馬を全速で駆けさせること数刻、凌統はつい先日戦場となったその地に辿り着いた。
戦死者達の武具がそこここに散らばっているその草原は、
今も生々しくそこが間違いなく戦地になった事を物語っている。
凌統は尚香の持ち場となっていた東の森へと向かった。
昼尚暗い森の中、凌統は馬を下りて辺りを見回す。
ここでの戦闘は敵も味方も苦労したに違いない。
視界が木々に遮られて余りに見通しが悪かった。


やれやれ、この森の中、一体何を落としたってんだか・・・。


ゆっくり歩を進めながら、凌統は注意深く周辺を見渡す。
それほど大きな森ではないとは言え、
彼はがそうすぐには見つからない事を覚悟していた。
だが、大して歩き回らない内に正面の巨木の側から、
が此方へ向かって歩いて来ている姿が目に入った。

「凌統じゃない、どうしたの?」
「こんな所で偶然会うと思ったんですか?貴女を捜しに来たんですよ。」

は彼を見つけるなり、驚いたように言い、
そして小走りに近寄ってきた。

「ああ、あれから結構な時間経ってたのね、気付かなかった。」
「ったく、仮にも孫家の姫君ともあろう人が、
お供も付けずに長時間こんな所で・・・。ま、貴女らしくはありますがね。」

凌統は呆れ気味に溜息を吐いた。

「そうね、ちょっと無謀だったわ。」
「で?お探しのものは見つかったんですか?」
「ええ、たった今。だから急いで戻ろうと思ってたのよ。

は軽く頷いて答えた。
凌統は少しだけ目を細めて空を見上げた。
そしてすぐに彼女に視線を戻す。

「だったらすぐ戻るとしますか。このままじゃ、今にも雨が降りそうだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・もう、遅いみたいよ・・・・・・。」
「ん?」


ポツン・・・・・・・・・


の言葉に凌統が再び空を見上げると、雫が一滴、彼の鼻の頭に落ちてきた。
そしてそれを合図に、突然サァーッという音と共に雨が降り始める。
は凌統の腕を掴んだ。

「凌統、こっちに来て。」

彼女がそう言って凌統を引っ張って行ったのは、
先程彼女が立っていた巨木の下だった。
確かに、枝葉の生い茂るこの木の下ならば、大抵の雨は凌げるだろう。
彼らがその木の下に駆け込んですぐ、まるで狙っていたかのように雨脚が強まった。

「こりゃ・・・、当分止みそうもありませんね。」
「そう?通り雨じゃないかしら。」

は言いながら、巨木の根元にある岩に腰掛けた。

「通り雨ねぇ、だったら雷も鳴るかもしれませんね。」
「・・・・・・・・・・・・・雷?」
「ええ、ま、それだけならどうだっていいが、落ちられでもしたら堪ったもんじゃない。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

凌統は小さく溜息を吐き、の真向かいに腰を下ろした。
ふとに視線を移すと、
正面に座っている彼女の様子が何故かいつもと違うように見えた。

「どうしたんですか?急に黙り込んで。」
「え・・・!?いいえ、別に何も・・・。何でもないわ。」
「何でもないって顔じゃありませんがね?」
「そんなこと・・・・・・・・・・・」

ゴロロロロ・・・・・・・・・・

「っ!?」
様?」

会話が終わる前には言葉を切り、みるみる内に何かに怯えるような表情に変わる。
凌統が再び口を開きかけた時、一瞬大きな光が森全体をカッと包んだ。
それと共に空に紫色の閃光が走る。

「キャアァァッッ!!!!!!!!」
「!!」


耳を塞いだ格好のが唐突に悲鳴を上げ、凌統に抱きついた。
驚く凌統をよそに、は彼の胸で両耳を押さえて震えている。

「・・・まさか様、貴女雷が・・・・・・・?」
「なっ・・・何とでも言いなさい!駄目なものは駄目なのよ!!」

強気な台詞とは裏腹に、彼女は凌統から放れようとはしない。
凌統はそんな彼女を信じられない思いで見つめた。
城で見る勝気な彼女とは余りに違いすぎる。
だが、それが逆に彼には嬉しくもあった。

「やれやれ、これが昨夜あの周瑜様を一言で黙らせた人と同一人物とは。」
「凌統っ、誰にでも苦手な物は・・・・」


ピカッッ

「!!!!!!!」
「はいはい、安心して下さい、俺の胸で良かったらお貸ししますよ。」

いくらでもね、と付け加え、彼はの背中に腕を回す。
彼女はそれを嫌がるでもなく、それどころかますます彼にしがみ付いてきているようだった。


ったく、人の気も知らないで・・・。
無防備極まりないってね・・・・・・・・・・・・・。


身体に感じるの体温が彼には心地よく、彼女を抱く腕に知らず知らず力が入る。
相変わらず雷は小さく、大きく、そして遠く、近く、鳴っては光っていた。
時折チラチラと森を照らす雷の光が、より一層の恐怖心を煽っている様に感じられる。

