―何で、何でなの!?
「お館さまぁぁぁぁぁぁ!!!」
「幸村ぁぁっ!!!!」
「ぅお館様あああああああああああああ!!!!」
「幸村あああああああああっっ!!!!」
ガス、ドゴっ、バキッと言う効果音を奏でつつ、
今日も今日とて繰り広げられる武田軍ではお馴染みの恒例行事。
お館様と幸村の他人には絶対に理解出来ない、と言うかしたくもない、愛情確認的な殴り合い。
そうだ、こんなのは日常茶飯事で、全く珍しくもなんともない。
分かってる、それはそんなのは分かってるけど。
「何で今日まで1時間以上もぶっ通しで普通にやってる訳?」
知らず知らず拗ねた表情になってしまいながら、私は言った。
因みに、私がそう口にしている間にも、幸村が凄い勢いで数百メートル以上離れた木に激突されられている。
「やーれやれ、城内の女の子達の熱気も、あのお人達には敵わないってことか。
アンタも苦労するねぇ、。」
音も気配も無く、私の隣に現れたのは、私の兄代わりでもあり幸村の部下でもある忍びの佐助兄。
私は特に驚きもせずに佐助兄に話しかける。
「佐助兄・・・。ねぇ、幸村の奴・・・やっぱり今日が何の日か気づいてないと思う?」
「さぁてね、本人に聞いてみればいい。やっと終ったみたいだからな。」
言いながら、佐助が視線だけで幸村の方を示した。
つられて目を向ければ、丁度こっちに向かってきているらしい幸村の姿。
私は咄嗟に立ち上がって彼の所へ。
と、一歩、踏み出そうとした瞬間。
「「「「「幸村さまあっっ!!!」」」」
「っ!!」
待ってましたとばかりに押し寄せる、女の子達。
あっと言う間に彼女達に取り囲まれる幸村。
「はっはっは!!いいのう、若い者たちは。」
そして、その様子を見て楽しげに笑い声を上げるお館様。
幸村は突然のことに対処出来ず、焦った表情を見せている。
でも、甘党のアイツが、チョコを渡されて嬉しくない筈が無い。
「幸村様!これ、受け取って下さい!」
「私のも!」
「幸村さまぁっ!」
「ぬぉっ・・・そ、その、かたじけない。」
次々に渡されるチョコを、彼はひとつも断ることなく受け取っている。
甘党ってだけでなく、性格上、女の子達に断ることが出来ないってのもあるとは思うけど。
「幸村様可愛い〜。」
黄色い声の中に混じって時々動揺しまくりの幸村の声が聞こえてきた。
彼の姿はここからじゃもうよく見えない。
「・・・どうやら今日が何の日か、これで気づいたんじゃないの?さすがの真田の旦那もさ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうかもね。」
幸村は凄く人気がある。
そんなこと、ずっと前から知っていた。
義理も本命も関係なく、毎年大量のチョコを両手一杯に抱えてるのを私だって見たことがある。
分かってる、分かってるけど。
「私は後で渡すわ。」
くるり。
女の子達の波に揉まれている幸村に背中を向ける。
そしてそこから立ち去る前に、私は佐助兄にチョコを差し出した。
「これ、佐助兄の分。」
「ウホッ!有り難いぜ、俺様にまでくれる訳だ。」
「毎年あげてるでしょ。」
「いや〜、今年は本命に絞るのかと思ってたからねぇ。俺様大感激〜」
くしゃくしゃ、と、佐助兄の手が私の頭をかき混ぜる。
自分だって実は大モテのくせによく言う。
私はもう1つ、別のチョコを取り出して、今度はお館様の所に向うことにした。
最初は面白そうに幸村と女の子達を見物していたお館様も、
ついさっき、城内へ戻っていくのが見えたから。
幸村には二人きりになれる時に渡そうっと。
これでも一応私は幸村の恋人と言う位置に居る訳だから、その位許されるだろう。
私はひとまずここで渡すことを諦めて、城内へ。
そんな私の背中を女の子に囲まれた幸村が見ていたことなんか知るわけも無く、
もっと言うと私と幸村の状況を見て楽しんでいる佐助兄のことなんか分かる筈もなかった。
「しょーがない、ここは兄貴代わりのこの猿飛佐助が、可愛い妹の為にひと肌脱ごうかね。」
夕刻過ぎ。
