「・・・ん・・・、んん・・・?んんんん!!!???」
―ガバッ!
目覚めたのはいつものあたしの部屋のベッドの上。
と、思いきや、見覚えのない天井が目に飛び込んできて、あたしは慌てて飛び起きた。
ぐるり。
見回す室内は、どう見てもあたしの部屋とは違う。
「え?ええっ!?何!?」
「ん・・・俺より早いお目覚めとは・・・、そんなに大声上げてどうしたんだい?。」
「!!!」
不意にあたしのすぐ後ろから聞き慣れた声がして、そのまま背中から抱きすくめられる。
驚いて振り向けば、超至近距離に凌統の顔。
「ちょっ!?ええ!?凌統・・・!?な、何で・・・!」
「そりゃ、ここは俺の邸ですからね。
それより・・・本格的に起き出すにはまだ早すぎる時間だぜ。」
思考回路が正常に機能しないままな上、状況も全く理解できないままのあたし。
なのに凌統はいつも通りの口調でそう言って、あたしを抱き寄せる腕に力を込めた。
「こらっ!ちょ・・・、ちょっと待ちないさってば!」
ダイレクトに体に感じる彼の体温。
毎度毎度言うようだけど、何だってバーチャル世界のくせにこんなにリアルなんだろう。
いや、今はそんなことよりも。
お、落ち着け、落ち着けあたし!きちんと状況を把握して・・・!
凌統の腕の中からどうにか抜け出そうともがくあたしにお構いなく、
今度は彼は私の首筋に唇を押し付け始めた。
いつもは結い紐で結んでいる筈の凌統の長い髪が、あたしの首元を何度も掠めて、
彼の柔らかい唇の感触があたしの肌に生々しく刻まれる。
「だからっ・・・!何でこうなってるのかだけでも説明して・・・!お願いだから・・・凌統!」
大声でそう言いながら、私は自分の顔が有り得ないほど真っ赤になっているのがよく分かった。
そしてそこでようやく、凌統は深くて大きな溜息を吐きながらも、あたしから離れてくれた。
「やれやれ、殿、まさか昨日のことを全く覚えてないなんて言いませんよねぇ?」
「お、覚えてる!覚えてるわよ、だから逆に驚いてるんでしょう!」
そう、昨夜のことは本当にきっちりハッキリ覚えてる。
昨夜は孫堅があたしの為に宴を開いてくれたのだ。
あたしの歓迎会も兼ねた宴を。
―随分と遅くなったが、、お前の功を称える意味も含めて宴を開くとしよう。
お前は本当によく働いてくれているからな!
昨日の朝。
いつもの爽やかで頼りがいのある笑顔を浮かべてそう言って、
孫堅はその日の内に宴の準備を済ませるようにしてくれた。
そして夜。
あたしの大好きな呉キャラのメンバー全員勢ぞろいで宴が開かれた。
最初のうちは大人しかった皆も、テンションが上がってくるにつれてまさに『どんちゃん騒ぎ』になって。
甘寧と黄蓋は飲み比べまで始めたりして、孫策なんか大声で歌を歌ったりしてた。
とにかく楽しかったんだけど、結局私はお酒が入って時間が経つに連れて眠くなってしまったのだった。
「・・・・・部屋に戻る前に夜風に当たろうと思って中庭に出たのよね・・・。
それで・・・えっと、それで・・・あれ・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
いつの間にか声に出して昨日の夜の事を思い出していた私。
でも、その先が続かない。
曖昧、とかじゃなく、ぶっつりと切れてる感じで覚えてない。
眉間にしわを寄せて少しの間考えていると、すぐ側で見ていた凌統が口を開く。
「―――そこからの記憶が残ってるってんなら、話して欲しいとこだけどね、。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ねぇ、まさか私・・・・。」
嫌な予感を感じつつ、あたしは彼に視線を向けた。
ニヤリ。
いかにも面白そうに口の端をあげて凌統が笑う。
「そりゃもう気持ちよさそうに寝てたぜ。中庭の椅子の上で。
あんなに無防備な姿であんなとこに寝てるなんて、
誰かに襲って欲しいって言ってるようなもんだっつの。」
「や、やっぱり・・・・。」
体はあたしのものじゃないのに、体質は現実世界のあたしそのものじゃないか。
友達と飲みに行った時も何度か似た様なことをやって、家まで送ってもらったこともある。
けどまさかこの世界でまで・・・・・・・・・・・・・・・・・・って言うか!!!
「でもだからって何であたしが凌統のお邸に運び込まれてるの?
あたしの部屋は城内にあるんだから、向こうの方が断然近い筈なのに。」
体ごと凌統と向き直って、あたしは彼に尋ねた。
凌統は未だに口元にニヤリとした笑みを浮かべたまま。
「ああ、中庭からだとあんたの室まで運ぶより、門に向かったほうが早かったからな。」
「・・・理由になってませんから!」
「はいはい、じゃ、正直に言うけど、今の俺達に理由なんかいらないんじゃないのかい?
