「あーあ、今日の戦は散々だったな。
ったく、誰かさんが猪並みに突っ込みやがるから・・・、後方に付いてたこっちの身にもなって欲しいもんだ。」
「んだぁ!?凌統!!オメェ俺のせいだったって言いてぇのか!?ああ!?」
「あれ?いつ俺は鈴の甘寧さんだって言いましたかね?ああ、身に覚えがあるってことか。」
「凌統ーっ!!テメェ!!!おめぇだって一緒んなって突っ込んでたろうが!!」


「黙れ!」

「「!!!」」


廊下の片隅でいつものように喧嘩を始めた甘寧と凌統。
その間に割って入り、まさに一言では2人を黙らせた。
2人を交互に眺めた後、彼女は小さく溜息を吐いて言った。

「・・・今回の戦での失敗は、どちらか一方に非があった訳じゃない。
それはお互い分かっているはず。
それに、今回あんた達2人の上に立って指揮を取っていたのはこの私。
責任なら私にある、つまりそう言うことでしょう?」
「あ、いや、そりゃ・・・別に俺は・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

甘寧はしどろもどろに答え、凌統は気まずい表情で黙り込んだ。
そこへ通りかかった陸遜が、穏やかな笑みを浮かべて声を掛けて来た。

殿、ご苦労が耐えませんね。」

「「陸遜・・・!」」

「そうね、困った奴らだわ。これじゃ、まるで私が姉か母親みたい。」

言ったが大きく溜息を吐いた。
陸遜が笑顔を崩さぬままそれに答える。

「貴女を身内の代わりにしか出来ないなんて、可哀想な人達だ。
私なら身内ではなく、恋人にしておきますが。」
「フッ・・・口が上手いこと。でも嬉しいわ、有り難う。」

彼と同じく笑顔を見せたが言った。
そんな2人のやりとりに、甘寧が小さく舌打ちをする。

「チッ・・・、おい、陸遜、女口説くんだったらもっと別の場所でやれ。」
「甘寧殿、凌統殿、まだいらしたんですか。」
「陸遜、俺とこいつを同じような扱いにするなっつの。」
「陸遜!凌統!!おめぇらなぁ!!!!」

はそこで腕を組み、またしても大きく溜息を吐く。
結局は陸遜の登場で面倒が2人から3人に増えてしまった。

「お前ら、そろそろ仕事に戻ったらどうだ?」

呆れ果てるの背後から声を掛けて来たのは呂蒙だった。
はその声にほっとして、振り返る。

「呂蒙殿。」
「げ!呂蒙のおっさん!」

やべぇ、と甘寧が小さく漏らし1歩後退りする。
陸遜はやわらかな笑顔で呂蒙に言った。

「申し訳ありません、呂蒙殿、私はこれから執務室に戻ろうかと思っていたのですが、
どうやら殿が此方の2人に手を焼いておいでの様でだったので。」

「「!?陸遜!!」」

驚いた甘寧と凌統が同時に彼を見る。
だが、当の陸遜はそんな2人の抗議の視線など気にしている様子はなかった。

「甘寧、お前はもう少し大人になったらどうだ?
それに書簡がえらく貯まっている様だったが、こんな所で油を売っておっていいのか。」
「ケッ・・・分ぁったよ。」
「凌統、お前もだ。余り甘寧を挑発するんじゃない。」
「はいはい、肝に銘じておきますよ。」

2人に交互に言い聞かせ、呂蒙が最後に更に釘を刺す。

「余りの手を煩わせるな。」

その通りです、と言わんばかりに呂蒙の言葉に陸遜が頷いた。
甘寧と凌統はふてくされつつも返事をし、2人はそれぞれの仕事へと戻って行く。
はそんな2人の背中を苦笑しながら見つめた。

「有り難うございます。助かりました、呂蒙殿。」
「いや、それよりも、先程姫がお前を捜しておったようだぞ。」
「尚香様が?分かりました、すぐに向かいます。では。」
「ああ。」
「はい、殿。」

陸遜と呂蒙に背を向け彼女は言葉どおりそのまま尚香の元へ向かう。
彼女が見えなくなってから、陸遜が呂蒙に向かって言った。

「女人ながらあれだけの武と才をお持ちの上に人を惹きつけてやまないあの人柄。
ですがご本人は全くそれに気付いて居ないようですね。
本気の言葉もあの人にとっては戯言になってしまう。」
「・・・うむ・・・殿もその事が気がかりだったのやもな。」

考え深げに呂蒙はそう言って、先程まで彼女が居たその場所を見つめた。

「・・・?呂蒙殿・・・それは一体・・・?」
「ん?・・・ああ、まぁ、あやつにもそろそろその手の話が持ち出されるやも知れんという事だ。」

陸遜はその呂蒙の台詞に僅か動揺を示したが、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「そうですか・・・。・・・・・・・ならばそろそろ動かなければなりませんね。」
「動く?陸遜、お前が・・・・か・・・?」
「いいえ、確かに私はあの人に好意を抱いています。
ですが、動くべき人間は私ではありません。それは身に沁みて分かっていますから。」

