殺してやる!!!私があの男を絶対に殺してやる!!許さない!!
甘寧!!!!!!!お前だけは絶対に許さない!!!!
あれから一体どの位経っただろうか・・・。
涙を流す代わりに出るのはあの男への恨みごとばかりだった。
憎くて、憎くて、いつか必ず父の仇を討つと胸に誓って日々を過していた・・・。
そして、いつの間にか時は過ぎ去り、
気付けば兄、公積は、
戦であの男に互いの背中を預けるほど信頼を置く関係になっていた。
そして私は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「、お前はまたこんなとこに閉じこもってんのか?
我が妹ながら呆れるねぇ。」
溜息交じりの兄上の声に、私は書物から顔を上げた。
「鍛錬は怠っていませんから、ご安心を。」
少しだけ口元を緩め、私は兄上に答える。
兄上は私の手にしている書物を掴み、そしてそれを高々と掲げながら続けた。
「俺が言ってんのはそーいう事じゃないんですがね。
ったく、年頃の娘が朝っぱらから、何が楽しいんだか。」
「読書は実りあるものです。陸遜様だって呂蒙様だって褒めて下さいました。」
言って、私は兄上の手から書物を取り返した。
そしてそれを机の上に置くと、再び兄上に向き直る。
「それで?こんなに朝早く書物庫までいらっしゃった理由は?」
「・・・・ああ・・・ま、ちょっと・・・頼みがあるってとこか・・・・・。」
私の問いに、先程まで皮肉めいた会話をぶつけてきていたはずの兄上の言葉が、
急に歯切れの悪いものに変わる。
そこで私は眉間にしわを寄せた。
兄上がこういう態度を取る場合、大抵『あの男』が絡んでくるからだ。
あの男、甘寧興覇が。
「次の戦はお前が甘寧のヤツと・・・・・・「・・・お断り致します。」
思った通り、兄上の口にしたのはあの甘寧の名。
私は兄上の言葉を最後まで待たず、即座に言ってのけた。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
兄上の表情がみるみる内に曇り、
そして今度は心からの溜息を吐いている。
「殿がお前に頼みたいって言ってんだ、まさかそれを無下に断わるつもりか?」
「・・・・・・・殿がそう仰っているのならば、任は果たします。
ですがそれは職務を遂行するという理由のみの意味しかありません。」
私は兄上の瞳を正面から見据えて言った。
そして先程机に置いた書物に再び手を伸ばす。
「、・・・・もうそろそろ、考えを変える頃じゃないか?
この先いつまで復讐心だけで生きてこうってんだ、お前は。」
「公積兄様があの男とどう馴れ合おうと私は口出しをする気はありません。
ですが・・・・・・、私は、・・・・この先もずっとあの男を許しはしませんから・・・・・!」
文書を広げて目を落としながら、私は眉間のしわを深めた。
再び口を開こうとする兄上に、私は目も上げずに続ける。
「用は戦の件だけですか?でしたら夕刻の軍議で詳しく話をお伺いします。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
兄上は思い切り不満そうな視線を私に向けた。
それでもすぐに私に背を向け、書物庫の出入り口まで歩いて行く。
「・・・やれやれ、父上が今のお前を見たら何と言うかね・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・公積兄様・・・・・・!」
「はいはい・・・ったく、分かってるだろうが、軍議には甘寧のヤツも居る。
殿たちの前でおかしな気を起こすんじゃないぞ。
・・・・・・・・・じゃーな・・・・・・・・。」
程なく扉が閉まる音と共に、足音が遠ざかっていく。
私はそれを確認して書物を元の棚に戻す。
『父上が今のお前を見たら何と言うかね』
今聞いたばかりの兄上の一言。
一体今まで何度こんな会話を繰り返してきたことだろう。
「父上・・・・・私は・・・間違っていますか・・・・・・・?」
その度に私はこうして窓から空へ向かって呟く。
決して答えをくれない父上に対して・・・・・・。
「では、甘寧、、明朝より敵陣へ乗り込み、奇襲を行ってもらう。
重大な任!必ず成功させよ!!」
「おぅ!!任せとけ!!」
「・・・・御意。」
軍議終了直後の周瑜様の言葉。
斜め前に座っている男、甘寧が、必要以上に大声で返事をする中、
私は何の感情もなくただその一言でその大任を受け止めた。
あの男が視界に入ってくるだけで、胸の奥がざわざわと不穏なざわめきを持つ。
「よぉ、!今回は宜しく頼むぜ!」
「・・・・・・・私は私に任された任を遂行する、ただそれだけだ。
