「・・・凌統様、今日はもう失礼させて頂きます。」
私は仕事上以外の会話は一切するつもりなんかない。
仕事が終わればただ部屋に戻るだけ。
「・・・やれやれ・・・殿、あんたもしかしてまだあの事を根に持ってんのかい?」
「っ!?」
ガタッ・・・
立ち上がった途端にかけられたその言葉に、私は驚いて机に軽く体をぶつけてしまった。
凌統様は私を見上げて更に続ける。
「どうかしましたか?殿。それとも、
恥知らずな女ったらしは・・・酒の勢いで記憶も飛ばしちまってたとでもお思いだったんですかね?」
「・・・・・・あ・・・・貴方・・・貴方と言う人は・・・・っ!」
お腹の奥から怒りが込み上げてきて、みるみる内に脳に達した。
私を見上げる端整な顔の嫌味な男は、今も余裕に満ちた表情で私を見ている。
何か言葉を投げつけてやろうにも、頭に血が昇りすぎていて考えることも出来ないでいた。
「・・・・っ・・・!!もう結構です!!私は・・・部屋に戻ります!!!」
それだけ口にして私が扉まで移動しようと足を踏み出した瞬間、凌統様が不意に立ち上がった。
私は思わず、ビクリと体を強張らせる。
だけど彼は私に見向きもせず、扉へと向かった。
「何を・・・・。」
「別に何も。出て行きたいなら出て行けばいいさ。ま、俺はこっから動く気はないんだけどね。」
「・・・・・・・・っ!?卑怯者!」
そう言った私にチラリと目を向けて、彼はいつもの様に唇の端を軽く上げた。
「俺はただここの立ってるだけだぜ、
それがどうして『卑怯者』とまで言われなきゃなんないのか理解できかねますが?殿。」
「・・・・っ!」
嫌味の意味を、そして皮肉を織り交ぜて私を『殿』付けで呼ぶ凌統様。
苛立ちと腹ただしさで、私は無言で自ら扉に向かって大股に歩いた。
扉の前には腕組みをして、未だに涼しげな表情の彼が居る。
私は敢えて彼に視線を向けずに扉の取っ手に手をかけようとした。
「っあ!」
取っ手に指先が触れようとしたその途端、その手を凌統様に掴まれる。
私は彼を思い切り睨みつけた。
「凌統様!!いい加減にして下さい!言ったはずです、私に・・・・」
「はいはい、分かってますって。の手の届く範囲内に近付くな・・・だろ?
でもな、、あんた今、自分からこっちに来たんだぜ?」
「・・・・・っっなっ!!??」
掴まれた腕を振り解くことさえ忘れて、彼の台詞に私はただ声を詰まらせた。
その様子に凌統様はククッと喉を鳴らして笑っている。
「凌統様っ!貴方は・・・何がそんなに可笑しいのですか?!私は貴方が嫌いではありませんでした、
殿方は苦手だったけど、貴方とならば楽しくお話が出来ると思っていたのに・・・・・!!
だけど今は、私は・・・私は貴方が大嫌いです・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅん、やっぱあんた・・・何も分かっちゃいなかったんだな・・・・・。」
突然に彼は不機嫌そうな表情を浮かべて言った。
私は眉間のしわ深めて彼を見つめる。
「・・・どういう意味ですか!?」
掴まれた腕に、軽く痛みが走った。
彼が手に力を込めたのだとすぐに分かったけれど、私はなぜかそれを振りほどこうとは思わなかった。
「あの夜、俺があんたに口付けしたのは確かに酒の入った勢いだった。
・・・けど、それは柄にもなく今まで我慢なんかしちまってたからなんだぜ・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・我慢・・・・・・・・?」
言っている意味が分からなくて私は聞き返した。
私を見つめる凌統様の眼差しには、先ほどと打って変わって真剣さが含まれている様に見える。
「そ・・・、男嫌いのあんたに、強引に近付いたって警戒されるだけだ。
・・・・・・だから俺は・・・どうにか慣れてもらおうと必死だった・・・。それで毎回手も出さずにじっと我慢を重ねてた訳だ。
んで、こないだの宴の席であの馬鹿のせいで飲みすぎちまって・・・それで今まで溜めに溜めてたもんが出てきちまったってとこ。」
「溜めてた・・・・・・・・って・・・・どう言う意味ですか・・・?」
つい先ほどまでの彼への怒りも忘れ、私はまた問い返す。
凌統様は私の瞳を捕らえたまま、その唇を再び開いた。
「、俺があんたに惚れちまってるって意味。」
「・・・・・・・・・え?」
ドクン・・・
自分の耳にも届くほどの大きな音で心臓がひとつ、跳ねた。
怒りとは違う理由で顔が赤くなっていくのが分かる。
私は彼の視線から逃れるために目を逸らした。
ドクドクと驚く位早く心臓が早鐘を打つ。
「あ・・・私は・・・・・・・・・・。」
凌統様を嫌いになった本当の理由。
それは裏切られたという気持ちから。
私は彼に自分の気持ちが傾いていっているのを感じていた。
だけどあの日、私の意志に関係なく酒の勢いに任せて凌統様は私の唇を奪った。
そう、だからこそ許せなかったのだ。
「・・・はもう、俺が視界に入るってだけでも嫌なのかい?
