最低の女。
公積の事をあれ程けなしておきながら、自分は結局陸遜を傷つけるような真似をした。
それなら、遊びと割り切っていた公積の方がどれだけマシだろう。

居たたまれない気持ちで、私は城内にある泉の傍に腰を下ろしていた。
深夜、もうここを通りかかる人間は皆無に等しい。


『貴女が凌統殿を幼馴染以上に想っていることを・・・わたしは知っていました。
もう随分以前からそうだという事も、そしてそれに貴女が気付いていない事もです。』


耳に残る陸遜の言葉。
あんな状況に陥るまで、私が公積への気持ちに気付かなかった事が陸遜を苦しめた。


違う、本当は・・・気付かないふりをしてたのは私・・・。
公積が・・・絶対に私を女だとは思わない事を知ってたら・・・。


『昔から知りすぎてるコイツと今更デキるも何もあったもんじゃないね。』


そうだ、公積のあの台詞通り、私達はお互いを知り過ぎていた。
だから公積が私に女としての興味を抱かない事も嫌になる位分かりきっていたのだ。
どこかで奴を男としてみていた自分を必死で閉じ込めておこうとしていた。
付き合う女達の話をされる度、興味のない顔をして。

「よぉ、。こんなとこでこんな時間、何やってんだ?」
「・・・・・・・っ!!??」

考えに耽っていたせいで、気付くのが遅れた。
私の背後にいつの間にか公積が立っている。
私は思わず目を見開いて公積を見上げた。
今、1番会いたくない私の幼馴染を。

「公積・・・何で貴方がここに・・・。」
「呂蒙殿に呼び出されて、ついさっきそれが終わったんだ。
で、眠れそうにもないからここをぶらついてたって訳だ。」

そう言って、公積は私の隣に腰を下ろした。

「・・・・・・・・・・公積、悪いけど・・・私はもう戻るわ・・・。」

言って、すぐに立ち上がろうとした私の手を、不意に公積が掴む。

「っ!公積?」
「逃げんなよ、。それとも、陸遜に俺にはもう近付くなとでも言われたのかい?」
「・・・・・・・・・・違うわ。そんな事、言うはずがない。・・・凌公積、手を離して。」
「嫌だと言ったら?」

掴まれた手に力がこもり、グイと引っ張られると同時に私は体勢を崩した。
そしてそのまま公積が私を草の上へドサリと横たえる。
私は腕を振り切り、上にあるあいつの顔を睨みつけた。

「公積、今更私相手に何を考えてるの?ふざけるのもいい加減にしなさい・・・。」

静かに、だけどハッキリと私はそう口にした。
複雑な感情が渦巻いていて、今は特に公積と話をする気にもなれない。
それでもこの幼馴染の端整な顔から目を離せない自分に、心の底から苛立った。

「俺はふざけてなんかないぜ。どうした?、何をそんなに苛ついてんだい?」
「・・・・・・貴方には関係のない話。さっさと退いて。」

私は無理矢理に身を起こそうと体を動かした。
その途端、またしても公積が私の体を押さえつける。

「っ!」

いつの間にこんなに力をつけたんだろう。
大人の男なのだから仕方ないのは判っている。
それでも、私には幼馴染の公積と、今目の前にいる公積はまるで別人のように思えた。

「公積!」
、さっきからあんたが動く度に・・・陸遜と同じ香りがするな・・・。」
「え?」
「あいつに抱かれたのかい?」
「何を言って・・・・・・。」

フッと私を見下ろす公積の唇が薄く上がった。

「『坊や』なんて呼んでた相手を恋人にして・・・しかも肌まで合わせて・・・。
この短期間で随分色気のある女になったもんだな、俺の幼馴染殿は。」
「っ!!」



パァン・・・・・・・・・



夜の澄んだ空気に、私が公積の頬を打ったその乾いた音は、鋭く、大きく響き渡った。
掌に痺れた痛みを感じながら、未だに叩かれた方向に逸らされたままの公積の顔を見上げ、
私は怒鳴り声を上げる。

「どうしてっ!?どうして貴方にそこまで言われなくちゃならないの!?
人の気も知らないで私どころか陸遜まで馬鹿にして!!
幼馴染だからって、そこまで許されることなの!?もういいから放って置いてよ!」
「・・・・・・・・・・・・・。」

