策への気持ちに気付いてしまった事で、認めてしまったことで、どこか少しだけ楽になった。
左慈の言っていた言葉がやけに身に沁みて来る。
あたしのたった一つの現実の部分が感じているなら、きっとこれは本当に恋ってやつなんだと思う。
だけど、それを認めてしまったことが、また違う苦しみを生んでるのも事実だ。
「、君の所に孫策は来ていないか?」
「え?周瑜。今日はまだ見て無いけど・・・、もしかしてまた逃げられたの?」
「ああ、書簡が山のように積んであって流石に私だけでは処理しきれない。
今日こそは孫策自身に少しでも仕事を進めてくれと言うつもりだったのだが・・・。
そうか、君の所にも来ていないのか。」
周瑜はそう言って小さく溜息を吐いた。
彼がこの手の事で困ってんのは日常茶飯事なんだけど、
今日はどうやら本当に洒落にならないところまできてるらしい。
相当弱りきった表情だった。
「私も捜してみる。もし見つかったら絶対仕事するように言うから。」
「ああ、そうしてくれると有難い。
しかし・・・一体何処に・・・今日は大喬も城には居ないはず、ならば君の所だと思ったのだが・・・。」
「・・・ええ!?何でそうなる訳!?だっ・・・大喬じゃないならあたしって・・・。」
思わず過剰反応を示すあたし。
周瑜はそれにほんの少し微笑んで言った。
「そう驚く事もないだろう、孫策は君をいたく気に入っている。
その証拠に見つからない時は大喬か君の所へ顔を出している事が多い位だ。」
「・・・・・・・・・・・。」
何と答えていいのか分からずに戸惑うあたしに、周瑜はまたフッと笑った。
「では、孫策が見つかり次第仕事に戻るように言っておいてくれ。私はこれで執務室に戻らねばならない。」
「あ、分かった。じゃあ・・・・。」
軽く頷いたあたしを背にして、周瑜が執務室に向かって歩き出した。
あたしはその背中が小さくなってから、大きく溜息を吐いた。
無双の世界じゃ正室の大喬しか出てこないけど、実際は側室もいるはず。
だからかもしれないけど、その系統の会話を振られる事も少なくない。
つまり『策と仲がいい』って事のちょっと突っ込んだ内容とか。
だけど当たり前だけど、私は別に側室になりたい訳じゃない。
そうなれるなれないの問題じゃなくて、だ。
じゃあどうなりたいんだ・・・?って聞かれると困るけどさ・・・・・・。
廊下を周瑜が向かったのとは逆の方向に向かって歩き出しながら、あたしは眉間にしわを寄せて考える。
大体仲がいいって言われる事自体は嬉しいんだけど・・・、
どう見ても策の大喬とあたしに対する感情は別物だしな・・・。だから余計に・・・・。
苦しい。
そう、やっぱり苦しい。
あたしは大喬も好きだし、彼女と一緒に居て幸せそうな孫策も好きだ。
なのにそれをどこかで羨ましく思ってる自分も居て。
普通の恋心以上に複雑な何かが胸に押し寄せて、たまに悲鳴が上がりそうな気分になったりする。
本当に、らしくない事この上ない。
そんな事を考えながらも、あたしは策が居そうな色々な場所を捜しまくった。
結果、どこにも彼は居なくて、そうこうしてる内に時間だけが経ってしまった。
本当にどこに行ったんだろ?まさかここまで捜して見つからないなんて・・・、
新しい隠れ場所でも開拓したのかな・・・・・・・。
てかあたし・・・お爺さんの言ってた書物・・・さっさと探さないといけないしなぁ・・・。
あたしは策捜索を諦めて、とりあえず書物庫に向かう事にした。
と言っても、あたし1人で行ったところで例の書物は見つかりゃしないんだけど。
あたしは城内に数ある書物庫の中で、1番小さな書物庫に足を運んだ。
「・・・ん?誰か居る・・・・・?」
普段文官達もあまり出入りが無いその書物庫に、灯りが灯されて誰かが利用している最中みたいだった。
あたしは恐る恐る中に入って、軽く室内を見渡す。
「お!じゃねぇか!」
「・・・え?えええええええええええええええ!!??」
突然声を掛けられて、顔をそっちに向けてみれば、何とそこに立って居たのは両手に書物を抱えた策の姿。
あんまり吃驚したもんだから、書物庫だって事も忘れて思わず大声を上げてしまった。
だって、まさかあれだけ捜しまくった策が書物庫に居るなんて誰が思うだろう。
少なくともあたしは、全くそんな方向に考えたりはしなかった。
フェイントにも程がある行動だ。
「おいおい、そんなに驚くこたねぇだろ?・・・ってそりゃ無理か。
俺自身こんなとこに閉じこもるなんて思ってもみなかったからなぁ。」
「って、なっ・・・何してんの・・・!?」
「んー?あんまり書簡が溜まり過ぎちまってよ、さすがにヤバイってんで手をつけ始めたんだが・・・、
そん中にここの資料が必要なもんがあったから探しに来たって訳だ。ったく、おかげで朝からずっとこれだぜ。」
「・・・・・・・・・・・・・見つからないはずだね・・・・・・・・・・・、策が書物庫に居るなんて誰も思わないよ・・・・・。」
あたしが策を捜しに行った場所は、全部策の隠れ場所、休憩場所、遊戯場所だったから。
「周瑜が策に仕事するように言ってくれって言ってたんだけど、その必要なかったみたいだね。
・・・・・・・そんなに仕事溜まってたの?」
「おぅ、この俺が焦るぐれぇだから相当なもんだぜ?ははは!」
