殿!援軍要請により、我ら援護に参ったぞ!」
「劉備様!」

呂布軍到着目前の報告を槍から受けたのと殆ど同時に、
援軍要請を出していた劉備軍があたしの所まで駆けつけてくれた。
正直、心の底から彼の『仁の心』に感謝した。

「有難うございます!」
「いや、おぬしには過日の恩義がござる!拙者達はそれに報いる為参上したまで、礼には及ばぬ。」
「おぅよ!相手があの化け物の呂布とくりゃあ、こっちとしても援護のしがいがあるってもんだ!」

言った張飛が何とも言えない楽しそうな顔をする。
ビビるどころかやる気満々って感じだ。
だけど、あたしが頼みたいのは呂布の事じゃない。


[呂布軍接近500メートル付近]


槍がまたあたしにそう伝えてきた。
もう、目に見える範囲に、呂布が近付いてる。
あの土煙は呂布が軍を率いてあたしの方に真っ直ぐ向かってきてる証拠だ。
もう、余裕なんか無い。

「劉備様、呂布は私一人で引き受けます。
お願いしたいのは呂布の率いてくる兵達と、それから呂布と一緒に居る貂蝉軍です。」
「何!?あの鬼神をそなた一人で?しかし・・・。」
「幾ら何でもそりゃ無茶ってもんだぜ!」

[無双最強武将・呂布接近中。接触まで10・・・9・・・]


槍がカウントダウンを始める。
総大将にしかしない筈の接触カウントダウン。
だけど、今はそんな事を気にしてる場合じゃない。

「呂布を討つ事に集中できれば私は大丈夫です・・・!
お願いします、劉備様。貂蝉が側に居れば彼は絶対に勢いを保ち続けてしまいます。」

[8・・・7・・・・]

確実に、呂布があたしを目指してやってくる。
なのに、どうしてだろう、少しずつ、少しずつ、冷静になる、あたしの頭。

「兄者!ここは殿の言葉を信じ、
我らは周囲の者共を蹴散らす事に専念致しましょうぞ。最早一時の猶予もござらぬ。」
「・・・雲長・・・、分かった。よ、そなたの申すとおり、
我らは貂蝉軍と呂布の率いる兵とを一掃することに力を尽くす!
だが、その身が危うくなったその時は、必ず我らが助力をしようぞ!」
「はい!!」

あたしの返事に大きく頷いて、劉備が関羽、張飛と一緒に馬で駆けて行く。
その先に居る貂蝉軍を引き付ける為なんだと、すぐに分かった。


[・・・5・・・]


それから先のカウントダウンは、スローモーションみたいだった。
もう目と鼻の先に見えているのは、赤土色の大きくて筋肉質な馬。
それに跨っているのは、紛れも無く、あの、呂布。
2メートルを超える身長の大男。
無双最強武将。


[3・・・2・・・]


呂布奉先。


[・・・1・・・]


カウントダウン、終了。
そして、その直後、呂布があたしを見下ろした。
オーラが違う。
気迫が違う。
威圧されそうなほど、強くて、鋭い視線。
ゲーム画面で見る彼なんか、比べものにならない。
きっと、他のどの武将も、こんな雰囲気は持ってないと思う。
持てないと思う。

「フン・・・、女、貴様が『鬼姫』なんぞと持てはやされている武将か?
だが、所詮貴様もあのカス共と同類だな・・・。群れて俺を討つつもりでいたのか。」

赤兎の上の彼が、冷たい口調で言った。
その喋り方はそのままゲームの彼で、変な話、あたしは何だか少しだけ安心した。

「呂布、あんたはあたしが討たせてもらう。
劉備様には、邪魔が入らないようにしてもらっただけだから。」

槍を構えたまま、あたしは答えた。
呂布はあたしを観察するみたいな目でジロジロと眺め回した後、
急にヒラリ、と、大男にあるまじき身軽さで馬から下りた。

「俺を倒すだと?フン、面白い。」

意地の悪い感じの笑いと一緒に、呂布があたしを見つめたまま言った。
それからすぐ、彼は戟を構える。
その瞬間に、あたしの体が、震えてるのが分かった。
だけど、怖いからじゃない。
怯えじゃないと、ハッキリ言える。


・・・はは、ビックリ、武者震いってヤツ・・・?


そう、恐怖じゃない。
こんなに強敵を前にして、しかも有り得ないほどバーチャル臨死率が限りなく高い状態にあって、
それでも、これは恐怖じゃなかった。
多分これは、『あたし』じゃなくて、『』がこの無双世界の武将として感じてるんだと思う。
鬼神と戦える事の喜び、みたいなものを。

「どうした?さっさと始めるぞ!他の虫けら共と同様に臆したのだとしても、
俺は貴様だけは逃がさん。この俺がここまで足を運んだ上、俺を倒すとほざいたのだからな!」
「逃げない。こっちだって、あんたの為に苦労しまくってるしね。」


―ザッ。


武器を構えたまま、お互いに間合いを取る。
肌で感じる呂布の殺気は並みじゃない。

「はぁっ・・・!!!」
「フンッ!!!」

先手を取ったのは、あたしだった。
リーチの差は歴然。
威力は絶対的不利。
だけど、素早さなら、瞬発力なら、あたしは呂布にだって負けない。
振り下ろしたあたしの槍が、呂布が武器をあたしに向かって突き出すより早く、彼のお腹辺りを通過した。


―ザジュッ!

