「あの周瑜殿をたった一言で黙らせるなんて芸当できんのは、
この孫呉内でも貴方だけでしょうね?様。」
「それは皮肉かしら?凌統。」
「褒めてるんですよ、正直皆度肝を抜かれてた。」
「そう、じゃあ素直に喜んでおくわ。」

言ったがクスリと小さく笑った。
並んで歩く彼らの後ろから、彼女の兄、孫策が追いかけるようにして走ってくる。

!」
「はい、兄上。」

笑顔で孫策の方に振り向く
隣を歩く凌統は、内心小さく溜息を吐く。


・・・やれやれ・・・また始まっちまいますか・・・。


「なぁ、もうちっとこう、周瑜の立場ってヤツを考えてやっちゃくれねぇか?
幾らなんでもありゃ叩きのめし過ぎだぜ。」
「あら?切れ者軍師と名高い周瑜様が私ごとき駆け出し軍師の言葉にそこまで?フフ・・・。」
〜!頼む!!もっとアイツを立ててやってくれって、部下の手前もある事だしよ!な?」
「策兄上、私は何も周瑜を目の仇にしている訳ではありませんわ、
ただ1つの意見として申し上げているだけの事。気になさる事などないと思いますけど?」

歩く速度を緩めもせず、笑顔を向けたままが言った。
今の孫策には戦場で見せる勇猛な表情は欠片も見当たらない、
寧ろ5つも歳の離れた妹に言葉で言い負かされて泣き出しそうな子供の様になってしまっている。
いつもの事だとは言え、そんな孫策が気の毒になった凌統は彼に助け舟を出す。

「まぁまぁ、様の言ってることはよく分かりますが、
ここは孫策様を立てて差し上げんのも、妹としての務めじゃないですか?様。」
「凌統まで・・・。
・・・・・・・・・・・仕方ないわね、承知しました兄上。私から周瑜様にお詫び申し上げますわ。」
「お!そうか!悪ぃな。有り難よ、凌統!」

急に元気を取り戻した孫策が、ばしばしっと凌統の背中を豪快に叩く。
凌統は思わずむせ込んだ。

「ゲッホゴホッッ・・・・孫策様・・・。」
「ハハッ!わりぃ!んじゃ、2人ともまたな!」

嬉しそうに言い、孫策はその場を去った。
そんな彼の背中を見送った後、が足を止め、ジロリとまだむせ気味の凌統に視線を向ける。

「私よりも兄上の肩を持ったわね?」
「あの場合そうでもしなきゃいつもの調子で30分でしょう?悪いが俺はそこまで暇じゃないんですよ。」
「口の減らない。」
「その言葉、俺がそっくりそのまま貴女にお返しします。」

ククっと喉を鳴らして凌統は笑った。
少しむくれたような表情で彼を睨んだが、再び溜息を吐いた。

「周瑜の執務室へ行って来るわ。」
「へぇ、そりゃ行動がお早いことで。」
「今ならまださっきまで周りに居た部下達も居るはずだもの。
じゃあ、お酒は今日はお預けになるけど、またの機会に宜しくね。」

彼女はそう言って今来た方向へ再び歩を進める。
凌統は苦笑しながらはいはいと軽く頷いて見せた。

「しゃーない・・・今日も大人しく眠るとしますか・・・・。」

独り言を呟き、彼は自室へと向かう。
彼の口から知らず知らず小さく溜息が漏れる。
これで今日もに気持ちを伝える機会を逸してしまった。
気が強くて負けず嫌いの孫堅の娘、
身分違いと分かっていても気持ちは募るばかりだった。
モヤモヤとしているのが嫌になり、
この際気持ちだけでも吐き出してしまおうと思ったのは1週間ほど前。
だが、機会が訪れたと思う度にそれはすぐに潰される結果となる。
理由の大半は自身が原因だ。


やんなるねぇ・・・、ここまで来るとわざとじゃないかと疑っちまうぜ・・・。


今度は深い溜息を吐き、彼は自室の寝台の上にゴロンと横になった。
今日もすぐには寝付けそうもないなと思いつつ、
それでも彼は目を閉じる。
何故なら明日が来ればまた機会があるはずだからだ。
無理にでも日付を越したい気分だった。




翌日、珍しく何の予定もない凌統は昼近くまで床に居た。
そこへ、尚香お付の侍女の1人が彼の部屋の扉の前から声を掛けてきた。

「恐れ入ります、凌統様。」
「んー・・・・・あ?ああ、何だ?」

寝ぼけ交じりの声で答え、彼はゆっくり身体を寝台から起こす。

「尚香様が至急お伝えしたい事があると・・・。」
「?姫が?分かった。」

彼は衣服を着替えて急いで侍女に案内されるように尚香の部屋へ向かった。
尚香が凌統を呼び出す事など初めての事だった。
彼女の部屋の扉の前で、前を歩いていた侍女が足を止める。

「尚香様、凌統様をお連れ致しました。」
「・・・有り難う。」

部屋の中から聞こえた彼女の声にはいつもの様な覇気がなく、
しかもかすれ声に近かった。
どうやら風邪を引いているらしい。

「ゴメンね、凌統。わざわざ来てもらっておいてここからで悪いんだけど。」
「いいえ、姫君に、しかも病にかかってらっしゃる貴女に顔を出せなんていくら俺でも言いませんよ。」

彼独特の皮肉な言い回しではあったが、その声には充分な気遣いと優しさが感じられた。
尚香は小さく笑い、そして先を続ける。

「有り難う、凌統。それでワタシの用件なんだけど、姉様の事なの。」
「・・・・・様の?」

その名に凌統の心が瞬時に反応する。
尚香は更に話を進めた。

「実は今朝・・・この間の戦でワタシが大切な物を落としてしまった事を姉様に話したのよ・・・。
それをどうしても取りに行きたいから父様や兄様達にそこまで行くのを許してもらえるよう一緒に頼んで欲しいって。
だけど姉様・・・・ワタシに熱があるのを気付いていたから・・・・・・。」
「・・・自分だけで探しに行っちまったってとこですか?」
「そうなの、でもそれから随分経つのに戻ってくる感じが全然ないみたいだし。」

そこまで聞いて、彼は尚香が自分に何を言いたいのかを理解した。
否、もし凌統が思っている通りではなかったとしても、
彼は行動に移っていただろう。

「捜してきますよ、姫は早いとこ元気になって下さい。
貴女に寝込んでる姿なんか似合いませんからね。」
「そうね、そうするわ。有り難う、凌統。姉様は頼んだから。」
「お任せ下さい。」

凌統はそう言うが早いか、門前へ向かう。
その途中、馬を一頭準備させる事も忘れなかった。


寝台へ戻った尚香は、不意に笑って側に居る侍女の1人に向かって口を開く。


「凌統はね、ワタシのことは姫って呼ぶけど姉様は絶対名前で呼ぶの。どうしてかしらね?」


それこそが彼女がわざわざ凌統に姉、を捜してきて欲しいと白羽の矢を立てた理由でもあった。


無論、当の本人はそんなことなど知る由もない。



(突然の出来事に-続く-)


後書き
連載になってしまいました・・・。
しかもまた凌統だし。
結局今のところ甘寧と凌統しかないし。
キャラ幅広げるつもりあるのか!?私・・・。
何気に孫策、尚香脇役率高し(笑)
周瑜に何を言ったのかはご想像にお任せします。
この作品は凌統に敬語を使わせたいが為に出来上がった代物です。
本当は甘寧も出したかったんですが、今回は諦めました。
でわ、今回もここまでのお付き合い、誠に有り難うございます。
続きもお付き合い頂ければ幸いです。


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