「お?、体調良くなったってのは本当だったみたいだな!」
「あ・・・、策・・・!っと・・・・孫策様・・・。」
果物を籠一杯に入れて片手にそれを抱えた孫策が、部屋を出てすぐにあたしに声を掛けて来た。
あたしは思わず彼の名を呼び捨てにして慌てて呼び直してしまった。
「はは!いいって、策で。お前にゃそう呼ばれても全然悪い気しねぇしな!」
「・・・有り難う・・・。」
孫権と違ってどうしても『様』付けし慣れないのは、やっぱり彼のこの性格のせいだろうか。
何はともあれ本人が呼び捨てでいいと言ってくれたのは、やっぱり嬉しかった。
「それで、もしかして大喬に聞いてあたしの所まで?」
「おぅ!ぶっ倒れんのは2度目だったしな、それにお前、あれから何も食ってねぇだろ?
こうゆうときゃ、食いもん食って元気になれってな!」
ガハハっと豪快に笑って策が言った。
そんな彼を見ながら思わず吹き出すあたし。
策は、ん?と言う顔であたしを見下ろした。
「何だ?どうした?」
「ううん・・・だって何か、あんまりにも『らしい』から。」
本当に、策は『見たまんまの性格』だと思う。
勿論いい意味で、だ。
人当たりが良くて、新参者のあたしにでさえこうやって分け隔てなく接してくれる。
笑えるくらい単純で純粋。
まぁ、だから周瑜や孫権がその分苦労してたりするみたいだけど。
「よく分からねぇが、まぁいいや。それよりこれ食っちまえよ。」
「あ、ごめん、策。あたし先に孫堅様にお詫びとお礼を申し上げないといけないから。」
「親父に?けど生憎今は無理だぜ。いや、今日はもう無理ってのが正しいな。」
「え!?今日はもう無理!?どうして!?」
策の言葉にあたしは驚いて声を上げた。
策は手元の籠から桃を1つ手にすると、
それを片手で器用に剥いてそのまま桃にかじり付く。
そしてもぐもぐと口を動かしながら言った。
「周瑜のヤツが言ってたんだが、どうやら親父は軍師連中と軍議らしい。
あの様子じゃ、徹夜になってもおかしかないぜ。」
策は言い終えてすぐにまた桃を口に持っていく。
桃の甘くて瑞々しい香りがあたしの鼻をくすぐった。
「・・・策は出なくていいの?」
「周瑜のヤツは出ろって言ってたけどよ、俺には徹夜で軍議なんて到底無理だな。
ま、後で権か周瑜に聞きゃどうにかなるだろ。」
悪びれた様子もなく策はそう言って、また笑う。
周瑜や孫権が苦労する訳だ。
「それよりこれホントに美味いぜ!ほら、試しに一口食ってみろって!」
「・・・え!?」
策は自分が今の今まで噛り付いていた片手の桃を、あたしに差し出した。
あたしは一瞬戸惑ってチラリと彼を見たけど、
策は遠慮するなとばかりに更にあたしにそれを近づける。
・・・まぁ、学校で普通に回し飲みしたりしてるから・・・それはいいんだけど・・・。
大げさに考える事じゃない事くらい分かってるけど、頭の隅にチラリと大喬の顔が思い浮かんだ。
だけど策は全く気にしてる様子はなくて、あたしは彼の差し出す桃に口を付けたのだった。
「・・・あ、美味しい!!」
桃を口にした途端に、適度な柔らかさと香りと同じく、瑞々しい甘さが口一杯に広がる。
あたしの反応に策が満足げに笑った。
「だろ?知らねぇ内に何個でも食っちまうんだよな。」
そう言って策はあたしが今口をつけたばかりのその桃に今度は自分が噛り付く。
本当に大きな子供みたいな奴だと思いつつも、あたしは彼を眺めた。
「ここで突っ立って話すのも何だしよ、食堂にでも行こうぜ!」
「・・・策、仕事とかないの?」
「ん?ハハハ!ま、堅い事言うなって!」
堅いこと・・・と言うより、それでいいのか?小覇王・・・。
結局あたしは策と一緒に食堂へ行くことになった。
徹夜明けの周瑜が渋い顔で策に説教かましてる姿が思い浮かんだりもしたけど、
まぁ、それもそれで面白そうだからいいかな。
食堂に行く途中、何気無く策の太くて逞しい腕に目を向けた。
他の武将にも確かに筋肉隆々の体つきの人間は居るけど、
策は服装上腕だけが出てる為かやけにその部分に目がいってしまう。
「お?どうした、。腹が減って食堂まで待ちきれねぇのか?
策の腕を見つめていたあたしの視線を、
自分が持っている果物籠に注がれていると明らかな勘違いをしたらしい彼が言った。
「違うし!・・・策の腕、やっぱ違うなと思ってさ・・・。」
「ハハ!何だ、そりゃ?」
「逞しいというか、何と言うか・・・。まぁそんなとこ。」
「そりゃ、鍛え方が違うからな。けど、俺から見りゃお前の腕の方が俺は不思議だぜ!」
あたしは策と並んで歩きながら、彼を軽く見上げた。
「何で?」
「その細っこい腕であれだけの戦が出来んだ。
ま、うちは尚香の奴もそこいらの男にゃ負けねぇが、お前はそれ以上だぜ。さすが鬼姫ってとこか?」
「うーん・・・でもあんまりピンと来ないな・・・。それに尚香の方がやっぱすごいと思う。
あたしなんか戦の度に倒れてるし・・・。策にも迷惑かけたよね。」
言いながら、あたしは少しだけ彼から目を逸らした。
策はそれに気付いてあたしの背中をバシバシと叩く。
「・・・策っ!痛いから!」
「ハハ!悪ぃ悪ぃ!なぁ、おめぇはもう孫家の人間も同然なんだぜ、
あんまり水臭い遠慮はよせって!な?」
「策・・・・・・・・。」
再びいつもの様に豪快に笑って策はまたあたしの背中を叩いた。
「うん、有り難う。」
策は初陣でぶっ倒れた時にあたしの傍に居たから結局彼に部屋まで運んでもらった。
と言っても、意識がなかったからその辺の事はよく覚えてない。
・・・?そう言えば・・・今回は誰があたしを・・・。
まさか・・・・・・・・孫堅!!!???