晴れて恋人同士になったんだし、自然な流れだと思うんだけどね。」
言いながら、ジッとあたしを見つめる凌統。
ああ、出た、この反則男。
もうこの世界に来てから結構経つのっていうのに、未だにあたしはこの瞳に弱い。
あたしは咄嗟に彼から視線を逸らした。
「し、自然って言うか、幾ら何でも展開速すぎだから・・・。」
ボソボソとした口調で返すあたし。
恋人同士。
なんて彼の口から聞くと、嬉しい反面、やっぱり何処か複雑だ。
彼のことを『キャラ』なんかじゃなく、男の人として好きだって気持ちはハッキリとある。
だけど、それでもここがバーチャル世界だと言うのも変えられない事実で。
正直、今でも複雑すぎる。
凌統に告白されて、あたし自身も自分の気持ちを彼に伝えた。
その数十日後に呂布との対戦、そう、虎牢関の戦いを迎えたのだった。
そのおかげであたしたちはお互いに気持ちを伝え合ったと言っても、
結局殆ど恋人同士らしいことをしてた訳じゃない。
更にその後も小さな戦が数回ほどあって、二人っきりでゆっくり会うことも出来ていなかった。
だからあたしは渦巻く複雑な気持ち、プラス、未だに彼とそんな関係になれた実感が沸いてなくて。
なのに―――
「ま、ま、まさか凌統!あたしが寝てる間に変なことしてないわよね・・・!?」
「はいはい、さすがの俺も意識のない女を襲うほど落ちぶれちゃいないっつの。」
「そ、そう・・・。」
あからさまにホッとした表情をしてしまうあたし。
凌統はあの形の整った綺麗な眉を少しだけしかめた。
「寧ろ俺の忍耐力を褒めて欲しい位だぜ、。
隣で好きな女が寝てるってのに、全く手を出さずに居たんだからな。
一種の拷問かと思いましたよ、俺は。」
「・・・・・・・・いや、それ大げさすぎだってば、凌統。」
返したあたしに、彼が拗ねた様な表情を見せる。
思わずそれを笑い飛ばしそうになったところで、
不意に凌統が腕を伸ばしてあたしを自分の方へ引き寄せた。
薄着の私と彼の体、密着すると、嫌でもお互いの体温が感じられる。
だけど今度はあたしも抵抗しようとは思わなかった。
「なぁ・・・実は下手に手を出して、嫌われるのが怖くて触れられなかった・・・。
って言ったら、あんた信じてくれるか?」
いつもの皮肉めいた口調とは違う、真剣で呟くような彼の声。
そのトーンの低さに、あたしの胸の奥が震えた。
答える代わりにあたしは自分からも彼の体に腕を回す。
「・・・。」
彼がまた両腕に力を込めた。
お互いの体がこの上なく密着しあって、彼もあたしも体温が上昇していくのが分かる。
何だかとても不思議な感じだ。
凌統の鼓動、あたしの鼓動、そのどちらもとても速くて、そして重なってる。
彼があたしの耳元に唇を寄せる気配がした。
耳朶にちゅ、と、音をたててキスをする凌統。
あたしの体が無意識に小さく震える。
「・・・正直、こんな気持ちになったのは初めてだ・・・。
恋愛ってのは、もっと気楽なもんだと思ってたからさ・・・。
いつも俺自身に相手が合わせてくれるのが当然で、好き勝手やれりゃそれでいい・・・、
最低だって思われちまうかもしれないが、俺は今まで本気でそう思ってた・・・。」
そう囁くように言って、今度は彼は私の髪に唇を押し付けた。
「けど・・・あんたは違うんだ、絶対的に・・・俺の中で他の誰とも比べられない。
・・・・・・・・・・・・ったく、あんたに関してはこの俺が全くの形無しだぜ。
自分でも笑っちまうっつの・・・こうやって触れるだけで、嬉しすぎて震えがくるなんてね。」
「凌統・・・。」
やばい。
やばい。
やばい、やばい、やばい。
何がって、あたしが。
お願いだから、そんな甘い台詞をこれ以上あたしに聞かせないで欲しい。
お願いだから、これ以上あたしに凌統のことを好きにさせないで欲しい。
心が、奥から、芯から、震える、熱くなる。
凌統で一杯になってしまう。
「俺はあんたを無理に抱くような真似だけはしないから、ま、そこだけは信じてくれていいさ。
何度も言うようだけど、今の俺にはあんたに嫌われることだけが何より怖いからね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・馬鹿だ、凌統って・・・・・・・。」
「おやおや、ここは『有り難う』とか『嬉しい』って言葉を期待してたんだけどねぇ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ふっ・・・。」
いつもの軽い口調に戻った彼に、あたしは笑って答えようと思ったのに、上手くいかなかった。
代わりに泣きそうな声が漏れてきそうになって、
あたしはそれを隠そうと、慌てて彼の胸に顔を埋める。
凌統の骨ばった手が、あたしの頭を優しく撫でた。
溶け合った体温に、今は何故だかさっきと違ってとても安心できる。
せめて今だけは忘れていたい。
この世界が、作り物で、あたしがあたしでないことを。
大好きな凌統の腕の中では。
―――本当は、想いが深まるほどに怖い。
だけどもう少し、もう少しだけ、目を瞑ってしまおう。
このバーチャル世界については。
(終わり)
後書き
約一年ぶりの更新・・・び、ビックリです(笑)凌統編は他の二人と違ってがっつり両思い、なので、
このままだと彼が行き着くところまで突っ走りそうで怖かったのですが(どんな不安)
今回の話を最後まで書いてみると、凌統自身が自分でブレーキかけたと言う感じに仕上がったので(笑)
どうにかその手前で踏ん張れそうです。ははは、拙宅の凌統にしては頑張った(笑)
ではでは、ここまでのお付き合い、誠に有り難うございました。失礼致します
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