「安心して下さいよ、様。ここに落ちる事はないでしょう、それに通り雨ならすぐ収まるはずだ。」

凌統は小刻みに震え続けているの細い肩を見つめながら口を開いた。
2人の重なる体温が、今は既に熱に変わっている。


俺もよく言ったもんだぜ、
・・・本当のとこ、雷なんか止んじまわない方がいいと思ってるってのに・・・。


やがて雨脚が弱まり、あれだけ鳴り響いていた雷も聞こえなくなった。
は凌統の肩越しにそれを確認すると、ゆっくり彼から身を離そうとした。

「待って下さい、様。」

だが、凌統は彼女から腕を解かず、力を弱めないまま声を掛けてきた。
止む無く彼女は彼の腕に抱かれたまま口を開く。

「・・・凌統・・・何よ?」
「雷が鳴った時に貴女の前に居るのが俺じゃなかったとしても、
貴女はそいつに抱きついてたんですか?」
「どうしてそんなことを訊くの?」
「質問に質問で答えるのは規則違反じゃないですかね、様。
・・・・・・・・・・けど、ま、今回ばっかは俺も真面目にお答えしますよ。」

言った凌統が腕の力を緩め、を見下ろす。
先程まで雷に怯えていた少女の様な瞳の彼女は既になく、
いつもの気の強い姫君に戻っていた。

「もしもあの時抱きつかれていたのが俺じゃなく、他の誰かだったとしたら、
俺はそう考えるだけで耐えられないんです。」
「凌統・・・、もしかして私を口説こうとしてるの?
・・・・・・・・だとしたら・・・らしくないやり方ね・・・・・・・・・・。」

は見下ろす凌統の瞳を捕らえ、
彼の企みを見破ろうとするかのような視線を向けた。

「口説くねぇ・・・、確かにそれに近くないこともない。
ですが・・・・・・・・・残念ながらそんな軽いもんじゃないんですよ。」
「・・・・凌統・・・・。」
「さぁて、様、俺は真面目に答えました。
貴女の誠意、見せてくださってもいいと思いますがね?」

口調はいつもと変わらず軽いものなのにも関らず、
その眼差しは真剣そのものだ。
は一呼吸置く為に1度俯き、そして再びゆっくりと顔を上げた。

「私、雷は本当に駄目なのよ・・・。
だから側に居れば例え誰だろうとしがみ付いてたかもしれないわ。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「でも・・・いくら私でも何とも思ってない男の腕にこんなに長時間抱かれたりはしない。
好きな男の腕でなければ・・・・・・・・・・・・。」

彼女は凌統の視線をそれと同じく真っ直ぐな瞳で受け止めて言った。


ここまで言わせちまうつもりはなかったんだけどね、
俺もやっぱりまだまだ精進が足りないって事ですか・・・・。


凌統はフッと緩んだ唇を、彼女の耳元近くまで持っていき、囁く。

「・・・残念でしたね様、俺の方はそんな言葉じゃ収まりきれそうにない・・・。」
「・・・・・・・・・凌統・・・?」

彼はの身体に腕を回すと、更に続ける。

「この1週間、俺は貴女と2人だけになれる機会を狙ってた。
なのに貴女ときたら、ご丁寧にことごとくその機会を潰してくれてたって訳だ・・・。」
「・・・え!?」
「悪いが様、俺の貴女への気持ち、ここできっちり受け止めてもらいますからね?」

凌統はそう言い、耳元に寄せていた唇を彼女の唇に移動させた。
は抵抗することなくゆっくり瞼を閉じる。
最初は触れるだけの軽い口付けだったが、
やがてそれは唇が触れ合うごとに激しさを増していった。
の息が上がり、小さく声が漏れる。

「・・・・あ・・ふ・・・・・・・・んっ・・・・・・・・・・・」

その甘い声さえ絡み取るように、
凌統は執拗に彼女の唇を荒らし続けた。
はいつの間にか彼の背中に回した両手に力を込め、
気付いた時には彼の着衣を乱していた程だ。
やがて唇を放した凌統がニヤリと笑みを含ませて言った。


「どうやらこれじゃ終われないらしい、
俺も・・・そして貴女も・・・・・・・。そうじゃないですか?様。」



(突然の出来事に-終わり-)


後書き
眠いぃ・・・只今深夜2時半(毎度の事ですが)
だからすみません、また後半覚えてないです。
何書いてるんだか書いてないんだか・・・。
あ、でも最後の行は見えるから分かります。
この後どうなったのかはご想像にお任せするとして、
まさか微エロ気味に仕立てるなんて・・・。
ほのぼののつもりだった気がするのに、すみません。
しかも雷ネタ何気にテニドリでも使用した気が?
でわ、今回もここまでのお付き合い、誠に有り難うございます!
失礼致します。


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