まったくそれは突然だった。
あの謎のお爺さんとの通信が唐突に途絶えて以来、
突然に向こうからまた連絡があった。
あれから何度も手鏡から連絡を取ろうと四苦八苦しても全く無駄だったんだけど、
それはどうやら向こうも同じだったらしくて、
あののんびりお爺さんにしては珍しく本気で慌てたらしい様だった。
とにかく簡単に説明すると、
突然に机の中の手鏡からピッピーと言うケータイの初期設定着信音みたいな音がして、
驚いて手鏡を取り出してみたらお爺さんとの通信が可能になっていた、って所だ。
そして今、あたしはお爺さんとの会話の真っ最中だった。
「しかしのぅ、まさかあのタイミングで通信が途切れるとは思わなんだ。
わしもちょっぴり焦ってしまったぞぃ。」
「・・・あたしはちょっぴりどころか恐ろしい勢いで焦ったわよ。」
不機嫌に返すあたしに、お爺さんは例のフォフォフォと言う笑いで答える。
前言撤回。
本気で慌てたらしいって言うか、いつも通り緊張感のない爺さんだ。
「それで嬢ちゃん、あの隠しアイテムは見つけられたんかの?
わしがアドバイスを最後まで言う前にあんなことになってしまったが。」
「・・・うん、どうにか、ね。」
あたしがそう返事をすると、お爺さんはふむ、と、
鏡の向こうで一人何やら納得しているみたいな小さな声を出した。
「つまりそっちで思った以上に親しい武将が出来たと言う事じゃな・・・。
実はな、あれからまた分かった事じゃが・・・その隠しアイテム、
並大抵の絆の武将とでは見つけるに至らんのじゃよ。」
「・・・・・え?だってあの時は爺さん『これはそう難しいことじゃない』って・・・。」
「ゲームの設定状況を記した資料の一部で確認したんじゃが、
考えておったよりも格段に難しいと言うのが分かったんじゃよ。」
「・・・・・・・・・そう、なんだ・・・。」
正直、複雑な心境だった。
つまりあの書物は、ただ単に『仲がいい』程度じゃ見つけられなかったはずのもの。
それを見つけることが出来たと言う事実。
嬉しくないかと言えば、嘘になる。
勿論それが目的だったんだし、見つけられたことや、
それ程絆が強くなっているんだと言うことはやっぱり嬉しい。
だけど。
「嬢ちゃんがそっちに行ってから確かに時は経っとるが、
アレを見つけるには期間的にかなり厳しい所じゃった。それを成し遂げるとはのぅ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
手鏡を握り締めたまま、あたしはそれに何と答えていいのか分からなかった。
お爺さんはそれからまた一人で、ふむ、と言ってから、先を続け始めた。
「さしあたっての問題は呂布じゃが、嬢ちゃんは随分と鍛錬を積んだと言うことじゃから、
後は書物の威力に頼るしかないのぅ。呂布を倒せば嬢ちゃんのその世界での知名度もまた格段に上がる。
武勲だけじゃなく、得られる軍資金も増えるじゃろう。それに仕官してくる兵も現在呉に所属しとる兵も、
レベルの高い者が増えてくると言う何ともいいことだらけじゃぞ。
と、言っても、嬢ちゃんも承知の通り、それだけ呂布が強いと言うのも事実じゃが。」
長い説明が終わると、お爺さんはそこで一息つく様に一旦言葉を切る。
あたしはそこを狙って前々から思っていた質問を口にすることにした。
「ねぇ、敵対してる武将って、仲間には出来ないの?
