陸遜と恋人同士として付き合うようになって1週間以上過ぎた。
公積は相変わらず女を床に連れ込んでいる・・・と思いきや、最近その様子は無いようだった。
理由は全く分からないけど、アイツなりに何かを考えているのか、それとも単にその気が無いだけか。
あいつの周りに群がる女達は、私の事を『嫉妬』の対象にしてない、
そのせいか公積が最近何故自分たちを相手にしてくれないのかを訊ねて来ることも少なくなかった。
勿論、私としてはいい迷惑だ。

「・・・私に公積の女関係きかれても困るわ、
確かに幼馴染で大抵の事は知ってると言えなくもないけど、お互いもうそんな歳じゃないんだし。」
「では・・・凌統様に他に誰か特定の女人が出来たかだけでも分かりませんか?」
「・・・・・・・・・・・・さぁ?知らないわ。」
「そうですか・・・。」

大きな溜息と共に彼女は立ち去って行った。
溜息を吐きたいのは私も同じ。
一体何度同じような質問と返答を繰り返してきたか知れない。
公積がその手の方へフラフラとしていない事は確かにいいことだし、嬉しいと思う。
だけどそれとこれとは話が別。

「あの・・・様・・・ちょっと宜しいでしょうか・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

やっと解放されて2,3歩歩いたのも束の間、また違う人間が声を掛けてくる。
私だって暇な訳じゃない、これから書簡を片付けなければならないし、他にやることだってあるのだ。
私はその近衛兵の彼女を振り返り、とにかく早く逃げてしまおうと口を開きかけた。

殿に用ならば、凌統殿の事以外にして下さいませんか?」
「え?陸遜!」
「陸遜様・・・。」

突然私の背後から現れた陸遜が、笑顔で彼女に向かって言った。

「凌統殿の事でしたら、殆どの女官や近衛兵の方達は殿から話を聞き出しているはずです。
彼女達から話を聞いて下さった方が此方としても助かるのですが。」

笑みを浮かべたままで彼はそう続けた。
近衛兵は驚いたように私と陸遜を見比べて、失礼します、と言い残すと逃げるようにそこから立ち去った。

「有り難う、陸遜。助かったわ。廊下を歩く度に声を掛けられるもんだから困ってたのよ。」

私は苦笑して彼に言った。
陸遜はつい先ほど近衛兵に向けていたのとはまた違う、柔らかな笑顔を私に向けて口を開いた。

「いいえ。それより・・・今夜、お時間があるのでしたら、わたしの所まで来て頂けますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・え?」

その言葉に私は思わず彼を見て聞き返した。
陸遜は無言でジッと私の瞳を見つめている。
私はその意味をその瞳から理解し、小さく頷いた。

「分かったわ、仕事が片付き次第向かう・・・・。」
「お待ちしています・・・・。では、わたしはこれから執務室に行きますので。」
「ええ・・・・・・・・・・・・・・・。」

私の返事を聞いた陸遜は、そのまま執務室の方へ歩き出した。
私はその背中をじっと見送る。


・・・・・・恋人・・・・・・・か・・・・・・・・・・。


夜に男の室を訪れる事にどんな意味があるのか、そんなことは考えなくても理解できる。
いくら年下でも、陸遜は私よりはずっと其方の方面の事は分かっているように思えた。
私は不意にあの日鍛錬所から出て行く私を見つめていた公積の視線を思い出した。
いつもの物とは明らかに違う、熱い視線を。


・・・・馬鹿らしい・・・、それが何だって言うの・・・?


