バーチャルだ、バーチャルだと馬鹿にしてかかると足元をすくわれて痛い目をみたりする。
それでもこれが現実じゃない事が嫌になる位分かってるから、
ここの世界の人達に心を揺り動かされることなんか深く考えてもいなかった。
考えないようにしてた。
だけどたまに見せる甘寧の真剣な眼差しに、動揺しているのもまた事実。
目は口ほどにものを言うって言うけど、お爺さん、
これもプレイヤーに対して好意的に出来てるだけのプログラムじゃないだろうな?
なんて疑ってみたくなる。
『作り物』だと言聞かせないと、本気で自惚れてしまいそうな自分が怖かった。
本気で甘寧が『キャラ』じゃなくて『男の人』に見えてしまいそうで怖かった。



「ったく、何だって俺が書物庫なんかに閉じこもらなきゃなんねぇんだ・・・。」
「陸遜に頼まれたんだから仕方ないでしょが、断われるんなら別だけどさ。」

隣で思いっきり不満げにぶつくさと文句を垂れ流している甘寧に、あたしはチラリと目を向けて言った。
あたとしてはまさにグッドタイミングとしか言いようがない。
例のお爺さんから聞いていたアイテム(?)は、予想では多分「1番親しい人物と捜せ」って事だと思うから。
今この呉で1番仲がいいのは多分甘寧だと思う。
だって、何だかんだと言いつつも気付けば一緒に居る事も多いから。
だから陸遜がにこやかで爽やかに、甘寧に指定した書物を持ってきてくれと頼んでいるのを見た時、
すぐに承知したのはあたしの方だった。

「あたしも手伝うんだし、大丈夫、大丈夫。」
「・・・俺ぁあの書物がずらっと並んでんの見るだけで頭が痛くなってきちまうんだよ。」
「・・・・・・・・・・・あのねぇ・・・。」

呆れて溜息を吐きながらも、あたしは甘寧と一緒に書物庫の前で足を止めた。
実はこの城内には他にも幾つか書物庫があったりするから、絶対にここにあると断言できるわけじゃない。
だけど、もしここに例の書物が眠ってるとしたら、絶対に見つける自信があたしにはあった。
理由なんか分からないけど。
この書物庫は城の中でも小さい部類に入るもので、しかもあんまり使われていない所のような感じだった。
陸遜が指定した書物は結構分かり易く説明をしてくれたから、多分すぐに見つかるだろう。
あたしは湿っぽい書庫内に足を踏み入れて、陸遜から聞いた書物を早速探し出すことにした。
勿論そのついでに、と言うかあたしとしてはこっちがメインなんだけど、例の書物も探すつもりで。

「チッ・・・黴くせぇ所だぜ。自分まで黴ちまいそうな気にならぁ。」
「はいはい、文句はいいから捜すもの捜そうよ。そうすればここから出られるんだし。」
「・・・ったく、しゃーねぇな・・・。」

甘寧は顔をしかめてあたしとは別の棚に向かった。

「陸遜が言ってた特徴とか覚えてる?ほら、紺色の分厚くて表紙に一文字で大きく文字が書いてあるってヤツ。」
「ああ?ああ、そうだったか。」
「・・・・・・・・・甘寧・・・・。」

明らかに聞いてなかった風な甘寧の返事にあたしはまた溜息を吐いた。
それから数十分後、黙々と書物探しをしてたあたし達だったけど、
甘寧が痺れを切らして大声で言った。

「だぁぁーー!!もう無理だぜ!!これ以上ここに居たら俺は窒息しちまう!!間違いねぇ!!」
「そう言っても、見つけない事には出られないから。」

あたしは甘寧の傍まで行って、腕組みをして答えた。
甘寧は床に座り込んでがしがしと頭をかき回してる。

「ったく、陸遜の野郎俺がちっとばっかし仕事を溜め込んだぐれぇで・・・。」
「・・・・・・・ちっとばっかし・・・ねぇ?あたしには山積みに見えたよ。」
「るせぇ!!・・・大体さっき聞いた特徴の本なんざ似たようなもんがあり過ぎて分かりゃしねぇぜ。」
「え?ああ、まぁね。」

それはそうかもしれなかった。
陸遜の説明が分かり易かったから、すぐに見つかると踏んでたんだけど、捜してみると似たようなものが多すぎて、
だけど最後の条件の何かが違うってものばかりだったりと手間取ってしまってる状態だ。
とは言え、まだ30分位しか捜してはいないんだけど。

「・・・・ケッ・・・しゃーねー、こうなりゃ勘だぜ、勘。」
「いや、それあてにならなさ過ぎだと思う。」

あたしの言葉を無視して、甘寧はじーっと書物の棚を睨みつけている。
そして唐突に棚から一冊書物を取り出してそれをあたしの方に突き出した。

「おぅ!これだ!!これが陸遜の野郎が捜してやがる書物だろ!?」
「・・・・・・・・って、あのね、そんな簡単に見つかるわけ・・・・。」

おいおい、と思いつつもあたしは甘寧の突き出してきた書物に何気無く目を向ける。
分厚い紺色の書物、それに大きく書かれた漢字が一文字。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?んんん!?」

