戦直後と言うのは、恐ろしく体力が無くなる。
と言うより、病気なんじゃないかと思う位体が重い。
しかもそれと一緒に吐き気とも眩暈とも言えるものが襲ってくることもあった。
例の爺さんのくれた本(?)の説明によれば、
精神的ショックがそのまま体に現れてるってことらしいけど。
確かに、いくらバーチャル世界の人間とは言え、大量殺人犯してんのには変わりない。
例えこれが『ゲーム』の一部と判っていても、
それが平気で居られるほどあたしの神経図太かなかったってことだろう。
と言うか、普通の人ならあれに『爽快感』なんてものを感じられたりはしないだろうけど。
とにかくそう言う訳で、過去2回の戦でも、私はその後結局ベッドでダウンしていた。
2回目は爺さんの連絡で興奮してたから、初日よりはましだったかもしれなけど、
その後はベッドでかなりの睡眠を取った。

そして今回3度目の戦終了後。
つまり今、やっぱり体は重くて、気分は最低。
手元の槍から知らされた情報によれば、武勲はどうやら今回出陣した甘寧、周泰に並んでる様だけど、
ハッキリ言って今はもうそれどころじゃなかった。
足が、頭が重い。
足をずるずる引きずるようにして歩いていると、
誰かが背後から馬で駆けてくる気配がした。

「大丈夫か!?。」
「・・・・・・・・・っそ孫堅様・・・・!!」

そう、あたしを心配してわざわざ声を掛けてくれたのは、紛れもなく呉の初代君主、孫堅。
私は思わず足を止め、そのまま棒立ちになった。
実はこの世界でも、君主である彼には滅多にお目にかかれないのだ。
孫家の人間で、と言うか、呉の人間で1番遭遇(?)確率が低い人物と言えると思う。
いくらゲームの世界とは言え、そこはやっぱ、君主『様』ってとこだろう。

あたしは棒立ちになったまま、まるで敬礼するみたいにして彼に挨拶をした。
他の人間が見れば、それはかなり間抜けな光景に見えたと思う。

「そう緊張することはない。それよりどうだ、俺の馬に乗せてやろう。」
「・・・・・・ええっ!?いえっ・・・あの、お言葉は有り難いのですが・・・、
あた・・・私は一人でも大丈夫です・・・・・!」

ハッキリ言って、孫堅の馬に一緒に乗れるなんてあまりに美味しいシチュエーションだとは思ったけど、
でもさすがにそれは図々し過ぎるってもんだ。
どこぞの姫様だって言うんならまだしも、どうやらあたしの設定は腕を買われたただの女武将。
確かに体調も気分も最低だけど、だからって恐れ多くも君主様の馬にご一緒なんて、
図々しいにも程がある。


・・・・その前にあたし・・・・・・・馬に乗ったこともないし・・・・。


「遠慮することはないぞ!大体そんな顔色の女人を放っておけるほど俺も無粋ではないつもりだ。」
「ですが・・・・・・・・ひゃっ・・・・!!」

あたしが再度断わりの言葉を口にしようとしたその瞬間、
孫堅がそれを遮るように馬上から私に手を伸ばし、ひょいっとあたしをそのまま馬に乗せた。
あんまり突然の出来事に、あたしは思わず間抜けな声を上げてしまった。

「ここで押し問答をしている場合じゃないだろう、行くぞ!。」

言うが早いか彼はそのまま手綱を引き馬を駆けさせた。
あたしはと言えば、馬に乗せられた時点でもう抵抗する気力も無く、
ただ頷くことしか出来ない始末。

「お前は不思議な娘だ、
戦場ではまさに鬼姫に相応しい働きを見せるお前が、
戦いが終了した途端にまるで別人の様に頼りなげに見える。
誰もがお前に手を差し伸べたくなる気持ちが分かるぞ。」

孫堅のその台詞を耳にしたのを最後に、あたしはそのまま気を失った。



目が覚めた時にはこれまたお決まりであたしの部屋のベッドの上だった。
傍には心配そうな表情であたしを覗きこんでいる大喬の姿。

「大丈夫ですか?さん。」
「・・・うん・・・・・・・。ごめん、またやったわね、あたし・・・。」

少しだけ体を起こしてあたしは彼女に謝った。
実は過去2回の戦でぶっ倒れたり寝込んだりしている間も彼女にはお世話になっていたりする。
本当に画面で見てた通りのいいコで、実は同性のあたしも本気で参っている。
勿論、怪しい方向ではなくて。

