いつからこんな風にオメェを見ちまうようになってたのか、
俺も全く分からねぇ。
ただ、気付けば誰彼構わずオメェに近付く野郎全てに嫉妬している俺が居た。
情けねぇ話だぜ、まったくよ・・・・・・・・。
分かっちゃいるつもりだが、それでも止めらんねぇから始末が悪ぃ。
たぎる気持ちを抑えられる程、俺は器用じゃねぇからな。
まさに俺は今、爆弾を抱えちまってる様なもんだ。
俺らしくもなく、気持ちをずばっと伝えらんねぇ、焦りばかりが先に出やがる。





ずっと知っていたはずの弟。
いつの間にか私の背を遥かに超えて、私の先を走る存在になっていた。
生意気な無鉄砲、それが今では孫呉水軍の要。
今でも輝きを失わない鈴の音色。
私はあんたがただ誇らしかった。
血は繋がっていなくても、私とあんたは姉弟だと胸を張って言えた。
だけどいつからだろう・・・・、あんたの姉であることがただ苦しくて堪らなくなった。
あんたの姿を目にするだけで、哀しいほどに心が揺らぐ。
その度に言い聞かせる、甘興覇は私の大事な弟なんだと。





「太史慈殿、ご指導有り難うございました。」
「いや、俺もいい運動になった。感謝するぞ!」

太史慈はそう言ってに笑顔を向けた。
もそれに応え、口元に笑みを浮かべる。

「悪いが俺はこれで失礼する、孫策殿に呼ばれているからな。」
「ええ、ではまた機会がありましたら、お手合わせ願います。」

太史慈にそう告げ、彼が立ち去ってすぐに彼女は傍にある岩に腰掛けた。

「おぅ、!」
「・・・・姉貴でしょう、興覇。」

背後から彼女に声を掛けてきた甘寧に、彼女は振り向きもせずに言う。
甘寧は思わず顔をしかめた。

「ケッ・・・ったく、もうそんな歳でもねぇだろうがよ。」
「どんな歳よ?・・・だいたいこっちはあんたが鼻たらしてる時から知ってるのに。」
「だぁーー!ウルせぇ!!」

甘寧は苛立った様に言って、勢いよく頭を両手でかきむしった。
は小さく溜息を吐く。

「で?何?」
「ああ!?『何?』じゃねぇだろうが!!
喧嘩のやり方なら俺が教えてやるとあれ程言ったってのに、
太史慈相手にしてんじゃねぇ。」
「・・・・喧嘩ね・・・。確かに聞いたわよ、
だけどあんたが見つからなかったから丁度通りかかった太史慈殿に声を掛けたの。」

文句ある?と彼女は付け足した。
甘寧が更に顔をしかめる。

「おい、俺の勘違いじゃなきゃオメェ、最近俺を避けてねぇか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうして?」

少々長めの沈黙の後、は聞き返した。
内心の動揺を隠して。

「この間も軍議が終わった途端に居なくなりやがったな?
その前は俺が部屋まで呼びに行くのを知ってて先に用を済ませちまってた。
他にも同じ様な事が何度かあるぜ、
んなことばっか重なるってのはどう考えてもおかしいんじゃねぇか?ああ?」
「・・・・・興覇、それこそ『もうそんな歳』でもないんじゃない?
そろそろ姉離れしてもらわなきゃ、私は行き遅れてしまうわよ。」

小さな棘を潜ませて彼女は言った。
甘寧が吐き捨てるように答える。

「ケッ・・・『姉貴』と呼べってのは強制するくせに、
今度は『姉離れしろ』!?ざけんじゃねぇぞ!」
「・・・興覇・・・・。」

声を荒げる甘寧に、は眉間にしわを寄せた。

「・・・あんたを避けてるつもりはないわ、偶然・・・・・・・。」
、いい加減こっち向け!俺を見ろってんだ!!!」

甘寧はの肩に手をかけ、強引に立たせ、振り向かせた。

「興覇!!」

叱り付けるようなの声に耳も貸さず、
甘寧は彼女の肩に置いた手に強く力をこめる。

「言いたい事があるってんなら俺を見て言いやがれ!!」
「・・・・・・・・・・・っ!!」

甘寧の真っ直ぐな瞳が正面から彼女を捕らえた。
はその瞬間に言葉を失う。
甘寧の中では既に何かが弾け、彼自身にも止めようがない所まできていた。
何がそのきっかけになったのかは判らない、
だがそれは彼女の言動、行動、その全てだとも言えるし、また違うとも言えた。