何故かそう言って爽やかに笑う策。
そこは笑う所なんだろうかと言う素朴な疑問は置いといて、とにかく良かったと言っておこう。
「じゃあまだ仕事は終わって無いんだ?何か手伝おうか。」
「どっちにしろ仕事は明日の朝まで片付かねぇからな、今から休憩入れようと思ってたとこだ。
お前こそ何か用事あってここに来たんだろ?」
「え?ああ、まぁね。一応書物探し。」
中身も外見もどんなもんだか分からないんだけど。
と言うのはとりあえず言わずにおいた。
「じゃ、俺も手伝ってやるぜ。」
「でも休憩するんじゃなかったの?」
「いいって、俺もお前とここに居た方が楽しいしな。その前にこの要らねぇ書物直してくらぁ。」
「あ、うん、分かった!有り難う。」
あたしは笑顔でそう答えた。
策は自分では気づいて無いけど、結構天然系でサラッと嬉しい言葉を掛けてくれる。
深い意味がなくても、こっちが意識してしまいそうな事を無邪気な笑顔で言ってくれるもんだから、
あたしとしては少なからず複雑だったりはする訳だ。
「あ、ねぇ策、実はあたしの探してる書物なんだけ・・・ど・・・・・・・・・?」
策が居る書物棚にひょいっと顔を出して覗いてみると、彼は書庫棚を背に床に座り込んで居た。
しかも、どうやら居眠りを始めたらしい。
・・・の○太並み・・・・・・。
確かに、あの策がいくら仕方が無いとは言え、長時間こんな狭い書物庫に居ればその位疲れるかもしれない。
あたしは彼が起きないように注意しながらそっと傍に近付いた。
そしてまだ策の手元にある何冊かの書物を拾い上げる。
それを策から少し離れた場所に置いて、あたしはまた彼に視線を移した。
そう言えば・・・前は・・・策が寝言で大喬の名前を呼んで・・・、思わずぶっ叩いちゃったんだっけ・・・。
あの時はどうして自分がそんな事をしたのか分からなかった。
大喬も孫策も大好きで、夫婦で居るところを見るのも大好きで。
なのに寝惚けて大喬と自分を間違えられた事に凄くムカついてしまって。
今は、その理由が素直に分かる。
「孫策・・・・・・・・・・。」
名前を呼んで、彼の肩に手を置いた。
硬い筋肉の感触が掌に直に伝わる。
覗き込んで見た策の寝顔は相変わらず幼く見える。
規則正しい彼の寝息が、あたしの鼓膜をくすぐるように刺激した。
「・・・策・・・・・・・・・・・・・。」
知らず知らずの内にあたしは策の唇に自分の唇を重ねていた。
触れるか触れないかのすれすれのキス。
ほんの少しだけ開いている策の唇の間から、彼の吐息があたしの唇に吹きかかる。
自分の唇が小刻みに震えているのが分かった。
「・・・・・・ん・・・・・・・・・・・・・・・。」
「っ!」
ドンッ
策が声を漏らした事に驚いて慌てて離れると、書庫棚に思いっきり背中をぶつけた。
しかもその弾みに上から書物が一冊あたしの頭に落ちてきて、見事にその角を命中させた。
「いだっ・・・!」
「・・・・・・・・・?お前何やってんだ?」
あたしの声で目を覚ました策が片手に今落ちてきたばかりの書物を持って、
もう片手で頭を抑えているあたしに言った。
「あっ・・・策・・・あっと・・・。」
咄嗟に言葉が見つからずにあたしは思わず視線を彼から逸らす。
その瞬間に、あたしは自分の目を疑った。
偶然落ちてきたとばかり思ってたその書物、それが七色に輝いていたから。
「?」
「策・・・・・・あたしっ・・・その、探し物見つかったから・・・、御免!」
「え?あっ、おい!!!」
突然そう言って書物庫を出て行くあたしに、策が驚いて声を掛ける。
けど、勿論立ち止まることなんか出来なかった。
今更火を噴きそうな位顔を真っ赤にして、とにかく策の傍から離れようと思った。
それからあたしは結局自分の部屋に戻ることにした。
「・・・・・あたし・・・・・・・さっ・・・最低・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
自分の部屋に戻ってすぐ、荒い息をしながらあたしは指先で自分の唇に触れた。
ついさっき、自分から策にキスしてしまった唇。
片手にある例の書物を、クシャっと音をたてて握り締める。
ふらふらと寝台の前まで行って、そのまま正面から倒れ込む。
寝込み・・・襲ったようなもんだよ・・・・・・・・・・・・。
相手が眠ってるとは言っても、まさかあたしがあんな大胆な事出来る奴だと思わなかった。
策がもし・・・知ったらどう思われるんだろ・・・・・・・・・?
策の事が好き。
だけどそれを本人に伝える気は全く無い。
なのにやっぱりどこかで抑えられない自分が居る。
バーチャルなのに、と、言い訳してる時の方が、まだ、楽だったのかもしれない・・・・・・・・・・。
(孫策編 寝顔 -終わり-)
後書き
微妙なシリアス、そして策後半しか出ず!!そして長さも微妙!
おかしい!!策でシリアスな展開ってのがまずおかしいのでしょうか!?
甘寧、凌統編に比べて策編はあれこれと要らない事を考えすぎてしまいます。
では、今回もここまでのお付き合い、誠に有り難うございました。
失礼致します。
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