あたしは甘寧の手にある書物を思いっきり凝視して、
更にそれを奪い取ると中身をペラペラ捲ってみた。

「嘘!!ビックリ!これ本当に陸遜に言われてた書物だよ。うわー、凄い偶然。」
「へへっ、偶然じゃねぇよ。俺が探し当てたんだからよ。」
「・・・・ま、今回はそう言う事にしておいてあげる。」
「ケッ言ってくれるぜ、用事は済んだんだ、さっさと出るぞ。」

言って、甘寧は立ち上がると扉の方へ向かおうとする。
あたしは慌てて彼の腰の鈴を両手でひっぱった。

「だッ・・・!って、オメェなぁ!!何しやがんだ!?」
「まだあたしの用が終わってないから。」
「んだと!?まさか、おめぇまでここに探し物があるとか言い出しやがんじゃねぇだろうな!?」
「だからそうなのよ、しかも甘寧が居ないと絶対見つからないから。」
「んだ、そりゃ?」

しかもここにあるのか、どんな書物なのかも分からないと言うのは勿論口にしなかった。
そんな事言ったら甘寧の事だから絶対今すぐ出て行くに決まってる。

「もう少し我慢してくれるとあり難いんだけど。」
「・・・・・チッ・・・しゃーねぇ・・・・。」
「有り難う、じゃ、早速捜そ・・・・」
「よっしゃ!俺がまた勘を働かせてさっさと終わらせてやるぜ!!」
「・・・・・・・・・・って甘寧?まさかまた・・・・」

甘寧はさっきの恐るべき偶然を本気で自分の力だと思っているらしく、
また書物棚をじっと睨みつけている。
そしてまたさっきと同じようにガッと棚から書物を掴み出してあたしの前に突き出して見せた。

「っ!?甘寧!!これ!」
「おぅ!っって・・・さすがに今回は無理か・・・チッ・・・えらくボロっちい書物掴んじまったぜ。」

声を上げて驚くあたしに対して、その書物を元に戻そうとする甘寧。
あたしは咄嗟に甘寧の腕を掴んだ。

「だっ!んだぁ!?」
「これだよ!あたしの探してる書物!!」

もうただ驚くしかなかった、甘寧にしてみれば適当に掴み出した書物なんだと思われるそれは、
七色に輝いていて明らかにあたしが捜していたはずの書物だと分かった。
だけど、どうやら甘寧にはそれがただの古くさい書物にしか見えないみたいだった。

「マジでこれか?間違いねぇんだろうな?」
「間違いないよ、甘寧!有り難う!凄い、あんた本当に凄いよ!」

嬉しすぎてあたしは思い切り笑顔を見せて言った。
まさかこんな形で見つかるなんて思ってもみなかったけど、これも甘寧のお陰だと思う。
あたしはその虹色の書物を両手で握り、また顔を上げて彼を見た。

「本当に有り難う!」
「・・・あ?・・・お・・・おぅ。んだよ、そんな嬉しいのか?」
「凄く!感謝してるよ、甘寧様!」

笑いながらそう言って、あたしは甘寧の肩に軽く手を置いた。
そしてまた手元の書物に視線を移す。

「・・・。」
「何?」

顔を上げた瞬間に視界を何かに遮られた。
至近距離に甘寧の顔があることに気付いて、声を上げるより早く唇にあたる柔らかで熱いその感触に驚く。

ドサッ・・・・


手にしていた書物が音をたてて床に落ちた。
その間もほんの少し開いていたあたしの唇から、彼の吐息が滑り込んでくるのが分かった。
一瞬、呆然となっていると彼が自分からグイとあたしの肩を掴んで身体を離す。

「甘・・・寧・・・・。」
「・・・・・悪ぃ・・・・・・・調子に乗り過ぎちまったな・・・。・・・・あばよ!」
「甘寧・・・!?」

呼び止めるあたしの声も聞かず、甘寧は逃げるみたいに扉から走って行ってしまった。
あたしは殆ど頭が回らない状態で、床に落ちた書物を拾い上げる。
そして震える指先で自分の唇に軽く触れてみた。
気のせいか、まだ甘寧の唇の熱が残ってるみたいに思える。
あたしは必死に頭を整理しようと深呼吸をするように大きく息を吸ったり吐いたりした。


こんな不意打ち・・・卑怯だぞ・・・・・・・・。


『そなたの中で恐らく唯一『現実』だと認識している心で感じているのなら、
この世界の者に想いを寄せてしまうこともあるだろう・・・。』

ふと左慈の言葉が頭を掠める。
動揺しまくってる自分の心に、沁み込んで行くその台詞。

バーチャルなのに全てがリアル。


未だに残る甘寧の唇の感触は、今まで感じたどんなことより、生々しくあたしに刻まれてしまった。


(甘寧編 不意打ち -終わり-)



後書き
どうにか甘寧編まで更新。何だかんだでまた長ったらしくなってしまった。
しかも前振りが長すぎたな・・・。孫策編はどうなることか・・・。
と言うか孫策と甘寧を上手く書き分けるコツが欲しいです。
何か殆ど同一人物っぽくなっている気がしてなりません。
一応頑張って性格上違う風にしているつもりではあるんですけど。
では、今回はここまでのお付き合い誠に有り難うございました。
では失礼致します。


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