「ぐっ!」


確かに感じた、手応え。
だけど、勿論その程度、呂布がめげるはずも無くて。

「雑魚が調子ずくな!!!」
「っはぁっ・・・!!!」

彼が猛攻撃を始めるより早く、あたしは、覚醒印を解放することにした。
あたしの心を読み取って、槍が応える。


[覚醒印始動。]


瞬間。


―カッ!!!!!!!


体中の血が逆流するみたいな感覚が、あたしを襲う。
それと一緒に、金色のオーラがあたしを包んだ。
いつも以上に、体にみなぎる力。
そんな筈はない、あのアイテムの効力ってヤツは、時間が延びるだけの筈だ。


って、今はそんなことよりも・・・・!!!


「ふぬぁっ!!」
「たぁぁっ!!!」



瞬発力も、威力も、鋭さも、覚醒印解放中の今なら、
あたしは呂布には負けない。
頭で考えるより早く、体が、動いた。


ギンッ
―ザッ!!!
キンッ・・・ガッ。


何度も、何度も、何度も、合わさるあたしの槍と呂布の戟。
だけど、その中でも確実に、あたしの攻撃は呂布にダメージを与えて、
そして、彼の攻撃も私の体力ゲージを減らしていっていた。


「・・・フン、女、出来るようだな・・・。思った以上に楽しめているぞ。」


息を荒くした呂布が言った。
武器を握るあたしの手はびりびりと痺れている。
それからいつものことながら、リアルにかいた汗が、ぐっしょりとあたしの体を濡らしていた。


「はぁぁっ!!!」


今までの攻撃と桁外れの真・無双乱舞。
槍が唸るみたいな音をたて、凄い勢いで呂布の体を直撃する。
手応えも、ついさっきまでとは比べ物にならない。


どっくん。どっくん。どっくん。


赤ゲージ、一歩手前のあたしの体力。
真・無双乱舞のフィニッシュと一緒に、呂布の体が吹き飛ばされた。

「がぁぁぁっ!!」

[覚醒印効力終了間近。]

槍があたしに言った。
あたしは起き上がろうとしている呂布と素早く距離を詰め、
反撃の隙を与えないようにチャージ攻撃をお見舞いした。


―ザッ・・・ガッ・・・ザシュゥゥ・・・!

空中を切り裂くあたしの槍。
そしてそれは確実に、呂布に命中する。


[覚醒印効力終了]

槍のその声が頭に響いたのと殆ど同時に、
呂布の横腹をあたしの槍の先がめり込む様にして通過した。
瞬間。


「ぐがぁぁぁぁぁっ!!!!!」


呂布の大きな体が土煙を上げて地面へ転がる。
それはゆっくり、ゆっくりと、まるでビデオをコマ送りしたみたいに見えた。
あたしは肩を大きく上下させながら、半分呆然状態でその光景を目にしていた。
彼の体力ゲージは、0になっている。
それでも彼はグラグラと揺れる体を起し、戟を地面に突き立てると、
必死に立ち上がろうとしていた。
そう、彼の体力ゲージは完全に0
それはどう見ても、間違いようもないのに。


「くっ・・・・俺は・・死なん・・・!!俺は・・・!」


「奉先様っっ・・・!!!」
「・・・え!?」

突然。
あたしのすぐ横をすり抜けて、細い影が呂布に駆け寄った。
驚いて見てみると、呂布を支えるみたいにして貂蝉が彼に寄り添っている。
だけど彼女の体力ゲージももう殆ど伸びていなかった。
彼女は呂布の体をあの華奢な体で懸命に支えながら、少しだけあたしの方に振り返って言った。

「奉先様は・・・もう・・・・。ですからどうかお願いです、
このお方は・・・私の手で安らかに眠れる地までお運びしたいのです。
無論、私は即刻軍を退きます。どうか・・・どうかお聞き届け頂けないでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

咄嗟に言葉が出なくて、あたしはただ彼女と視線を合わせる。
貂蝉の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
不謹慎な話だけど、あたしはそれをとても綺麗だと思ってしまった。
見惚れてしまいそうになる位、綺麗だと。

「・・・殿・・・。」
「・・・あ、劉備様・・・!」

いつの間にかあたしの傍に、彼女を追ってきたらしい桃園三兄弟が姿を見せた。
あたしと呂布の決着がついていることをすぐに理解した彼らは、
ほんの一瞬息を飲んだ後、貂蝉とあたしとを見比べる。
そして目だけで、状況を説明して欲しい、と、訴えて来た。