頭を左右に軽く振り、その映像を振り払う。
私はそれからすぐに仕事に戻ることにした。



仕事に集中すると時間は飛ぶように過ぎていく。
いつ間にか明るかった部屋には蝋燭が灯されていた。
書簡も切り良く終わったところで、私は手を置いて辺りを片付ける。
何かを考え出すよりも早く、私は陸遜の室に向かった。

「お待ちしていました、殿。」
「・・・・・・・陸遜・・・・・・・。」

室内に招きいれられて、私は素直にそれに従う。

「実は、近く大規模な討伐があって・・・ここを長い間空けなければいけません。
恐らく貴女は別の任を受けることになると思います、ですから当分わたしたちは会えないでしょう。」
「それは初耳ね。軍師様方の秘密事項なんじゃないの?」
「ええ、ですからこれは内密に。」
「分かったわ。」

軽く微笑んだ私の腰に、陸遜が腕を絡めてくる。
そしてすぐに自分の方へ抱き寄せた。

「ここを空ける前に・・・どうしても貴女の気持ちを確かめておきたいんです・・・。」
「確かめる・・・・?」

問い返すために顔を上げた私の唇を陸遜が塞いだ。
彼と口付けを交わすのは初めてではない。
でも、気のせいかそれはどこか焦りを帯びているように私には思えた。


シュル・・・


口付けが激しさを増し始めた所で、陸遜が私の腰から帯紐を抜く。
更にその手が肌蹴た襟元にかかる。

「・・・・・っ・・・・・・・・。」

それを覚悟して来たにも関らず、私の心臓が大きく跳ねた。
動揺を隠せず、震えそうになるのを必死に堪える。
陸遜は寝台に私を横たえ、唇をゆっくりと鎖骨へ、胸元へと下降させていった。

「・・・・・・・こ・・・・・・公積・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・!」
「あっ・・・・・・!?」

震えて掠れた声で私が口にしたその名。
自分が信じられなかった。
陸遜が手を止め、私から離れる。

「陸遜・・・わた・・・私・・・は・・・・・。」

声も体も小刻みに震えてしまう。
彼は暫く私を見つめた後、床に落ちた私の帯紐を拾った。

「やはり・・・・・・そうだったんですね・・・・・・。」
「陸・・・遜・・・・・・違う・・・そうじゃないわ・・・!」
「いいえ、いいんですよ殿。判っていました、貴女の気持ちは。」

クス、と、小さく哀しげに陸遜が笑う。
私はその言葉に彼を見つめた。

「貴女が凌統殿を幼馴染以上に想っていることを・・・わたしは知っていました。
もう随分以前からそうだという事も、そしてそれに貴女が気付いていない事もです。」
「陸遜・・・・・・・・・・?」

彼は私の片手を取り、寝台から立ち上がらせた。
そして手にある腰紐を私の服を整え、また元のように結んだ。

「わたしは卑怯者です、それを分かっていながら貴女が気付いていないのをいいことに、
貴女を我がものにしてしまおうとしていました。もしもこのまま貴女が凌統殿の字を口にしなければ・・・、
その時はきっと最後までそれを知らないふりをしていたでしょう。」

私の頬に手を触れ、そして彼は軽く私の唇に唇を寄せた。

「・・・短い間でしたけど、楽しかったですよ。殿。」
「陸遜・・・私・・・・・・・・・・。」

言いかけた唇を、私はすぐに閉じた。
これ以上、何を言ってもきっと陸遜を苦しめる結果にしかならないと、分かっていたから。

「ごめん・・・・・・・・・・・・・・・。」

一言口にし、私は彼の傍から離れると、室を出た。


殿・・・わたしは・・・たった一度だけでも、貴女に伯言と・・・呼んで欲しかったんです・・・。」


私が扉を閉めたその後に、陸遜が微かな声で呟いたその言葉を、私が知るはずもなかった。


(私など、眼中に無い -続く-)



後書き
・・・・・・・前後編の予定が長ったらしくなって、しかも陸遜夢!?
って状態になりました。相変わらず陸遜偽物率超絶高し(涙)
脇役だと黒陸遜なのばっかしなので、今回は割と普通のいいヤツにしてみました。
しっかーし、予定ではこんなシリアスチックにするつもりはなかったんですけど・・・。
しかも1と2、長さのバランス微妙。3はどうなることやら・・・。
では、今回此処までのお付き合い、誠に有り難うございました。失礼致します。


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