2月14日と言えば言わずと知れたバレンタインデー。
つまり、女の子達が秘めた思いを告白するチャンス到来ってね。
で、毎年この日は一週間以上前から生徒達の様子が落ち着かない。
女の子達だけでなく、男にとってだって結構大事な日だからねぇ、色々と。
あ、俺様?いやぁ、よくぞ聞いてくれましたっと。
こう見えても俺様実は結構人気あるんだよねー。へへっ、いやぁ、参るぜ。
・・・え?・・・あーー、ま、伊達の旦那や真田の旦那にゃ負けちまんだけど・・・。
それにしたって毎年かなりの量のチョコを頂いちまってる訳。
俺様大感激〜・・・なーんてな。
けどそれも、たった一人、貰いたい相手が見つかる前までの話ってね。
大勢の彼女達の気持ちは、そりゃ勿論有り難いぜ。
けどさ、やっぱり、惚れた相手から貰うたった一つのチョコとは、比べ物になんないだろ?
「猿飛先輩、今年は誰からもチョコ受け取らないって、本当ですか!?
折角高校最後のバレンタインデーなのに!」
「ああー、ごめんねぇ。ほら、俺様元々甘いもの苦手だしさ。
でも気持ちだけはビシバシ感じてるぜ?なーんてな」
苦笑と共にそうおどけた口調で答える佐助に、だがやはり後輩達は不満げな視線を彼に送った。
例年ならば佐助はその好き嫌いに関わらず、女生徒達から渡されるチョコを無条件で受け取っていた為、
彼女達からしてみれば今回のこの理由に早々納得いく筈もない。
彼はこの場をどう取り繕うべきかと少々思案した。
しかしそこへ彼のクラスメイト、真田幸村が通りかかり、彼女達の注意は一気にそちらへと逸れる。
「「「「ユッキー先輩!!」」」」
「ぬぉっ!!??」
唐突に数人の後輩に取り囲まれ、幸村は驚きの声を上げた。
佐助の周囲はあっと言う間に綺麗に人が居なくなり、彼ただ一人が取り残される。
「おいおいおいっ、アンタらねぇ!・・・いや、いーんだけどさ・・・。」
助かった、と言う思いと同時に、何処か寂しさを覚える佐助。
彼自身幸村とは親しいだけに、複雑にも少々敗北感さえ感じられる。
幸村は突然彼を取り囲んだ女生徒達の出現に激しく動揺を見せていたが、
やがて彼女達に連れ去られるようにしてその場を後にした。
「・・・根こそぎやられましたね、佐助先輩。」
と、不意に、喉の奥にくくっと笑いを含ませたような女生徒の声が彼の背後から掛けられた。
咄嗟に佐助は其方へと視線を向ける。
とは言え、振り向かずとも彼には声の主の正体など、既に判っていたのだが。
「よぉ、もしかして今の全部見ちゃってたりする?」
「そうですね、話の内容は聞こえませんでしたが、
猿飛先輩の周りに居た子達が一斉に真田先輩の方へ移ったのはしっかり見てました。」
言い終えた後、彼女は今度はくすくすと声をたてて笑った。
「どーせなら、もっと格好いいとこ見て欲しかったなぁ。ま、仕方ねぇか・・・。
で、は通りすがり?それとも俺様に用事?俺としては後者であって欲しいんだけどさ。」
「残念、前者です。先生から資料になる本を4冊、図書室から取ってくるように言われてるんです。」
「お、じゃあ、俺も手伝うわ。本も2冊以上になると結構重いもんだからねぇ。」
「え?でも・・・いいんですか?」
「今更俺相手に遠慮なんかするなっての。さ、行こうぜ。」
下心をふんだんに盛り込ませた佐助の申し出。
しかし当然その彼の心の内を全く知らない彼女は、申し訳なさそうに小さく頷いた。
「なぁ、アンタさ、バレンタインは誰かにチョコ渡す予定あったりすんの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・えっ!?な、な、何ですか!?突然!」
―ドサドサッ
広々とした図書室内。
彼らの周囲に生徒の姿は無く、二人は目的の資料を探し出す為に、
予め場所を教えられていた本棚にある本の背表紙に目を走らせていた。
その最中の佐助からへの唐突な質問。
彼女は動揺の為に手にして眺めていた本を数冊床へ落下させた。
「佐助先輩っ・・・!」
「おっと、大丈夫か?俺も拾うの手伝うから、ま、許してよ。」
言いながらも二人は同時に屈み込み、床に落ちた本へと手を伸ばす。
「で、さっきの続きだけど、ほら、にとっちゃうちの学園に来て初めてのバレンタインだろ?