「呂布の息はもう殆どありません・・・。
彼女は呂布を連れてここから立ち去りたいと言っています。
・・・彼を・・・自分で手厚く葬りたいと・・・・。」

あたしの説明を聞いて、何か声を上げようとしたらしい張飛を、関羽が片手で制した。
劉備は、呂布をまるで小さな子供みたいに優しげな瞳で見つめている貂蝉に目を移して、
それからゆっくりまたあたしへと視線を戻した。

殿・・・、鬼神を追い詰め、討ち取ったはそなただ。我らはその意に従おう。」
「・・・・・・・・・・劉備様・・・・・・・・・。」

彼は静かな言葉でそう言って、小さく、ひとつ、あたしに頷いて見せた。
貂蝉の潤んだ瞳は、懇願するようにしてあたしを見据えている。


まさか・・・こんなことになるとは思わなかった・・・・。
だって、幾ら呂布が色々な意味で『特別』って言っても・・・、
いつもの敵武将なら討ち取って動かなくなったらそれで終わりだった・・・。
どうしよう・・・あたし・・・・。どうすれば・・・・・・・・・・・・・・・。


[解析不可能]

「!」

頭に直接響く、槍の声。
あたしの思考に反応しての答え。


―解析・不可能。
そんなことってある訳・・・?
だって・・・この槍は・・・お爺さんがこの世界での戦の状況を、
臨機応変に情報をあたしに伝える為にくれた筈で・・・。


そこまで考えたところで、突然。
左慈とあのお爺さんの言葉があたしの頭の中でフラッシュバックする。


―その世界はもう既にわしが及ばん所まで成長しておると言っていいんじゃ―


―小生たちは確かにここに生きている―


ドックン。


ああ、そっか、そうだった。この世界は、生きてるんだった・・・・。


瞬間。
納得してしまう、あたし。
今この状況は、きっとお爺さんも予測できなかった事。
勿論機械であるこの槍にも。
心だ。
だったらもう、心ってヤツで動くしかない。
あたしは一度、小さく深呼吸してから、顔を上げて貂蝉を見つめた。

「・・・貂蝉。」
「はい・・・。」
「貴女の手で、彼を手厚く葬ってあげて下さい。
その方がきっと彼も安らかに眠れる筈だと思います。貴女の手でなら、きっと。」

彼女にそう言いながら、あたしの頭には、貂蝉のエンディングのシーンが浮かんできていた。
戦いに疲れ果てた呂布が最期に還ったのは、この哀しい舞姫の腕の中だった。

「・・・っ、有難うございます・・・!」

あのエンディングシーンと同じように彼を腕に抱いた貂蝉が、涙を頬に伝わせて、そう言った。
綺麗な、綺麗な泣き顔だった。
彼女はその後すぐに軍をまとめて引き上げて行く準備を始める。
劉備はそんな彼女の姿を遠めで見つめながら、隣に居るあたしに向かって口を開いた。

「そなたの判断、仁に叶った見事なものだったぞ、。」
「・・・え?そうですか・・・?あ、有難うございます。」

あたしの答えに、彼はいつものように優しげな柔らかい笑みで答えてくれた。
そして彼は関羽、張飛と一緒にまた戦に戻って行く。

「援軍!!有難うございました!!!」

慌ててその後姿に声を張り上げてお礼を言ったあたしに、劉備と関羽は片手を軽く上げて応えてくれる。
張飛は大声で笑った後、また会おうぜ!と言ってくれた。



その後呂布が討ち死にした事が伝令で全軍に伝わり、連合軍の士気は一気に上昇。
追い詰められた董卓は悪あがきも虚しく、あたしと孫堅に討ち取られることになった。
この戦後、貂蝉はどこかに消えてしまい、張遼は順序は違っても史実通り、曹操の配下に加わった。


[呂布奉先撃破時のアイテム拾得は無効]

いつものように武勲振り分けを説明していた槍が言った。
だけど、そんなの、勿論気にしない。


自己満足かもしれないけど、
あたしには貂蝉のあの綺麗な泣き顔の方が、よっぽど価値あるものに思えた。


「・・・・っっと・・・。」
「大丈夫か?。」

呂布との対戦でふらつくあたしの体を、孫堅が肩を抱いて支えてくれる。
慌てて離れようとしたけど、彼はいつもの気持ちのいい笑い声を上げて、
益々あたしの体を自分の方に引き寄せた。


「遠慮するな!この細い体であの鬼神呂布を降したのだ!今は俺の腕でも借りておけ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・、すみません。」


大人しく頷くあたし。
ステージクリア。
例の書物的アイテムの効力も十分確認できて、
そしてこの世界最強の男、呂布奉先を倒すことも出来た。


今は早く、ベッドの上で休みたい。それだけだった。



(終わり)




後書き
・・・・・・・董卓出てないし!!と言うツッコミがありそうですが(苦笑)
メインは呂布との対戦とその後の貂蝉との会話にあったので、
これ以上長引かせて意味なし、と踏み、こんなことに・・・・・。
次回からは分岐に戻ります。共通シナリオ長かった。
では今回ここまで長々とお付き合い誠に有難うございました!失礼します。


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