「おぅ!いいとこで会ったな。」
「え?あ、策。」
鍛錬所を出て休憩をしようとしていたあたしの所に、策が後ろから声を掛けてきた。
私は足を止めて、振り返る。
「どうしたの?」
「なぁ、遠乗りに行こうぜ!」
「・・・って、策・・・仕事は?」
「そう堅ぇこと言うなって!!な?行こうぜ!」
またこのパターンか、と呆れつつもあたしは返事をするのを躊躇った。
いつもなら、何だかんだと考えてても結局すぐにOKしてるとこなんだけど。
「大喬は?彼女と一緒に行けばいいじゃない。
まぁ、仕事放って行こうとしてるのを止められるのがオチかもしれないけど。」
「大喬は今朝から用事で城内にいねぇんだ。」
「そうなんだ、通りで今日は全然見てないと思った。」
広い広い城内。
それでも大喬は1日に1度はあたしと顔を合わせることが多い。
ここに来て1番お世話になってて、そして1番仲のいい友達のようになった彼女。
策を好きになったことを自覚してしまった今、何かそれが皮肉に思えたりもするけど。
「、行くぜ!」
「・・・え?って、えええ!?策!あたしまだ返事してないし!」
「時間が勿体無ぇだろ。」
半分物思いに耽りかけていたあたしの手を取って、策が強引にそのままグイグイと外へ連れ出そうとする。
驚いて慌てるあたしの声も聞かずに、策はさっさと早足で歩いた。
しかも、連れて行かれたその場所に既に馬が2頭準備されてる辺り、
あたしの返事なんか聞く気0だったんだとしか思えない。
最初から『行こうぜ。』と問いかけにもなってなかった訳だから、返事も何もあったもんじゃないんだろうけど。
「策って、ホント典型的な『俺について来い!』タイプなんじゃないの?」
「ん?何か言ったか?」
「いいえ!」
さすがにもう断わるのも馬鹿らしい。
とは言え、あたしとしては2人きりってのはかなり気まずい。
・・・・・寝込み襲ってキス・・・してから・・・まだ1週間も経ってないもんな・・・。
「、早いとこ馬に乗れよ。」
「え?ああ、うん。」
いつの間にか馬に乗ってしまっている策が、急かすように言った。
あたしは慌ててひらりと馬に飛び乗った。
「よし、んじゃ、行くぜ!どっちが早いか勝負だ!」
「あっ!策、ズルッ!」
あたしが馬に乗ってすぐに策は馬を駆けさせ始めた。
あたしも急いで負けじとスピードを上げる。
「策!こないだも同じ事したね?ホントガキなんだから!」
「ハハハ!そう青筋立てるなって!」
声を出して楽しそうに笑いながら、策がゆっくりと速度を緩めて私の隣に並んだ。
あたしは驚いて策に目を向ける。
「勝負じゃなかったの?」
「おぅ、そりゃ今度にしようぜ。今日はお前と並んで走りてぇ気分なんだ。」
策の返事に私は思わず少しだけ頬を赤くして笑った。
本当に参る、策のこういう所。
しばらく策と一緒に風景を楽しみながら馬を走らせてると、見覚えのある景色が目に飛び込んでくる。
草原だ。
柔らかな緑色の綺麗な絨毯みたいなあの草原。
あたしが初めて策と一緒に遠乗りした時の、あの草原だ。
相変わらず、絵にしたい位綺麗だった。
「策、ここ・・・。こないだと違う道を通った?」
「ん?気付いたか!どうしてもお前と一緒に千年樹に来たくなっちまってな。」
言って、策が少しだけスピードを上げる。
そしてその先で策が馬の手綱を引いて、駆けるのを止めた。
すぐに馬から下りて、あたしの方に向かってくる。
「手ぇ貸せよ、。分かってるたぁ思うが、こっから少し歩くぜ。」
「うん。」
こんなとこまでこないだここに来た時と一緒だ。
あたしは小さく頷いて、策の差し出した手に自分の手を重ねた。
ついさっきも握られた手。
けど、その度にあたしは妙に緊張する。
重ね合わせた掌に全神経を集中させながら、あたしは馬からゆっくり下りた。
「有り難う。」
「おぅ!んじゃ、行くぜ。」
これまたこないだと同じく威勢良く言って歩き出す策。
同じ・・・じゃない!!
