今でも貴方の夢を見る、甘寧将軍、貴方が戦場で鮮やかに敵を倒していくその姿を。
その揺ぎ無い信念、その真っ直ぐな瞳。
黄金の大きな腰の鈴に、逞しい体に画かれていた双頭の龍、そして頭の鳥の羽。
今でも私の心を支配しているのは鮮烈過ぎる甘寧将軍の記憶。
『魏に張遼あれば呉に甘寧ありだ!』
殿が言った最高の褒め言葉、私まで誇らしかった。
その全てを焦がす紅蓮の炎と勢いを、私は生涯忘れない、絶対に。
蜀が呉の領地に攻め入って来た。
そして勿論私たちも戦場へ出ることになった。
今回の戦の総大将は陸遜様、いつものように策は将軍達に事前に伝わっている。
まずは進軍してくる蜀の兵たちを食い止めることが私達の任。
火攻めの準備が整い次第、合図があると言うことだった。
「よっしゃぁ!!!野郎ども!!蜀の連中返り討ちにしてやろうぜ!!!」
いつもと同じように自軍の兵にそう言って甘寧将軍が気合を入れる。
だけど、私の心は何故かとても胸騒ぎみたいなものを感じていた。
今日の戦中に、とてつもなく嫌な事が起こりそうなそんな予感だ。
「おい、!行くぜ!蜀軍の奴らをこれ以上先に進軍させんな!」
「あ、はい!」
・・・とにかくいつもより気を引き締めていかないと!
その後、蜀の第2軍がまた私達の方へ進軍してきた。
それを必死で食い止めているその途中に、
突然に呉軍から敵陣に向かって火矢が飛んでいくのが見えた。
そして、あっという間にその火矢が蜀の陣を炎に包んでいく。
伝令兵士が甘寧将軍に向かって言った。
「伝令!!進軍開始の合図です!!」
「おぅ!その言葉を待ってたぜ!行くぞ!野郎ども!!!」
嬉しそうに声を上げて、甘寧将軍が進軍を始めた。
今のところ、私が心配してたような事は起きてない。
敵兵たちは炎に動揺して右往左往している。
私の考え過ぎならいいけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
甘寧将軍から少しだけ離れた場所でその背中を見つめて敵を相手にしているその時だった。
それは余りに唐突に起きた。
ビュッ・・・・
矢が空を斬る鋭い音が私の耳に届いた。
「っ!?」
ドッ・・・・・・・・・・・・・・・
それは本当に一瞬の出来事。
気が付けば、その矢は私の前方に居た甘寧将軍目掛けて飛んで行き、
そして、間違いなくその刺青の龍を捕らえていた。
「・・・っくそ・・・っ・・・・!」
将軍の漏らした小さなうめき声が、何故だかやけにハッキリと聞こえた。
私は目にしたものが信じられなくて、一瞬目を見開いて棒立ちになってしまっていた。
「・・・甘寧・・・将・・・・・・!?」
掠れた声でそう言って、やっと我に返る。
そこから先は、まるで時間が突然ゆっくりと流れている様に感じた。
周りの兵士の動きも、顔を歪めて足元から倒れていく甘寧将軍も、そして必死にそれに近寄ろうとする私も。
不自然な程ゆっくり、ゆっくりと全ての動きが運ぶ。
戦場の声も音も何もかも私の耳には届かなくなっていた。
ただ、早く将軍の傍に走って行きたい、それだけだった。
甘寧将軍との距離はそれ程なかったはずなのに、こんなに必死に走ってるのに、
まるで千里は離れているみたいに感じる。
「ヤベェ・・・鈴が重いぜ・・・・・・。」
「甘寧将軍っっ!!!!!!」
やっと片膝をついている将軍の傍まで駆け寄って、私は声を上げた。
その背中には見た目にも深く矢が刺さっている。
「甘寧将軍!!撤退しましょう!!私が・・・・!」
もうほとんど涙声に近い状態で私は叫んだ。
思考は正常に働く訳なんかなく、ただ、今の光景を信じたくなくて。
将軍が何かを言おうと口を開いたのと同時に、
掠れたうめき声が聞こえて声ではなく、血を吐き出した。
真っ赤な鮮やかな血が地面を濡らしていく。
「っっ・・・喋らないで!!!お願いです!!!!もう喋らないで・・・・・!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・、俺を残して・・・・野郎ども・・・・を・・副将の奴と撤退させ・・ろ・・。」
「っっ!!!嫌!!!嫌です!!!甘寧将軍も一緒に!!」
私はこの時初めて、将軍の命令に逆らった。
将のない軍は撤退する、それは戦の常識。
だけど、まだ将軍はここに居る、ここに。
置いてなんていけるはずがなかった。
「なぁ・・・・・・俺・・・お前に惚れてたんだぜ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「将軍・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
今・・・・・・何て・・・・・・・・・・・・・・・!?
