「おぅ!!今日こそおめぇに勝ってやるぜ!」

自室で1人月を眺めて休んでいたに、彼女が扉を開けた途端、甘寧は大きな酒瓶を突き出してそう声を掛けた。
彼女はその酒瓶をマジマジと見つめた後、艶やかな唇に僅か笑みを称えて口を開く。

「あら、甘寧・・・フフ・・・また高そうなお酒ねぇ?毎回毎回あり難いこと。
あんたのお陰で色々なお酒が楽しめて私も嬉しいわ。」
「ケッ!!今日こそその余裕、ぶちのめしてやるぜ!!」
「いいわよ、じゃ、始めましょうか?」

言って、彼女は室の中央にある椅子に腰掛けた。

「おうよ!!」

の向かいの椅子にドカッと腰を落ち着けると、彼は杯を取り出し、
片方を彼女に渡した。
そして酒瓶の蓋を開けるとすぐさまそれを彼女の杯に注ぐ。
純度高い芳醇な酒の香りが2人の鼻をくすぐった。

「手始めにしてはいい酒を選んだじゃない・・・、どうせすぐに終わるのに、少し勿体無いわね。」
「ああ?飲み比べだからって安酒ばっかじゃ飽きちまうだろうがよ、
オメェは気にせず勝負に集中しろ!勝負に!」
「あんたも余程暇と見えるわね、甘寧。毎夜、毎夜、他に夜這いをかける女もいないの?」
「るせぇ!余計なお世話だってんだよ!」

寂しい男ねぇ、と呟くと、彼女はそのまま手元の酒に口をつけた。
甘寧は小さく舌打ちをして、グイと喉に酒を流し込む。
喉に熱い塊が流れていくのがよく分かった。

「ヤベェ、しょっぱなっからこんな純度の高い酒選ぶんじゃなかったぜ、と思ってるでしょ?」
「・・・・おめぇなぁ!・・・ったく、何処まで性悪なんだよ。凌統の野郎じゃあるめぇし。」

の台詞に甘寧は顔をしかめた。
彼女は苦笑しながら酒瓶に手を伸ばし、彼の杯に酒を注いだ。

「冗談よ、冗談。あんた、元々お酒は強かったみたいだけど、最近もっと強くなってきてるんじゃない。
こっちとしては張り合い甲斐があるってものだけど。」
「・・・・、おめぇにそう言われてもあんま嬉かねぇんだけどな。
黄蓋のおやっさんまで降しちまったらしいじゃねぇかよ。
殿の話じゃ、城中の酒かっ食らっちまうんじゃないかって勢いだったんだってな?伝説の飲む比べだって聞いたぜ。」

は2杯目の酒を一気に煽り、そして彼に答える為に口を開いた。

「もう3年近く前の話よ、時効だわ。
あの時より確実に弱くなってる、今黄蓋殿とやったら間違いなく負けるのは私。」
「よく言うぜ、その弱くなっちまってるはずのおめぇに毎回負けてる俺は何だってんだよ!」
「そうね・・・ま、言いたくはないけど、経験の数かしら?
水賊より山賊の方が酒盛りってのはよくやってたのかもしれないわねぇ。」

甘寧は面白くなさそうな表情で、また空になっている彼女の杯を酒で満たした。
そして自らの杯にも手酌で酒を注ぐ。
そうして他愛ない話を続けて酒を飲み続けるうちに、程なく彼の持ってきた酒瓶は空になった。
その後も数本の酒を2人で空け、やがて今までの2人の勝負では最高記録となる結果に持ち込まれる事となっていた、。

「凄いじゃない、こんなにもつとは思わなかったわ。」
「ケッ・・・おめぇは随分余裕じゃねぇか。『弱くなった』が聞いて呆れるぜ。」
「それが・・・そうでもないのよ?」

彼女はそう言って、一瞬紅い舌でピチャと杯の酒を舐めた。
その姿が余りにも艶かしく感じ、甘寧の背にぞくりと何かが走る。
彼は酒で満たされている手元の盃を一気に飲み干すと、をジッと見つめた。

