「よぉ、思ったより体調は良さそうだな、。」
「・・・・・・・りっ・・・凌統!!」

部屋を出た途端に声を掛けてきた彼に、あたしは思わず必要以上の声を上げた。
凌統がククッと喉を鳴らして笑いながらあたしの方へ近寄ってくる。

「やれやれ、ぶっ倒れちまったにしちゃ、元気が良すぎるんじゃないかい?」
「・・・・・・・眠ったら回復したのよ・・・。」

少し顔を赤くして、あたしは人差し指で頬をぽりぽりとかいた。
まさか部屋のすぐ外に彼が居るとは思いもよらなかった。


・・・ん?もしかして・・・・・・・・・・。


「あのさ、わざわざ様子見に来てくれたの・・・?」
「ん?まぁね。なんてったってあんた、さっきまで面会謝絶だったからね。」

凌統がそう言って、また形の良すぎる唇を緩めて笑う。

「面会謝絶・・・!?そんな大げさな・・・!」
「殿がえらく心配してたからな。ま、何にせよ、元気になって良かった。
・・・・・・・これで倒れるのは2度目か、あんた意外と繊細なんだな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・もしもし?意外とって何?意外とって!」

凌統はあたしの言葉に答える代わりに今度はハハハっと声を上げて笑った。
あたしはむくれつつも、部屋を出てきた目的を思い出す。

「あたし、孫堅様にお礼とお詫びを申し上げに行かなきゃ・・・。」
「・・・・・今からかい?」
「そう、だから出てきたんだし。それに皆にも迷惑掛けたから・・・。」
「心配はしてるが迷惑だとは思っちゃ居ないぜ。お人好しが多いからねぇ。」

凌統の台詞にあたしは曖昧に微笑んで、そして歩き出そうとした。
そこを腕を掴んで彼が軽く引っ張った。

「待てよ、。」
「え?あ、ゴメン、凌統!有り難う、わざわざ顔出してくれて。
あたしはもう平気。頑丈に出来てるはずだから。」
「・・・・・だから俺にはもう戻れって?」

気のせいかほんの少しだけあたしの腕を掴む凌統の手の力が強まった気がする。
あたしはそのままの状態で、彼に目を向けた。

「ほら、だって凌統仕事あるみたいだし・・・。」
「俺はどっかの馬鹿と違って今すぐ片付けきゃなんない様な仕事はないぜ。
一応これでも見舞いに来たんでね、少し位俺の相手してっても罰は当たんないはずだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


う・・・・・・、止めてよ・・・・・・その瞳・・・・・・。


只でさえ数あるお気に入りキャラの中でもあたしの『大好き指数』の高かった凌統。
その彼が等身大で目の前に居て、しかもやっぱりあり得ない程カッコ良くて、
その上やっぱりあの色気のある声で。
現実にはキャラに声優さんが後から入れたもんのはずなのに、
コイツと来たらリアルに動いて喋ってる。
それだけであたしの脳内爆発寸前だって言うのに、よりによってあの瞳でじっと見つめられたら堪ったもんじゃない。
実際、凌統はこの世界でも本当にモテる。
陸遜や周瑜に並ぶくらい女官や近衛兵の女の子達の噂に上ることも事実だ。
掴まれた腕を見つめたまま、あたしは固まっていた。


これだけで動けなくなるなんて・・・我ながら情けない・・・・・。


「・・・・・・・・・・・あまり長くは居られない・・・って言うのも変だけど・・・。
孫堅様には早くお会いしなきゃいけないから・・・少しだけ・・・・・なら・・・・・・・。」


結局折れてる自分が憎い。
と言うか、この甘マスク野郎が憎い。
こんなの絶対反則だわ・・・。


あたしの返事を聞いた凌統が、まるであたしの心を見透かしたみたいにニヤリと笑った。

「上等。んじゃ、あんたの部屋に戻るってことで。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・うん。」

いいように扱われている気がしながらも、あたしは頷いて部屋の扉を開ける。
何か、結局毎回こうして凌統のペースに乗せられてる気がする。
多分それは気のせいなんかじゃないとは思うんだけど。
それでも反抗できない自分が悲しい。


