これはバーチャル、これはバーチャル。
言聞かせてないと不安な自分が、あたしはずっと不安だった。
そうしてないとあの卑怯な瞳を持つ女ったらしのペースに乗せられっ放しなあたしが不安だった。
勿論現実でゲーム画面で見てる間は凌統は本当にお気に入りキャラだったし、
ルックスだけじゃなくて武器だって扱い易いし、あの脱力系な性格も好きだった。
だけど、今こうして目の前に居て、会話出来る距離でアイツをみてると苛々してきてるのも事実だ。
「悪いね、今日は俺はコイツにちょっと用事があるんだ。」
「様に?でもこの間もそう仰って・・・・、分かりました・・・今度は絶対にご一緒して下さいませね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
チラチラあたしに不満げな視線を投げかけつつ、その女官はあたし達の傍から離れて行った。
これでこの手の事は何度目だろう、数えたらキリがないけど、
いちいちあたしをダシに彼女たちから逃げるのは止めて欲しい。
お陰でこっちは女官連中から煙たがられてあんまりいい顔はされてない。
身分的にあたしが上ってことになってるからか表立った事をされた訳じゃないけど。
「凌統・・・・・・・。」
「ん?」
「いい加減にしてよね、あたしはあんたの『女よけ』じゃないんだから。」
「俺はあんたをそんな風に利用したつもりはないんだけどね。」
「たった今もしたでしょうが!それにこないだからお声がかかる度にあたしを持ち出すし。」
いい迷惑!とあたしはジロリと凌統を睨みつける。
凌統はそんなことに全く動揺もせずに言った。
「そうは言いますがね、殿、俺は本当の事しか口にしてませんよ。
俺があんたに用事がある時に限って彼女達が声を掛けて来るんだろ。
それに今日はあんたから言ってきたんだぜ、書物庫に付き合えってさ。」
そう言って、凌統はあたしの先に立って歩き出した。
あたしは仕方なくその後について歩く。
爺さんの言っていたアイテム(?)は書物だから書物庫にあると言ってた。
と言っても、この城には書物庫が何箇所もあるから全部当たってみないと分からないんだけど。
今回はとりあえず今いる場所から近いところにある1番小さな書物庫に行ってみることにした。
「で、あんたが捜してる書物ってのはどんなもんなんだい?」
「・・・兵法関係・・・・・・・・だと思う。」
「・・・・何だい、そりゃ。あんた自分で探してる物がどんなものかも分からないのか?」
「・・・見れば分かると思う。」
お爺さんから肝心な部分が聞けなかったから曖昧に反応するしかないあたし。
凌統は半分呆れたみたいな溜息を吐きながらも、どうやら付き合ってくれる様子だった。
どっちにしろ、凌統が居てくれないと捜せない物ではある、と思う。
『アイテムと言ってもそれは書物なんじゃ、じゃから書物庫に眠っておる。
黄巾の乱終了後に嬢ちゃんと1番親し・・・・・・・・・・・・
そこでお爺さんからの説明は途切れた。
あたしの予想じゃその後に続くのは『1番親しい人物』てことだったんじゃないかと思う。
凌統を選んだのは、一緒にいる機会が多かったからだ。
それなりに仲良くなっていると思ったから。
勿論、友情的方向で。
『そなたの中で恐らく唯一『現実』だと認識している心で感じているのなら、
この世界の者に想いを寄せてしまうこともあるだろう・・・。』
不意に左慈の言葉が頭に浮かんで来た。
あたしは先を歩く凌統の背中を見つめながら、ぼんやりとそのことにつて考えてみる。
あの言葉を聞いた時、妙に納得してしまった。
だけどやっぱりどこかで必死に否定したがってる自分もいたりする。
これは恋愛シュミレーションじゃない!これはバーチャル、これはバーチャル。
自分では整理のつけようもないこの複雑な感情。
まさかこの世界でこんなことで悩むとは思ってもみなかった。
不意に凌統の足が止まって、あたしは書物庫の前まで来た事に気付く。
「着きましたよ、殿。じゃ、探しすとしますか?