「そんな、いいんです・・・!わたしのことは気にしないで下さい。
それよりお体の具合は?」

心底あたしを心配してくれているのが分かる位の口調で、
大喬はあの愛らしい瞳をあたしに向けた。
こんな妹が居たら、なんて事を考えながら、あたしは首を軽く縦に振る。

「もう平気、眠れば治るもんなのよ、これ。」
「そうですか!良かった・・・。」

ホッとした表情と同時に大喬が笑顔を見せた。
あたしもそれに釣られて思わず口元を緩める。
彼女の笑顔ってホントに癒されるんだよね。

「あの、それで実は・・・・・・・。」
「うん?」
「他の皆さんもとても心配なさっていて・・・、
もしさんさえ良ければ後で皆さんに顔を見せて下さいますか?」
「そうだね・・・、孫堅様にも一言お礼とお詫びを申し上げないといけないし。
着替えたら皆に顔出すよ、・・・大喬、気遣わせてばっかでごめん。有り難う。」

あたしの返事を聞いた大喬が、笑顔のまま首を左右に振った。

「わたしは構いません。
でもさん、余り無理はしないで下さいね。じゃあ、わたしはこれで。」
「うん、またね。」

大喬が扉から出て行くのを見送って、あたしはベッドから立ち上がる。
部屋の真ん中にあるいかにも高級そうな木製のテーブルの上に、
綺麗にたたまれたあたしの服が置いてあった。
今着てる元もとの服もそうだけど、エディ子の服って何かこう色気のある物が多い気がする。
と言うより、これはまぁあたしがゲームをやる時に、
『現実世界じゃ絶対着ないだろう』と言うのを前提に組み立てたからある意味自業自得ではあるんだけど。
でも、他の服もあまりそれと変わらない。
現にテーブルに置いてあったこの服も、何だかやけに胸周りがスッキリしていて、
その上やけにスカートのスリットが深い。
とは言っても、これしか着る物がないんだから文句つけても仕方なかったりする。

「爺さんの趣味じゃないだろうな・・・・・。」

思わずそんなことを口にしながらも、あたしは結局それに着替えた。
そしてすぐ傍にある全身鏡で自分(?)の姿を確認する。
やっぱり未だに違和感を感じない訳ではないけど、
以前に比べれば驚く事もなくなったあたしの分身。
やけに顔色のいい綺麗な彼女の顔を見つめながら、あたしはふと考える。


・・・戦の度に倒れるって言うのは・・・さすがにどうにかしないと・・・。


これから元の世界に戻れる状態になるまで、
つまりこの世界の天下統一まで、どの位の戦が待っているのか全く検討もつかない。
でもその度にぶっ倒れてたんじゃあ体も持たないし、何より皆に迷惑を掛けてしまう。


・・・・・・・・慣れるしか・・・数こなして慣れるしかない・・・のかな・・・・・・・。


鏡から右手にある指輪に目を落とし、あたしは左手でそっとそれに触れる。
あたしの武器、姜維の槍に変化するリング。


・・・・・・・・・慣れる・・・・・・・か・・・・・・・・。
無理だな・・・・きっと・・・当分・・・・・・・・・・・・・・・・・。


斬りかかってくる一般兵は、画面で見ていた時とは全く違う。
あれは画面で見てたからゲームだと割り切れたし楽しかったのも本当。
なのにこの世界の一般兵と来たら、ご丁寧に現実世界宜しく一人一人顔や声まで違う。
つまり、『個性』がある。
罪悪感を感じない訳にいかない。

「ああーーーー!!!もう!!クソ爺!!!変に細かく作りこんでくれて!!」

あたしは指輪から目を離し、頭をブンブンと振り回した。


よそう!!!止めよう!!!考えるな、あたし!!!
孫堅様に会いに行ってこよう!!お礼とお詫びを言いに行こう!!
そうしよう!!!


うっしゃ!と意味不明に喝を入れ、あたしは部屋を後にする。


悩みは山ほど、不安も尽きない。


だけど今は考えたくもなかった。



(疲労の根底 -終わり-)



後書き
やっと共通部分終了です・・・。
これからそれぞれに別れさせるつもり。
・・・・凌統も甘寧も共通部分では登場してないし・・・。
それより何よりメチャクチャ久方振りの更新でした。
では、ここまで読んで下さったお客様、誠に有り難うございます!!
失礼致します。


ブラウザバック推奨