―リーンゴーン・・・
   リーンゴーン・・・

教会の鐘の澄んだ音色が周囲に鳴り響き、同時に拍手と祝福の声が飛ぶ。
幸せそうに微笑する、純白のドレスに身を包んだ可愛らしい新婦。
その隣で彼女の腰に腕を回して、満足げな表情を浮かべている端正な顔の新郎。
まさにお似合いのカップルで、そしてまるで絵に描いた様に理想の結婚式。

「あの伊達が結婚とはなぁ、許婚が居るってのは聞いてたが、
正直驚きだぜ。はっはー!見ろよ、絞まりのねぇ面しやがって。」
「そう言うなって、いいじゃねぇか。
こっちまで幸せな気分になるってもんだ、あの笑顔はさ。な、ちゃんもそう思うだろ?」
「え?・・・ふふ、だね。」

教会の階段に続く赤い絨毯。
新郎と新婦は来賓の親戚や友達に挨拶をしながらゆっくりと進んでいく。
私の側には大学時代からの付き合いの二人、元親と慶次が立っていた。
私達は新郎側の友人だ。
新郎、伊達政宗の。

「お、こっちに来るようだぜ。」
「え?」
「ホントだ、あの美男美女を間近で見られるたぁついてるねぇ。」

慶次がさも嬉しそうに笑顔でそう言った。
元親も何だかんだと言いながら、やっぱり笑顔で二人に軽く手を挙げたりしている。
新郎の政宗が新婦の愛さんと一緒に私達3人の元に近づいてきた。
元親がその彼の肩を少し荒っぽくポンポンっと叩く。

「よぉ、二人とも、おめでとさん。はっはー!
ったく、可愛い嫁さん貰いやがって、羨ましいヤツだぜ!」

元親の台詞に、政宗の隣の愛さんがほんの少しだけ頬を赤くして微笑んだ。
政宗は口の端を上げて笑みを浮かべ、いつものように自信に満ちた様子で答える。

「HA!当たり前だ。」
「ははっ、さすがにアンタ、こんな時でもその態度とはさすがだねぇ。
とにかく今日はホントにめでてぇや!幸せになんなよな!」
「ああ、ありがとよ。」

慶次にそう答えた政宗の瞳が、私に向けられる。
咄嗟に私は満面の笑みを浮かべていた。

「政宗、おめでとう。」
「thank you・・・・・・。」

ふっ、と、私に返したその笑顔は、私が大好きだった優しい眼差し。
ほんの一瞬、私の心の奥が小さく疼いた。
だけどそれは本当に短い間のもので、私は素直に彼のその視線に笑顔を向ける事が出来た。
それからすぐに政宗と愛さんはまた赤い絨毯を進んで、
他の友達や親戚へ挨拶をしに私達の側を離れていった。
幸せそうな、そしてこれ以上にない程お似合いな二人の新郎新婦の背中を目にしながら、
私は再度、口の中で小さく、おめでとう、と、呟いた。



―結婚式数日前、2月14日。

「いいのー?結婚控えてる男が、許婚ほったらかしてバレンタインの夜にこんなことしてて。」

公園内。
ブランコに揺られながら、見下ろす私の視線の先。
彼、伊達政宗が居た。

「AH-?It's OK!愛のヤツはどうせ今日は深夜まで仕事だ。
それにこんな時間に女一人で帰す訳にはいかねぇだろ。」
「ふふ・・・そんな心配しなくても、この位いつものことだし。」

言いながら、私はブランコを勢い良く漕ぎ始める。
政宗は呆れたような表情でそれを眺めていた。
私の住んでいるアパートから数分の所にあるこの公園に入ろうと持ちかけたのは私。
真っ直ぐ家に送ってもらうだけなんて寂しすぎて、どうしもてもう少し政宗と一緒に居たくて。
不毛なのは分かっていた。
後1週間もしないうちに政宗は許婚の愛さんと結婚してしまう。
そう、最初から、この片思いは不毛すぎた。
私と知り合うずっと前から政宗は愛さんと結婚することが決まっていたし、
それは親同士の決めた言わば政略結婚に近いものだったけど、何より彼はとても愛さんを大切にしていたから。

