数時間後、あたしはいつの間にか書物片手に眠り込んでいた。
しかも本棚の側の柱にもたれかかって。
4冊目の書物を手に取った記憶はあるけど、そっから先は覚えてない。
室内はいつの間にか灯りを落されて薄暗くなっている。
あたしは欠伸をひとつして、書物を持ったまま立ち上がった。

。」
「・・・あ、凌統?」

柱の陰からひょいと顔を出したのは凌統。
彼は呆れたような顔つきであたしを見た。

「やれやれ、誰が間抜けな子供じゃないって?あんた俺の言ったこと忘れちまったのかい?」
「・・・・・え?」
「ったく、心配になって来て見て正解だったね。
言ったはずだぜ、ここは閉まる時間が決まってるってさ。」

言いながら、凌統はあたしの手にある書物に手を伸ばした。
そしてタイトルを確認すると、それを持ったまま隣の本棚へと移動してそれを元あった場所へ戻す。


「有り難う。」
「いいえ、それより早くしねぇと・・・・・・・・。」



ギィ・・・バター・・・ン・・・・


重い扉の閉まる音が、室内に響いた。
凌統が少し驚いた様に奥の扉のある方向に目を向ける。

「おいおい、本気か?まさか見回りなしで扉を閉めちまうとはね。」
「ええっ!?」
「ったく、仕事位まともにやれっつの、今日の書庫番は新人か?」

凌統はそう言いながらも走って出入り口へ向かい、両手で大きな扉を叩いた。
書庫内に扉を叩く音が大きく鳴り響く。
でも扉の外は人が居るのかいないのか、うんともすんとも言いやしない。
つまり、全くもって無反応。

「・・・・・・・・・・凌統・・・・・・・・これってもしかして・・・・・・。」
「ご明察、閉じ込められたってとこだね。」

やれやれ、といつもの様に大きな溜息を吐く凌統。
あたしはその彼の台詞に一瞬呆然とする。

「・・・・待ってよ、じゃあここが開くのは・・・・。」
「明日の朝。」
「明日の朝・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

あたしはオウム返しに凌統の言葉を繰り返した。
でも目の前の凌統は焦ってる様子は全くない。
冷静、と言うか、いつもと同じようにしか見えない。

「・・・こっから出られる案でもあるの?」
「?いや、それがあるならさっさと実行してるってね、何でだい?」
「だって普通過ぎるから。」

あたしの言葉に凌統が、ああ、と頷いた。

「騒いだって仕方ないだろ?無駄な体力は使うもんじゃないぜ。
ま、それに朝まで誰も来ないとは限らない、それに・・・・・・。」

そこまで言った凌統が、何故かあたしを見てニヤリと笑った。

「何・・・?」
「一緒に閉じ込められてる相手が相手だし、ここは楽しむのも一興だろ?」
「楽しむ!?って何をよ!?」

思わず過剰反応を示してしまったあたしに、凌統がククッと喉を鳴らした。

「あんたは見てるだけで飽きないからね、
・・・・それとも他に『何か』期待してましたか?殿。」
「っなっ!」

いつも通りのからかうみたいな口調で言った凌統に、あたしは思わず顔を赤くする。
否定できない自分が情けない。
それに薄暗がりで聞くアイツの声は、いつもより更に色気がある気がした。


違う!!違う!!今はそんなこと考えてる場合じゃない!


「こっ・・・これからどうするの?」

無理矢理『何でもありません』って顔であたしは言った。
これはある意味意地。
そう毎回毎回凌統のペースに乗せられてなんかやらないと言う、あたしの意地だ。
確かに彼は年上だけど、そんなに離れている訳でもない。


何より所詮はゲームのキャラ!
そうだ、そうだ、バーチャルがリアルに勝てるはずがないのよ。


心の中でうんうんと納得し、あたしは彼の返事を待った。
この暗さじゃ、例の『瞳』攻撃も無理に違いない。

「別にどうも。とりあえずは座ってお話でもするとしますか。」

凌統はそう言ってその場に座り込んだ。
扉が開けば真っ先に目に入るその場所に。
あたしも軽く頷き、同じように彼の向かい側に腰を下ろす。

「なぁ。ひとつ聞いていいかい?」
「うん?」
「あんた、恋人が居た経験はあんのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい!?」


・・・・って、何てこと聞くのよ!?コイツは!!
いや、本当に何!!??


薄暗い中でもそんなあたしの心の声が空気で伝わったのか、
あたしが質問に答えるより先に凌統が言った。

「あんたの反応がいちいち大げさだから疑問に思っちまった訳だ。」
「・・・・・・・・悪かったわね・・・。」


いちいちオーバーリアクションで・・・!


