「
『他のどんな仕事もお受け致します、それが例えどんなに辛いものだとしても。
ですが、凌統様つきの女官だけは辞退させて下さい。どうか、お願いいたします・・・!』
それが上からの命令なら、私程度の身分の者がどう言っても覆せる物じゃない事くらい分かっていた。
だけどどうしても言わずにはおれなくて、私は必死で頼み込んだ。
結局、その願いが叶うはずもなく、私は今、凌統様と向かい合って仕事をしている最中。
「、悪いがそこの書物、取ってくんないか?」
「・・・・・・・・・・はい。」
短く返事をして、私は手元にある書物の一冊を彼に渡した。
凌統様は私の渡した書物を受取り、チラリと中を確認するとそれをまた私のほうへ押しやった。
「これじゃない。その・・・・、いいや、俺が自分で取るよ。」
そう言って、私の手元にある書物へ手を伸ばす。
私は彼の手に触れそうなった自分の手を素早く引っ込めた。
余りに露骨な私の態度に、凌統様はピタリと一瞬動きを止めて私を見つめる。
「ああ、悪かったな。危うくあんたの手に触れちまうとこだった。
何せ、その手の届く範囲に俺が近寄った時点で城を出て行くってことだったですからねぇ?殿は。」
凌統様は皮肉めいた笑いを浮かべてそう言い、さっと書物を私の側から引き抜いた。
私は無言で彼を睨みつけると、そのまままた仕事を続けることにした。
『緊急以外で、この手の届く範囲に凌統様が私に近寄った場合、私は即刻この城を出て行きます。』
それが私がこの仕事を引き受ける為に出した彼への条件。
そして彼はその条件を飲み、私は今ここに居る。
どうしてそこまでして私を手元に置きたいのかが私には全く理解出来ない。
こんなにも自分の事を拒絶している女を側に置くよりも、
それこそ彼に全身全霊かけて仕えたい女官は他に幾らでもいるだろうに。
最も、彼は何故自分が私にここまで嫌われているのかなんて覚えてもいないとは思うけど。
凌統様の場合、女に『そういうこと』をする事なんか、
きっと3度の食事と同じ位当たり前の行為に違いないから。
あれは1ヶ月以上前、私が宴の終わった後の片付けをしていた時だった。
宴で出た残飯を敷地内のゴミ捨て場へと持って行き、そしてまた会場へと戻ろうとしたその時、
不意に後ろから凌統様に声を掛けられた。
『よぉ、。まだ仕事中かい?』
『・・・凌統様。』
元々私は殿方が全般的に苦手で、その上凌統様は女官の間でも女関係の噂は絶えずあった。
ゆっくりと私に近寄ってきた凌統様の顔はほんのり赤く、目元辺りも少しだけ同じように染まっていた。
宴の席で甘寧様に煽られて、いつもより多くお酒を飲んでいた様だった。
その為にこの時私は少なからず身構えてしまったのも確か。
だけど、凌統様は日頃から何度か言葉を交わしたことも少なくなかったし、
そして何より私に優しく振舞ってくれていた。
だからまさかあんなことになるとは思ってもみずに、私は足を止めた。
『はい、もう殆ど片付いては居るのですが、もう少し仕事が残っていますので。』
それから少しの間、私は彼と他愛のない会話をしてその場を離れることにした。
私が彼に背を向けた瞬間、突然に腕を掴まれ壁に背を押し付けられる。
驚いて顔を上げると、凌統様の息が顔に吹きかかる位近くにあった。
『凌統様!?おふざけになるのは止めて下さい!』
『俺は真剣そのものだぜ、。あんたに触れたくてうずうずしてたんでね。』
『こんなやり方卑怯です!離して・・・・っ!』
どんなに抵抗しようとも、掴まれた腕はビクともしない。
それどころか、私がもがこうとする程、自分から彼との距離を縮めてしまっているようなものだった。
『凌・・・・っ・・・!!!!』
抗議しようと開かれた唇を狙ったみたいに彼は自分の唇で強引に塞いだ。
生々しい程熱い吐息が私の喉を焦がすように満たしていき、
それと同時に柔らかい舌が私の口内隅々をくまなく動き回った。
怒りと羞恥心で赤くなる私の顔。
力の限りに抵抗している私をあざ笑うかの様に、
凌統様はその長いまつ毛の下の瞳を細めて私を見つめていた。
脳の神経まで侵されてしまいそうなおかしな感覚が私を襲う。
長く息苦しい口付けを強いられ続け、
私と凌統様の繋がった口内の奥から唾液の溢れた水音が厭らしい程耳をつく。
『・・・・・・・っ・・・・』
耐えられなくなった私は、そこで涙を流した。
その涙が私の頬を濡らし、私と彼の唇へ落ちる。
そこで彼はやっと私を解放した。
私は片手でごしごしと唇を拭い、大声で彼を罵る。
『っ・・・この・・・・この恥知らず!女であれば誰にでもこの程度構わないとお思いですか!?
私は・・・私はもう・・・2度と貴方と顔を合わす気にさえなりません!!!!!』
凌統様が何か言葉を口にする前に、私は走ってその場から逃げた。
そしてそれ以降、その時の言葉通り、私は極力彼との接触を避け続けたのだ。
廊下で出会いそうになれば、どんなに遠回りになろうとも道を変え、
そして止む無く同じ室内で仕事になることがあっても絶対に目を合わさずに居た。
そう、この時までは。
(伝われ、この想い -続く-)
後書き
またしても長々となりそうだったので超中途半端な所でぶった切りました。
しかも今までで1番お題に沿ってない作品に仕上がる確率98%・・・。
一応凌統の片想い説な感じのつもりなんですけどね・・・。
ううーん・・・書いてて思ったんですが、私的スランプ到来か!?
凌統偽物指数がいつもより高くなっていたら申し訳ありません。
では、ここまでのお付き合い有り難うございました。失礼します!
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