私を抱き寄せるその手が好き。
私に触れるその手が好き。
貴方の大きなそのてのひらに、私のこの手を重ねる瞬間が、大好き。

でも何よりも、勿論、貴方自身を愛してる。





「嫌い!!!!!不潔!!甘寧様の馬鹿!!大ッ嫌い!!」
「だぁーー!!んなに怒るこたねぇだろうがよ!?待てって、!」


バンッ・・・


乱暴に開け放たれた一室の扉から、
涙目になりながらも怒鳴り声を上げるとそれを追う甘寧が飛び出してきた。
軍議を終わらせたばかりの通りすがりの呂蒙と陸遜、そして凌統が其方に視線を走らせる。

「今日もやっているようですね、あのお2人は。」
「まったく、仕方のない奴らだな。どうせまた甘寧の余計な言葉が原因だろうが。」
「馬鹿だねぇ、アイツも。ま、そんなのはとっくに知ってたけどな。」

どこか楽しげな笑みを浮かべながら、凌統は言った。
陸遜と呂蒙は互いに目を合わせて苦笑する。
そこへ、話題の人物の片割れであるが眉間にしわを寄せたまま足早に歩いてきた。

「呂蒙様!甘寧様をお願いします!!」

自分を追ってくるであろう彼の足止めを、彼女は呂蒙に頼んだ。

「ん?あ、ああ。」

いつものことながら、呂蒙は戸惑いながらもそれを引き受けた。
凌統がククッと笑いを堪え、陸遜は肩をすくめる。
は3人に短く挨拶をして、そのままその場を去った。
そして入れ替わりにそこへ甘寧が現れた。

「おい!!待ちやがれっつってんだろうが!」
「甘寧!」
「あ?何だよ、呂蒙のオッサン、俺は今忙しいんだよ。」

不機嫌そうに眉を顰め、甘寧は彼の名を呼んだ呂蒙に視線を向ける。
凌統はニヤリとした笑みを浮かべると、皮肉めいた口調で言った。

「そうですよ、呂蒙殿。鈴の甘将軍は恋人に逃げられちまった最中のようですからね。」
「っな!!凌統!!!テメェ!!!」

「甘寧、凌統、いい加減にせんか!」

恒例とも言っていい甘寧と凌統の口喧嘩が開始される寸前、すぐに呂蒙がそれを止めに入る。
陸遜は小さく溜息を吐くと、やれやれ、と言った表情で口を開いた。

「今追っても無駄だという事は分かっているでしょう、甘寧殿。
貴方もそろそろ同じことを繰り返すのは、止めにしませんか?」
「おい、陸遜、そりゃどう言う意味だ!?」
「分かんないかねぇ、いい加減学べってことだろ?」

口元を皮肉に曲げながら、それでも楽しげな口調で凌統が陸遜の答えを代弁する。

「凌統、お前は少し黙っていろ!」

呂蒙の一言に、凌統は肩をすくめて見せた。

「はいはい。」

甘寧はそんなやり取りを苛々とした表情で見ると、
堪えかねてそのまま先へ進もうとすぐ前に立っている凌統を片手で押しやる。

「おいおい、そこまでするなっつの。」
「俺は急いでるってんだろうがよ、用がねぇなら悪ぃが行くぜ。」
「待て、甘寧。」

再び彼の行く手を遮るように、呂蒙が前へ進み出た。
甘寧は眉間のしわを益々深めて呂蒙を見る。

「甘寧、言ってみろ、今日の喧嘩の原因になったのは何だ?」
「・・・・・・・・・・・・・あ?」
「それをお前が話せば通してやらんこともない。
には、お前を頼むとまで言われておるからな。早々話も聞かずに通すわけにもいかんのだ。」

結局甘寧は不承不承にその経緯を説明する事となった。
彼の話しに寄れば、珍しく互いの休日が重なった今日1日を2人きりで過そうという話になり、
それでもいつ呼び出しがかかるか知れぬ状態ではあるので、
先程の空き部屋で他愛のない話をしていたと言う。