空は濃薄っすら紺色に染まり、星が幾つか瞬き始めていた。
にも関わらず、私は未だに幸村にチョコを渡すことが出来ていない。
「幸村のヤツ、何処に行ったのよ、一体。」
広い広い城内。
探し回って数時間。
気づけばいつの間にかこんな時刻なっていた。
「やーれやれ、こんなことだろうと思ったぜ。」
「あ、佐助兄。・・・って、それどう言う意味?」
例の如く、何の前触れもなく佐助兄が私の目の前に姿を見せた。
聞き返した私に、佐助兄はわざとらしい溜息を吐いて答える。
「お互いがお互いを探して動き回ってりゃ、見つかりっこねぇってこと。
ったく、どこまでも仲がお宜しいこって。」
「え?幸村も私を探してるの?」
「そりゃ、真田の旦那も、からのチョコを貰わなけりゃ、バレンタインの意味がないんじゃね?」
ニヤニヤと口元を緩めつつ、佐助兄はからかうように言った。
「もしかして、佐助兄、幸村の居場所知ってる?だったら・・・」
「はいはい、連れてけって言うんでしょ。分かってますって。」
言いざま、佐助兄の手が私の肩に伸び、
気づいた時にはさっきまで会話をしていた場所とは違う所に居た。
忍びって便利。
「今日は真田の旦那、この室に泊まるらしいからさ、ここはも一緒にお泊りしちまえば?」
助平丸出しの顔つきで言って、佐助兄が目の前にある室を指差す。
どう見ても、面白がっているようにしか見えない。
「何言ってんのよ!私はチョコを渡しに来ただけだから!」
「恋人同士のバレンタインだぜ?相手が真田の旦那じゃなけりゃ、自然な流れだと思うんだけどねぇ。
ま、いいわ、俺様お邪魔虫になっちまわない内に退散っと♪」
言いたいことだけ言い残して、佐助兄はフッとまた、姿を消した。
「エロ忍者!」
姿は無くても絶対聞いていることを見越して、私は中庭に向かって言ってやった。
「そこに居るのは、殿でござるか?」
「・・・!あ、幸村、そう、私・・・!」
不意に室内から幸村が私に声を掛けてきた。
私が返事をしてすぐに、襖が開く。
「殿!」
「幸村!良かった、やっとまともに顔を合わせることが出来た!」
最初に目に飛び込んできた、赤、に、ホッとする自分が居る。
凄く恥ずかしいことを言うようだけど、やっぱり私はこの人が好きだ、なんて実感してしまった。
「某もずっと殿を探していた。」
「あははっ!佐助兄にお互い動き回ってるから会えないんだって言われた。」
室内に入って襖を閉めると、私は声を上げて笑った。
でも、視界に入ったソレのおかげで、自分でも無意識に、ピタリ、と、笑うのを止めてしまう。
「殿、いかがした?」
「・・・チョコの山、だね。」
部屋半分、雪崩が起こりそうな、まさにまんま、チョコの山。
「ぬっ・・・、これは・・・や・・・邸に運び込む予定でござったが、指示を出し忘れていたのだ。
今宵はこの室に泊まれとのお館様からの仰せがあった故、
一時的にここへ置くことにしたのだが、やはり・・・気になるでござるか?」
気にならない。
と、言ったら嘘になる。
だけど。
「私を必死に探してくれてたみたいだから許す。仕方ないわよね、これは。」
「殿!」
「出来た恋人持ったって、喜びなさい、幸村。」
フンっ、と笑って私は少し偉そうに言ってやった。
そこで今度は、ピタリ、幸村の表情が固まる。
「?幸村?」
まさか『恋人』って言葉で今更、前みたいに破廉恥でござる〜なんて言わないとは思うけど。
「・・・その・・・今朝佐助が申していたのだが・・・。」
「佐助兄?何を?」
「今年は殿は本命ちょこのみしか用意して居ない筈だと。
だが、そなたは昼間、佐助にちょこを渡していたでござろう。よもやあれは・・・・。」
続ける幸村の言葉尻がどんどん小さくなっていく。
明らかに誤解をしているらしい彼に、私はぶんぶんとハッキリ、首を左右に振った。
「違う!違うからね、幸村!確かに佐助兄にチョコは渡したけど、あくまでも義理よ。
本命だけって言うのも考えたんだけど、結局別に用意したのよ。」
「そうであったか!」
―パァ〜っ!
