凌統親衛隊、もとい、女官を始め近衛兵などの方々の接し方が不気味なほどに柔らかい。
いつもは身分の差ってものでどうにか嫌がらせを受けずに済んではいても、
どっか刺々しかった彼女達の言葉が、行動が、今は柔らかいふかふかの羽毛並みだ。
あんまり柔らかくて逆にビビってしまう位に。
その豹変の理由は分かってる。
どっからどうそうなったのかは謎だけど、あたしが凌統と別れたと言う噂が出回っているらしいからだ。


・・・て、元々付き合っても居ないんですけど・・・・・・。


凌統に書物庫でキスされてからもう5日経つ。
その間、あたしは凌統とほとんど顔を合わせてない。
廊下ですれ違ったり、遠くで眺めたり、そう言う事は何度かあった。
けど、会話さえ交わしてないし、鍛錬も1人だし。
勿論あたしが顔を会わせ辛いってのもあるけど、それだけじゃなくて、
凌統があたしを避けてる気がする。
考えたくないけど。

「ねぇ、アナタたち喧嘩でもしてるの?」
「・・・・・・え?」

鍛錬所へ向かう途中、隣に居た尚香が突然そう訊ねてきた。
彼女は今日は1日城内に居られるとかで、手合わせをしようと一緒に鍛錬所に向かっていた所だった。

「誰と?」
「もー!分かってるでしょう?凌統とよ!」
「・・・・・や、別に喧嘩とかしてる訳じゃないんだけど・・・。」
「そうなの?じゃあ、どうして最近一緒に居ないの?アナタ達、少し前までスゴク仲が良かったのに。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


やっぱそう言う質問ですか、そーですか。


思いながら、あたしは言葉に詰まってしまった。
尚香は好きだし、年下だけど普通の友達みたいに何でも話せた。
勿論、あたしがここの世界の人間じゃないって事以外。
その度に色々と心配してくれたり力になってくれたりした。
だから今回の事も話せば絶対親身に相談に乗ってくれたりすると思う。
それは本当にそう思うんだけど。
今までタイミングも掴めなかったし、それにもしかして凌統に避けられてるなんてあたしの勘違いじゃないの?
と、思い込もうとしてた部分もあった。
ま、今はどこをどう見てもあたしが避けられてるようにしか周りから見られてる状況だから、
そんな望み捨てるしかないとは思うけど。

?」

突然黙り込んだあたしを覗き込む尚香。
あたしは腹を決め、彼女に5日前の出来事を話す事にした。



「それってちょっと卑怯よねぇ?つまりの意思関係なくそういうことしちゃった訳でしょう?」

これが話を聞き終わってすぐ後の彼女の感想。
あたしは思わず頷いてしまった。
それを見て尚香は声を上げて笑い、それから続けて言った。

「でも、嫌じゃなかったのよね?
それに今だって避けられてるんじゃないかって心配してる位だもの。」
「・・・・・・うん・・・嫌じゃなかった。」

あたしは素直に言って、小さく溜息を吐いた。

「やっぱ・・・・・あたしから会いに行くべきだと思う?」
「それはアナタが決める事だわ。でも、そうね、その方がいいのかもね。
・・・・・・・ちょっと癪かもしれないけど。」

苦笑するみたいな顔で言って、尚香があたしの肩を軽く叩いた。

「凌統は人気が有るし、色々大変かもしれないけど・・・・アナタなら大丈夫よ!
ワタシもついてるんだから。もし凌統が出来心でそんなことしてきたんだったら2発や3発殴っちゃいなさい!」

ねっ?と言ってまた彼女はポンポンとあたしの肩を叩く。

「うん、有り難う。・・・じゃ、後で会いに行ってみる。」


と、返事をしたはいいけど、ホントに出来心だったらどうしよう、なんて考えてしまう。
現実のあたしならともかく、この『』顔やスタイルは結構いい線いっていると思うから。
暗闇でこんな露出度の高い服着てれば、少し位はその気になられても仕方ないのかもしれない。
そしてそう言う方向とはまた別に、
あたしはそれで結局凌統に会いに行ってどうしたいんだろうと言う複雑な気持ちもある。
あたしの中で消えない拘り、ここがバーチャル世界だって事。
でもやっぱこのまま凌統と前のように仲良く出来ないのも嫌で、キスの本当の理由も聞きたくて。