どんな物かも分からないって書物ってやつをね。」
皮肉っぽくそう言って、凌統が書物庫の扉を開ける。
あたしはムッとした顔つきをしてみせながらも一緒に中へ入った。
この書物庫は他の場所にあるものと違ってあまり使われてないようだった。
埃っぽくて、少し湿気があるように思える。
それでもあたしが来る事を伝えてあったから、蝋燭に明かりが灯されていて薄暗いと言う事はなかった。
「端の方から探すから、凌統は高いところの本を取ってくれる?」
「、見りゃ分かるかもしれねぇけど、
ここは他の書物庫より狭いと言っても結構な数だぜ、それを手当たり次第に捜そうってのかい?」
「・・・・凌統、言いたいことは分かるけど、せめて『女よけ』代として分は付き合ってよ。」
「やれやれまたその事か、ま、付き合うのは構わないけどね。」
そんな会話をかわしつつも、結局2人で書物探しを始めた。
凌統の言い分は最もだけど、あたしには何故かもしそれがここにあるんだとしたら見つけられる自信があった。
理由なんか全然分からないけど、きっと分かるという妙な確信さえ持っていた。
「・・・さっきの話しだけどさ。」
「さっき?」
「『女避け』あれ、実は半分は当たってるぜ。」
「・・・半分?っていうか、じゃあやっぱりダシにしてるんだ?
お陰でこっちは凌統様親衛隊に痛い視線を送られる毎日だよ。」
あたしは軽く溜息を吐いて、書庫の棚にある書物をひとつ手に取っては、
確認してまた棚に戻すという作業をしていた。
「けどあんたが思ってんのとは理由が違う、別に利用してる訳じゃないんでね。」
「・・・でもあたしが居るたびにあたしとどっか行くことを理由にしてるじゃない。
それに今自分で当たってるって・・・。」
「半分だろ。あんたさ、最近俺と一緒の事多いと思わないか?」
「え?・・・・そりゃ・・・まぁ・・・・鍛錬も食事も大抵一緒だけど・・・、
でも凌統が仕事の時とか別々だし・・・。何で急に?」
会話と作業を両立しながらあたしは彼に尋ねた。
「、俺が探し回って毎回わざわざあんたに声を掛けてるって知ってたかい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
あたしの質問に答えるのとは違う方向で凌統がまた質問してきた。
その内容が一瞬理解出来なくてあたしは作業をしている手を止めて、
隣に立っている凌統を見上げる。
彼の瞳は真っ直ぐあたしを見つめていた。
「・・・・・・・・・・・・・凌統・・・?」
「やっぱりな・・・・、あんたの事だから絶対気付いちゃいないとは思ってたけどね。」
そう言った凌統が、また口を開きかけて何か続けようとしたその時、
急に室内に風が入ってきて書庫内の灯りが消えた。
あんまりにも唐突に蝋燭が消えたもんだから、一瞬にして周りが真っ暗になる。
薄暗いとか言うレベルじゃなくて、目を開けた時と閉じた時とが同じ位暗かった。
「凌統・・・・!あたっ・・・」
驚いて足を踏み出した所で、足元にあった何かにすね辺りをぶつけてあたしは声を上げる。
不意に凌統があたしの腕を掴んで言った。
「この状態で動き回るのは止めた方がいいぜ、どうせすぐ誰かが気付いて灯りをつけに来るだろ。」
「それならいいけど・・・ちょっとこれ暗すぎじゃない?」
「フッ・・・何、あんた怖いのかい?」
「・・・別に。」
塗りつぶしたみたいな暗さの中でも、凌統の奴が笑ったのがすぐに分かった。
何だっていつもうこうなんだろう、人のことをからかうことしか頭にないみたいな男だ。
あたしは仕方なく凌統のヤツの言葉どおり動き回るのを止めて、書物の並んだ棚に寄りかかった。
「何かこないだっからこんなのばっかりな気がする。」
「ん?」
「だってほら、こないだもあの大きい方の書物庫で・・・・・・・・・・。」
言いかけて、あたしは先を続けるのを止めた。
あの時、書物庫で2人っきりで閉じ込められた時の薄暗がりの凌統の行動と、
その後の行動を思い出して、何でよりによってこの話題を持ち出したんだと自分で後悔する。
それが起きるまでだって確かに凌統の事は気になっては居た。
