「・・・つまり、結局別れたの?あの綺麗な年上の彼女とは。」
「別れる・・・ねぇ、ま、そういう意味に取れなくもないかもな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・公積ちゃん?それって凄くどうでもいい答えに聞こえるんですけど。」
私の向かい側に座っている公積を溜息混じりに睨みつけ、腕組みして私は言った。
奴は手元にある盃を持ち上げて、それを口に運びながら私を見ている。
「過ぎた話だろ、俺はもう今更どうこうしようなんて考えちゃいないんでね。」
「・・・・・・・・・・・速すぎるのよ、その割りきりが。あんたさ、もう24でしょ?
もっと落ち着いていい人見つけようとか思わない訳?毎回同じような話聞いてる気がするわ。」
言った私に、公積は盃を空にしてからニヤリと笑んで口を開いた。
「こりゃ驚いたね、。あんたこそ、そろそろ色気ってもんをもっと学んで、
いい男見つけた方がいいんじゃないのかい?
幼馴染としちゃこのまま歳食って一人身になりかねないあんた見てたら心配で夜も眠れないね。」
私は奴を睨みつけたままで手酌で盃に酒を注ぐ。
そしてタンっと瓶を勢いよく置き直し、負けじと言葉を紡いだ。
「・・・・・よく言うわよ、眠れない理由なんか床に毎晩女連れ込んでるってだけじゃないの。
悪いけどね、凌公積、私は貴方と違って慎重に事を進めたい性質なのよ、幼馴染なのにそれも忘れた?
それに、私はこのまま武に身を置いていくのも悪くないと思ってるわ。」
そこまでまくしたててから、注いだ酒をグビグビと喉へ流し込む。
唇の端に垂れて流れていきそうになる酒の雫を手で拭い、溜息を吐いた。
「幼馴染だから言ってるんですよ、殿。」
「・・・心配無用!酒がまずくなるわ。私は公積ほど器用でもないし、切り替えも早くないしね。今のままで充分よ。」
言って、私は立ち上がる。
公積は頬杖をついたまま私を見上げた。
「もうお戻りですか?」
「陸遜の所に呼ばれてるのよ。これ以上飲んで行ったら坊やに嫌われますからね。」
「・・・へぇ、陸遜に?」
「そっ、出来の悪い幼馴染への苦情かもしれないけど、行って来るわ。」
私は奴に背中を向け、ひらひらと手を振りながらその場を立ち去る。
公積が1人になったのを狙ったように、女官が1人、奴の席へ近付くのが視界に入った。
あらあら、今日の夜のお相手も早々とお決まりなのね、公積殿。
そんな事を考えながらも、私は陸遜の居る執務室へと向かった。
そして執務室の前へ着くと、すぐに中にいる陸遜に声をかける。
「陸遜、よ。」
「お待ちしていました、どうぞ。」
そう返事が聞こえたので、私は扉の取っ手に手をかけて室内に入った。
窓際にある机で書簡を片付けていたらしい陸遜が、此方を振り向いて笑顔を見せる。
「思ったより早くいらして下さいましたね。凌統殿とご一緒だったのではないですか?
お酒を飲んでいたようでしたが。」
「・・・・・・知ってたの。でも安心してよ、しっかり素面だから。それで・・・用って言うのは?」
陸遜の傍まで行くと、私は早速そう訊ねる。
にこりと穏やかな笑みを浮かべて陸遜が私を見つめた。
「率直に申し上げましょう。殿、わたしとお付き合いして頂けますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え!?」
陸遜の口から出たその言葉は、あまりにも予想し得ない物だった。
私は目の前で未だに笑みを浮かべたまま此方を見つめているその美青年を凝視するように見つめ返す。
「陸遜・・・お付き合い・・・と聞こえたんだけど・・・?それは・・・どう言う意味での?」
「勿論、異性としてのです。」
そう言って陸遜はゆっくりと私のすぐ目の前まで近付いた。
じっと私の目を覗き込むその瞳。
「わたしは貴女が好きです、殿。貴女にとってはわたしは未熟すぎる若輩者かもしれない、
ですがわたしは誰より貴女を愛している自信があります。お答えを頂けますか?」
「・・・・・・・・陸遜・・・・・・・・・私は・・・・・・・・・。」
突然すぎて、思考回路が働かない。
情けないことに、この手の事には私は本当に弱かった。
7つも年下の、しかも先程まで『坊や』呼ばわりしてた相手だって言うのに。
戸惑いながらも必死で言葉を探す。
そこで不意に少し前に公積が口にした台詞を思い出した。
『あんたこそそろそろ色気ってもんをもっと学んで、
いい男見つけた方がいいんじゃないのかい?
