「・・・っっゲホッ・・・ゴホッ・・・ッ・・・・っ」

「「「「「おお!!!!」」」」」

!!!!!」

唐突に意識が戻り、同時に唐突に肺に空気が送り込まれて、あたしはむせて何度も咳き込んだ。
身体を起こして胸に手を当て、声を出すより先に咳が出てくる。

「・・・ぅっ・・・ゴホっ・・・コッホ・・・。」

荒い息を何とか整えつつ、ぼんやりと見えてくる視界。
目の前にはこれまで見たこともない位、心配そうにあたしを見つめる甘寧が居る。

「甘・・・っ・・・ね・・・ゲホッ・・・!」
「無理して喋ろうとすんじゃねぇ、大丈夫か?。」

あたしは甘寧の言葉に、首を小さく縦に振って答えた。
彼は心底ホッっとした表情でほんの少しだけ微笑んだ。
そして、あたしの肩を支えるようにして腕を回す。

「船室まで運ぶぜ、ちょっくら我慢しろよ。」

いつの間にか肩にかけられていた布であたしの身体を包み込むようにしてくるんで、
甘寧はあたしをそのまんまひょいっと抱き上げた。

「っ!あっ・・・甘寧・・・・・・あたし・・・!」
「・・・黙ってろ、下ろせってのは聞かねぇぞ。」

珍しく無表情になった甘寧がピシャリとあたしにそう言ってのけた。
あたしは即座に黙り込む。
だって、「下ろせ」以外に今はもう言う事はなかったから。
その後抱きかかえられたまんま船室に運ばれて、甘寧は寝台にあたしを下ろしてくれた。

「代わりの服がすぐ来るからちょっくら待ってろ、俺はすぐ戻る、後でな。」
「うん・・・・ゴメン・・・迷惑・・・かけたね・・・・。」
「・・・・・・・・・オメェが謝るこったねぇよ・・・・・・・・・。」

甘寧はそう言ってそのままあたしに背中を向けて、部屋を出て行く。
残されたあたしはただ呆然と宙を見つめた。


・・・・・・・・・助かったんだ・・・・・・・・・、
バーチャル臨死、しなくて済んだ・・・・・あたし・・・・・・・・・・・。


乾き切ってない髪の毛から、ポタリポタリと雫が数滴あたしの膝に落ちる。
ひんやり身体を包む水に濡れた後の感覚が、
自分が今生きているんだと主張しているみたいに思えた。


バーチャルを・・・馬鹿にしちゃいけない・・・ってことか・・・・・・・。



様、失礼致します。」
「あ、はい・・・・!」

船室の外から女の人の声がして、あたしは慌てて返事をした。
すぐに扉が開いて、片手に衣服を持った女官が入って来る。
彼女はわざわざあたしの為に一緒に船に乗ってくれていたのだった。

「これで身体を拭いて此方に着替えて下さい。・・・・ですが本当に良かった・・・。
私も丁度甲板に出ていたんですが、まさかあんなことになるなんて・・・。」

あたしに服を手渡しながら、彼女が言った。

「心配かけてすみませんでした。」
「そんな!無事で何よりでしたわ、それよりも甘寧様の慌てようは凄かったですけど。」
「え?」

布でわしわしと髪の毛を拭いて、あたしは顔を上げた。

「船員の者も言っておりました。海に人が落ちることは確かに滅多にないことですけれど、
あそこまで動揺した甘寧様の姿は初めて見たと。
様が海に落ちた時、真っ先に甘寧様は海に飛び込んだんですよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


じゃあ、やっぱりあの龍・・・あれは甘寧だったんだ・・・。
何か・・・・最悪に迷惑かけたな・・・・・。


彼女はあたしから濡れた布を受取って、また続ける。

「船に上がっても様の意識が戻らなくて、甘寧様が必死に人工呼吸をなさったんです。
もともとその方面の対処には慣れてらっしゃる様でしたけど、あの方の真剣な顔・・・初めて見ましたわ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

あたしは彼女の話すその内容に、おかしな単語を耳にした気がして思わず聞き返した。


おかしな、って言うのもおかしいけど・・・、
でも今・・・・・・・・。

「人口呼吸・・・・・・・・・・・・・・?」
「はい、見事な対処でしたわ。」


いや、そうじゃなくて・・・・・・っ・・・・・。


あたしの心のツッコミが彼女に聞こえる訳もなく、
あたしが着替えを終えると彼女は、失礼しますと頭を下げて船室を出た。
そしてそれとすれ違いに甘寧が扉を開けて入って来る。

「おぅ、、着替えも済んだな。」
「うん・・・・・。」

今彼女から聞いたばかりの話が頭をちらついて、あたしは思わず甘寧から目を逸らして顔を赤くした。
妙に色んな想像を巡らせつつ彼にどう顔を合わしていいのか分からない。
甘寧は扉から真っ直ぐあたしの側に来て、いつもより低めのトーンで言った。

・・・、悪かった!!オメェが海に落ちちまったのは、俺の責任だ!」
「・・・・・・・・・・・甘寧?」

驚いて顔を上げると、その声と同じく真剣な甘寧の表情。
あたしは思わずその顔をじっと見つめた。

「俺がオメェのすぐ側に居りゃ、あんな事にはならなかったはずだ。
怖い思いさせちまって・・・・・悪かった・・・・・・・・。」
「・・・っ!」


・・・・・・・あ・・・・・、・・・・・・・あたしの・・・大馬鹿ヤロウ・・・・・・・・・・・・・!!


あたしの意識が戻った時の甘寧のあの表情、心底あたしを心配して、
そしてメチャクチャほっとしてくれた。
なのにあたしと来たら今、
少女漫画の王道みたいなシチュエーションに浮かれたりして。


ホント、大馬鹿ヤロウだ・・・・・・・!!!


「・・・・甘寧は悪くないよ。全然ちっとも悪くない・・・。
あたしの方こそ・・・ゴメン、助けてくれて本当に有り難う。」
、けど俺が・・・・!」
「非常事態で船員に指示を出さなきゃいけないあんたに迷惑かけたのはあたしだよ。
それで命を救って貰ったのもあたし。ごめんなさい・・・・・・・・・。」

あたしはそこで寝台にストンと腰掛けた。
甘寧はあたしをじっと見下ろしている。

、・・・・少し休んじまえ・・・。このまんまお互い謝ってても堂々巡りだしよ。」
「・・・・・・・・うん、あ、ねぇ甘寧・・・・・・。」
「あん?」
「・・・・船に乗せてくれるの・・・・これっきり・・・・・・なんて言わない?」

こんな事になっておきながら図々しい事言ってるんだとは思うけど、
どうしてもまた甘寧と船に乗るチャンスが欲しくてあたしは言った。
甘寧が不意にフッと笑う。


「んなこと心配してんじゃねぇよ、馬鹿。今度は絶対船上に居る間ずっとオメェの側に居てやっからな。」


「有り難う、甘寧!」
「おぅ、分かったらさっさと寝ちまえ。」

あたしが寝台に横になるのを確認して、甘寧は扉に向かった。


「俺がオメェを守るぜ、この先何が起ころうとな。」


扉を閉める直前にそう言った甘寧の呟きは、あたしの耳に届いてはいなかった。



(甘寧編 蒼 -終わり-)



後書き
まさに少女漫画の王道みたいな事をしてしまいました。
人工呼吸ネタってよくあるよなぁ(苦笑)
展開があまりにも急過ぎる気もとてもしますが、
ここまでお付き合い下さったお客様に感謝しつつ、
失礼致します。


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