「そろそろ限界か?」
「・・・あんたはどうなの?甘寧。」
「あ?俺は・・・・・・・・。」

言いかけて、彼は一瞬口をつぐむ。
まだ平気だ、と意地で言ってやる事も出来たが、
彼は素直に自分も限界が近い事を認めることにした。

「実は俺もやべぇ、後・・・2杯ぐれぇってとこか・・・。」
「・・・そう、じゃ・・・・・・・。」

彼女は足元に屈みこむと、掌に収まりそうな小さな酒瓶を取り出した。
そして、その中身を空になっているお互いの盃に注ぐ。
先程よりも更に強い酒の匂いに、甘寧は思わず眉間にしわを寄せて彼女を見た。

「フフ・・・気が付いた?このお酒はね、これに直に火を点ける事が出来るほど純度が高いのよ。」
「・・・・・・・・おいおい、最後にそんなもんを持ってくんのかよ。
俺が限界だっつった途端にそれたぁ・・・おめぇやっぱりいい性格してるぜ。」

深い溜息を吐いて甘寧は言った。
は再び口角を妖しく上げて笑んだ。

「甘寧、私もいつ潰れてもおかしくない位は飲んだわ、だからこれで最後よ。
これを同時に飲み干して、平気で居られた方の勝ち、どうかしら?」
「・・・・・・・両方潰れちまったらどうすんだよ?」
「引き分けってことになるわ。」
「ったく・・・・・・・・・・・・・・、分かったよ、チッ・・・ここまで来たんだ、俺にも意地があるぜ。」
「そうこなくちゃね?じゃ、はい。」

甘寧に盃を渡し、は片手の盃を軽く掲げる。
そして互いに頷きあうと、それを一気に傾けた。
甘寧は盃の酒が口内へ進入した瞬間、危うく声を上げそうになった。
喉を焼け焦がすようどろりとした熱い酒が、まるで溶岩を含んだ気にさえさせる。
飲み込むことすら困難なそれを、どうにか喉を上下させて胃に流し終えた。
それ以前に大量の酒を飲んでいた事も大いに手伝い、
体中に熱と酔いが回り始めるのが彼自身よく分かった。
今立ち上がれば間違いなく、床へ無様に身を叩きつける結果になるだろう。

「・・・・・・・・・・・・クソ・・・ザマねぇぜ・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・あら、降参のようね?」
・・・化け物かよ、・・・・・・おめぇは・・・・・・。」

共に酒を飲み干したはずのは、未だ先ほどと変わらぬ様子で妖しい笑みを浮かべている。
彼は負けを認めるしかなかった。

「じゃあ、負けたあんたには言う事を聞いてもらいましょうか。」
「ああ?おい、いつんな約束したってんだ?」
「これだけ熾烈な戦いに勝ったのよ、それ位はしてもらわないとね。」
「ケッ・・・・・・・・・・・・。」

そんな会話をしながらも、
甘寧は意識だけはハッキリしている自分自身の酒の強さに半ば感謝に似た心を抱いていた。
酒の飲み比べで連敗を記した上、記憶をなくして醜態を晒すなど考えたくもなかったからだ。
特に、の前では。

「甘寧、あんた毎回こうして私に勝負を挑んできているようだけど・・・、
そんなに私に負けたくない理由は何なの?今まで何度も同じ事を聞いたけど、
1度も答えてくれた試しがないわね、いい機会だから聞きたいわ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「甘興覇、あんたは勝負に負けたのよ?答えてくれるわよね?」
「だぁぁーー!!分ぁったよ!ったく・・・・答えりゃいいんだろ、答えりゃよ。」
「フフ・・・そうそう、あんたは敗者なんだから。」

フンッと顔をしかめ、甘寧は不承不承口を開く。

「前におめぇ言ってやがっただろ、
自分の男になる奴ぁ、絶対自分より腕っ節も酒も強くなきゃいけねぇってよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