で、結局、あたしはそのゴチャつく考えをまとめるよりも、凌統に会いに行く事を選んだ。
そして今、彼はあたしの目の前に居る。

「久し振り・・・・・・凌統・・・・・・・。」
「ああ、、あんたか。」

いつも通りと言っていい位、凌統は普通過ぎるほど普通にそう返事をした。
こっちは今にも心臓が爆発する寸前な状態にも関らず、彼は涼しげないつもの態度で。

「で?何かご用ですか?」
「・・・・・言わなくても分かってるんじゃないの?」
「さぁ?生憎俺は仙人じゃないんでね、人の考えは読めないぜ。」

いけしゃあしゃあと言う凌統に、あたしはムカつきながらもどうにかそれを我慢した。

「あたしの事、避けてた?」

あたしがそう口にすると、凌統はほんのちょっとだけ眉をピクっと動かした。
そして、そのままじっと視線をあたしに向ける。

「避けてたんじゃなくて・・・『待ってた』んだけどね、俺としては。」
「え・・・?待ってたって・・・・あたしを?」
「そ、あんたが自分から俺のところまで来てくれんのをさ。」
「・・・・・・・・・・・?」

イマイチ意味が分からなくてあたしが返事に困っていると、凌統は少しだけあたしに近づいてまた言った。

「いつも何をするにも誘いに行くのは俺で、
しかもこっちがどれだけそれに苦労してるかさえあんたは気付いちゃいなかった。
あの日、書物庫で2人っきりになった時もそうだ、
あんたは俺がどんだけ色んな事考えちまってたかなんて知らないだろうな。
・・・・・・それで、なーんか空回りしちまってる自分が馬鹿馬鹿しくなってさ、我慢できなくなった。
だから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「凌統・・・・?」

あたしを見つめる凌統の瞳に、またグッと熱がこもる。
例の妖しい瞳があたしに視線を逸らす事さえ許してくれない。
1歩、凌統があたしに近づいた。

「だから待ってみる事にした訳だ。あんな事があった後にも、あんたが俺の所まで来てくれるのかどうか。
俺に興味を持ってくれてるのかどうか。卑怯なやり方だってのは分かってるが、それでも俺は知りたかった。」


ドックン・・・・・・・・・


ひとつ、心臓が大きく鳴った。
胸が、心がドクドクドク脈打ちを始める。
凌統の瞳はあたしを捕らえたままだ。
彼の片手が上がって、あたしの肩に触れる。

「っ・・・えっ・・・あ、凌統・・・あたし・・・・・・・・・・・・・・。」

そこから先が続かない。


駄目、駄目、駄目だ!!
捕まるな、あたし!これはバーチャルなんでしょう!?
バーチャル・・・!!バーチャル・・・・・・・!


だけど身体もやっぱり動かなくて、凌統がまた1歩、あたしの傍に来た。
距離はもう、これ以上縮まらないだろう。


彼が、あたしを、その腕に、引き寄せない、限り、は。


・・・。」
「あっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」

肩にある手があたしを凌統の胸に押し付けた。
呼吸が、全ての器官が、停止しそうになる。
それでもあたしは動けなかった。
違う、動きたくなかった。



、俺はあんたが好きなんだ。」



ドクッ・・・ン・・・・・・・・


耳に響く鼓動。
それと重なった凌統の言葉。

「っっ凌・・・・・・・統・・・・・・・・・。」

息が詰まって、咄嗟に呼んだ彼の名前。
凌統はあたしの身体に両腕を回して続けた。

「あんたは俺の所まで来てくれた・・・・・。あんたの返事、聞かせちゃくれないか?」
「っ・・・・・・・・・・・・・あた・・・し・・・・・・・・は・・・・・・・・・・」

抱きすくめられたまま、あたしと彼の体温で熱が上がっていくのが分かる。
心臓は爆音と一緒に物凄い心拍数をたたき出しているに違いない。
思考回路はまさにショート寸前もいいとこで。
だけどこれが現実じゃないんだとか、そー言う事を考え出すより早く、あたしの唇は動いてしまった。


「・・・・・・・・・あたし・・・も・・・・・・あたしも・・・凌統が・・・・・・好き・・・・・・・・・。」


その言葉を口にしたのとほとんど同時に、凌統があたしの方に屈みこんできた。
彼の唇があたしのものと重なる。
あたしの唇は小刻みに震えていて、それでも、抵抗する気はなかった。
呼吸することも忘れそうな位、何度も何度も唇を合わせた。


本当は、口にしてはいけない想いだったのかもしれない。
だけど、この時あたしは間違いなく幸せだった。

この想いは作り物なんかじゃない。


それだけは、確かに言える。


今はただそれだけ。


(凌統編 非擬似恋愛 -終わり-)



後書き
アンケートで堂々1位にも関らず、久々な更新で申し訳ないです。
しかも今回、造語もいいとこな題名でした(笑)
この先も両想いながらヒロイン思い悩む事間違いなし!
ですが糖度的には他より1番高い方だと思います。
・・・・・・・多分。では、今回もお付き合い頂き、誠に有難うございました!


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