、俺がオメェを姉貴だと思っていると、本気で思ってんのか!?
んな訳ねぇんだよ!!俺は・・・俺はもう随分前からオメェを女だとしか見ちゃいねぇぜ!!
さっきだってそうだ、太史慈の奴と仲良さそうに笑ってんの見ちまったってだけで、
俺ん中の血がたぎって止められねぇんだよ!!!
いい加減に気づけよ!!俺を見やがれ!!!!」


視線を彼女に固定したまま、甘寧が心の内に燃えていた炎を吐き出す。
は驚きを隠せぬように彼の瞳を見つめ返した。

「興覇・・・・・・・。」

逞しく成長していく甘寧に想いを寄せながら、彼女はそれを口にする事が出来なかった。
彼女は彼の姉であり、彼自身もそれを望んでいる。
自分の気持ちを知られてはいけないのだと彼女は思っていた。
だが、甘寧の今の言葉通り、彼の彼女に向けるその瞳の中にあるのは姉に対するそれではない。
は知らず知らずの内に、口元に笑みを浮かべた。

「もう、あんたに姉貴は必要ないのね。」
「ケッ、とっくの昔にな!」

ふてくされたような口調で甘寧が答える。
だが再びすぐにまたあの真っ直ぐな視線を彼女に向けた。


「で?オメェはどうなんだ?悪ぃが俺は、
ここまで言って返事きかねぇってのは無理だぜ。
これでもよく耐えた方だ。」


それでも激情に任せて彼女を自分の胸へ引き寄せなかった事に甘寧自身驚いていた。
気持ちが暴発しても彼女の事を一番に考える自分が居ることに、甘寧は感謝した。

「興覇、いつかあんたが言ったわね、私はあんたの自慢の姉貴だって。
そして私もそんなあんたが誇らしかった・・・。
血なんか繋がってなくても私達は姉弟だと、あの頃は本気で思ってたわ。」

甘寧の視線を受けとめながら、彼女は一呼吸そこで置いた。

「だけど今は・・・・。」

は1歩、甘寧の傍へ近付いた。
そしてゆっくりと彼の腰に腕を回す。
甘寧の腰の鈴に手が触れ、小さくコロンコロンと音を発した。
彼女は踵を上げ、甘寧の唇に軽く唇を重ね合わせた。

「これがオメェの『答え』だってんだな・・・?。」
「ええ、興覇。私はあんたが好き。もちろん1人の男として・・・・。」

彼女の台詞が終わるや否や、今度は甘寧が彼女の唇を奪う。
がまるで子供をあやす様に、クスクスと笑いながらそれを受け入れた。
僅かに息を荒げ始めた甘寧が眉をしかめて唇をずらし、
彼女に言った。

「おい、何笑ってやがんだよ?」
「興覇・・・あんたがっつきすぎだわ。」
「当たりめぇだ!一体どんだけ待ったと思ってやがんだ?」

甘寧はそう口にすると、突然彼女をフワリと抱きかかえた。

「!?興覇!?」
「悪ぃな、、がっつきついでに俺の部屋まで来てもらうぜ。」

言うが早いか、甘寧は彼女を抱いたまま全力で走り出す。
は答えのかわりに彼の背中に腕を回した。



彼女の弟から恋人へと姿を変えた、彼の背中に。



(真っ直ぐな瞳-終わり-)



後書き
またお題に沿ってるのか(以下略)
書いてる時は特に意識してなかったんですが、
何か蝶連載の逆ヴァージョンっぽくなった気がします。
でも全然年上ヒロインって感じじゃないですが・・・。
いや、いや、いや、それより何よりお題消化4題中3題甘寧って。
目的がずれてますね、キャラ数増やすどころか偏ってるし。
でわでわ、ここまでのお付き合い有り難うございました。
失礼致します!


ブラウザバック推奨