と言う効果音さえ付きそうな表情で、幸村が心底ホッとしているのが良く分かる。
何だか愛されていると実感して、思わず私まで笑ってしまった。
「あ、ねぇ、でも私、お館様にもチョコをお渡ししたんだけど、何も言って無かった?
いつもなら聞かなくても私から貰ったことを話してるじゃない。」
「ぬぅ?そう言えば、今年は何も言っておられなかったでござるな。」
「そっか、でも安心して、幸村、他の皆には悪いけど、あなたにあげるのは特別なんだから!」
言って、隠しておいたチョコを取り出そうと着物に手を突っ込んだ私。
だけど―――――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?・・・・・・・????・・・・!!!???」
「殿、いかがした?」
どんなに探っても出てこない。
そんなことある訳がないのに。
だって、ここに来る前、佐助兄と会話する前に確認したんだから。
と、そこではたと私は動きを止める。
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!佐助兄いいいいいいいいい!!!!」
やってくれたわね!!!知らない内に私と会話をしている間に佐助兄が持って行ったに違いない。
こんなことするのも、そして出来るのも、佐助兄しか居ない。
「何と!?佐助にチョコを奪われたのでござるか!?」
「みたい・・・ったく!あのエロ忍び!!」
「おおおおお!!佐助、許さぬ、許さぬぞお!!」
―ズパコンッ
襖を勢い良く開けて、佐助を探しに出ようとする幸村。
私はそれを慌てて押しとどめた。
「待って!幸村、ちょっと待って、落ち着いて!」
「ぬぉ!?殿、しかしこのままでは某のちょこが・・・!」
「大丈夫、佐助兄は元々甘い物が好きなわけじゃないから、
多分からかい半分で持っていっただけだと思うし。それに今探しても絶対出てこないと思う。」
私だって本当はふんじばってやりたいんだけど。
と続けると、幸村は納得してくれたのか、今開けたばかりの襖をまた閉めた。
「確かに殿の言うとおりではあるが、このままでは某の気が収まらぬ。」
「・・・と言うかね、幸村、私としては佐助兄に二人っきりの時間を邪魔されたくないのよ。」
「っ!!なっ・・・!!女子がその様なことを口にするものではないでござる!」
あっと言う間に真っ赤になった幸村が答える。
こういう所はずっと変わらない。
幸村とは付き合いを始めて1年近くになるけど、未だに口付け止まり。
さすがの私もそろそろ焦れったいと思っていたりする。
幸村になら、幸村だったら、触れて欲しいしもっと積極的になって欲しいのに。
ま、今更言っても仕方ないか。何てったって、真田幸村だもんね。
思い直して、私は改めて幸村と向き合う。
「幸村、チョコがないから全然しまらないんだけど・・・。」
「殿?」
勇気を出して、一歩、自分から幸村に近づく私。
彼は少し驚いた様に私を見下ろしている。
「大好き、だからね。」
言い終わってすぐに、私はそのまま踵を上げて、幸村の唇に口付けをした。
「なっなななななっ!!」
「本当は、チョコの代わりに私を食べて!・・・・・・・とかベタなこと言いたかったんだけど、
そしたら絶対幸村・・・・・・・・・・・。」
「は、破廉恥でござるうううう!!!!」
ほらね。
私は苦笑して言った。
これでも私だってムチャクチャ恥ずかしいし勇気持って言った訳だけど、
幸村が分かってるのかはかなり謎。
「じゃあ、これ位は許して?」
「!」