結局こうしてからかわれる結果になり、あたしは凌統を軽く睨みつける。
表情は暗くて良く見えないけど、きっといつもの余裕満点で涼しい顔をしてるに違いない。

「悪かないさ、初々しいって言ってんの。あんたの反応ってどこか新鮮だしな。」

だけど、そんなあたしの予想を裏切って、
次に聞こえた彼の声のトーンはいつもより少し低めでとてもからかっている様には聞こえなかった。
あたしは思わず彼をじっと見つめて、その表情を探ろうとした。
でも、暗くてやっぱりよく見えない。

・・・。」
「・・・・・・・え?」

あたしの名を呼んだ彼の片手が上がり、その手が此方へ近付いてくる。
あたしは咄嗟にどうすることも出来ずにただそれを見つめた。
そして、あと数センチで凌統の片手があたしの頬に触れそうになったその瞬間。


ギギ・・・・・・・


扉が開く音と同時に光が差し込んできた。
驚いて見ている間に扉は完全に開いて、2人の男女が慌てた様に入って来る。

「すみません!!凌統様!!様!!!!
かっ・・・厠へ行くのを我慢できずに見回りを怠りました!」

中年の男の人がそう言ってあたし達に向かって頭を沈める形で下げた。
そしてそのすぐ後ろから、その人を押しのけるようにして女官が現れる。

「凌統様っ!心配致しましたわ・・・。
此方にいらっしゃるのを知っていたから私がすぐこの者へ問いただしたのです。」

その女官はいつも凌統親衛隊宜しく彼の周りに集っている女達の1人だった。
あたしのことなんか見向きもせずに彼だけに瞳をじっと向けている。
綺麗な顔の女の人ってのは得だ、どんなにわざとらしく声を震わせても、
それが色っぽく聞こえるんだから。
今が色気が必要な時かどうかは激しく疑問だけど。
因みに、色んな意味で呆然としているあたしを無視して彼女は今凌統にしな垂れかかっている。
無視と言うより、見せ付けていると言った方が正しいのかもしれない。
何でそんな必要があるのかは分からないけど。
凌統はその手の対処は慣れたものらしく、
やんわりと遠まわしに二言三言彼女に向かって口にして、自分の側から彼女を遠ざけた。
その後無事あたし達は書庫から脱出を果たした訳だけど、
あたしの胸の中は何故だかもやもやと晴れない感じ。
自分の部屋に戻ろうとしたあたしに、凌統が声をかけて来た。

「なぁ、、良かったら飯食いに行かないか?あんたあれから何も口にしてないんだろ?」
「・・・・・・・・いい、あんまりお腹空いてないから。それより疲れた。」

目の端にさっきの女官が凌統に声を掛けようとうろついてるのが見える。
もやもやが更に膨らんだ気がした。

「ふぅん?急に機嫌悪くなったみたいだな、あんた。」
「・・・・・そんなことない。」

歩く速度を速めてあたしは言った。
不意に凌統の声が、耳元で聞こえる。

「もしかして俺が原因かい?妬いてるんだったら素直に言って欲しいんだけどね。」
「っ!!!」

背筋がゾクリとなるその声に、あたしは振り向いて奴を睨みつけた。


このタラシ!!!!!!


視線の先の凌統は、いつもの余裕の笑みを浮かべてる。
あたしはもう1度さっき書庫で思った事を自分自身の胸に叩き込んだ。


所詮はゲームのキャラ!
バーチャルがリアルに勝てるはずがないのよ!!

「機嫌なんか悪くないわ、ご飯食べに行くなら、付き合う。」
「じゃ、早速行くとしようか。」

あたしは凌統と並んで歩き出した。


さっきの女官がジロリとあたしを睨んだけど、もう気にしない。


彼女だって所詮はゲームキャラ、それにこれは恋愛シュミレーションじゃない。


気にするべきことなんか何もないんだから。


だから、書庫での凌統の行動が頭の隅を掠めるのも気のせいに違いない。


絶対・・・・・、絶対に!



(凌統編 白黒 -終わり-)



後書き
異世界トリップ久々更新しましたね。
メインの連載も終わり、
此方に移ろうかと思った途端これから約1ヶ月は更新超鈍足期間。
それはさておき、まさかこんなに長くなるとは・・・。
毎回短くしようとして痛い目をみます。
SS書きたいのに書けないのは無駄に文章が長いから。
いつもこんな私の作品にお付き合い頂き有り難うございます。
では、失礼致します。


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