立ち止まったその一室の前で、は溜息を吐いた。


公積は今の時間修練所だ・・・、ここに居るはずが無い・・・・。


軽く左右に頭を振り、その場を後にしようとしたその時、
部屋の主である人物が彼女に声を掛けて来た。

、こりゃ偶然だね。あんたを探してたとこだ。」
「・・・・・・・・公積?どうしてここに・・・。」

凌統が決まった時間に修練所へ向かい、
言うに一時(約2時間)は戻らない事をはよく知っていた。
その為に彼女は少し驚いた様子で彼を見つめた。

「言っただろ?あんたを探してたって。ま、俺の部屋の前に居たってのは以外だったけどな。」
「・・・・私は・・・・・・・・。」
「中で話さないか?俺はあんたに聞きたいことがあるんでね。」

凌統はそう言って自室の扉を開け、彼女に中へ入るよう促した。
は一瞬戸惑いを見せたが、軽く頷くと室内へ足を踏み入れた。

「なぁ、あんた惚れた男でも居んのかい?」

が椅子に腰掛けたと同時に凌統がそう口にした。
彼女は軽く眉間にしわを寄せ、凌統に視線を向ける。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・聞きたいと言うのはそのこと?」
「いや、ただ俺があんたを口説く度にけんもほろろな態度なもんで、気になってね。」
「・・・・・・・誠意を持ち合せない言葉を真に受けるほど子供じゃない。ただそれだけよ。」

はそう言いながら、視線を彼から窓の外へ移した。

「誠意・・・ねぇ、どうしてそう思うんだい?俺が本気じゃないとでも?」
「顔を合わせばその度に同じ言葉を口にする。
本当に好きなら、簡単に何度もそんなことが言えるかしら?」

窓の外の景色に目を向けたままで彼女は言った。
外は風が強いらしく、木がざわざわと枝葉を揺らしている。

「じゃあお尋ねしますが将軍、
誠意の塊に見える太史慈殿や呂蒙殿を袖にしたその真意ってのはどうなってんですかね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ピクリとの眉間が反応し、彼女は再び視線を凌統へ戻した。

「どこで仕入れた情報かしら?近衛兵の女達?それとも女官?」
「さっきから俺の質問に質問でしか返してくれちゃいないって気付いてるかい?あんた。」

凌統に向ける視線を幾分か強めながら、は口を開いた。

「あんたこそ質問が多すぎるわよ、何が聞きたいの?それだけを明確に言えば答えなくも無いわ。」

凌統はのその言葉に、軽く肩をすくめて笑う。
例え最初にズバリとその質問を口にしていたとしても、
彼女は素直に答えてはくれないだろうと彼は思っていた。

「公積。」
「はいはい、そこまで言ってくれるんだったら言っちまうが・・・。
あんたに持ち込まれた縁談の話、どうする気なのか気になっちまってね。それを聞きたくて捜してた。」
「!」

凌統の意外な答えに、は思わず動揺し、咄嗟に声を失う。
ただ瞳だけを驚いた様子で見開いたまま彼に向けた。

「あんまり早耳なんで驚いたかい?
ま、この手の情報は近衛兵の女達や女官から腐るほど回ってくるんでね。話題には事欠かない訳だ。
女ってのは好きだろ?こういうの。」

皮肉めいた口調でそう言い、凌統がニヤリと笑った。
は眉間にしわを寄せたまま、彼から視線を逸らす。

「下らない興味本位で聞いているのなら答える義務は無いわ。
それに・・・・・その話はまだ正式に私の所へ来た訳じゃない。」
「けど、話の内容からしてそろそろってとこだろ。
それに俺は興味本位で聞いたつもりはさらさらありませんよ。」

つい先ほどまでのからかう様な口調が消え、驚く程真剣な彼の声には僅かに顔を上げた。
その先にある凌統の視線が彼女をしっかりと捕らえる。

「さぁ、答えてもらいましょうか?明確に言えば答えなくもない、あんたそう言ったよな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

は暫く無言で彼のその瞳に視線を固定されたままだった。
だが、やがて諦めた様子で再び口を開いた。

「孫堅様から直々に話を頂くのであれば、私はお受けするつもり。
私の事を深く考えて下さっての事なら、それを受け止めるのが私の役目だわ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・役目だって?」