「鬼姫なんて呼ばれてるから、どれだけ無慈悲な女武将かと思えば・・・、
戦の度に神経すりへらしてたんじゃこの先やってけないぜ。」

部屋に入ってすぐに凌統がそう言ってあたしを見た。
突然持ちだれたその話題に、あたしは一瞬言葉を詰まらせそうになる。

「・・・・・・・そう・・・・だね、それは分かってるんだけど・・・。」
「あんたの気持ちも分からないでもないが・・・、それが戦ってヤツだ。
割り切るしかない。この先これを続けない為に・・・、乱世を終わらせる為に戦ってんだからな。」
「・・・・凌統・・・・・・。」


正直、こんな真面目な話を持ち込まれるとは思ってなかった。
あんなノリで部屋に戻ることになったから、普通に世間話でもするつもりかと思ってた。
だけど部屋に入ってからの凌統は、さっきまでとは全く違う。

「・・・・・・・・・・・凌統はやっぱり卑怯だね・・・・・・・。」
「卑怯?俺が?」
「・・・・だって・・・ついさっきまでふざけた事ばっか言ってたくせに、
突然そんな図星指すし、真剣な表情見せるし、
・・・・・あたしには素直に答えることしか出来なくなるじゃん。」

あたしは傍の椅子まで移動して、それにゆっくり腰掛けた。

「・・・割り切れるかは別として、強くなりたいとは思う。
・・・・・・せめて戦が終わるたびにぶっ倒れることがなくなる位は。」

凌統は少しの間黙ってあたしの方を見ていた。
それから傍まで来ると、あたしの頭を軽くぽんぽんと叩いて口を開いた。

「無理のし過ぎはよくないぜ、ま、今度またぶっ倒れたとしても、
俺があんた位幾らでも運んでやるよ。」
「有り難う・・・・・・・。」

頭に凌統の手を乗せられたままの状態で、あたしは彼を見上げてお礼を言った。
そしてそこで何故かふと妙な引っ掛かりを覚えた。

「・・・・・・今日の戦の後・・・孫堅様の馬から部屋まで・・・・・・・・、
・・・・・・・誰があたしを運んで来てくれたか知ってる・・・・?」

あたしの問いに、凌統は不意にまたニヤリと笑みを浮かべる。

「誰だと言わせたいんだ?。」

真面目に質問したのにまたしてもいつものからかう様な言い方の凌統。

「・・・知ってるかって聞いてるのに・・・その返事はどうなのよ・・・。」

あたしは思わずむっとして彼を見上げたまま軽くその目に力を込めた。

「殿じゃないことだけは確かだな。
あの人は自分で運ぶ気だったらしいが、姫が止めたんだ。
後であんたが死ぬほど気を遣うからってんでね。」
「・・・尚香が・・・・・。」

尚香は本当に活発で面倒見が良くて、あたしより年下だってのにずっとしっかりしてる。
この世界が乱世を舞台に成り立っているからかもしれないけど、
あの歳にしては本当にいい意味で逞しい女の子だ。
あたしもこっちに来てから彼女には随分お世話になってる。

「さぁて、そろそろあんたを解放してやるとしますか。」
「え?」
「行くんだろ?殿の所に。」
「うん。」

頷いて、あたしはそれからすぐに椅子から立ち上がった。
そして凌統と一緒に扉に向かって歩き出す。


・・・・・・・・??結局『答え』聞いてないし!


チラリと凌統に目をやると、それに気付いて凌統が、ん?と言う顔であたしを見る。
あたしは内心溜息を吐きながら首を軽く左右に振った。

「ううん、何でもない。」

どうせ聞いてもまともに答えてくれやしないんだろう。
あたしを運んでくれた人にお礼を言わなきゃなんないって言うのに。


隠す事でもないと思うんだけど・・・って言うか、知らないだけか??