俺と口も利きたくないってんだな?」
そう口にした凌統様の口調はとても沈んでいた。
掴まれた腕から、凌統様の手が離れていくのが分かる。
私は思わず顔を上げ、彼を見た。
「凌統様・・・・私は・・・あの・・・違う!・・・違うんです・・・・!」
軽く首を左右に振って、私は彼の腕を掴んだ。
凌統様が少し驚いた表情で私の視線を受け止める。
じっと私の顔を見つめてまた彼が口を開いた。
「そーゆうことすると、俺がまたあんたに触れちまうぜ。
・・・・・・で、何が違うんだい?」
「・・・私・・・・・・・・・・・貴方の・・・ことを・・・好き・・・で・・・・・・・・。」
唇が震えて上手く言葉を紡げない。
それでも私は必死でそれだけ口にした。
凌統様はその場から動かずに、私が掴んだ腕に視線を移す。
「・・・・・あんたさ、ついさっき俺のこと大嫌いだって言ってませんでしたかね?
それとも・・・それが『違う』ってのかい?」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
私はただ無言で頷いた。
恥ずかしさで声を出すことも出来ずに。
凌統様はほんの少しだけ目を細めて優しげな眼差しを私に送る。
「じゃ、証明してもらいましょうか。
・・・・・あんたから俺に近付いてきてくれると有り難いんだけどね、。何せ俺はこっから動けませんから。」
口元に意味深な笑みを浮かべて凌統様が言った。
私は戸惑いながらも、まず1歩、彼へ近付いた。
それだけでも元々距離が余り無かったこともあって、充分近付いたことになると思ったから。
「・・・それじゃまだ遠いぜ。」
凌統様はそう言って再び笑った。
そして私はまた一歩だけ彼に近付く。
恐る恐る見上げる凌統様の視線が、まだだ、と言っているのが分かった。
私は恥ずかしさで顔をこれ以上もなく赤くして、その目を逸らす。
「無理です・・・凌統様・・・。こっ・・・これ以上・・・自分から殿方に近付くなんて・・・。」
私の言葉に凌統様がククッと喉を鳴らしたのが分かった。
私は咄嗟に顔を上げて彼を睨みつける。
「凌統様っ!笑うなんて酷い・・・!私は・・・これでも一生懸命に・・・!」
「はいはい、分かってますよ。じゃ、今度は殿方の方から近寄らせてもらうとしましょうか。」
「あっ・・・・・・!」
私が声を上げた時にはもう私は身体ごと凌統様の腕に絡めとられていた。
そして、すぐさま頬と唇の境に彼が口元を寄せて囁いた。
「あんたには長い間痛めつけられちまったから、少し意地悪くなっちまった。お許し願えますか?殿。」
吐息が私の唇に吹きかかり、その熱が伝染する。
口付けを交わしたあの時より、今の方がおかしな気分を誘うのは何故だろう。
「・・・・凌統様・・・・・・・そうやって私に尋ねることが・・・・・・・、意地悪だと気付いてらっしゃいますか・・・・・・?」
「さぁ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
顔を赤く染めたまま目を伏せて黙っていると、目の前の空気が揺れた。
唇の上を覆うように、柔らかく赤い凌統様の舌がゆっくり移動する。
「んぅっ・・・・・・・!」
驚いて身体を震わせ、私は視線を上げた。
至近距離の彼は満足そうに笑みを浮かべて言った。
「、俺の気持ちがあんたに伝わったのか、まだイマイチ不安でね。もっと触れちまってもいいかい?」
恨めしい視線を送る私を無視し、凌統様は私を床に押し付けた。
(伝われ、この想い-終わり-)
後書き
・・・・・・何か・・・私の小説ってこうご都合主義!?と思ってしまいましたが、
まぁ今更それをどうこう考えても仕方ないので放置します(笑)
そして私の書く凌統は凌統本人が言っているほど我慢してない気がする・・・。
甘寧の方が忍耐派な気が・・・。と言うか、
私のイメージで甘寧は「根性派」だからそうなってしまうのかもしれません。
凌統我慢してないし、する気ないし。どうなんだ!?
では、今回もこの作品を最後まで読んで下さったお客様に感謝しつつ失礼します。
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