『こないだの喧嘩で遠征に出て3ヶ月だぜ?さすがに俺も我慢できなくてしゃーねぇと思わねぇか?』

とは、彼自身の台詞だ。つまり、話をするばかりでは物足りなかった甘寧は、それを行動に移したのである。
否、それは未遂に終わったのだが。
最初から完全に拒絶されたと言う訳ではない、言うなれば自業自得とも言える状況で跳ね除けられたのだ。


『ついてるもんついてんだ、惚れた女目の前にすりゃ、自然にムラムラきちまうのが当たりめぇだろうがよ!』


と言う言い分を、に叩き付けた結果招いたのが先程の状況だったと言う事だった。

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」」

3人は呆れて咄嗟に声も出ず、揃って深い溜息を吐いた。
甘寧本人はといえば、そんな話をさせられた事に屈辱気味に不機嫌に顰めた眉をそのままに、
無言で視線を3人から逸らしている。

「無神経の塊・・・ですね・・・。」
「甘寧・・・お前と言う奴は・・・・。」
「やれやれ、馬鹿だ馬鹿だとは思ってたが、ここまでとはねぇ。」

「煩ぇ!!!」

そして陸遜と凌統がそれぞれに甘寧への皮肉を口にしている間、
呂蒙はふ、と、何かに気付いた如く苦笑した。

みたいな純真なコ相手に、んな言い方して上手くいくと思ってるあんたは、
ホントおめでたいことこの上ないですよ、甘寧殿。」
「おめぇにゃ女の事でグダグダ講釈たれられたくねぇぜ!凌統!」
「・・・・・殿も・・・慕う相手を間違えたようですが。」
「陸遜!!!おめぇな!!だぁーー!!もういい!俺は行くぜ!!」

「甘寧。」

呂蒙に再び呼び止められ、甘寧は振り向いた。

「おい、オッサン、俺は話すこた話したぜ?」
「ああ、ただな、1つだけ言わせて貰いたい。」
「あ?」

また説教か?

彼の顔にはその言葉がありありと表れている。
だが、呂蒙は数歩彼に近付くと、ぽん、と軽く彼の肩に手を乗せて言った。


「照れ隠しも結構だが、それじゃ相手に伝えたいことは上手く伝わらんぞ。
相手が女人なら尚更だ。甘寧、少し素直になってみろ。」


呂蒙からの台詞に、甘寧の表情が何とも言えぬ複雑なものへと変わる。
彼はチラリと呂蒙へ視線を移し、そしてまた3人に背を向け歩き出した。

「うっせぇ!」

その一言に、呂蒙は苦笑した。

照れ隠し。
それはピタリと甘寧の的を射ていたのである。




城の敷地内に広がる庭園。
その中央部に位置する池とも泉ともつかぬその傍で、は1人腰を下ろして物思いに耽っていた。
無論、悩み事の中心は甘寧に他ならない。


折角、今日は1日ずっと一緒に居ようと思ってたのに・・・・。
甘寧様・・・・・・・どうしていつも・・・・!


はぁ、と、自然とその唇から漏れる溜息。
水面に映る自身の冴えない表情とも言えるその姿に、また気分が下降する。

!」
「・・・・・・・・・・・え?」

名を呼ばれ振り向けば、いつの間にか彼女から少々離れた場所に、悩みの原因である甘寧の姿があった。
は咄嗟に立ち上がり、そのまま彼が居る方向とは逆に走り出す。

「あ!!待ちやがれ!!おい!!!」
「甘寧様の馬鹿!!いつも私の気持ちも知らないで!!!」

呼び止める甘寧に、彼女は大声でそう言い捨て、走る速度を上げる。

「走りで俺に勝とうなんざ、100年早ぇぜ!!待ちやがれ!!」
「来ないで!!甘寧様なんか嫌いなんだから!大ッ嫌いなんだからね!!」
「んのっ!!その口塞いでやるぜ!!!!」