。」
「うん?」


バサッ・・・・・・


「!」

名前を呼ばれて再び振り返った瞬間に、いきなり頭っから洋服らしきものが振ってきた。
面食らってそれを自分の頭から引き剥がすと、
凌統がいつもの薄い笑を浮かべて言った。

「それ位引っ掛けて行った方がいい。あんたの服装、他の男共には目の毒だ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・有り難う・・・・・・・。」

何か他の言葉を言ってやろうと考えた結果、
あたしの口から出たのはその一言だった。
確かにあたしの服は露出度が高い、それは認めるしかないだろう。
あたしは顔を赤くしながら凌統を睨みつけた。

「・・・・・・でも、だったらもっと早く渡してくれれば良かったじゃない。」
「俺には目の保養だったんでね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

殴ってやりたい衝動をどうにか抑えながら、
あたしは彼の渡してくれた上着を羽織って扉を開けた。
そしてあたしと凌統はそこで別れ、彼は自室に、あたしは孫堅の元へと向った。



「え?孫堅様には今日はもう会えないって!?」
「うん、軍師の皆と作戦会議、ってとこかしら。徹夜になるみたいね。」

尚香がそう言って頷いた。
あたしは小さく溜息を吐くと、思わず肩を落とす。


滅多に会えない殿に会えるチャンスがーーー!!
・・・・・・じゃなくて・・・・・・マジな話、ちゃんとお礼が言いたかったな。
・・・お礼・・・・・・・・・・・・・・・あ!!


あたしはそこで顔を上げ、さっきは結局聞けなかった事を尚香に訊ねることにした。

「ねぇ尚香、あたしを部屋まで運んでくれたの誰だか知ってる?
その人にもお礼を言わなきゃなんないと思って。」

「え?知らないの?おかしいわね、彼、貴女の所に行ったはずなんだけど。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


あたしは尚香の台詞に思わず軽く眉間にしわを寄せる。

・・・・・・・あたしの所に・・・??
ちょっと待て、・・・・・・・・・・・・・・それって1人しか居ないじゃん・・・!!


「・・・・・・・・・・・凌統・・・?」
「うん、そうよ。彼が父様の馬から貴女を部屋まで運んだの。」

何も知らない尚香は、あたしの表情に不思議そうな顔をしながらもそう答えた。
あたしは尚香にお礼を言って、再び凌統に会うために彼の部屋向かうことにした。


・・・・・何でこう回りくどいことしたんだろう?
さっき言ってくれればきちんとお礼も言えたのに。
本当に実際会ってみても何考えてるか分かんない奴!
あの脱力系男!!!


別にムカつくって訳では決してないんだけど、
あの掴み所のない性格には色んな意味で参ってしまう。
凌統の部屋の前まで来ると、あたしは軽く深呼吸をしてから声をかけた。

「凌統、居る?」

あたしがそう声をかけて程なくして扉が開き、中から凌統が姿を見せる。
いつもの余裕ありげな笑みが、
あたしがここに来ることなんか分かってたぞと言う感じで、
あたしは思わず拗ねたような声で言った。

「何で教えてくれなかったの?」
「何のことですかね?殿。」

凌統が茶化すように例の口癖の敬語で答える。
あたしは眉間にしわを寄せた。

「さっき!あたしを運んでくれたのは誰か知ってるかって聞いたときよ。」
「ああ、そのことか。」
「凌統!」
「ま、そう怒るなって。」

ニヤリとした笑みを再び浮かべて、凌統がまた続ける。


「あんたから俺の部屋に来てくれる理由が欲しかったって言ったら、許してくれるかい?」


「っ!!」


そこで言葉を無くして顔を赤くしたあたしに、凌統が今度はハハハっと笑って言った。

「ま、そんなに警戒しなくても、別に襲う気なんざないから安心しろよ。
ただ俺の部屋で話をしたいってだけ、そんならいいだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


そこで黙って頷いたのは、凌統の瞳を見てしまったせいだ。
あの目を見てると何も言えなくなる。


これは断じて心を動かされている訳じゃない。
凌統の瞳が悪いんだ。


こいつはゲームのキャラクター。
こいつは2次元の世界の人物。
こいつは架空の人間なんだ。


心なんか、動かされる訳がない。


(卑怯な瞳 -終わり-)



後書き
分岐(???)最初は凌統でしたが、・・・・長っ!!
読みにくくてスミマセンでした・・・・。
本当は孫堅出したかったんですけど、さすがに長さがヤバかったので却下。
実はダンディ好き(笑)なんでいつか彼の夢も書きたいな・・・。
それはさて置き、異世界トリップのヒロインは書きやすい。
横文字使いたい放題、分からない事ぼかし放題(苦笑)
でも文章にまとまりなし・・・・。
予定的には微逆ハー???????
では、ここまで読んで下さったお客様!これにて失礼致します。


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