「・・・もっと・・・・強くなりやがれ・・・・根性・・・みせろや・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「っっつっ!!!!!!????甘寧将軍!!??甘寧将軍!!??」
唇が、体がブルブルと震える。
将軍は、片膝をついたまま、私に寄りかかるようにして動かなくなった。
黄金の鈴も、双頭の龍も、真っ赤な血で染まってる。
「いやぁぁぁ!!!将軍!!!私は将軍がいなきゃ・・・・・・・・・・っ!!
甘寧将軍!!!!!!!甘寧将軍!!!!!!!!」
喉が裂けてしまいそうな位に私は叫び続けた。
涙で視界はぼやけていた。
音のなくなったはずの戦場に、敵将の声だけが私の耳に大きく響く。
「敵将甘寧討ち取ったり!!!!!」
そこからの記憶は曖昧。
気付けば傍には凌統様が居て、足元には甘寧将軍を討ち取った沙摩柯の屍。
「俺に断わりもなく逝っちまうなっての・・・・。」
凌統様は甘寧将軍を見下ろして、そう小さく呟いた。
その日から、私の傍に有った私の目標も、軽やかな鈴の音もなくなってしまった。
「将軍!軍議の時間が変更になりました!これから5分後に始めるそうです!」
「分かった、すぐ行く。」
「はっ!」
あれから数年、私は甘寧将軍から頂いた覇江を片手に、
将軍の言葉どおりここまで『のし上がって』来た。
だけど、あの頃の将軍に比べたら、まだまだ先は長い。
「あんた、強くなったな。」
隣に居た凌統様が不意にそう言った。
凌統様は、私が甘寧将軍のことを考えるときに腰の刀に触れる癖を知ってる。
多分、今もそれで気付いたんだろう。
「根性見せろ、それが甘寧将軍の最期の言葉でしたから・・・・・・・・・・。」
「へっ・・・・ほんと、嫌になる位あいつらしいね、まったく。」
そう言って、口元に笑みを浮かべた凌統様。
だけど、私と甘寧水軍の兵達と同じく、ううん、
もっとそれ以上に悲しんだのは凌統様だった。
甘寧将軍が戦死した数日後、凌統様は哀しそうに口元を曲げて言った。
『俺のこの手で殺してやりたい位憎い相手だったってのに、何でこんな気分になっちまうんだか・・・。』
甘寧将軍は、今もしっかりと私達の胸に生きている。
いつか将軍と並んで歩けるくらいの力をつけたと実感できたその時に、
甘寧将軍、貴方がくれた告白の言葉に応えたい。
今も夢見るその背中。
届かないほど遠くなったその背中。
今も私の目標は、甘興覇・・・・・・・貴方ただひとりだよ。
(遠くなる背中 -終わり-)
後書き
孫策お題夢(こっちを見て〜)の甘寧バージョン、
と言う感じでリク頂いてましたが、如何でしたでしょうか!?
もう猛将伝意識しまくってて申し訳ありません。
今回は演義のネタを入れた上に、実は両想いだったという事で・・・。
孫策の時は100%報われない恋だったので。
ぴょん太様、本当に、本当にお待たせ致しました!リクエスト有り難うございます!
そしてこれを読んで下さったお客様も有り難うございました。
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