ゲームのエンパじゃそれがある意味醍醐味だったと思うんだけど。」
と言うか、少なくともあたしはそうだった。
敵対している勢力に居る大好きな武将を狙って攻め込んで、そして仲間として迎え入れる。
毎回お気に入りの武将が仲間に加わる度、一人で喜んでたのを覚えてる。
「そうじゃのぅ・・・一応その枠は作ってあるんじゃが・・・。呂布は無理じゃろ。
善政値が高いとアイツはあっという間に裏切る事間違いなしじゃからな。
アイツの裏切りは手痛いぞ、国が傾くかもしれんし。」
「そっか・・・呂布って修羅でも悪行度が関係してたよね・・・。」
軽く頷いて納得するあたし。
お爺さんが更に先を続ける。
「ま、何も敵君主を倒して国を奪い取るばかりがこの世界での天下統一の手段ではないがの。
それでも仲間に出来る人数の枠はそう数もないんじゃ。やるんなら考えて行動した方がええ。
何と言っても、既に呉の武将は勢揃いしておるんじゃしな。」
「確かに。」
またも納得してあたしは頷いた。
それから不意に思い出したのは、左慈のことだった。
この無双世界で唯一、あたしがここの人間じゃないと見抜いたキャラ。
「お爺さん、左慈はあたしを『異世界からの訪問者』だって言ってた。
やっぱりあのキャラ以外はあたしの素性知ってる人っていないの?」
「ほぅ・・・左慈が・・・。それは興味深い話じゃのう・・・・。」
「・・・・・・って、え?お爺さん・・・、知らなかったの?」
思わず聞き返すあたしに、鏡の向こうのお爺さんは何やら考え込み始めたらしく、
独り言をぶつぶつと言っている。
そして少し間を置いた後に返事をした。
「・・・・嬢ちゃん、わしは確かにそのバーチャル無双世界の創造者ではある。
じゃがのう、以前にも言った様に知らん事の方が多いんじゃ。
恐らくわしよりも、現在体験しとる嬢ちゃんの方がずっとその世界のことを知っておるじゃろう。
わしはその世界を創った人間ではあるが、全知全能ではない。
そしてその世界はもう既にわしが及ばん所まで成長しておると言っていいんじゃ。つまり・・・・・・・。」
そこでお爺さんは小さくひとつ、息を吐いてから、短く続けた。
「生きておるんじゃよ。」
どくん。
その台詞を聞いた瞬間、胸の鼓動がひとつ、打ち付ける様に、大きく響いた。
―小生たちは確かにここに生きている。
あの時、左慈も確かにそう言っていた。
この世界、一人一人、生活して、夢を追って、誇りを持って生きているんだと。
「左慈の話は初耳じゃが、数値上の事はわしも大抵力にはなれるはずじゃ。
しかしそうか・・・キャラの中にそんな奴が紛れておるとは驚きだのぅ。」
感心した様にそう言ったお爺さんの声は、何処か嬉しそうでもあった。
「・・・呂布戦はもう目前じゃったな、わしがしてやれる事は今の所応援だけじゃが、
スキルアップは幾らしても無駄だと言うことはない。精進するんじゃぞぃ。
また役立つ情報があればわしからも連絡するからの。
嬢ちゃんも何かあればすぐに手鏡を使ってくれ。」
「うん、分かった。とりあえず通信出来るようになっただけでもホッとした。」
あたしの答えに、お爺さんがフォフォフォ、と笑う。
「では、そろそろ失礼するからのぃ。またのぅ。」
お爺さんの言葉が終わるか終わらないかの内に、
手鏡は虹色の光を中心部分に飲み込んで行くみたいに渦めかせて、
あっという間に何の変哲もない鏡に戻った。
「・・・・この世界は・・・生きている・・・か・・・・。」
あたしは一人、そう呟いて、暫くの間手鏡を眺めていた。
呂布との戦は、まさにもう間近。
それでも前よりずっと不安が少ないのは、スキルアップを重ねたことや、
この世界での戦の経験を積んだ事だけが理由じゃない。
あたしには、呉の仲間が居る。
そして何より、大きな絆があるんだと、妙に実感できてしまうから。
(仮想・生命世界-終わり-)
後書き
ようやく続きが書けたと思いきや、無双キャラ皆無で申し訳ありません。
しかも説明臭い上にオリキャラの爺ちゃん喋りまくりだし。
名前変換の意味全くなしでした。次回も共通シナリオですが、
呂布と董卓だけは確実に出ます。貂蝉と張遼もいければ出します。
ではでは、ここまで読んで下さって誠に有難うございました。失礼します。
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