「HEY!watch your step!あんまり調子に乗って、ブランコから落ちるような真似すんじゃねぇぞ、。」
「あははっ!大丈夫よ。」

ブランコの上で立ち漕ぎを始めた私に政宗がそう声を掛け、私は笑って答えた。
揺れるブランコから見る夜空が近く、遠くなる。
側にはやっぱり呆れたように苦笑している政宗の姿。
ねぇ、政宗、私達の関係が変わらないのならば、もう明日なんて来なければいいと思ってしまう。
明日も、明後日も、そのまた次もなく、今、このままずっと今日が続けばいいのに。
そんな笑ってしまうほど、どうしようもないことを考える。


―ガッコン

「っ!!」
っ!!」

注意力が逸れてしまったことで、私はブランコから足を踏み外し、振り落とされそうになる。
瞬間。

私を受止める為に体に回される政宗の腕。
そして彼はブランコを止める為に空いた右手で鎖を掴み、片足を伸ばしてそれを抑えた。

「ご・・・ごめん、有り難う・・・。」
「What did I say?ガキじゃねぇんだぜ、。気をつけな。」(だから言っただろうが )

政宗は小さく溜息を吐いて私をブランコの側から少し離した。
俯いていた視線を上げると、至近距離にある彼の顔。
回された腕が、すぐ側で聞こえる息遣いが、私の鼓動を早くする。
気づけば、私は無意識の内に政宗の唇に吸い寄せられるように踵を上げていた。

「・・・・・・・・・・・・・。」

唇と唇、重なり合う、スレスレの、その瞬間。

「俺は・・・愛を裏切れねぇ・・・。」
「――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」

小さく、呟くように私に告げた、政宗の台詞。

―――――私は、それ以上、動くことが、出来なかった。―――――




 リーンゴーン・・・
    リーンゴーーン・・・

「おぅ、、花嫁がブーケを投げるらしいぜ。おめぇ、行った方がいいんじゃねぇか?ん?」
「・・・・・・え?」
「お、そりゃいいねぇ、行ってきなよ、ちゃん!」

ポンポンッ
慶次が促すように笑顔で私の肩を叩く。
私は少し躊躇って、それからすぐに二人に向かって小さく頷いて見せた。

「そうね、じゃあ行ってくるわ。」
「おぅ!他の女ども押しのけてでも取って来い!!」
「ははっ、結構な人数でブーケ狙ってるみたいだね。」

私は笑い声を上げながら、新婦の投げるブーケを受止めようとしている彼女達の中へ向かう。
慶次の言うとおり、思った以上の人数。
新婦の愛さんは私達より少し高い位置に立って、こちらに背中を向ける。
そして、合図と同時に、放り投げられるブーケ。
一瞬、ブーケが快晴の青と太陽の光に溶ける様にして見えなくなる。
そして―――


バサッ


「っ!」

受止めたのは私だった。
思わず一瞬きょとんと間抜けな表情をしてしまう私。
その間に、司会の男の人が何やら場を盛り上げる台詞を口にしているのが聞こえる。
それから拍手の音。

「おぅ!、次はおめぇが嫁に行く番か!!はっはー!」
「いいねぇ、そんときゃ絶対に呼んでくれよな!」

元親と慶次が口々に冗談交じりの台詞を飛ばす。
私はそれに笑顔で応えて、それから軽くブーケを掲げて見せた。


あの日、バレンタインの夜のあの日、私のバッグには、政宗に渡すためのチョコが入っていた。
手作りの、ビターチョコレート。

ねぇ政宗、結局それを渡すことは出来なかったけど、貴方は全部知ってたんだろうね。
私がずっと、貴方を見ていたことを。
私がずっと、貴方を好きだったことを。


今はまだ、胸の奥に疼く痛みも、悲しみも寂しさもあるけれど。
あのバレンタインの夜、泣きながら口にしたほろ苦いチョコの味は、
時間が経てば、きっと、少しずつ思い出として、優しい甘味を残してくれるはず。

だから今日は笑顔で言うから。


「おめでとう、政宗!」


――――私、貴方が大好きでした――――


(終わり)



後書き
バレンタイン夢の意味ねぇしいいい!悲恋だしいいい・・・。
な、何ですか、こう・・・衝動的に書きたくなってしまって・・・。自分でもビックリだ。
申し訳ありません、悲恋だけど暗くならない超ベタネタでやってみた・・・つもりです・・・。
ここまでのお付き合い、誠に有り難うございました!失礼致します