落ちる。
堕ちる。
オチル。
疼く、滾る、欲望を。
内から、外から、かき乱される。
その視線に。
その眼差しに。
視姦。
すれ違いざまの一撃で、上り詰める。
意識が、混濁する程に。
理性を剥ぎ取られる如く。
本能を引きずり出される如くして。
「甘興覇、お前の言い分を聞いてやろう。あの書簡の山、3つ分の言い訳をな。」
「・・・・・・・・ああ?んだよ、。人の邸に上がりこんで、開口1番がそれたぁ、いい度胸じゃねぇか。」
夕刻過ぎ、食事を終えたばかりの甘寧の元に現れたに、彼は不機嫌そうな表情で眉を顰めて言った。
は冷めた瞳でそれを受け止め、ふ、と、唇を微かに曲げて笑んだ。
「私とて、わざわざこんな所へ足を運ぶハメになろうとは思わなかった。
甘将軍、お前つきの女官が私に泣きついてさえ来なければな。」
甘寧の眉間のしわが、益々その深さを増した。
小さく舌打ちをして、彼が口を開く。
「よりによって何でおめぇに頼みやがったんだ?ったくよ。」
「呂蒙殿は不在、陸遜には断わられ、公積では平行線を辿るのみ。
加えて周瑜殿は多忙。巡り巡って私にお鉢が回ってきたと言う所だろうな。迷惑な話だ。」
が形のいい肉感的なその唇を更に皮肉に歪めて笑うのを目にしながら、甘寧は深く溜息を吐いた。
そうして見せる表情は、弟、凌統に本当によく似ている。
「・・・人選間違え過ぎだろうがよ・・・。けど、・・・おめぇもよくここまで来る気になったもんだな?」
「言っただろう、泣きつかれたと。
それに、私にまで泣きついて来る所をみると、余程困っての事だろうと思ってな。」
「へっ、それにかこつけて、俺の寝首でも掻きに来たんじゃねぇのか?」
椅子に座っていた甘寧が、足をどかりと卓に乗せ、両手を後頭部に回すと彼女を見つめて言った。
ほんの一瞬、その視線が絡まり合う。
だが、はそれを断ち切る様に瞳を逸らした。
「私はそれ程暇じゃない。それに、父上の事は私なりに心の整理はついている。公積が苦しみぬいてそうしたのと同じくな。」
「・・・・・・・それにしちゃ、おめぇ・・・・・・・」
言いかけた甘寧が、不意にそこで口を閉じ、複雑な表情を浮かべる。
は怪訝そうに再び彼の方へ視線を戻した。
「どうした?続けないのか?」
「・・・・・・・あ?・・・んでもねぇよ。・・・・・口に出すこっちゃねぇぜ・・・・。」
甘寧は眉間にしわを寄せたまま、ぼそぼそと言葉を濁した。
「いつも考えなしに言いたいことを言っているお前らしくないな、甘寧。」
言って、またも彼女がその妖艶とも言える唇に皮肉な笑みを浮かべる。
扇情的な瞳が、妖しげに彼を見据えていた。
ドックン。
その途端、甘寧の鼓動の鳴る音が、ひとつ、大きく胸を突く。
視線を引き剥がそうにも、まるで固定された如く、彼の瞳はそこから動けなかった。
ゆらり。燭台にある蝋燭の揺らめく炎の音さえ聞こえてきそうな沈黙が訪れる。
静寂の中、彼は自身の中にふつふつと沸き立つ『何か』を必死に抑え込んでいた。
やがて沈黙を破ったのはの方だった。
彼女は小さく溜息を吐き、彼を見つめた瞳はそのままに、口を開く。
「・・・まぁいい。明日の夕刻までにせめて書簡の半分は片付けて欲しいとの事だ。
・・・私は・・・・・・・・これで失礼する。」
の視線がゆっくりと彼から離れる。
刹那。
「・・・・・・・・。」
椅子の背に身を預け、卓に足を投げ出していた彼が、体勢を崩して彼女を呼び止めた。
の視線が再び彼へと注がれる。
「何だ?・・・・・・やはり言いたいことでもあるのか?」
「・・・・・・・・言いたい事?」
彼女と同じ台詞を繰り返し、甘寧は椅子から立ち上がった。
そしてつかつかと彼女の目の前まで歩み寄った。
「、おめぇ、俺の邸にこの時間、使用人がいなくなるこた・・・知ってたか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さぁな。」
まるで視線の先を固く結ばれてしまった如く、2人の瞳は固定されたままだった。
挑戦的な、扇情的な彼女の切れ長の美しい瞳。
ドックドクドクドクドクドク・・・・・・
甘寧の鼓動の脈打ちは加速する一方だが、彼はそれが自分だけではないことを悟っていた。
「おめぇの目ぇ見てっと・・・、滾っちまって仕方ねぇ・・・。」
低く、微かに掠れた声で彼はそう口にした。
の唇が僅かに笑みの形を取る。
甘寧は唐突に彼女の肩に手を触れ、半ば乱暴に引き寄せた。
鼻先が擦れ合う程に、吐息が重なり合う程に、近く、2人の距離が縮められる。
「正直、おめぇのその目は、俺を憎んでるから出来るもんだと思ってたぜ・・・。」
熱く湿った吐息をの唇に吹きかけながら、彼は囁く如く言った。
甘寧の間近にある艶やかな黒さを帯びた彼女の睫毛がほんの僅か伏せられる。
「今は違うとでも言いたいのか?」
「それを確かめてやるぜ、今すぐにな。」
紡いだ言葉を彼女の唇に押し込む様に、彼は自らの唇を重ねた。
は抵抗する事もなく、それを受け入れる。
口付けは何の前触れもなくすぐに激しいものへと変化した。
喰らい、貪り、奪う。
どちらかが、ではなく、互いに強く、深く。
絡まりあう熱い舌は欲望を更に掻き立て、やがては脳内をも侵す。
互いの唾液が溢れだし、口内から響く水音に理性が剥ぎ取られていく。
ふ、と、荒く乱れた息と共に甘寧が僅かに身を離せば、
そこには紅い唇を濡らしたが例の扇情的な眼差しを宿したままで彼を見つめている。
その瞳に触発され、本能が、理性を、喰らい尽くす。
甘寧の手がの腰紐を遠慮もなく掴み、一気に解いた。
はらり。
露になる、ほの白く浮き上がる彼女の美しく滑らかな磁器の肌。
彼は躊躇いもせずその細い腰に直に触れ、胸の頂に荒々しく喰らい付いた。
びくり、と、彼女の身体がしなやかに波打つ。
甘寧が浅い吐息と共に言葉を紡いだ。
「、おめぇの視線にヤラれちまった分だけ・・・・、俺がおめぇを犯してやろうじゃねぇか・・・。」
(視線に犯される -終わり-)
後書き
・・・・・????な仕上がりになってしまいました。
只今深夜の2時でございます。
仕事で疲労困憊状態なのに仕上げに入ったのがいけなかったのか?
短いのは多めに見るとして(自分で言うのもおかしいですが)
内容的に凄く?????な物に。ごめんよ、甘寧。愛だけはあるんですけどね。
では、今回はこれにて失礼致します。
この作品にお付き合い下さった皆様、有り難うございます。
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