言った甘寧はすぐさま彼女を追うために駆け出した。
その速度はあっと言う間に上がり、見る見るとの距離が縮まっていく。
だが、彼女は諦めずに走り続けた。

「ついて来ないでって言ってるでしょ!」
「ざけんじゃねぇ!!人の話ぐれぇ聞けってんだよ!!!!!」


ガッ・・・・


「きゃっ!」

しかし、彼の足にが敵うはずもなく、甘寧の掌が彼女の腕を捕らえた。
尚も抗おうとする彼女を、彼は半ば乱暴に抱きすくめる。
はそれから逃れる為、必死に抵抗を試みた。

「いたっ・・・離して!!離して!!甘寧さ・・・・・「俺と一緒になれ!!!!!!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・!?」


ピタリ。

瞬間、彼の一言に、の動きが止まる。
彼女は自分が耳にしたばかりの彼の言葉が信じられず、ゆっくりと顔を上げ、凝視した。

「・・・・・・・・・・・・・・・・甘寧様・・・・・・?」
「あ?」
「今・・・・・・・何て・・・・・・・私・・・を・・・・娶ってくれる・・・・の?」

甘寧はふてくされたような表情で彼女を見下ろしている。

「だから、そう言ってんだろうがよ。」
「甘寧様・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・それ、止めろ。」
「え?」
「いい加減、字で呼べつってんだ。」
「あ・・・・・・・・・。」

の頬が朱に染まり、視線が彼の胸に画かれた龍の方へと泳いだ。
甘寧は彼女を見下ろしたまま、続ける。

「さっきの答え、おめぇが俺を字で呼んでくれりゃ了承したもんだと取るぜ。」
「もし・・・・・・・・呼ばなかったら・・・・・・?」
「・・・・・あ!?呼ばねぇ気かよ!?」

彼はの両肩を掴み、その瞳を捕らえ、少々うろたえた声音で言った。
彼女は一瞬驚いたように彼を見つめ、ふっ、と、苦笑する。

「聞いてみただけなのに。」
「ケッ・・・ったく、おめぇはよ・・・・。」

言った甘寧が片手に拳を作り、それを彼女の額に軽くぐりぐりと押し付けた。
は笑いながらその拳を両手で包み込む。

「もしかして、ずっとそれが言えなくてあんな事言ってたの?」
「・・・・・・るせぇ。」

僅か頬を赤くした甘寧が彼女から目を逸らしてぶっきらぼうに返した。
それが何よりの肯定になっているとも知らずに。
は再び苦笑する。

「しょーのない人だよね、本当に。」

言って、彼女は額にある彼の拳を両手で広げさせ、その大きなてのひらに自らの手を重ねた。
そして、指を絡める。

・・・?」

「私、この手が大好き、この大きなてのひらが、大好き。
・・・・・・・・・興・・・覇・・・様の・・・・・・・・・・この手が・・・・・・・・・・・・・。」

・・・・・・・・・・。」

互いの指を絡めたまま、甘寧が彼女の方へと屈みこむ。
は踵を軽く上げて背伸びをした。
唇が互いに吸い寄せられる様に重なる。
ふっくらとしたの唇の甘美な感触に、彼は幾度となく口付けを交わす。
彼女の頬が蒸気したように赤く染まり、息が僅かに荒くなった。
やがて唇を名残惜しそうに離した甘寧が、一言、呟く。


「やべぇぜ・・・、このままイっちまうかもしれねぇ。」


は一瞬驚いた表情を見せ、そしてまた苦笑した。

「興覇様の・・・馬鹿・・・・・・・・。」

2人の休日は、まだ始まったばかりである。


(大きなてのひら-終わり-)



後書き
前半と後半の何かが違う気がしますが、敢えてスルーします。
それより何より、『体の部位でお題』今のとこほぼ甘寧オンリー。
逆に『片想いにお題』は策の1つを除いて全部凌統です。
何だかなー、結局この2人(苦笑)キャラ幅広げるって、
全く出来てないし。では、今回もここまでのお付き合い、有り難うございました!


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