彼女の目の前に立ったままの凌統が言い、そしてククッと喉を鳴らした。
の表情がまた険しくなる。

、あんたの考えはよぉく判りましたよ。それで俺の気持ちも固まった。」

が言葉を返そうと口を開きかけたその時、不意に室の外から女官が声を掛けて来た。

「凌統様、此方に様はおいででしょうか?お知らせしたいことがございます。」

凌統の視線は一瞬扉に向けられ、そして再び彼女に注がれた。
が立ち上がり、声を発しようとした瞬間に凌統の掌が彼女の唇を覆う。

「っっ!!」

突然のことには驚いたように彼を見つめた。

「?凌統様?いらっしゃらないのですか?」
「いや、俺はここに居るぜ、でも悪いがは知らないね。甘寧のケツでも叩きに行ったんじゃないのかい。」
「っ!っ!!」

は2人が会話している間も彼の手を払いのけようと両手を伸ばしたが、
それは余りに容易く彼の片腕に阻まれる結果となった。

「孫堅様がお呼びでしたのに・・・。あ、では、凌統様失礼致します。」
「ああ。」

凌統は女官が充分室の側から離れるのを待ち、やがての唇から掌をゆっくりと離した。

「公積、この手も離せ!」

怒りの滲んだ声で彼女はそう言い、凌統を睨みつける。
彼女が命令口調なのは仕事上の場合のみで、それ以外に口にすることは滅多にない。
それだけにその語調には凄みがあった。
凌統は小さく溜息を吐いて彼女の両手を解放した。
だが、それは決して彼女の言葉に怯んだ訳ではなかった。

「・・・今のはどういうつもり?」
「あんたを行かせたくない、それだけ。今回は答えを聞くまで逃がさないぜ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・私は行くわ、孫堅様が呼んでいるのだから。」

彼女はそう言って凌統に背を向けた。
だが、すぐにその背後から左右に手が伸びてきて彼女の身体は捕らえられる。

「っ!公積!ふざけるのもいい加減に・・・・!」
「ふざける?誰が?俺の言葉を勝手に戯言にしようとしてんのはあんただろ、。」

耳元に湿った吐息が吹きかかり、は彼の腕の中で身じろぎした。

「今言ったばかりだけどね?答えを聞くまで逃がさないぜ。」
「答え・・・・・・・!?」

凌統の唇が更に彼女の耳元に近付く。

「俺が口にすることが戯言にしか聞こえないんだったら、行動で示させてもらいますよ。」
「っ!?何を!?」

彼は振り向いたを強引に抱き寄せ、その唇を自らの唇で塞ぐ。
だがそれは濃厚な口付けとは程遠い、軽く触れるだけのものだった。
が抵抗する間もなく、彼は彼女から唇を離した。

「公積・・・・・・・。」
「今あんたに食らいつく事なんか簡単だ。だけど、それじゃ意味がない。
・・・・・・・・、これで最後になっちまうかもしれないんなら、せめてハッキリ言ってくれよ。」

凌統の真剣そのものの眼差しが、しっかりと彼女を捕らえる。
は軽く唇を噛み締めた。

「あんたは私の部下だわ・・・・・・・・・。」
「それが・・・あんたの理由かい?。悪いがだったらそれは答えにはならないぜ。
当たり前だが、俺は部下としてこんな事言ってる訳じゃないんでね。」

彼女の腕を掴んだままの凌統の手の力が僅か強くなった。
は目を伏せ、戸惑った表情を見せる。

「・・・私は・・・・・・・・・・・・・あんたよりも5つも年上、しかもこの身体は戦場しか知らない。
とても公積に釣りあうとは思えない・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・そーゆう言い訳は聞かないと言ったはずだぜ?
俺を好いているのかそうでないのか、今聞きたいのそれだけだ。」

伏せていた目を上げ、彼に視線を向ければ先程と変わりない真剣な瞳の彼が此方を見つめている。
はその瞳を見つめたまま、心を決めた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・好きよ・・・・・・・・、私は公積を・・・・・・・ずっと・・・・。」

彼女がその言葉を口にし終わったと同時に、凌統は再び彼女の唇に自らの唇を重ねた。
だが、今回は先ほどのものとは違い、彼女の唇に押し入る様に舌が挿し入れられる。
一瞬ビクリと身体を震わせただったが、抵抗をする様子はなかった。
彼女の舌に吸い付く如く絡められた凌統の舌は、やがて彼女の口内隅々を荒らし始める。
余りの息苦しさに、は身悶えした。

「んっ・・・・・・・・・・。」

彼はゆっくりとから唇を離すと、僅か息の上がった彼女を満足そうに眺める。

「殿には俺から伝えとく。
だから今は、俺の気持ちをあんたの身体に刻ませてくれませんかね?殿。」

唇の端を上げて笑い、彼は言った。
は乱れた息を整えると、軽く彼を睨みつける。

「こういうこととなると急に余裕が出るのね、公積。」

凌統はの腰を抱き寄せながら、彼女の耳元に吐息を吹きかけた。


「余裕?そんなもんとっくの昔にどっかに置いてきちまってるよ。
あんたには逃げられっぱなしだったからね、。」


その彼の台詞に、は小さく苦笑した。



(捕まえる 凌統編-終り-)


後書き
長いこと共通部分だけで放置してたら微妙な事になってしまいました。
しかも頭が煮えてて何が何やら・・・・。
甘寧編も残ってますが、これも更新怪しいです。
ううーん・・・こんな作品につき合わせてしまって本当に申し訳ありませんでした。
では、失礼致します。


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