馴れ馴れしくするのは止めてもらいたい・・・・。」
廊下に出てすぐに私に声を掛けてきた甘寧に、私は振り返りもせず答えた。
声を聞くだけで、姿を目にするだけで、私の中に沸き立つ負の感情。
じりじりと胸に焦げ付くような嫌な感覚。
「ああ?オメェ・・・・・・・・・・・・。
チッ・・・おい、ちょっとこっちに来い。」
「!?」
唐突に腕を掴まれ、私は咄嗟にその腕を振り払おうとした。
が、振り払う所か、逆に更に強く腕を掴まれる結果になる。
「放せ・・・!」
「ウルせぇ!いいからちょっと来やがれってんだ!!」
腕を掴まれたまま強引に、今は余り利用されていない一室に押し込められる。
その間も抵抗し続けているのに、この男にはそれが全く通用しない。
「どういうつもりだ!?放せ!!」
「・・・・おい、おめぇ・・・いい加減にしたらどうだ!?」
「!?」
甘寧の台詞に、抵抗する私の動きが一瞬止まる。
私は奴に噛み付くような視線を向けた。
「デカイ喧嘩目の前にして、同じ孫呉の仲間同士でいがみ合ってる暇はねぇはずだ。」
「・・・・仲間?・・・私はお前なんかを認めた覚えはない・・・・!
例え兄上がお前をどんなに信頼していようとも、私は父を討ったお前を一生赦しはしない!!!」
ほんの僅か甘寧の手の力が緩んだ一瞬の隙を突き、
私は腕からそれを振り切り、キッパリとそう口にした。
更に瞳に力を込めた私の視線を正面から受け止めながら、あの男はこともあろうにこう返した。
「ケッ・・・、言っとくが、おめぇらの親父の事を詫びる気はねぇぜ。
それに、おめぇらの親父だってそんなこた望んじゃいねぇはずだ、戦場で死んだ以上な。」
「!!!」
「テメェの味方は全力で守り、敵はぶった斬る!!それが喧嘩ってもんだ!」
「黙れ!!!」
私は甘寧から目を逸らさず、腹の底からの大声で叫んだ。
「お前に父の何が分かる!?知ったような口を利くな!!」
煮えたぎる腸。
私はあの時からずっと甘寧を憎みながら、
それでも本人を目の前にしてこんなに感情を露にしたのは初めてだった。
特に兄の公積がこの男と親しげに戦場に立つようになってからは、
口に出すことよりも避ける事のほうを選んでいた。
だからだろうか、今まで溜まりに溜まったやり場のない思いが、
抑えることも出来ずに口から零れ出る。
「戦場で死ねばそれが武人の本懐だと!?ならば遺された者はどうすればいい!?
その上父を討ち取ったお前を受け入れろと言うのか!?
兄上の様に前を見てお前と共に進んで行けと!?
私をっ・・・・・・・愛し、・・・・・・・・心から慈しんでくれた・・・・
尊敬すべき父上を・・・・・・・・討ったお前と・・・・・!!」
目の際からじんわりと熱いものが込み上げてきたと気付いた時には、
それはもう頬を伝い床に落ちていた。
今まで兄上にさえ見せたことのない泣き顔。
それをまさかこの男、甘興覇の前に晒すなんて。
唇を噛み締め身体を震わせる私に、甘寧が口を開いた。
「そんなになるまで溜め込んじまってるから辛ぇんだよ、
・・・言いてぇ事があんなら、呑み込むんじゃなくてズバッと吐き出しちまえ。」
「・・・・・・・・・・・・・っ!!!」
甘寧のその一言で、私の震えが一瞬収まる。
私は奴の顔を凝視した。
「・・・・まさか・・・お前・・・・・その為に私に・・・声を・・・・。」
「・・・ケッ・・・俺はそこまでお人好しじゃねぇんだよ、さっき言ったのは俺の本音だぜ。」
言った甘寧は私から目を逸らした。
「だがな・・・今回だけは聞いてやらぁ、おめぇの言い分ってヤツをな。
おめぇが俺をどれだけ嫌ってるのかぐれぇ分かってるが、
俺以外の奴に吐き出した所でおめぇの気持ちが済む訳もねぇだろうしよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
甘寧の言葉を無言で聞きながら、私の瞳から、
知らぬ間にまた幾筋かの涙が流れ出た。
だから・・・・・・・・・・・。
だから私はこの男が嫌いなんだ・・・・・・・・・・・。
甘興覇、憎くて、憎くて、殺してやりたいほど憎いはずの仇。
腹が立つほどに真っ直ぐで、『戦』に対する自分の信念を決して曲げない男。
単純で熱血漢にしか見えないにも関らず、
その実仲間に対するその思いの深さは計り知れない。
『、アイツはただの喧嘩馬鹿じゃないぜ。』
兄、公積は、いつかそう言って私を諭したことがある。
だけど、だからこそ私はあの男が憎かった。
兄上があの男と親しくなっていく様に、
私も知らず知らすの内にどこかで惹かれていた。
ざわめく負の感情に隠された真実。
焦げ付いていたのは私の想い。
「どう・・・して・・・・・・・・・・・・・・・っ・・・・!?