馬に一緒に乗せてもうだけでもビビりまくりだったのに、
その上部屋に運んでもらったなんてことになってたら恐れ多過ぎて何とお礼とお詫びを言っていいのやら。
あたしは思わず足を止めた。
策が急に立ち止まったあたしを振り返る。
「どうした?。」
「・・・・・・ああ・・・ねぇ、策・・・あたし孫堅様の馬に乗ってたじゃない?
・・・その・・・その後誰があたしを部屋まで運んだのかな?・・・・・・・・孫堅様だったりする!?」
「何だ、そんなこと心配してたのか?お前は。安心しろって、親父じゃねぇからよ。俺が運んだんだ。」
「そっか!策が!策・・・・えええええええ!!??」
あたしは大声を上げて先に立っている策を見た。
つまり、あたしはこれで彼に2度とも迷惑をかけた事になる。
しかもその妻である大喬にまで世話になってる訳だ。
「・・・・ゴメン・・・・。まさか今回も策に・・・。」
「なぁに言ってんだよ!気にすんなって言ってるだろ?お前運ぶ位どってことねぇぜ!
何たってお前、大喬と同じ位軽ぃもんなぁ。」
策は笑ってそう言った。
あたしは再び策と並んで歩き出しながら、策を見上げる。
「何か策と大喬の夫婦には助けられっぱなしだね。」
「だーかーらー、気にすんなって!大喬は喜んでたぜ?お前みたいな姉ちゃんが欲しいってな!」
「・・・・・・・・大喬が?・・・・・そっか。」
策の言葉にあたしは思わず口元を緩める。
策大大好きなあたしにとって、今の状況は実は相当美味しいんじゃないか、なんてことまで考えてしまった。
「けど、ま、あれだ。これから先の戦、お前も無理すんじゃねぇぜ!」
「うん!とりあえずはぶっ倒れない様にしないと!」
「ハハ!そりゃそうだ!けど、安心しろよ。今度またぶっ倒れっちまっても俺が運んでやるからよ。
役得だからなーお前運ぶ役ってのは。」
最後は冗談で言ったんだろうけど、その目つきはエロ親父そのもので、
あたしは彼の背中を思いっきりバシっと叩いた。
「いでぇっ!!!本気で怒んなよ!」
「ゴメン、ゴメン。スケベ面だったからつい。」
「ついって、!!お前な!」
言った策が空いている方の手であたしを羽交い絞めにした。
あたしは声を上げて笑いながらそれに抵抗する。
策と会話をしていると、何だかすごく和んでしまうと言うか、落ち着くというか、
兄貴が居たらこんな感じかなと思った。
・・・・・兄貴・・・・・って言うのともちょっと違う・・・?かな・・・・?
ただ策の隣がえらく居心地がいいのは確かだった。
もう十分大人の癖に、やけに無邪気なその笑顔の傍に居られたらきっと幸せだろう。
「孫策様!さん!」
食堂に着いてすぐにあたし達2人に声を掛けて来たのは、他でもない大喬だった。
彼女はあたしの方に近寄ると、ニッコリと笑顔を向けて言った。
「良かった、お顔の色、もういいみたいで。」
「有り難う、心配掛けて。」
「フフ・・・いいんです。元気になって下さったんならそれで。」
彼女のその言葉にあたしも笑顔で彼女に応えた。
そこへ、策が果物籠をテーブルに置くと、両腕で彼女をグイと腕の中へ引き寄せた。
「孫策様!」
「やっぱお前は優しいな!大喬!それでこそ俺の嫁さんだぜ!」
「もう、孫策様ったら!」
バカップル宜しくあたしの目の前で戯れる2人に、あたしは思わず苦笑する。
孫策が果物を3人で食べようと言い出したので、あたし達はこの後テーブルに着くことにした。
孫策、大喬、単体では勿論のこと、無双のゲームで出てくる夫婦は皆好きなはずのあたし。
特に呉に出てくる夫婦は小喬、周瑜夫婦を含め、大喬と孫策もかなり好きだ。
これは間違いない。
何と言っても策大関係の同盟に入ろうかと本気迷ってた位だから。
なのに気のせいだろうか、孫策の両腕に閉じ込められている大喬を見たとき、
胸の奥に小さな棘でも刺さった様なチクリとした痛みがあったのは・・・・・・。
(小覇王の腕 -終わり-)
後書き
未だに孫策には手こずります・・・。
これは孫策か!?孫策なのか!?と、いつものように自問。
第6話とりあえず策、甘寧、凌統それぞれ『らしい』話にしようと努力だけはしました。
実ったかどうかは激しく疑問・・・・・・。
ではここまで読んで下さったお客様、誠に有り難うございます。
失礼致します。
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