私は両腕を伸ばして、彼の体に回した。
硬い筋肉と、予想してたよりずっと厚い胸板。
急激に私と幸村の体温が上昇するのが分かる。
でも幸村、しょうがないじゃない、私が積極的にならなくちゃ。
「殿・・・。」
ぎこちなく、遠慮がちに私の背中に彼の腕が回される。
強くて逞しい、幸村の腕。
顔を上げなくても、彼が真っ赤になっているのが分かった。
「さてと、これ以上幸村に破廉恥って言われないようにそろそろ行くね。
明日は佐助兄ふんじばって意地でもチョコ渡すから安心して。一日遅れるけど。」
ゆっくり幸村から体を放して、私は言った。
彼は無言で私を見つめている。
でもやっぱり顔が赤い。
多分、私も。
「じゃあ、また明日。」
「待たれよ、殿・・・!」
「・・・え?」
―グイ
幸村に背中を向けて襖に手をかけたその瞬間。
信じられない程強い力で、私は背後から彼の腕の中に引き寄せられていた。
一瞬、何が起きたのか分からなくて、私は呆然としてしまった。
「ゆ・・・幸村?」
「・・・許されよ。このままそなたを帰してしまうには、この幸村・・・少々気が昂ぶり過ぎた。」
耳元。
鼓膜を直に震わせるみたいな幸村の声。
「夫婦となる前の男女が・・・い、い、一夜を共にするなど、破廉恥極まりないのは分かっている。
だが某は・・・・いや、俺は・・・・今、殿をこの上無く欲しているでござる・・・。」
「・・・・・っ!!」
うそ。
嘘、嘘、嘘。
あの、幸村が、自分から。
ドクドクドクドク。
心臓が恐ろしい勢いで早鐘を打つ。
いつもよりずっと低めで、吐息を漏らすような幸村の囁きが、私の脳内に反響する。
「ゆ・・・きむら・・・私・・・・・・・・・・んっ・・・!
振り向きざま、私の唇に押し付けられる、幸村の唇。
さっきまでよりずっと熱い。
不器用で、強引で、なのにどこか優しい、そんな口付けだった。
「っ・・・すまぬ・・・殿・・・。」
「謝らないでよ。・・・・私も・・・嬉しい・・・から。」
「!な、ならば・・・。」
「うん・・・今日は・・・私もここに泊まって行く。」
ぼそぼそと、呟くように返事をする私。
幸村の腕に力がこもった。
「ちょこが無くとも・・・今宵は俺にとって殿自身が極上の甘味にござる・・・。」
「幸村・・・。」
やっぱりあなたが大好き。
今回ばかりは、佐助兄とお館様に感謝しながら、私はそう口にした。
****オマケ??*****
「任務完了っと♪俺様ってば最高にいい兄貴代わりじゃね?」
「うむ!佐助、天晴れであったぞ!!」
「おっと、お館様もまぁ二人の為に室まで用意するとはやってくれますねぇ。」
「はっはっは!!祝言の支度も滞り無く進んでおるでな。」
「はやっ!!お館様、それ幾ら何でも先走り過ぎなんじゃ。」
「なに、あの二人にはこれ位で丁度良い。放っておいたら後幾年かかるか分からぬわ。」
(*紙に祝言の日時候補を書き付けるお館様)
「へへっ、それは言えて・・・・・って、日取りまで決めてんのかよっ!!!」
(終わり)
後書き
無駄に出張った佐助。おかげでまた無駄に長くなった文章。
あるるっち様よりのリクエスト、幸村で活発系ヒロイン(こここなせたかかなり怪しいです)でした。
幸村で短編ってのは初だったのですが、か、かなり緊張しました。
脇役で出してた時より性格掴みが難しくて、精進せねばああああ(涙)
甘くしようと努力した割りに、ギャグ要素強めになって・・・す、すみません。
こちらはあるるっち様へ献上いたします。リクエスト、誠に誠に有り難うございました。
ではでは、失礼致します。