「
殿、すまん・・・無理をさせてしまった様だ・・・。」
「いいえ、文遠様・・・謝らないで下さいませ。」
薄暗い室内。
頼りなげにゆらめく炎が点された燭台。
その中に、寝台の上で寄り添う如く重なる男女の影があった。
男は自分に身を預けている女の華奢な肩に腕を回し、
艶やかな黒髪に唇を埋める。
「文遠様・・・明日からはまた・・・戦場へ向かわれるのですね・・・。」
「・・・ああ、また暫く貴女と離れる日々が続くな・・・・。
だが、この張文遠、必ず生きて再び、貴女の元へ帰って参ろうぞ。」
「文遠様・・・・・・・・・っ・・・。」
小刻みに震える腕で張遼の体に縋り付く如くしながら、
は再度、口を開いた。
「わたくしも・・・この手に剣を握る事さえ出来れば・・・。
そうすれば・・・奉先様やお姉様の様に、戦場でも貴方様と共に居られるのに・・・。」
掠れる声で紡いだ言葉は、彼女が心の内で思い続けていた願い。
だが、それが叶う筈のない物だと言うことは、誰よりも彼女自身が良く理解していた。
「貴女は私の帰る場所だ・・・
殿、共に戦う事が出来ずとも、我らの心は共にある。」
「・・・・・・・嬉しゅうございます、文遠様。・・・・ですがわたくしは・・・・・・・・・・・・。」
そこで不意に
は言葉を切った。
張遼は彼女を見下ろし、問い返す。
「
殿・・・、どうなされた?」
「いいえ、何でも・・・何でもございません・・・・・・。」
彼女はそう返事をすると、小さく左右に首を振る。
張遼は僅かに瞳を細め、労わる様な眼差しを
へと向けた。
「・・・やはり、体に障ったのではないか?」
「いいえ、文遠様・・・そうではありません・・・。そんなに心配なさらないで下さい・・・。」
彼を見上げ、ふっ、と、微笑してみせる
。
されど、その笑みは余りにも儚げなものに張遼は思えた。
「
殿・・・私は例え肉体的な繋がりなど無くとも・・・、
貴女の身が健在でさえあれば、他に何も望む事はないのだ・・・。」
「文遠様・・・それではわたくしが嫌なのです・・・・・。
わたくしは貴方様にもっと触れて頂きたい、もっとわたくしを深く求めて欲しい・・・。」
答えた
は羞恥からか瞳を逸らし、頬を染めている。
そして彼女は視線を彼と合わせぬまま、先を続けた。
「この様な事を口にするわたくしを・・・ふしだらだとお思いでしょうか・・・?」
「
殿・・・・!」
―グッ
張遼は彼女の名を呼び、同時にその華奢な肢体を己が胸へと更に力強く押し付けた。
は驚いた様に小さく声を上げたが、抵抗する事無く彼へと身を預けた。
「私は貴女を心から大切にしたいと常から願って病まぬのだ・・・。
だが・・・内に秘める貴女への欲望が無い訳では決してない・・・。
それを・・・その身に受けてくれると言われるか・・・?」
「・・・・それが、わたくしの願いでございます・・・・・・・文遠様・・・・・・。」
やがて、張遼は彼女の体に回した腕をゆっくりと下降させ、
その肢体を再び寝台へと沈める。
は片手を上げ、その美しい白魚の如き手を彼の頬へと触れ合わせた。
「・・・貴方の瞳には・・・いつも濁りが無く、とても澄んでいらっしゃいますね・・・。
その瞳に映る事の出来るわたくしは・・・本当に幸せな女にございますわ・・・。」
「
殿・・・、それは私の台詞だ。貴女程美しく、そして心優しい女人を私は他に知りはせぬ。
いや・・・・知ろうとも思わぬ・・・・。」
静かにそう口にした後、張遼は次第に彼女の方へと重心を傾け、
ふっくらとした桃色の唇に自らの唇を重ねた。
触れ合わせただけの口付けは、徐々に深さと濃厚さを増していく。
されどそれはどこまでも優しさに満ちた、互いを気遣う様な穏やかな口付けだった。
壊れ物に触れる如く、
の肢体を滑る張遼の指先。
透き通る白い磁器の肌に散らされていく紅い花弁。
「文遠様・・・っ・・・!」
悲鳴にも似た甘く掠れた声音で彼女が張遼の字を口にする。
その華奢な体で彼の愛を一心に受け止めながら、
彼女は潤んだ瞳をぎゅっと強く閉じた。
文遠様、わたくしの最愛のお方。
貴方様がここへ帰還なされるその時まで・・・・・・、
わたくしのこの頼りない命の灯火は・・・絶えずにあってくれるでしょうか?
余命幾許も無いわたくしは・・・・・・・貴方様を・・・・・・・・。
「・・・っ
殿・・・!」
熱と湿り気を帯びた彼の吐息が再び
の喉を満たし、焦がしていく。
彼女の瞳の端から、一筋の涙の雫が流れた。
いいえ、文遠様・・・きっと、きっと待って見せましょう・・・。
わたくしに向けて下さるそのお心に添う為に・・・、
何よりわたくし自身の為に・・・・・・・・・。
「もっと、深く深く・・・貴方様をわたくしに印して下さいませ・・・。」
わたくしの命の灯火が消えてしまわぬ様に・・・。
が心の内で呟いたその言の葉は、哀しく彼女の胸に響いた。
(終わり)
-------------------後書き---------------------------------
何故か思い浮かんだ初張遼夢でした・・・。呂布を張遼と入れ替えてしまった(笑)
話し方に気を遣った割りにあわわわわって感じになりました・・・・。
ではでは、ここまでのお付き合い、誠に有難うございました!失礼します。
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