呂蒙が口を開くより早く、彼は再び廊下を歩き始めた。
自分の淡い恋心などより深く彼女を想っている人間が居る事を、
彼は知っていたのだ。

「呂蒙殿、そう言う貴方は宜しいのですか?」
「ははは・・・!わしはとうの昔に振られている、未練は残さんのがわしのやり方だ。」
「そうでしたね、貴方は潔い方ですから・・・。」
「ん?褒めても何も出んぞ、陸遜。」
「それは残念です。」

そこで2人は顔を見合わせ、軽く笑い声を上げて執務室へと向かったのだった。
そんな会話がなされいること等、勿論当のは知る由もなかった。




「尚香様、です。私を捜していらっしゃったとお聞きしましたので、
此方から伺わせて頂きました。」
「どうぞ、入っていいわよ。」

尚香の返事を聞き、はゆっくりと室の扉を開いた。
彼女が頭を下げて尚香の部屋に足を踏み入れると、
尚香は自分が座っている正面の椅子に彼女に掛けるよう促した。
彼女はまたも頭を軽く下げ、それに従う。
尚香は傍に居た侍女に何事か言いつけ、そしてに向かって口を開いた。

「わざわざごめんね、ちょっと確認したい事があって。」
「?確認ですか?」

尚香の台詞に、は僅かに首を傾げた。
尚香が頷いて更に続ける。

「そう、実はアナタの事で気になる話を聞いたから。
・・・・ねぇ、父様に何か話を持ちかけられてたりしてない?
例えば・・・・・・・縁談・・・・・・・・とか・・・・。」
「縁談・・・?」

は思わず尚香の言葉をオウム返しに呟いた。
彼女にはそれは余りに自分とは結びつかないものだという気がしたのだ。
の反応をじっと見つめた尚香が、
その表情から答えを察したらしく溜息を吐いた。

「やっぱり知らないんだ。じゃあ・・・これから話を進めるのかな・・・。」
「尚香様・・・・?」
「ああ、ごめんなさい。あのね、どうやら父様はアナタに縁談を持ち込むつもりみたいなの。
昨日それっぽい話を権兄様と話しているのを聞いたわ。」
「縁談を・・・・・私に・・・!?」

さすがに驚きを隠せないに、尚香は再び頷いた。

「そうなの、それでアナタに確認したくて・・・。でもこれもいい機会かもね、
ねぇ、アナタ、好きな人が居るんだったらちゃんと断わった方が良いわ。
・・・まだアナタの所に話が来てないようだけど、
あの様子だと多分近いうちに父様から話が来ると思うのよね・・・。」
「・・・・・・・・そうですか・・・。尚香様・・・わざわざお知らせ下さって有り難うございます・・・。」

はまだ信じられないような面持ちで、尚香に礼を述べた。
そしてそのままゆっくり腰を上げる。
尚香が彼女を見上げて言った。

「もう行っちゃうの?まだ話をしていたかったんだけどなぁ。」
「申し訳ありません、尚香様。今日中に片付けてしまわなければならない書簡が残っていますので。」

尚香は彼女の返事に苦笑しながら肩をすくめて見せた。

「そう、じゃあ仕方ないわね。
・・・・・・・・・・・・、今の話・・・胸に留めておいてね?」
「はい、尚香様のお心遣い、感謝致します。」


が尚香の部屋を立ち去った後、彼女は1人、
天井を見つめて呟いた。

「後は・・・『彼』がどう動くかよね・・・。
あのを捕まえられるかしら・・・、それとも・・・・・・・。」




尚香の部屋を出たはすぐに仕事を行う気にはなれず、
いつの間にか城内をふらふらと歩き回っていた。
それはいつも冷静な彼女にあるまじき行動であり、そしてそれ程に彼女は動揺していたのだった。
は深い溜息を吐いてふと目を上げた。


「・・・・・・・情けない・・・無意識にここを選んだって訳・・・?」


自問し、そして唇を僅か歪めて哂う。



【ここに興覇が居る訳がない・・・・・・・・・・。】(準備中)


【公積は今の時間修練所だ・・・・・・・・・・・・。】


(捕まえる -続く-)

後書き
・・・・連載の甘寧編が煮詰まったんで、
ずっと途中で止まってた分岐予定のこのお題夢を書いてしまいました。
・・・・・・・異世界トリップも止まってるし、
蝶連載も止まってるのにお題短編ばっかが上がる・・・・。
微逆ハー風?とでも言うのか?これは???
これの続きの速度も怪しいものですが、お付き合い頂ければ幸いです。
でわ、今回もここまで読んで下さったお客様、有り難うございます。
失礼いたします。


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