幼馴染としちゃこのまま歳食って一人身になりかねないあんた見てたら心配で夜も眠れないね。』
思わず眉間にしわを寄せ、唇を噛んで俯く。
苛ただしい気持ちがどこからか湧いてくるのが分かった。
「殿・・・?」
陸遜の呼びかけに、私は顔を上げ、そして答えた。
「少しだけ考えさせて、陸遜。近いうちに必ず返事をするから。」
「・・・・・・・・・・ええ、分かりました。わたしはいつでもお待ちしています。」
そこで私は陸遜の居る執務室を出た。
そしてその数日後。
「よぉ、!久し振りに手合わせしようじゃねぇか。」
「甘寧、貴方が早起きなんて珍しい。了解、相手をして差し上げましょう?」
鍛錬所で修練をしていた私に声を掛けて来た甘寧に、私はそう言って答え、刀を構えた。
それから暫くの間奴と手合わせ稽古をして時間を過し、
ひと段落したところで休憩を入れることにした。
「・・・、噂で聞いたんだがよ・・・おめぇ・・・陸遜の奴と・・・。」
「あらあら、甘寧殿は耳が早いのねぇ。昨日の今日だって言うのに。」
「マジかよ!?」
隣で胡坐をかいて座っていた甘寧が、大声を上げて腰を浮かせた。
自分で聞いておいてこの驚きよう、本当に騒々しい男。
「驚きすぎよ、甘興覇。」
「いや・・・けどよ・・・。俺ぁ絶対おめぇは凌統の野郎とデキちまってるもんだと思ってたぜ。」
「それはそれは、ご期待に添えなくて悪かったな、甘寧。」
「「!!」」
突然に公積の声がして、私と甘寧は同時に其方へ振り向いた。
その先には得物片手に私達を見下ろすあいつの姿。
「俺にも選ぶ権利ってもんがありますから。
昔から知りすぎてるコイツと今更デキるも何もあったもんじゃないね。」
「確かに、それは私も同意権だけど?公積様?」
「・・・・・・・・・・・・・やべぇ・・・こいつら2人共虫の居所が悪ぃぜ・・・。」
ぼそぼそとそう言って、その場から逃げようとしている甘寧の腰の鈴を私はすかさず掴んだ。
「甘寧、どこへ行く気よ?まだ手合わせ中でしょう。」
「もう充分いい汗かいたぜ!これ以上は・・・その・・・あれだ!陸遜の奴が・・・」
甘寧はそこまで言うと、またヤベェと口を閉じた。
公積が陸遜の名を耳にした途端、皮肉な笑みを浮かべる。
「へぇ、陸遜ねぇ?あいつも物好きな奴だ、まさかとそういう関係になっちまうとはね。それとも同情すべきですかね。」
「・・・公積、それはどういう意味よ?幼馴染にやっといい人が出来たんだから、
もっと言い方があるんじゃないの?これで夜はぐっすり快眠のはずだものね?」
嫌味を込めてそう言ってやると、公積は形のいい唇を益々曲げた。
「そりゃご心配頂き誠にどうも。あんたもこれでようやく色気が身に着くな、。」
「そうね、公積。こちらこそ今まで多大なるご心配お掛けして申し訳ありませんでした。」
「だぁぁぁーーー!!!おめぇら!!いい加減にしやがれっ!!!」
私達の間に割って入るようにして来ると、甘寧はそう怒鳴った。
私と公積は甘寧に視線を向ける。
「ったく、おめぇらにゃ呆れたぜ・・・。ちったぁ俺の身にもなりがれ!!
チクチクチクチク互いの腹棘でさすような遠まわしなやり方しやがって。
言いてぇことはズパッと言っちまえ!!ズパッと!!!聞いてるこっちが疲れてくるぜ。」
「・・・・・・・だから言いたい事を言ってるじゃないの。」
「ケッ・・・どこが!?あーあ、馬鹿らしい。陸遜の野郎に同情するぜ。
・・・言っとくけどな、凌統、テメェとは違う理由でだからな!?
・・・・・・・・・・・・俺ぁもう行くぜ、あばよ!!」
言いたいことだけ吐き出して、甘寧は私たちを置いてさっさと修練場を出て行ってしまった。
私はその背中を見送って立ち上がり、チラリと公積に視線を向ける。
「疲れたわ・・・私はもう戻るから。」
「ああ。」
短く返事をした公積に背中を向け、私はそのまま出入り口の方へ向かった。
と、そこでまた奴に呼び止められる。
「・・・。」
「・・・何?」
「あんた・・・本気で・・・・・・・・・・」
先を続けようとした公積が、不意に口を閉じて私の背後に目を向けた。
「殿、ここに居たんですね。捜しました。」
そう言って現れたのは陸遜。
私は振り返って笑顔を向けた。
「どうしたの?こんなに早くから私を捜してくれるなんて。」
「今日は少し時間が取れそうなので、宜しければ一緒に過しませんか?」
「本当に?じゃあ・・・・」
「・・・邪魔者は消えるとしますかね。陸遜、俺の幼馴染を頼みましたよ。」
傍に居た公積が唇を曲げるようにして微笑んで、陸遜に言った。
陸遜は視線を私から公積に向けて軽く目を細める。
「ええ。では、わたし達がここから出て行きますから、
凌統殿はどうか気になさらず修練を続けて下さい。殿、行きましょう。」
「・・・・・・・・分かった、じゃあね、公積。」
「・・・・・・ああ。」
どこかおかしな雰囲気の中、私と陸遜は鍛錬所を出て行くことにした。
そして鍛錬所の扉を出るその瞬間、私は何故かそこで振り向いた。
その途端に此方を見つめたままで居た公積と目が合う。
ドクッ・・・・・・・・・
心臓の音が耳に響いた。
射抜かれそうな熱い眼差し。
「・・・殿?」
「あ、・・・ごめん、行きましょう・・・・・・・・。」
陸遜に呼ばれ、私達はまた並んで歩き始める。
気のせい・・・・・・・・・・・気のせいに決まってるわ・・・。
私は何故か自分にそう言聞かせた。
(私など、眼中に無い -続く-)
後書き
凌統夢で幼馴染設定の、しかもさばさばした関係な2人が進展!
的な感じを狙って書いているのですが・・・・・・・。何かずれてる・・・。
いつもは甘寧ばっかり絡んでくるので今回は殆ど私の小説では現れない陸遜を・・・。
いや、これ陸遜なのかかなり謎ですけどね・・・ははははは!
敬語使ってるだけの人っぽいですが、そこは目を瞑って下さいませ。
では、今回もここまでのお付き合い、誠に有り難うございました。失礼します。
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