だけど、あの出来事があってからあたしは前よりもっとゴチャゴチャと彼について考えるようになった気がする。
無双の『キャラ』凌統としてじゃなく、
『男の人』として頭に思い浮かべてしまっている自分が居る事を否定しまくってはみたけど、
それを考えてしまうってこと自体が既にヤバいのだ。
「?」
「・・・・・え?ああ、それにしても誰も来ないね、まだ気付いてなかったりして。」
急に話題を変えたから多分凌統は不思議に思ったかもしれない。
それでも先を続けて話すのが怖くて、あたしはどうにかそれで誤魔化す事にした。
「ここって小さい上にこの辺ほとんど人の出入りがないから、
気付いてもらうのに時間かかるんじゃない?・・・・・?凌統??」
どこに目を移しても真っ暗で凌統がどこに居るのかも分からない。
けど、さっきからどうにか誤魔化そうとペラペラ喋っているあたしに、
凌統は一言も返してくれてなかった。
不安になってもたれかかっていた棚から離れようとしたその時、
まだ腕を凌統に掴まれたままだと言う事に気付いた。
そして、不意にその彼の手に力が入ったのが分かる。
暗闇でどう言う体勢になっているのか分からなかったけど、
とりあえずあたしは顔を上げて視線を彷徨わせてみた。
「・・・・凌統・・・・?何で急に黙りこ・・・・・・・・・・・・・・
その先の言葉は続けられなかった。
突然あたしの周りの空気が動いたかと思うと、次の瞬間には唇に柔らかくて生暖かいものが押し付けられていた。
余りに生々しいその感触に、瞬時にしてあたしの身体も思考回路も停止してしまう。
呼吸通路を突然に塞がれて息が止まったのが分かった。
硬直したあたしの体のすぐ前に凌統が居て、あたしの背を書物庫の棚に押し付けている。
ゆっくりと確実に頭がパニック状態に向かっていった。
それでも抵抗しようと言う気は全くなくて、多分随分長い間そんな状態で固まっていたと思う。
「申し訳ありません、凌統様、様、すぐに灯りをおつけしますので少々お待ちを!」
そんな声と一緒に手に蝋燭を持った書庫番の人が室内に入ってきたと同時に、
あたしの傍に居た凌統が身体を離した。
そして書庫番の人は言葉通りに次々に灯りをつけてから、
あたし達に謝るとまたそのまま書物庫から出て行ってしまった。
あたしは明るくなった室内で、視線だけをゆっくりと凌統の方に向けた。
「・・・悪いな、・・・。何か書物探してる気分じゃないんでね、
今日はこれで戻らせてもらうぜ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
あたしは返事を口にする事も出来なくて、ただ首を縦に振って見せた。
凌統はそのまんまあたしの傍を通って書物庫を出て行く。
あたしはその足音が聞こえなくなってから、ずるずると棚を背にして床に座り込んだ。
・・・・・・・・・・・・今・・・・・・凌統・・・・・・あたしに・・・キ・・・・キス・・・・・・・・・した・・・・・?
今も生々しく残る唇の感触と、掴まれていた腕の感触。
バーチャル、バーチャルと言い張ってたくせに、
そのリアルさに頭はパニくりまくりだった。
その後も暫く呆然とパニック状態が入り混じった感じで、
あたしは書庫に1人座り込んでいた。
そしていつの間にか足もとに落ちていた書物が、
七色に光っていてそれが例のアイテムだと気付いたのはそれからもっと時間がたってからのこと。
(凌統編 暗闇 -終わり-)
後書き
猛将伝の立志やってから私の書く凌統がいかに偽物か、
思い知らされてしまいました(涙)これもそうなってないといいけど・・・。
今回の題名は今までの物と違って共通点がないように見えますが、
私の中では「キスのシチュエーション」です。
うちの凌統は小ズルイので暗闇で(笑)
その後の態度が冷たい理由は次回にて・・・。
では、今回もこんな作品を読んで下さって有り難うございました、失礼致します。
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