。
必要以上の笑顔で答える私。

「俺がいつお前をガキ扱いしたって?
・・・いや、まぁそれはいい・・・ってことは、渡す相手が出来たってことだな。」
「お察しの通り。でもね、出来たって言うより、本当は毎年渡したい位好きな人なのよ。」
「what?そりゃ初耳だな、そんな相手が居やがったとは・・・。」

私にそう返す政宗兄の形の整った綺麗な眉が、ほんの一瞬、ピクリと動いた。
私は思わずふっ、と、苦笑を漏らす。
恋愛沙汰に関しては百戦錬磨の筈の政宗兄。
その政宗兄が気づかないなんて、未だに私はその手の方面的には眼中にないのかもしれない。
それでも、ううん、だったらなお更、私は今年、この恋に決着をつけようと決めていた。

「・・・相手は、俺の知ってる野郎か?・・・Hmm・・・俺の見たとこじゃ前田慶次か真田幸村辺りだが・・・。」
「そうね、二人とも人気有るし、私も仲いいし、妥当な線よね。」
「HA!妥当とは良く言ったもんだぜ、自分のことなのに随分と人事だな、。」
「別に、ただ、伊達先生には私があの二人のどっちかに恋してるように見えたのかと思って。」

私は少しだけ口元に笑みを浮かべて、机の上に軽く腰を下ろす。
政宗兄は少しの間私をジッと見下ろした後、口を開いた。

「いや・・・どっちかっつーとダチの様にしか見えねぇが、
お前は昔から感情を抑えるのが上手かったからな。相手が居るならその辺りだと思っただけだ。」
「・・・・・・・・・そう。ま、そうかもね。」

くす。
笑って、私は目を伏せた。


―今のままじゃ、きっと私を相手にしてくれない。
     早く、早く、大きくなりたい。


本当は、ずっとそんなことばっかり考えてたなんて、きっと政宗兄は気づいてない。
7歳の私と、14歳の政宗兄。
17歳の私と、24歳の政宗兄。
10年。
だけど、私はやっぱり子供で、逆に政宗兄はますます大人になってしまった。

・・・。」
「え?・・・っ!」

―ガタ

名前を呼ばれて視線を上げると、いつの間にか至近距離に政宗兄の端正な顔がある。
驚いて咄嗟に声を漏らした唇に、柔らかくて生暖かい感触が押し付けられた。
その拍子に私の座っていた机がほんの少しだけズレて、小さく音をたてた。
見開かれた私の視界一杯に映る、政宗兄の閉じられた瞳。
やっと状況を飲み込んだ時には、私は石みたいに硬くなって、唇だけが小刻みに震えていた。
机の端に置いていた荷物が、どさりと音を立てて床に落ちる。
そこでようやく政宗兄は私から唇を離した。

「・・・ま・・・政宗・・・兄・・・?」
「お前をその辺のガキにくれてやるつもりはねぇ。俺にしときな、。」
「・・・・・・・・・っえ!?」

見上げる政宗兄の視線。
驚くほど真剣で、それに熱を含んでいる。

「それとも、お前がチョコを渡そうとしてる相手ってのは、俺よりいい男だってのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・それは・・・・・・・・・。」

言いかけた口を、私はすぐに閉じた。
瞳を床に向けると、さっきのキスの最中に落ちてしまった私の鞄が視界に入る。
落ちた衝撃で開いた鞄から、バレンタインのチョコの箱が飛び出していた。
何てタイミングだろう。
思わず苦笑が漏れそうになる。
私は政宗兄の側から離れ、鞄の側に落ちているそのチョコの箱を拾い上げた。

「比べられない・・・、政宗兄とは・・・。」
「what?」
「・・・だって・・・・・・。」

そこで私はまた政宗兄の側まで近づいて行って、ピタリと足を止めた。
小さく、ひとつ、深呼吸を、する。
どくどく、どくどく、脈打つ私の心臓。
だけどついさっきの政宗兄のキスと、
今口にしてくれた政宗兄の台詞が、確実に私に勇気をくれていた。


「私がチョコを渡す相手は、私の好きな人は、政宗兄だから。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「だから、比べることなんか出来ない、そうでしょ?」

私の言葉が終らない内に、政宗兄は私を自分の胸に抱き寄せた。

「You're killing me.まだまだガキだとばっかり思ってたはずなんだが、
俺の方がおちちまうとはな・・・・。」(参ったぜ)
「政宗兄・・・・・・。」

ふわり、と、私の体を包み込む男物のオードトワレの香り。
私はゆっくりとそれを吸い込んで、自分からも政宗兄の体に腕を回す。


―Sweet little girl.10年後にまた来な。その時は、俺の答えも違ってるかもしれねぇぜ?


クスクス・・・

10年前のバレンタインの政宗兄の台詞を思い出し、私は思わず小さく笑い声を漏らした。

「AH-・・・?何笑ってんだ?」
「・・・・・・ううん、嬉しくて、つい、ね。」

軽く左右に首を振る私を、少し疑わしげな目で政宗兄が見下ろす。
だけどすぐにその瞳は優しく、柔らかいものに変わる。
先生でも、幼馴染のお兄ちゃんでもない、私の初恋の君の瞳。


「10年で俺の方がお前にハマっちまった様だな、」
「・・・・・・・・・え?」

「いや、何でもねぇ。」



―――――Tender trap 甘い罠―――――――


(終わり)


後書き
これ、先生の設定である意味があるのか謎になりましたね。でも書き易かったからよしとする・・・。
でも実は猿飛先生と言う響きの方に釣られてしまいそうだったのは秘密です。
政宗は先生ネタ多いですけど、佐助は余りない・・・って!?これどんな後書き!?
ええーと、ではではここまでのお付き合い、誠に有り難うございました。失礼します。