転校して来てそろそろ半年以上経つし、渡したい相手が居てもいいんじゃねぇかと思ってね。」
「それは・・・・・・・・・・・。・・・・佐助先輩こそ、どうなんですか?」
「ん?」
「クラスの子達が騒いでましたよ。
今年最後なのに猿飛先輩がチョコをひとつも受け取ってくれないらしいって。」
互いに屈み込んだままの状態で会話を続け、
最後の一冊を拾い上げようとした佐助の手がそこで停止する。
いつもより至近距離にある彼女の存在に、佐助の心拍数は正常値をとうに超えていた。
だが、彼はそんな様子はおくびにも見せず、先程までと何ら変わらぬ表情でと視線を合わせる。
「実はさ、ここだけの話・・・誰からも受け取らないって訳じゃねぇんだなぁ。」
「え・・・・?そう・・・なんですか・・・?」
「そ、そ。寧ろそのたった一つが俺様にとって最重要だったりするんだよねぇ。」
「・・・・・たった・・・ひとつ・・・。」
は佐助の言葉をそのまま小さく口にすると、彼と合わせていた視線を床へと落とした。
その後彼女は少々の間無言で瞳を伏せ、やがてゆっくりと立ち上がり掛けた。
だが、そのの手を佐助が素早く掴む。
「まだ俺の話は終っちゃいないぜ。。」
「・・・え?」
「俺様がチョコを待ってる相手ってのがさ、誰なのか知りたかったりしね?」
「・・・・・・・・・私は・・・・・・・。」
彼女の瞳には暗さを含んだ複雑な戸惑いの色が浮かんでいる。
佐助はそれを下から覗き込むようにして彼女としっかりと視線を合わせたまま、再び先を続けた。
「実はそのコ今俺のすぐ側に居たりするんだよねぇ、
で、俺にとっちゃかなり重要な質問してみたんだけど、もまだ答えてくれてねぇし、
正直このままだと俺様が最重要視してるチョコも渡して貰えるのか分かんなくて、
ちょっとばっかし焦ってたりするんだわ。」
「佐助先輩・・・?それってまさか・・・・・・・・・・・・。」
言いかけたが、そこで言葉を切り、不意にふっと微笑を浮かべる。
先程までの複雑な表情は全く見られず、その代わりにその瞳には安堵と喜びの色が湛えられていた。
「私、チョコを渡したい人は居ます。今・・・私の腕を掴んでる・・・ひとつ年上の人。
いつも調子のいいことばかり口にしてて、ふざけてばかりだし、全然本心の見えない人なんですけど。」
「げっ、俺様ひでぇ言われよう・・・!・・・っと、じゃなくて、へぇ〜そりゃ驚いたぜ。」
ぷっ。
は佐助の反応に、小さく吹き出すと、くすくすと声をたてて笑い始めた。
それから再び彼と同じく屈み込み、半ば囁くほどの大きさで更に言葉を続ける。
「でも私、その人以外に渡す相手が考えられないんです。どうしても、その人にだけは渡したい。」
口にしてすぐに彼女は頬を赤く染め、佐助から視線を逸らした。
彼はのその姿と今耳にしたばかりの台詞に、
自らの熱と想いとがこの上なく膨れ上がっていくのを感じていた。
「・・・。」
佐助は無意識の内に彼女との距離を詰め、
その薄紅色の花びらを思わせる唇に自身の唇を寄せた。
は咄嗟の事態に状況を飲み込めず、抵抗を見せる様子もない。
互いの吐息と鼓動の音さえ聞こえそうな程の至近距離。
やがて彼女は戸惑いがちに、その瞳を閉じた。
だが、唇と唇が今まさに触れ合うと言うその刹那。
―キーンコーン・・・
カーンコーン・・・
無情にも鳴り響く予鈴の鐘。
そして同時に我に返った如く佐助から身を放す。
「私、これで失礼します・・・!佐助先輩、手伝ってくれて有り難うございました・・・!」
そう言い残し、彼女はこの上なく素早い動きで本を胸元にかき集め、逃げるように走り去っていった。
未遂に終ったキスに、今だ空振り状態の体勢を保ったまま、一人、情けない表情を晒す佐助。
固まり続けること数分。
「・・・資料の本ってまだ全部探し当ててなくない・・・?じゃなくてさっ・・・!
酷くねぇ!?俺様どんだけやる気満々だったと思ってんだよ、いやホント!!」
本来言葉にするつもりもない本音が佐助の口を突いて出る。
ガクリと大げさに項垂れている佐助の側に、大きな影がひとつ、近づいてきた。
「ほぉ・・・佐助、聞き慣れた声がすると思えばやはりおぬしか。」
「げげげっ!!!」
本日の休憩時間の図書室担当教師、武田信玄。
同時に信玄は彼の居候先の邸主でもある。
「授業はとっくに始まっておるぞっ!!佐助!!図書室に身を潜ませるとは、この大うつけがっ!!!」
「大将っ!説教は勘弁!俺様さっさと退散しますって〜!」
「待てぃ!!佐助!」
ハァー、お館様には参るよ、ホント。
あの後もしつこく追いかけて来てさ、俺様校内ランニングさせられちまったぜ。
しかも何故か真田の旦那まで一緒になって追いかけっこ始めちまうし・・・。
ああ、そうだ、バレンタインの事だけど・・・、へへっ、もうこう来たらくれるっきゃねぇよな?
え?おいおいおい、今更なーに言っちゃってんの!
アンタだよ、アンタ!、アンタしか居ねぇだろ。
あの時はキスも未遂で終っちまったけど、当日はそうもいかないぜ?
本気で期待して待ってるから、たった一人、アンタからのチョコをさ。
(終わり)
後書き
我が心の友、orz・・・・浮月様からリクを頂きました、佐助夢。
・・・ははははは、何だ、あの、バレンタイン夢じゃないしな、コレ(笑
取り合えず我が心の友の為に書き上げた所存!気持ちだけはな!!
しかも久々の佐助夢で普通にテンパったし!そんな感じ!
自作題なのにお題に沿ってないとかもう、うふふ、あははだから!
・・・で、では、ここまでのお付き合い、誠に有り難うございました。
失礼致します・・・