聞き返した彼女に対し、彼は2度目を口にするつもりはない事を示す為、視線を逸らした。
はそこで彼が何を言いたいのかを理解し、半ば意地の悪い笑みを浮かべる。

「そんなこと言ったかしら?」
「覚えちゃいねぇってのかよ・・・ったく・・・こっちは・・・。」
「こっちは?」

ぶつくさと口の中で呟く彼に、彼女は楽しそうに先を促す。

「るせぇ!おめぇの質問にゃ答えたぜ!
・・・・っつーことで、今日はもうこれで終わりだ!あばよ!」
「待って。」
「あ?」

立ち上がろうとした甘寧を、が不意に呼び止めた。
彼女は手元にあった自らの盃と、そしてそれとは別に同じ色と形を持つ盃をどこからか取り出した。
その盃には酒が並々と注がれている。
甘寧には一瞬彼女が何を言いたいのか理解出来なかった。

「さっき私が飲んだのはただの水よ、甘寧。」
「っ!!??なっなにぃぃ!?」
「騙して悪かったわ・・・直前までは本気で飲むつもりではいたんだけど、
丁度良く傍に水も盃もあったから・・・・・・・・・。」
「っておめぇな!!・・・・・・・くそっ・・・・ヤベェ・・・怒鳴ると余計酒が回りやがるぜ・・・。」

甘寧は片手で額を押さえ、眉間にしわを寄せると再び椅子に腰を下ろす。
はゆっくりと立ち上がると、彼の傍まで近寄った。

「大体甘寧、あんたがいつまで経っても何も言ってこないから悪いのよ?
周りじゃ当然のように私もあんたもデキてると思ってるのに、
肝心のあんたは最後の一言を口にしようともしないんだから、
こっちも業を煮やしたのよ。」
「・・・・・おめぇに負けたまんまじゃ男として格好つかねぇだろうがよ!
この鈴の甘寧ともあろう俺が。」

それを聞いたの唇がふっと少しだけほころんだ。
座ったままの彼を見下ろし、笑みを浮かべたまま更に口を開く。

「だったらあんたの勝ちよ、この酒は私には飲めない。
潰れてもあんたの前ならいいと思ったの、
酒癖が悪くないって事くらい自分でも分かってたからね。」

そう言った艶やかな紅い唇が、甘寧の唇に下りた。
不意を突かれた表情の彼に、目を開けたままのが囁いた。

「飲み比べをするずっと前から、私の答えはもう出てたのよ。甘寧、あんたの答えを聞かせて?」
「・・・・・・・・この状況で俺がおめぇを拒むと思ってんのか?今ので酔いなんざ醒めちまったぜ。」

言い終えるとすぐに甘寧は彼女の後ろ頭を捕らえ、グイと唇を押し付けた。
熱と湿り気を帯びた吐息が、先ほどの酒さながらに互いの喉を焦がすように降りていく。
噛み付きあうような口付けは、息を荒くした。
既に酒で無用な理性を剥がされている彼らは、本能を丸出しにして貪りあう。
の腰紐に手を掛けた彼の手が、なんの躊躇いも見せずにそれを荒々しく解いた。

それと同時にはらりと彼女の衣服が乱れ、発光している如くに見える白い肌が露になる。


・・・酔いが醒めちまったってのは取り消すぜ・・・・。」

「・・・え?」
「今から溺れる位酔っちまうことになるみてぇだ、おめぇの体に・・・。」


甘寧のその台詞に、の濡れた紅い唇が、誘うようにその端を上げた。


(少しだけほころんだ唇 -終わり-)



後書き
・・・大人な艶のある話を書こうと思ったんですけど、
見事に玉砕致しました・・・。
後、ヒロインの掌で転がされる風なそれでいて漢な甘寧も書きたかったんですけど・・・・。
駄目駄目過ぎた(大涙)また私的プチスランプか!?そうなのか!?
・・・・・・・こんな作品を読んで下さったお客様、誠に有り難うございました。
失礼致します。


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