私の名を呼んで、公積はまた私に触れようと手を伸ばす。

「・・・公積、お願いだから・・・本当にもう放って置いて・・・。」
「悪かった・・・・・・・・・・、だから・・・・・泣くなっつの・・・。」
「え・・・・・?」

公積に言われて初めて自分が涙を流している事に気付く。
あいつは私の肩を掴んで自分の方へ引き寄せた。

「公積・・・・?何で・・・・・・・・・。」
「苛ついてんのは俺の方だ・・・。全く馬鹿な話だが・・・が陸遜と付き合いだしてやっと分かった・・・・・・・。」
「分かっ・・・た・・・?」


「俺は・・・あんたをただの幼馴染としてじゃなく・・・・女として見てたってこと。
つまり・・・・、俺はあんたがずっと好きだったんだ。」


一瞬、耳元で囁かれたはずのその言葉が理解できなかった。
そして瞬きをしたと同時に私の目に溜まっていた涙が頬を伝って流れた。
公積はその雫に唇をつけてそれを拭う。

「あ・・・・・・公積・・・・・・・・・?」
「陸遜の奴には悪いけど・・・・・俺はあんたを諦めたりはしたくない・・・。」

頬に唇を寄せたまま公積は言った。
私は震える唇で言葉を紡ぐ。

「・・・陸遜には・・・さっき別れを告げられたわ・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・え?」
「・・・陸遜は・・・気付いてたのよ、私の気持ちに・・・・・・・。」

そこで公積は少しだけ私から離れて此方をじっと見つめた。

「・・・・・・・・凌公積・・・貴方をずっと好きだったという・・・私の気持ちに・・・・・・。」
・・・・・・・・・・。」

再び公積が私を抱き寄せて、腕に力をこめた。

「・・・公積・・・貴方の体・・・震えてる・・・?」

まさかとは思いながらも、私は訊ねた。
女の体に腕を回す事なんて、慣れきっている公積に限ってそんなことがあるはずはない。
それでも、私自身の体の震えとは違うように思えた。

「・・・・緊張してんだよ・・・あんたに触れるのに・・・。」
「緊張?公積が私に・・・?本気で?」
「それはあんたが1番良く分かってんじゃないですか・・・?
ったく・・・俺にこんな事言わせんなっつの・・・。

少しふてくされた声で公積が答える。
私は少し公積と距離を取り、その顔を覗き込んだ。

「・・・今更私に緊張してどうするの?公積殿?」

軽く笑みを浮かべて私は言った。
先ほどまでの複雑な感情と苛立ちはもうない。
自分でも可笑しい位、私は公積をずっと長いこと好きだったのだと思った。

「今更・・・あんただから緊張してんだぜ。こうして触れんのも、それにこうして・・・。」

言いながら、公積が私の方へ顔を近づけてくる。
鼻先が擦れ合いそうになるギリギリで止め、吐息を吹きかけながら続けた。

「口付けすんのもね・・・・。」

そしてそのままゆっくりと唇を重ねる。
初めて感じる、公積の唇の感触。
私の涙で少しだけ濡れていて、温かくて柔らかい。
私の唇を自分の唇でしっとりと覆うように口付けする公積。
ほんの少し離れてはまた唇を重ね、そしてまた離れる。
私はいつの間にか自分からも彼の唇を追い求め、唇を吸い寄せていた。
歯列を割って私の口内に公積が舌を挿し入れる。
ぬらりとした独特の感触に、体に電流が走ったように私はビクリと体を震わせた。

「ふ・・・んあっ・・・・・・・・。」

我慢しきれなかった甘ったるい声が私から漏れる。
恥ずかしくて顔が真っ赤に染まった。

「こないだ、あんたに言ったこと訂正しますよ。殿?」
「え・・・・・・・?」

不意に唇を離した公積が言った。
その目元がフッと細められる。


「あんた・・・充分色っぽいぜ。ガキの頃からずっと見てた俺が・・・・・息を飲んじまうくらいにね。」


面と向かってこんなことを言われるとは思っても見ず、私は顔を赤くしたまま思わず目を逸らした。

「凌公積・・・・・・・・・・・。」
「ん?」

息を大きく吸い込んで、私は目の前の幼馴染の耳元に唇を寄せる。


「もっと私に色気を学ばせてくれない?」


私のその台詞に優しく微笑んだ公積は、今まで見たどの表情より愛しく思えた。


(私など、眼中に無い -終わり-)



後書き
な・・・長かった!!!しかも何か陸遜御免なさいな結果に・・・。
そして辻褄が合ってなさげな気もします・・・・。
しかも続けて凌統更新してしまった。マイラブ指数は甘寧も同じなのに!
こんな作品に最後までお付き合い頂き誠に有り難うございました!
では、失礼致します。


ブラウザバック推奨