「って、え?あ・・・あの・・・。」
「ん?何だ?」
「あーー、えっと、何でもない。」
「ハハ!何だよ、そりゃあ。ま、いっか。」
私の顔をチラッと見ると、彼がまた歩き始める。
あたしの手を、握ったまま。
そう、こないだは手を繋いで歩いたりしなかった。
鮮やかな緑の草原を手を繋いだまま歩きながら、あたしは隣の彼の顔を盗み見る。
特に何も意識してる様子はない。
こっちは変に意識しまくって、掌に熱まで持ち出してる始末だってのに。
天然なだけに性質が悪いって言うか・・・、ホント、あたししか意識してないし・・・。
「。」
「え!?なっ何!?」
「何か雨が降りそうな空模様になってきやがった。千年樹まではすぐだ、走るぜ!」
「あ、ほんとだ、いつの間にか雲が・・・、ちょっ・・・痛い!策、待ってよ!」
策はあたしの手を握ったまま走り出した。
突然グイッと腕ごと持って行かれそうになって、あたしは悲鳴を上げる。
そして慌てて一緒に走り出した。
ついさっきまで晴れ渡っていたはずの青空を、今は厚みのある灰色の雲が覆っていた。
あたしと策があの大きな千年樹に到着したのを見計らったみたいに、すぐに雨が降り出した。
「雨宿りには持って来いの場所だね、この木。いつ見ても驚きの大きさだし。」
「だな!けど、雨が降ってくるとは思わなかったぜ。」
ふと、あたしは策と繋いだままの手に視線を落す。
雨が降り出したことで感じる肌寒さ、そのせいでリアルに感じる策の掌の温度。
本当にこの世界、どこまでも、リアルだ。
「今日は木に登んのはやめとくか。雨も降ってきちまったしなァ、あの辺に座ろうぜ。」
「うん、そうだね。」
策の言った木の根元まで行くと、あたし達は並んでそこに座る事にした。
サァァと言う雨の音が、柔らかく耳に響く。
雨で濡れた土や草の匂いがふうわり辺りに漂ってる。
どこまでも、どこまでもリアルなバーチャル世界。
「・・・なぁ、。」
「ん?」
「お前、ここ最近、俺のこと避けてなかったか?」
「・・・・・え・・・!?そっ・・・そんなこと・・・ないけど・・・。」
返事をしつつも、目が泳いでしまう私。
ハッキリ否定しきれないのは確かだった。
いつも通りにしてるつもりじゃいたけど、やっぱりこないだの書物庫の事があってから、
どっか策と2人っきりにならないように意識してたのも事実だし。
だけど『避けてる』って程露骨にはしてないはずなんだけど。
「もしかしてよ、俺がお前に嫌がられちまうようなことしたかと思ってな。」
「えええ!?何でそうなるの!?」
「いや、俺はあんまりその辺の気遣い出来ちゃいねぇんじゃねぇかと思ってよ。」
「そんなことないわよ!!」
寧ろあたしが『何か』した方だし!!!!
力一杯否定して声を上げたあたしに、策は少し驚いたように私を見た。
思わず腰まで浮かしてしまったので、あたしは彼から目を逸らしてからまた続けた。
「いや、あの・・・策には感謝してもしきれない位お世話になってるよ、本当に。」
恥ずかしさで顔を赤くしながらあたしは言った。
「へへっ、そっか!じゃあ避けてた訳じゃねぇんだな?
俺の勘違いだったんならそれでいいんだ。安心したぜ。」
心底嬉しそうに笑う策。
いつも思うけど、笑ってる時と眠ってる時の彼は、本当に子供みたいだ。
そんな喜んだ顔されると・・・何か・・・・・・・、勘違いしそうになるじゃない・・・・・。
「策は・・・・・・あたしのこと・・・好き・・・?」
「え?」
「・・・・・・え!!??あれ!!??今あたし!!??あた・・・・・・・・!!??」
ちょっっっと待て!!ちょっっっっと待てあたしぃ!!??
瞬間的に、フリーズ状態。
思わず零れたその質問。
すぐに思考回路がパニックを起こしだす。
慌てに慌てまくりながら、あたしはまた口を開いた。
「違う!!あのっ、今のなし!!聞かなかったことにして!?ね!?」
「俺はの事好きだぜ。」
「今の質問なし!!なし!!な・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
策・・・あれ・・・・・?今・・・・。
ポカン、と、馬鹿丸出しであたしは口を開けて策に目を向ける。
「お前と居ると楽しいしな!大喬は絶対守ってやりたいって気持ちにさせるんだが、
お前は何つーか、あれだ、同じ目線で一緒に突っ走って行きてぇ気分にさせられんだ。」
「策・・・・・・・・・・・・。」
やっと名前だけ口にして、あたしはまたじっと策を見つめた。
彼はいつもの屈託のない満足げな顔で笑って、真っ直ぐあたしの視線を受け止めてくれてる。
策の言う『好き』は、私の恋愛感情のこもった『好き』とは違うかもしれない。
どちらかと言えば、多分、きっと、仲間意識に近い物があるんだと思う。
それでも。
それでも、彼のその言葉が、今のあたしにはとてつもなく嬉しかった。
策の気持ちが、『恋』じゃなくても、それでもあたしは十分嬉しかった。
ハッキリと『好き』だって言う、真っ直ぐな言葉をくれたことが。
「?」
「・・・・・・・・有り難う・・・・・・・・・・・策・・・・。
泣きそうになるギリギリの線を必死で保ちながら、あたしは俯いてそれを堪える。
策の大きな手が、あたしの肩を掴んで自分の胸に押し付けた。
「策・・・!?」
「雨も降ってるし、寒ぃだろ?少しこうしようぜ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・うん・・・・・・・・・・・・。」
この先もきっと、策への気持ちに切なくて悲鳴をあげそうなこともあると思う。
大喬を羨ましがってしまうことも絶対あると思う。
だけど、このバーチャル世界で頑張っていけるあたしの糧は、
この先もきっと、策、貴方のこの日の掌の温もりにあるんだと心から思うから。
(孫策編 -零れた想い-)
後書き
まずは、無茶苦茶久し振りの更新でした、大変申し訳ございません!!
そして・・・キャーーーーーーー!!片想いのはずが何か思いっきり両思いの方向へ。
ですが、一応まだまだ微妙な線を越えられない感じに仕上げたつもりです・・・。
毎回策編になると決まって更新停滞してしまって申し訳ない限りですが。
では、今回もここまでのお付き合い、誠に有り難うございました。
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