・・・もっと・・・お前がもっと冷酷であってくれれば・・・・・・私だって・・・。」
言葉と共に更に溢れ出す涙。
時折嗚咽を発する事を隠すことも出来ず、私は続けた。
「父上を討ったお前を・・・ただ憎み続けることさえ出来れば・・・・・、
その方が・・・ずっと楽だったのに・・・・・・。
兄上が・・・・お前と共にあっても・・・私だけは父を・・・父の無念を・・・・・・・・・・・。
なのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っっ・・・・・・。」
「・・・・・・・・、おめぇ・・・・・・・・・。」
甘寧が驚いたような表情を見せた後、私の肩に触れようと手を伸ばす。
私はそれを跳ね除けた。
「触るな・・・・・・っ!!!これ以上、私に・・・・・っ!!私の心に・・・・・・・っ!!」
そこまで言うと、私は堪らず大声を上げて泣いた。
自分でも信じられないほど大声で。
そしていつの間にか甘寧に肩を抱かれ、その時にはもう、私も抵抗する事はなかった。
それどころか自分から奴の胸に顔を埋めていた。
どの位そこでそうしていたのかは分からない。
泣き疲れた私は、気付いた時には壁に背を預けた甘寧の腕に抱かれたまま床に座り込んでいた。
ただはらはらと静かに流れる涙だけは自分でも止めようがない。
私は顔を上げ、片手で軽く甘寧の頬に触れた。
憎くて堪らなかったはずの男の顔が今、目の前のある。
私はゆっくりと目を閉じると同時に、自分から甘寧の唇に自らの唇を重ねた。
まだ流れ続けている涙が私の悲しみを甘寧の唇に刻み込む。
甘寧の力強い腕が、私の身体全てを包み込んで強く抱きしめた。
私たちは互いに何の言葉も発さず、ただ唇を重ね続けた。
私の頬を伝う涙が乾くその時まで。
「・・・・・・・・・・おい、・・・立てるか・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
立ち上がって私に手を差し伸べる甘寧。
私は自力で立ち上がる。
「先に行け・・・・・・・・・、私は大丈夫だ・・・・・・・・・・。」
「・・・・・。」
甘寧の瞳を正面から見つめ、私は続けた。
「・・・・私は器用な女じゃない・・・・。
今・・・・・・すぐにお前を受け入れる事が出来るのか・・・・・、
自分でも分からない・・・・。」
「・・・ああ・・・ま、しゃーねぇだろ・・・。」
甘寧は部屋の出入り口に向かって歩き出し、私に背を向けた。
そして扉に手を掛ける。
「俺は気が長ぇ方じゃねぇが・・・、ここまで待ったんだ・・・。
それに、惚れた女の泣き顔なんざ見たくもねぇからな・・・・・。」
「甘寧・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
開いた扉の隙間から、薄暗い部屋に光が差す。
いつかお前のその背中を、私も兄上の様に守ることが出来る日が来るのだろうか。
(泣きながら-終わり-)
後書き
長っ!!すみません、読みにくかったかもしれないですね。
今回は前後編にしょうと思ったらどこから切っていいのか分からずに、
こんな事に・・・・・・・・。
そして毎度の事ながら『お題』に沿っているのか激しく疑問。
でわ、今回もここまで長々とお付き合い頂き有り難うございました!
失礼致します。
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